軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

肉盾の価値と、毒蛇の悪意

爆発の爪痕が残る高級ラウンジは、硝煙と焦げた絨毯の匂いが立ち込めていた。

俺の背後でへたり込んでいたまどかが、青ざめた顔でゆっくりと立ち上がる。

「……まどか君。君のところの『狂犬』は、とんでもない躾けがされているようだな」

向かいの席に座っていた取引相手の白髪の男が、震える手で葉巻に火をつけながら言った。

彼は俺が爆風を完全に殺し切ったのを見て、恐怖よりも感心が勝ったらしい。

「あれほどの高圧縮爆弾を、自らの肉体だけで抑え込むなど……Aランクの重装騎士でも不可能だ。……いいだろう、柊の令嬢。法案の裏調整の件、君の派閥に一任しよう。これほどの護衛を従える組織なら、信用に足る」

「っ……! ありがとうございます、先生」

まどかが深々と頭を下げる。

どうやら、俺が文字通り体を張ったおかげで、彼女のシノギは無事に成立したようだ。

「離して! 私、騙されたのよ! 誠、助けてよぉっ!!」

ラウンジの外で待機していた『黒犬』の黒服たちが駆けつけ、床で失禁して腰を抜かしていたリナの腕を乱暴に掴み、引きずり起こしていた。

「……俺にすがるな。お前が俺を捨てて、金に目が眩んで選んだ道だろう」

俺は焼け焦げたワイシャツの残骸を引きちぎりながら、冷酷な視線で見下ろした。

左京玄弥に唆されたとはいえ、実行犯はこの女だ。

裏社会の会合で爆弾テロを起こしかけたのだから、まどかの部下たちからどんな「尋問」を受けるかは想像に難くない。

リナの絶望に満ちた泣き叫ぶ声がエレベーターホールへと消えていくのを、俺は一切の感情を交えずに見送った。

新宿への帰路。

漆黒のリムジンの後部座席。

俺は上半身裸のまま、まどかから渡された救急キットの消毒液を、ジュージューと再生しつつある腹の火傷跡にぶっかけられていた。

「痛っ……! おい、もっと優しく塗れ」

「文句言わない!

……全く、あなたっていつも服をボロボロにして半裸になるわね。

私の専属護衛がただの露出狂だと思われたらどうするのよ」

(いや、実はパンイチになってましたなんて言えない…)

まどかは呆れたようにため息をつきながらも、その手つきはどこか震えていた。

俺が盾にならなければ、彼女は確実に死んでいたのだ。

「……でも。助かったわ。ありがとう、結城誠」

「仕事だからな。……それより、危険手当の話だ。

Bランク級の爆弾を素手で抱え込んだんだ。特別ボーナスとして『500万』は上乗せしてもらうぞ」

俺が元事務員らしくキッチリと請求すると、まどかはフッと笑い、手元のタブレットを操作した。

「…ええ、構わないわ。

基本報酬の100万と合わせて、600万円。

今、あなたの口座に振り込んだわ。

……それと、スーツ代の9800円ね。流石に安っぽすぎるから、次は私が防弾・防刃仕様のオーダーメイドを仕立ててあげる」

「いや、いらん。

どうせ筋肉が膨張して破けるから、安物の形状記憶で十分だ。あと、9800円じゃなくて税込みで『10780円』だ。端数をごまかすな」

「……あなた、そういう所だけはやけに計算早いわよね。知力20のくせに」

嫌味を言われながらも、スマホの通知音で口座残高が跳ね上がったのを確認し、俺は内心でガッツポーズをした。

痛い思いはしたが、これで一気に600万のプラスだ。

美桜の命を繋ぐための維持費確保が、また一歩前進した。

(マスター、お疲れ様です! でも、あの女をけしかけてきた眼鏡の男……絶対にこのままじゃ引き下がりませんよ!)

(ああ。分かってる)

俺はリムジンのスモークガラス越しに、流れる新宿のネオンを見つめた。

次から次へと、休む間もなく降りかかる火の粉。

それを振り払いながら、俺はさらに強大なAランク魔物を狩り続けなければならない。

100億の特級エリクサーを手に入れるため、究極のへの道はまだまだ遠い。

同時刻。都内某所のタワーマンションの一室。

左京玄弥は、窓辺に立ち、ワイングラスを傾けながら部下からの報告を電話で受けていた。

『――申し訳ありません。対象の女による爆破は成功しましたが、結城誠が爆風を肉体のみで完全に抑え込み……標的のまどかを含め、周囲への被害は皆無です』

「……なるほど。起爆晶を、至近距離の肉体防御だけで耐え抜いたと」

玄弥は、グラスのワインを一口含み、銀縁の眼鏡をスッと中指で押し上げた。

「魔法耐性のないただの脳筋かと思えば、その筋肉の『密度』が規格外というわけですか。……いやはや、私の見立てが甘かったようだ。実に恐ろしい男だ」

電話の向こうの部下が息を呑むのが分かった。

玄弥の口調は穏やかだったが、その瞳の奥には、ドス黒いヘドロのような殺意が渦巻いている。

「ならば、次は彼の大好きな『物理』で潰してあげましょう。……調べによれば、彼は最近、何かを急ぐようにダンジョンの深層へ向けて無理なレベリングをしているとのこと」

玄弥はグラスをテーブルに置き、手元にある一枚の資料を指先でなぞった。

それは、第8エリアに存在する、高難易度ダンジョンの見取り図。

「結城誠。あなたがどこまで理不尽な暴力を誇ろうと、所詮は人間の枠を出ない。……本当の『絶望』というものを、教えて差し上げましょう」

毒蛇は暗闇の中でクツクツと嗤う。

知力20の誠と、底知れぬ悪意を持つ左京。

裏社会とダンジョンを舞台にした死闘は、いよいよ引き返せない領域へと足を踏み入れようとしていた。

現在の所持金:25,585,800円(※報酬100万+危険手当500万+スーツ代10780円加算)

妹の治療費(治癒魔法維持費)まで:あと49,414,200円

特級エリクサー(蒼竜からの強奪)投与リミットまで:あと18日