軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

黒犬本家、突入

約束の週末。

新宿の喧騒から少し離れた地下駐車場で、俺はまどかと合流した。

彼女はいつにも増して隙のない黒のスーツに身を包み、その表情は戦場に赴く女傑のように張り詰めていた。

「来たわね、結城誠。……その格好、一応新調したのかしら」

俺は駅前のディスカウントショップで買った、上下2700円の『新品』の安物ジャージに身を包んでいた。

以前の焦げたものよりはマシだが、これから裏社会の幹部会に乗り込む男の格好ではない。

「これでも正装のつもりだ。……それで、この黒い布は何だ?」

まどかの傍らに控える黒服が差し出してきたのは、厚手の目隠しだった。

「本家の居場所は、幹部と許可された身内しか知ることを許されない。

たとえ私の恩人であっても、外部の人間をノーチェックで通すわけにはいかないの。……悪いけれど、着くまでは視界を塞がせてもらうわ」

「……分かった。あんたの立場も理解している」

俺は大人しく目隠しを受け入れ、黒い視界の中で黒服に手引され、高級車の後部座席に座った。隣にはまどかの気配がある。

車が滑らかに走り出す。

視界が奪われた分、俺の【気配察知】と【暗視(機能していないが感覚として)】はより研ぎ澄まされていった。

「会合の様子はどうだ?」

「最悪よ。本家では長男の兄がすでに根回しを済ませ、私を『素材の横流しを疑われる無能』として処刑……あるいは追放する議案を出しているわ。海堂たちの裏切りがなければ、私は今日で終わっていたはずよ」

まどかの声には隠しきれない怒りが混じっている。

「手土産の準備はいいかしら? 父……柊宗一朗は、何よりも『力』と『実利』を重んじる男よ。

あなたが提供できるものが、兄の言葉を黙らせるほどの価値がなければ、会合の場はそのままあなたの墓場になるわ」

「心配ない。Bランクの『紅蓮核』を仕留めてきた。……トカゲ一匹殺すのに、服を全部焼かれる羽目になったがな」

「……は? Bランクの核? まさか、あのサラマンダーを?」

まどかの息を呑む気配が伝わってきた。

Bランク魔物の単独討伐、それも最高品質の核の入手。

それがどれほどの衝撃か、彼女には痛いほど分かっている。

「マスター! 前方に殺気です! それもかなり物騒なのが三台分!」

脳内に響くエク子の叫び。

直後、キィィィィィッ!!という激しいタイヤの摩擦音と共に、俺たちの乗った車が急ブレーキをかけた。

身体が前に投げ出されそうになるが、俺は【耐久】を活かして座席に張り付くように踏ん張った。

「な、何事……っ!?」

「刺客だ。……あんたの兄貴、よっぽどあんたに会場に来てほしくないらしいな」

車外から、ドアを乱暴に叩く音と、自動小銃を引き絞るような不穏な金属音が聞こえてくる。

目隠しをされたまま、俺は隣に座るまどかの手を軽く叩いた。

「……まどか、目隠しを取ってもいいか?」

「……ええ、許可するわ。掃除を頼むわね、私の騎士様」

俺は黒い布を剥ぎ取った。

車の周囲を、三台の黒いワゴン車が完全に包囲している。

中から出てきたのは、プロの傭兵上がりと思しき重武装の男たちが十数人。

「マスター! 面倒くさいので、全員まとめて物理で分からせてあげましょう!」

「ああ、同感だ。今の俺は、少しばかり力が有り余っているからな」

俺はドアを蹴破るようにして車外へ飛び出した。

一斉に銃口がこちらを向く。

「撃てッ!!」

激しい銃声が夜の私道に鳴り響く。

だが、俺は、放たれた弾丸の軌道すらも緩やかな光の尾を引く残像にすぎない。

俺は最小限の動きで弾丸を避け、一瞬で先頭の男の懐へ滑り込んだ。

「あ……?」

ドゴォッ!!

裏拳が、男の胸板を文字通り「陥没」させた。防弾ベストごと骨を粉砕された男は、そのまま後方のワゴン車まで弾け飛び、車体を大きく歪ませて沈黙した。

「な、なんだコイツは!? 化け物か!?」

「化け物は、あんたたちの雇い主だろうよ」

俺は止まらない。

流れるような動作で二人目の顔面を掴み、そのままアスファルトに叩きつける。

三人目の腕を掴み、武器ごと力任せにねじ切らんばかりに投げ飛ばす。

魔法の加護を受けたナイフを突き立てようとした暗殺者の刃を、俺は【竜鱗装甲】を纏った指先でパキィンと摘み折った。

わずか一分。

武装集団の十数人は、銃を一発も俺に当てることすら叶わず、路上のゴミのように転がされた。

「……マスター、知力が低いせいか、最近本当に加減が難しくなってきましたね」

「うっさい。これでも死なない程度に手は抜いているんだからな」

俺は息一つ乱さず、呆然と車内から見つめていたまどかに向かって、開いたままのドアから手を差し出した。

「掃除は終わった。……行こうか、まどか。会合に遅れるぞ」

まどかは少しの間、俺の血のついていない拳を見つめていたが、やがてフッと口角を上げた。

「……ええ。最高の余興だったわ」

再び車が走り出し、数十分後。

俺たちは重厚な和風建築の門構えを持つ、柊本家の屋敷へと到着した。

そこには、裏社会を牛耳る「黒犬」の重鎮たちが、牙を研いで待ち構えている。

俺は上下2700円の新品のジャージを整え、一億円への最終交渉の場へと足を踏み入れた。

現在の所持金:577,000円(※ジャージ代2,700円出費)

妹の治療費まで:あと98,423,000円