軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

頭打ちのステータス、使い捨ての駒の脅威

Aランク魔物である『蒼竜』を殴り殺す。

そのイカれた目標を達成するため、俺は美桜の病院維持費を稼ぐ傍ら、焦燥感に駆られるようにダンジョンへ潜り続けていた。

「シィッ……!!」

Bランク下位の魔物『オーク・ロード』の振り下ろす大斧を躱し、ガラ空きになった 鳩尾(みぞおち) に重い右フックを数発叩き込む。

巨体がぐらつき、膝をついたところに蹴りを見舞って、ようやく光の粒子へと変えた。

『――条件達成。【存在強奪】が発動します』

『――【筋力】(+12)』

『――【耐久】(+8)』

『――【知力】(+0)』

「……おい、エク子。なんだこのショボい上がり幅は。前はもっと一気に数百単位で上がっただろうが」

「マスター、それがRPGにおける『レベル補正』の残酷な現実です……! 今のマスターの基礎ステータスはすでに限界突破しています。

格下の、あるいは同格程度の魔物をいくら狩っても、得られる経験値(ステータス還元率)は激減してしまうんです!」

俺は血のついた拳を拭いながら、舌打ちをした。

つまり、今のステータスからさらに爆発的な成長を遂げるには、AランクやBランク上位といった「自分より強い格上」を狩り続けるしかない。

だが、先日のリビングアーマー・ジェネラル戦のように、格上相手には魔法耐性ゼロ(知力20)という弱点が致命傷になりかねない。

「……チッ。蒼竜までの道のりは、想像以上に険しいな」

その時、俺のスマホが震えた。まどかからだ。

『結城誠。今日の午後、例の「外出護衛」の仕事よ。

場所は銀座の高級ホテル。……あと、お願いだからジャージやスウェットで来るのはやめてね。私の隣に立つんだから、せめてスーツを着てちょうだい』

「……筋肉が窮屈になるから嫌なんだがな」

俺はため息をつき、頭打ちのステータスに苛立ちを抱えながらダンジョンを後にした。

数時間後。

銀座の超高級ホテル『グランド・インペリアル』の最上階ラウンジ。

シャンデリアが煌めくその空間の片隅で、まどかは政財界の重鎮らしき白髪の男と密かに向かい合っていた。新設されるダンジョン関連法案の裏取引だろう。

俺はまどかの斜め後ろに直立し、周囲に鋭い視線を配っていた。

着ているのは、駅前の量販店で急遽買い揃えた「上下セットで9800円の形状記憶スーツ」だ。周りの客が着ている何十万というオーダーメイドに比べればペラペラで動きづらいが、背に腹は代えられない。

交渉は順調に進んでいるように見えた。

――だが、俺の【気配察知】が、ラウンジの入り口付近から急速に近づいてくる『異質な悪意』を捉えた。

「ちょっと、通しなさいよ! 私、あそこの男の知り合いなんだから!」

ボーイの制止を振り切って、ヒールを鳴らしながらズカズカと踏み込んできたのは、派手なブランド品で身を固めた女。

元カノのリナだった。

「……あいつ、なんでこんな場所に」

「マスター! 彼女の右手……持っているハンドバッグの中から、極めて不安定で危険な魔力反応がします!」

エク子の警告に、俺の全身の筋肉が瞬時に戦闘態勢へと切り替わる。

リナは周囲のVIP客たちの冷ややかな視線などお構いなしに、俺とまどかのテーブルへと一直線に歩いてきた。

「誠! 見つけたわよ! あんた、ちょっと金回りが良くなったからって、こんな若い女をパパ活で囲って偉そうに!」

「……お前、ここで何をしている」

俺が低く冷たい声で問うと、リナは勝ち誇ったような、ひどく歪んだ笑みを浮かべた。

「ふふん、教えてもらったのよ。あんたが『黒犬』っていうヤバい組織に取り入って、他の冒険者の手柄を横取りして詐欺みたいにお金を稼いでるってね! ……左京さんっていう、すっごく優しくてエリートな幹部の人にね!」

左京玄弥。

やはり、あの毒蛇が裏で糸を引いていたか。俺への嫌がらせと、まどかの重要な会合をぶち壊すために、この愚かな女を利用したのだ。

「誰なの、この品のない女は。……結城誠、あなたの知り合い?」

まどかが不快そうに眉をひそめる。

取引相手の白髪の男も、露骨に顔をしかめて席を立とうとしていた。

「そこの女! あんただって騙されてるのよ! この男はただの適性なしで、協会をクビになった無能なんだから! ……左京さんが言ってたわ! この『真実の石』を使えば、こいつの偽物のステータスが全部剥がれ落ちて、惨めな本性が暴かれるって!」

リナがハンドバッグから取り出したのは、どす黒い光を放つ手のひら大の結晶だった。

それを見た瞬間、俺の背筋に氷をぶち込まれたような悪寒が走った。

「マスター!! ダメです、それ『真実の石』じゃありません! 周囲数メートルを確実に吹き飛ばす【魔力起爆晶】です! あんなもの至近距離で割られたら、いくらマスターでもタダじゃ済みませんし、まどかさんは即死です!!」

「あのクソ眼鏡……ッ!!」

リナを騙し、自爆テロの道具として送り込んできたのだ。

この女がどうなろうと知ったことではないが、まどかを巻き込まれるわけにはいかない。

「誠! これで終わりよ!!」

リナが狂ったような笑みを浮かべ、思い切り結晶を床に叩きつけようと腕を振り下ろす。

俺は9800円のスーツの肩周りがビリッと破けるのも構わず、全力で飛び出した。

床に叩きつけられる寸前の空中で、俺の右手がリナの手ごと、その結晶をガッチリと掴み取る。

「え……っ?」

「……馬鹿な女だ。テメェはただの使い捨ての爆弾にされたんだよ」

ピキッ、と。

俺の手の中で、起爆のトリガーが入った結晶がひび割れ、制御不能の赤い閃光が漏れ出し始めた。もはや爆発は止められない。

「まどか、伏せろッ!!」

俺はまどかたちの前に立ち塞がるようにして背を向け、結晶を握り込んだ両手を己の腹の前に抱え込んだ。

ありったけの魔力を注いだ【竜鱗装甲】を、爆心地となる腹部と腕に極限まで集中させる。

カッ……!!

次の瞬間。

俺の手の中で、凄まじい衝撃と熱波が爆発した。

「ガ、アァァァァァァッ!!」

防御スキルを張っていたにも関わらず、内臓を直接ハンマーで殴られたような衝撃が突き抜けた。

俺の身体は爆風で後方へと吹き飛ばされ、ラウンジの分厚い大理石の柱に激突してようやく止まった。

「ゴホッ……!」

口から赤黒い血が吐き出される。

煙が晴れた後。俺の着ていた9800円のスーツの上半身は完全にボロボロに引き裂かれ、両腕と腹部には酷い火傷と裂傷が走っていた。

【自己再生】がすぐにジュージューと音を立てて治癒を始めているが、再生速度が追いつかないほどの深手だ。痛覚が警鐘を鳴らし続けている。

(……クソッ。俺の耐久力でも、暗殺用の魔法爆弾をゼロ距離で抱え込めば、このザマか)

「結城誠!! あなた、血が……!」

背後でへたり込むまどかが、悲鳴のような声を上げた。俺の肉の壁のおかげで、彼女にも周囲の客にも怪我はない。

「……問題ない。かすり傷だ」

俺は柱に手をついて、ふらつく足に力を込めてゆっくりと立ち上がった。

そして、爆風で尻餅をつき、自分のしでかした事の重大さと俺の血まみれの姿を見てガチガチと震えているリナを見下ろした。

「ひぃッ……あ、ああ……っ」

「おい。左京玄弥に伝えろ」

俺は口元から流れる血を乱暴に手の甲で拭い、冷酷な声で言い放った。

「テメェの用意した爆竹じゃ、俺は殺せねえ……ってな」

強がりだった。本当はあばらも数本イッている気がする。

だが、ここで痛みに蹲るような真似を見せれば、奴の思惑通りになる。

知力20の俺が、あの陰湿な毒蛇の策略に対抗するには、この理不尽なまでの「折れない 暴力(タフネス) 」を見せつけるしかなかった。