軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

グロウアップ

「この辺り……だよな」

「ですよね」

「うん」

波の大本にはワインレッド色の大きな亀裂が地面にまで延びている。

そこから魔物がワラワラとあふれ出している。

「ん?」

見ると白く凶悪そうな顔付き、赤い眼、大きな口と牙を持った白い布の幽霊みたいな魚? が横たわっている。

既に事切れているがこれは波の大物なのではないだろうか。

幽霊っぽい……物理攻撃が効かないような気がする魔物だなぁ。

「お魚さん?」

「なんでしょうね……これ」

「うーむ……俺達じゃ戦うのは難しそうな敵だな」

「そうなんですか?」

「普通の攻撃が効かない。魔法しか効果が無いタイプっぽいんだ」

ネットゲームの経験があるとこの辺りは属性武器とか魔法じゃないと無理とかそんな知識が脳裏を掠める。

「じゃあフィーロ戦えるよ」

「は? 蹴りは効かないんだぞ?」

「うん。フィーロ、攻撃魔法も使えるよ?」

「最初から使え!」

「やーん。魔法使うよりも蹴る方が強いもん」

はあ……フィーロはどれだけの魔法が使えるのかいまいち分からん。本人に聞いても雲を掴むみたいな曖昧な答えしかしないし。

「あいつ等、ボスは倒したんじゃないのか?」

何処にいるんだ?

キョロキョロと辺りを見渡すとガキンガキンと戦う音が聞こえてくる。

「あっち?」

「そうだな。あっちへ行くぞ」

フィーロも音を聞き、俺達は音の方角へ走る。

「輪舞零ノ型・逆式雪月花!」

昼間だというのにワインレッドに染まる空が赤く光る。

見上げると血の様に赤い月が敵対者の言葉にあたかも呼応したかの様に輝く。

そして円を描いた紅い閃光が人型の何か達を貫いた。

「「「ぐあああああああああ!」」」

俺達が到着すると同時だっただろう。

竜巻のような何かに元康、錬、樹とその仲間達が同時に跳ね飛ばされて倒れる瞬間だった。

「ぐは!」

一体何が起こっているのだろうか。

状況を察するに敵の放った魔法か何かで大ダメージを受けた……という所か。

いやいや、あいつ等はこの世界を熟知していて、相当な高Lvのはず。簡単に負けるはずも無い。

なのにこれはどういう事だ?

元康達がこっちに吹き飛んできた。

「流星槍が決まったはずなのに……」

錬が元康に合わせて呟く。

「流星剣が入ったはずなのに……」

樹も。

「流星弓が命中したはずなのに……」

なんだって?

「……流行ってるのか? それ」

それを最後にその場にいた勇者達は失神した。うん失神、死んではいないと思う。

流星……流行ってるの?

「新手ですか」

竜巻が止むとその中心に人が現れた。

衣服は着物、色は漆黒、銀色の刺繍が施されていて、俺の元居た世界の基準だと葬式とかで親戚が着ている服を高級にした感じだ。

見た目は美少女だろう。顔の作りは贔屓目を除いてもラフタリアに勝るとも劣らない。

性格は真面目そうで、髪型はロングヘアー。

ただ、なんていうのだろう。時々、幽霊のように若干半透明になって背後が見える。

持っている武器は鉄扇。両手で鉄扇を持ち、まるで踊っているかのよう。

そんな人型の女性が、ここでの勝者のようだった。

「この世界の勇者と息巻いていた方々ですが期待はずれも甚だしいですね」

その……人型の女がこちらを振り向いて言い放っていた。

「ごしゅじんさまー、たぶんすごく強いよ。あの子」

フィーロが全身の羽毛を逆立たせて俺に言う。

「ええ、近くに居るだけで強力なプレッシャーを感じます。普通の魔物とは一線を引く強さかと」

尻尾を逆立つのを抑えるようにラフタリアも注意する。

「お前がコイツ等を倒したわけ?」

俺は近くに吹き飛んできて、失神しているクソ女の顔に足を乗せて尋ねる。

「む……あなた、曲がりなりにも仲間に向かってなんという仕打ちを」

着物の女は俺の態度が気に食わないのか注意してくる。

「仲間? 残念だが違うな」

三回ほど踏みつけて少しだけ溜飲も下がる。まだ怒りは収まる気配は無いが、ざまぁないな。

「どちらにしろ、あなたのやっていることは非道なものです」

「非道で結構、コイツ等はそれよりも酷い真似をしてきたんでね。強い恨みを持っているんだよ」

「ごしゅじんさま悪人みたいー」

「うるさい」

「敵に正論をぶつけられて返す言葉もありません……」

ラフタリアも呆れ気味に呟く。

ギャラリーがうるさいな。

「フィーロもマネして良い?」

元康に向けて足を上げているフィーロ。

「やめとけ、さすがに死ぬぞ」

「はーい」

敵も俺達の態度に何か呆れ気味だ。

「……仲間ではないのでしょうが、人の道から外れた行いに違いはありません」

「どうとでも言え」

「さて、ではこの世界の方なのでしょうが、我も負けるわけには行かないのです」

鉄扇を構えて敵はこっちに突き進んでくる。

早い!

俺は咄嗟に盾を構える。

ガギン!

くっ……凄く重い。

ドラゴンゾンビの比では無い程の攻撃の重さ。

鉄扇であんなに重い攻撃が出来るという事は、ラフタリアやフィーロではダメージを受けたら危ないな。

「ラフタリア、フィーロ! 気を付けろ、こいつ……強い」

「はい!」

「うん!」

『力の根源たる盾の勇者が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者を守れ!』

「ファストガード!」

補助魔法を俺を含め二人にそれぞれ掛けて戦いは始まった。

相手も俺の意図を掴んでいるのか、場所を変えた。俺達もそれに続く。

そう、他の勇者とその仲間が戦いの邪魔なのだ。

おそらく、波のボスっぽい敵が転がっていたのもそれが原因だろう。

鉄扇の攻撃、盾以外の部位で受けると俺でさえも痛みを伴う傷ができる。

余裕ができるとファストヒールを唱えて傷を治しているが、些か厳しい。

相手の攻撃は激しく、しかも動きが早い。

俺に攻撃が入らないと理解する也、ラフタリアやフィーロに目標を変えようとするくらいだ。

「させるか!」

だから、俺は敵に組み付いて足を引っ張って阻害する。

「ぐ……放しなさい!」

しかし俺の拘束はその程度で解けはしない。

「同じ戦闘タイプですか……これは先ほどの者達よりも厄介ですね」

蛇の毒牙(中)を受けても平然としている敵。

確かに守りに重点を置いているのはラフタリアとフィーロの攻撃を鉄扇でいなしている時点で分かっていた。

とにかく、重いのだ。全てが。

他の勇者を倒した事実が全てを物語っている。

「ごしゅじんさま、フィーロの魔法を見ててー」

フィーロが右手と左手を交差させながら敵に向って突進する。

「はいくいっくー」

一瞬、そう、本当に一瞬だけだけどフィーロが、ぶれて見えた。

ゲシゲシゲシゲシゲシ!

空気が振動するような衝撃が敵を通じて俺に伝わってくる。

「くっ……!」

敵が始めて苦悶に満ちた表情をする。

「うわぁ……この人すごくかたーい。フィーロの攻撃を受けて吹き飛ばないなんて」

「なんて……重い連撃……剣を持った勇者の攻撃に匹敵する強さですね。あの一瞬で八回も私に蹴りを……」

え? こいつ、あのフィーロの攻撃が見えていたって言うのか。

「フィーロ、もう一回だ!」

「えー……無理、魔力がもう無いし次に撃つ為の時間がかかるー」

フィーロの必殺攻撃だったのか。

「喰らいなさい!」

その隙をラフタリアが突く。

「甘い!」

突きに合わせて鉄扇の隙間を剣に滑り込ませる。

バキン!

「な――」

ラフタリアの剣が折られた!?

どんだけの強さを持っているんだ。元々鉄扇は剣を折るソードブレイカーの性質があるが完全に使いこなしているなんて。

俺だってファストガードを掛けて、一番固い盾の部分で辛うじて抑えるので精一杯だと言うのに……。

決定打がもうフィーロしか無い。

「く……」

ラフタリアは距離を置いて予備にしていた剣を抜く。

もう手立てが無いのか……。

「ぜぇ……ぜぇ……中々やりますね」

いや、消耗戦に持ち込めば勝機はあるかもしれない。

こいつは他の勇者三人が相手をしてから俺達と戦っている。

幾ら波から現れた敵であろうと疲れ知らずではないみたいだな。

「これで終わりです」

敵の全身が発光している。

やばい! これはあいつ等を倒した時と同じ攻撃だ!

「ラフタリア、フィーロ!」

敵が舞うように高速回転を始める。

俺達はその隙に出来る限り、と言っても数歩程度しか時間が無かったが、ラフタリアとフィーロは打ち合わせ通りに俺の後方に隠れた。

「シールドプリズン!」

対象は自分、魔法で作られた盾の檻が俺達を取り囲む。

「輪舞零ノ型・逆式雪月花!」

凄い暴風と鉄扇による攻撃が出現した盾をなぎ払っていく。

「くうっ……」

凄い攻撃だ。俺がこれだけのダメージを負うという事は他の勇者ではひとたまりも無いのも頷ける。

「二人とも、大丈夫か?」

「辛うじて」

「いたいー……」

振り返ると二人ともかなりのダメージを受けてしまっている。

俺はヒール軟膏を自分の傷口に塗った。

1メートル範囲だったのでスキルの効果で二人の傷も一緒に、徐々に治っていく。

「へえ……我の切り札を受けて立っているとは……そちらの防御力も中々の物の様ですね」

竜巻が止み、敵がこちらに歩み寄る。

「お褒めに与かり光栄だ」

結構ボロボロだけど、まだ負けてはいない。

だが、決定打が足りない。

「えーい!」

フィーロが高速で動いて敵に少しずつダメージを与えているけれど、長期戦になるだろう。

そうなれば消耗戦だ。勝てるか怪しい。

どうする……。

一つだけ、そう、一つだけ状況を引っくり返せる手段がある。

「ラフタリア」

俺は下がってきたラフタリアの手を掴む。

「どうしました?」

「力を貸してくれ……」

俺が何をしたいのかラフタリアは察する。

「はい。私はナオフミ様の剣。例えどんな地獄であろうとも付いて行きます」

「……分かった」

信じてくれる。

その信頼を裏切ってしまうかもしれないという恐怖が無い訳じゃない。

だけど、ここで俺が負けたらラフタリアもフィーロも……死んでしまう。

それだけは嫌だと、どうしても守りたいと心で願う。

絶対に、怒りに飲まれない。そう……誓う。

俺は盾に手を添えて思う。

憤怒の盾!

腐竜の核石によるグロウアップ!

カースシリーズ、憤怒の盾の能力向上!

憤怒の盾Ⅱ

能力未解放……装備ボーナス、スキル「チェンジシールド(攻)」「アイアンメイデン」

専用効果 セルフカースバーニング 腕力向上 竜の憤怒 咆哮 眷属の暴走

な――。

視界に盾の材料にしたドラゴンの最後の記憶だろうか、その情景が映し出される。

剣を持った勇者に胸と眉間を貫かれて意識がブツリと途切れる。その時の怒りは想像を絶するものだ。

人間に敗北する。それがドラゴンにとってどれだけの屈辱であったのか、俺には理解することが出来た。

グロウアップ……だと!?

盾の形状が炎をあしらったものから真っ赤なドラゴンを混ぜた物へと変わっている。

更に盾に連動して、蛮族の鎧+1が変化した。

なんだこれ……腐竜の核が原因か?

ライダースーツが漆黒の竜を模した鎧になっている。

代償として、黒い影が視界を染めようとしていて……。