軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編 盾の勇者のホワイトデー【4】

ゼルトブルに到着した俺は最終確認を行い、開場を待つばかりだ。

後はもう、村の連中達の頑張り次第でしかない。

ミュージカルの演目に関しては一応目を通した。

一つは盾の勇者の伝説、第二幕。

フィーロが丁度出てくるので、もっと大々的にミュージカルに仕立て上げたらしい。

フィーロ役を本人がやるのはどうなんだ?

二つ目は過去の伝説だったか?

杖の勇者……クズの半生辺りをするそうだ。

こっちも主役はキールがやるそうだ。

で、何故かこっちにはクズも出演、何役をするのかと思ったらフォーブレイの豚王をアレンジして演技するとか。

悪役ばかりするのは自虐か?

そういう方向で役作りしている感がある。

俺はその間にフィロリアルレースに出場する連中のコンディションチェックをし、すぐに会場に戻って来客を確認する。

すげー人が集まってる。

キールのグッズの売り上げもフィーロに追いつきそうだ。

このままじゃキールが女装をやめるのも時間の問題になるかもしれない。

「キールくんぬいぐるみ完売しました!」

会場から不満の声が響く。

結構高めに値段設定したのに完売したのか?

というか販売開始から30分も経ってない様な気がするのだが……。

「えーん。キールくんが欲しいよー」

前回見た親子の子供の方が泣いている。

凄いセリフだ。

まるでキールがペットとして売っているみたいな言葉だ。

そんなに欲しいなら、奴隷商の所へ行けば似た様な奴が売っていると思うぞ。

「しょうがないじゃない。売り切れちゃったんだから」

「欲しい欲しい欲しい!」

えっと……。

「イミア」

「はい! なんでしょうか?」

売り子をして、忙しいイミアに声を掛ける。

ラフタリアも忙しなくフィーロのグッズとホワイトデー商品を売りさばいていて大忙しだ。

「とりあえず、キールのぬいぐるみは予約でも良いと言う人のリストを作っておいてくれ、後日再販すると告げてな」

「わ、わかりました!」

三千体も準備して完売とかどんだけキールはペットとして人気があるんだよ。

あのふんどし犬! 無邪気に行商でいろんな奴にじゃれてたな。

フィーロみたいなのと違って近寄りやすいから人気が出たんだ。

馬車を引く鳥と人懐っこい犬に人気が出るとか……時代は変わってきているのか?

この世界の基準だとキールって亜人で獣人だろ?

客はメルロマルク出身だけじゃないけど、感覚は異なる……はずだよな?

行商時にもついでに販売枠を作ってみるか、永続的に売れそうだ。

ロングセラー商品も期待できそうだ。

あの熊の人形的な。

俺の世界だと長寿アニメみたいな路線で子供ならコレ! みたいな感じで行けるかもしれない。

で、商品をあらかた売り切った所で演目が開始される。

チケットも思い切り売れたし、ホワイトデーグッズも売ったその場でフィーロとキールに返却された。

まさしく金だけ徴収出来たな。

カルマには十分注意して……っと。

客には満足して帰ってもらわないといけないな。

「ラフー!」

なんでラフタリア役をずっとラフちゃんがしているんだろうな?

フィーロが本人役をやるなら、ラフタリアでも良い様な気がするんだが……本人が嫌がりそうだ。

ラフちゃんの演技を微笑ましいと思いながら演目を見ていく。

いろんなシーンで歌うのか……最初の辺りはフィーロが出て来ない。

と、思ったら何故か奴隷商のテント内っぽい背景になって卵の形をしたオブジェからフィーロが踊りながら出てくる。

事実とは若干異なるけど、テンポの関係で卵を購入すると同時にフィーロが出てくると……。

あ、所々で興奮したキールが犬になってるぞ。

今回は演目の関係でドラゴンゾンビまでみたいだ。

「キュア!」

い!? ドラゴンゾンビ役をガエリオンがやってる。

俺はそっと目を逸らす。

キールはどうも興奮すると犬になるのが悪い癖だな。

ラースシールドを使うシーンで犬のままカッコつけてる。

フィーロファンは後ろで歌って踊るフィーロに大満足の様子だ。

で、どうにかドラゴンゾンビを倒しました。

という所で幕が降りる。

その後はクズの半生をやり始める。

妹役は……なんでアトラがここにいるんだよ。

フォウルもいつの間にかチョイ役で出てるぞ。

修行に行ったんじゃなったのか?

放り出して演目に参加したな?

「『お兄様……メルロマルクでのお仕事は上手く行ってますか?』」

「『大丈夫だよ……』わんわん」

やべ……笑う。

演目のキャラとキールの台詞と行動にギャップがあってコメディチックになってる。

クズが来てるけど、半透明の妹役をしてるアトラを見て、何か遠い目をしているな。

亡き妹と重ねるなよ。

これか? クズが参加してる理由はこれなのか?

なんてやってる内に演目は一区切りして、次のシーンへ変わる。

ちなみにフィーロは背景で歌う役をずっとしてた。

若かりし頃の女王をメルティがやっていた。一応はよくできていると思う。

クズの一生を面白おかしく語っているみたいだけど主役をしてるキールの演技に問題があるな。

時々犬モードになる。

それ以外は、中性的な外見も重なって、真面目に演じれば魅せるんだけど……。

ま、バレンタインの時ほど大根役者じゃ無くなってるから問題ないか。

あ、フィーロが張り合ってフィロリアルクイーン形態に変身した。

するとフィーロに向けてファン達が天使コールを始める。

「呪いに負けず、本当の姿になってー!」

「て・ん・し! て・ん・し!」

「て・ん・し! て・ん・し!」

「て・ん・し! て・ん・し!」

「マイエンジェル! フィーロちゃん!」

「マイエンジェル!」

「天使!」

「フィーロ・ちゃん!」

「がんばれフィーロちゃん!」

うぜぇ……キールのファンがドン引きしているぞ。

こりゃあ、一部でフィーロ=キモイの縮図が生まれるかもな。

そんなファンの言葉にフィーロはムスーっと頬を膨らませて人間形態に戻る。

「なんでキールくんは姿が変わっても応援してもらえるのにフィーロはダメなのー……」

諦めろ。

お前の本当の姿はファンの無意識下にある性的対象としての認識からは完全に度外視されているんだよ。

キールの場合は……元がペット扱いであって、犬形態でみんな脳内変換しているんだ。

そりゃあ中性的な容姿に惹かれている奴もいるだろうが客のタイプが違うから望むようなコールは無理なんだよ。

やがて演目が終わって一度幕が下り、ステージにキャストを集めて一礼をする。

それが全部終わった所での事。

「ごしゅじんさまー」

フィーロが会場の裏で様子を見ていた俺に手を振る。

「ではここで今回のイベントのスポンサーをしてくださっている盾の勇者様をお招きしたいと思います!」

メルティが大々的に前に立って、マイク片手に俺が来るように誘導する。

……しょうがないな。

俺はそのままステージの方へ歩いて大観衆の観客の前に立って手を振る。

「今日はみんなありがとー」

フィーロが手を振りながら俺の隣に立つ。

「今日はーみんなにお願いがあって言おうと思うのー」

「ん? そんな話聞いていないんだが……」

何かフィーロが勝手に喋っている。

メルティも首を傾げて俺と視線を交差させた。

どうやらメルティも心当たりが無いらしい。

「最近、フィーロ疲れてヘロヘロなのー少しお休みが欲しいのー」

ゲ! フィーロの奴……面倒な事を。

「良いでしょ? ごしゅじんさまー?」

ダメだと言いたい。

お前には親善としてメルティと一緒に外交をしていてもらいたい。

黙ってメルティを見ると、メルティもフィーロの意見に賛成の様子だ。

まあ……なんだかんだで世界が平和になってもずっと働いていたからな。

休暇くらいは許可すべきか。

「メルティが良いのなら……良いんじゃないか?」

「そうね。フィーロちゃんがんばってるから、少しくらいなら休むべきだと思うわ。大分、外交も片付いて来てるし」

それなら……良いが。

ファン達もそれぞれ顔を見合わせて頷き合っている。

「確かに……フィーロたんの健康が一番だよな」

「楽しく歌ってくれるのなら少しの休息も大事! 俺は百年だろうと待てるぞ」

うん。その気になればきっとフィーロは百年以上生きるから大丈夫だ。

お前達の寿命が先に尽きるだろうがな。

「賛成!」

「賛成! フィーロちゃん、ゆっくり休んで、また会える日をまってるー!」

理解の多いファンで良かったな。

なんて思っているとフィーロが爆弾発言をしやがった。

「フィーロはねー! 最近あんまりいられなかったごしゅじんさまとしばらく一緒にいたいのー」

と、フィーロが俺の腕に体を使って抱き寄せる。

その様子はなんて言うか、アイドルが、彼氏が出来ましたってファンの前で紹介する感じに似てると思う。

フィーロのファンの冷たくも熱の籠った嫉妬の目が俺に向けられているような錯覚を覚える。

「ハハッ! フィーロたんも甘えん坊さんだ。お義父さんにあんなに仲睦まじくして」

この中で元康の奴はまともじゃないが、嫉妬をしないだけマシだな。

知ったことではないと切り捨てることの出来ないプレッシャーが俺に圧し掛かっている気がする。

ザワザワとフィーロのファンが騒ぎ始める。

「あ、フィーロちゃんずっりー! 俺も俺も!」

犬形態になったキールが俺に飛びついてじゃれてくる。

キールファンが俺の方を羨ましそうに見てるような気が……。

どっちにしろ、こういう場で緊張なんてほとんどしない俺が……世界を救った盾の勇者である俺の背筋が……凍りつくような悪寒を感じている。

やばい。何か言わなきゃ……災難に遭いそう。

「はは、演目でわかると思いますが、俺はフィーロの親代わりなんですよ。だからこうして甘えてきまして、キールも似た感じでして、変な話はありませんよ? フィーロとキールは永遠に皆さんのアイドルです」

と、営業スマイルをかました。

ファン達は一応納得してくれたようだ。

「えー……フィーロはねー」

誤魔化す様にフィーロの口元を押さえて黙らせる。

「という訳でフィーロはしばしの休暇の後、活動再開するのでお楽しみにしていてください」

「えーフィーロはー」

「お前は黙ってろ!」

「兄ちゃん兄ちゃん!」

「はいはい。良いから少し静かにしろ!」

「尚文様! お兄様に邪魔されて中々会えませんでしたがやっとお会いできましたわ!」

「アトラ!」

フォウルが俺に近づこうとするアトラを掴んでくれている。

これ以上ややこしくするな。

「あら、お兄様? キールくんの好意には答えませんの?」

「な――ち、ちが――!」

こんな所で騒ぎを大きくさせるなっての!

若干、怪しんだ連中の目を気にしながら俺はステージの裏に逃げるように去ったのだった。

はぁ……まったく、あいつ等は問題ばっかり起こすな。