軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編 盾の勇者のホワイトデー【3】

ホワイトデーが十倍返し?

「何処の女性優遇イベントだよ!」

思わず俺も突っ込んだ。

だって三倍返しとかは聞くが十倍返しは聞いたことが無い。

そもそも三倍返しだって都市伝説だろ。

あれだ。昔の元康みたいなキザな奴なら三倍返しをしていても不思議じゃないけどさ。

少なくとも三倍返しを当然の様に要求する女は、俺は嫌いだ。

「え? え? だって母さんや幼馴染は毎回『十倍返しするものよ』って俺に言ってたから、てっきり」

ああ、身内のローカルルールか?

錬はこれで結構顔は良いし、地味にモテそうだからな。

そんな面倒な物、安易にもらってはいけません、みたいな教育だったのかも。

それとも、おいしい思いをしたいクズ女共だったのか。

どっちもありえるのが怖いな。

それにしても錬の幼馴染か、確かこの世界に来る時そいつを庇って死んだとか言っていた気がする。

あんまり話題に出ないから、錬的には恋愛対象じゃなさそうだ。

エロゲとかのファンディスクだと追加ルートで出て来そうだよな。

間違ってもこの世界には来るんじゃねーぞ。

「重い」

うん、女騎士に同意だな。

物理的にも精神的にも重すぎるだろ。

たかがチョコ一つでこんな大量の飴と服をもらっちゃ、いろんな意味で重たい。

異世界で金が稼ぎやすい勇者をしているから良いが、現実だったらそんなにお返しを支払っていたら金が持たないだろ。

受け取る側もこうして困っているし。

なんて話をしていると錬が振り返る。

「あ、ウィンディア! これ、バレンタインのお返し!」

丁度やってきた谷子にも同様に大きな袋を持っていく錬。

谷子は女騎士を見た後、その大きな袋を手で押しのける。

第一被害者じゃなくてよかったな。

「……そんなにいらない」

「錬、お前の世界は十倍なのかもしれないが、俺の世界基準だと三倍とか言われてるぞ? 女騎士、お前は?」

「私はバレンタインに受け取るだけで返事をした事も無い。だが……三倍は聞いたような気がする」

情報が足りないな。

いや、仮にこの世界が三倍返しが普通だったとしたら俺も少し考え直さないといけなくなる。

俺はラフタリア達の方に目を向けた。

「三倍返しが良かったか?」

「えっと……これが三倍では無いのですか?」

丁度ラフタリアは俺が出したブッシュドノエルをデザートに食べている最中だ。

うん、まあそれでいいのならいいんだけどさ。

俺的にも楽だし、ラフタリアらしくていいと思う。

「私が作った手作りチョコとナオフミ様が作ったこのチョコだと出来や味に大きな差があって……そもそもお返しって三倍なんですか?」

ふむ、そう思われていたのか。

まあ、三倍が絶対というのもおかしい話だよな。

それこそ本人達の自由としか言えない。

「あらー? じゃあお姉さんも三倍を要求しちゃおうかしら?」

「三倍にしたら酒で死ぬな、お前は」

サディナの奴、まだいたのか。

今のウイスキーボンボンでさえ相当な度数なんだ。

三倍にしたら、間違いなく急性アルコール中毒で死ぬだろ。

「真面目に聞くが三倍返しってこっちじゃ定番か?」

「無い事は無いけど絶対じゃないわねー」

そうだろうな。

いやまて! 事前にフィーロへのお返しは三倍返しです!

とか広告を打っておけば儲けは倍増したんじゃないか?

いや、さすがの俺もそこまでの事をしてはいけない気がする。

じゃなきゃ後の世でホワイトデーのお返しは三倍が絶対というルールがこの世界に出来てしまう。

錬ではないが、三倍の三倍が普通になったらどうする?

広めてはいけない。後の世の男性の為に。

ましてや十倍なんてもってのほかだ。

谷子は錬が差し出した袋から飴だけ受け取っていた。

女騎士も同様に飴の入った袋だけ受け取った。

お前等実際は渡してないもんな。

「え……こっちは?」

「重い」

「いらない」

「そんな……せっかくウィンディアとエクレールに似合うと思っていろいろ用意したのに」

錬が二人にはっきりと断られて項垂れている。

確かに……重すぎるだろ。

チョコレート一つで大量の飴と服、アクセサリーまで渡されたら受け取る方も普通に困る。

しかも自分達は実際渡していないのだから、罪悪感も果てしないのだろう。

現に二人とも俺を睨みながら断った訳だし。

いい加減、どっちか錬を引き取れよ。

リア充にすればこのウザい行動も、もう少し大人しくなるんだからさ。

他人がリア充になってほしいと考える様になった俺は……どうなんだろう。

普通に良い奴なのか? う~ん……なんか違う気がする。

凄く微妙な気分だ。

「う……レン、別に私はお前の好意を無碍にしている訳ではないんだ。な? ウィンディア」

「私はいらない」

「ウィンディア!」

「そうか……そうだったのか。はは、ごめんな……エクレール、ウィンディア」

「う……別に嫌だったわけじゃない」

「そうか! それならいいんだ!」

錬は前向きだな。

それにしてもコイツ等、なんだかんだで楽しそうだよな。

こう、ラブコメディ的な感じで。

ほら、残念系とかちょっと前に流行ったじゃないか。

そんな感じ。

「来年は精々三倍返しで落ちつけば良いんじゃないか?」

「……それでも俺は、日頃の感謝の意味を込めて十倍の準備をする」

「重いって言ってんだろ!」

錬も懲りないな……コイツの幼馴染とやらには説教をしてやりたくなるな。

もう錬とは二度と会う事は無いんだろうけどさ。

錬の世界はどういう処理になったんだっけ? 曖昧にしてた覚えがある。

錬は突然行方不明になったとかになっているのだろうか?

異世界を認識し始めた世界だったはず……科学の発展の末に侵略とかしないことを祈るばかりだな。

「ん?」

とか考えていると視界の隅の方で樹がリーシアにお返しの飴を送っているのを見つけた。

しかもついでにドレスも一緒に渡して、リーシアが感激してる。

……服のサイズがわかる程の仲なのか。

この二人、バレンタインの時もこんな感じだったよな。

さりげなく進行しているが、実は一番満喫しているんじゃないのか?

錬からしたら、この状況の樹とか羨まし過ぎるだろ。

罠にハメて仲間から外したにも関わらず、一途にも想い続けてくれた女の子へのお礼か。

なんかそういう美談ありそうだよな。

ケッ!

どうして勇者内でこんなにも差が生じてしまったんだろうな。

俺は村の連中の殆どにお返しした。

錬は十倍返しをしようとして失敗。

樹は錬がやりたかった、ある意味十倍返しをリーシアに受け取ってもらって感激されてる。

元康は……フィーロへのお返しであるホワイトチョコを買占めに走っている。

なんか負けているような気がしてきた。

そもそも俺だけ返す量多くないか?

錬はもらった相手全員にこれだけの量のプレゼントをするつもりだったのか?

義理チョコをそれなりにもらっていたんだから、身が持たないだろ。

ラフタリアも樹とリーシアの方を羨ましそうに見てるような……気がしなくもない。

「どうしました、ナオフミ様?」

「いや……十倍返しは無いが、アレ位プレゼントが欲しかったか?」

「えっと……」

もじもじとするラフタリアが頷こうとして俺の方……後ろ? を見て我に返る。

「い、いえ! 十分です!」

うーん……もっと甘えてくれれば良いのだが……。

まあこれからはもう少し考える事にしよう。

そういう所が男の甲斐性って奴なんだろうし。

ちなみに、未だに現れないフォウルとアトラは外出中だ。

某変幻無双流のババアと山篭りに行った。

なんでもフォウルは前回の事を深く反省しており、もう二度とおかしくならない為に自分を律するんだとか。

アトラはそれに無理矢理付き合わされている

と思った所で背筋が凍りつく。

「ナーオーフーミーちゃーん。このお菓子、もっと無いかしら?」

と、サディナに尻を撫でられた。

――フラッシュバック。

チョコレートモンスターに脱がされかけた記憶が!

足にべったりと付着するチョコレート。

沈んでいく足。

伝ってくるチョコの触手。

ドラゴンの翼の形をしたチョコレートが俺を包もうとして、服を脱がせようと……。

あああああ……あああああぁぁぁぁ……!

「ナオフミ様! しっかりしてください! ナオフミ様ぁあああ!」

俺が我に返るのに三十分掛った。

我に返った俺はボケーっと歩いていたチョコレートモンスター(現在はホワイトチョコレート)を破壊するように命じて平常心を取り戻した。

遠くでガエリオンがこっちを見ている気がする!

誰がお返しをやるものか!

「シャチ女! お前もシャレにならないことをするんじゃない!」

「こりゃあお姉さんも重症だと思うわー……でもナオフミちゃんには経験が必要だと思うのよ」

「良いから黙れ! はぁ……! はぁ……!」

「ナオフミ様、落ちついて! そろそろ出発の時間ですよ」

「ラフー」

「む……そうか」

とりあえず再確認だ。

ホワイトデーにはフィーロとキールの合同ミュージカルイベントと、フィロリアルレースが行われる。

俺はその両方に顔を出す予定だ。

まあ、フィーロとキールの方は準備さえ整えばどうとでもなるだろう。

問題はフィロリアルレースの方なんだよな。

一応、前日の段階で審査は通過しているから問題は無いけど。

「クえー……」

また寝てる。

俺が育てたフィロリアル……どうしてこうものんきな感じに育ってしまうんだ?

何度も思うが、答えは出そうにない。

「よし、お前等もちゃんと仕事をこなすんだぞ」

キールは相変わらず時間ギリギリまで村で遊んで居やがった。

「お姉さんは確か音響担当だったかしら?」

「効果音で雷を演出するんだと」

「じゃあ行くわねー」

シャチ女を連れていくのか……まあ、大丈夫だろ。

「じゃあ出発だ」

俺はポータルスキルで飛ぶと、他の連中もゼルトブルの会場へと飛んだ。