作品タイトル不明
異常性の露呈その2
たった一振りの拳圧。
それだけで、直線状にいた十数体のポイズンウルフが悲鳴を上げる間もなく肉片と化して吹き飛んだ。
さらに方向を変え、群れの真ん中で足刀を振り抜き、アーマーリザードたちの硬い鱗ごと身体を真っ二つに両断していく。
「ギ、ギィィイッ!?」
先ほどまで獲物を前に狂乱していた魔物たちが、今度は一転して、得体の知れない『死神』を前に恐怖の悲鳴を上げて逃げ惑う。
だが、遅い。
俺は圧倒的な速度で大広間を駆け回り、わずか数秒の間に、五十体以上いた魔物を一匹残らず肉塊に変えていた。
ただの暴力。純粋なステータスの暴力だけで、下位の魔物など紙屑同然だった。
『――【存在強奪】の発動を確認』
システムアナウンスが響く。
魔物たちが死の間際に放つ魔力とステータスが、俺の固有スキル【強欲】の力によって身体へと吸収されていく。
『ですがマスター。対象のランクが著しく低いため、マスターの現在のステータスに上乗せされる数値は誤差の範囲です。
……つまり、実質的な能力アップはゼロですね』
(まあ、そりゃそうだよな。
下位のオークやオーガを千匹倒したところで、ステータスには影響しないってことか)
俺は服に付いた返り血を軽く払いながら、息一つ乱さずに振り返った。
大広間には、不気味なほどの静寂が降りていた。
「ふぅ……。大丈夫か、二人とも」
俺が声をかけると、腰を抜かして座り込んでいたしずくが、ハッと我に返ったように安堵の涙を零した。
「た、助かった……。ありがとうございます、誠さん……本当に、死ぬかと……」
しずくは胸を撫で下ろし、心底ほっとしている様子だった。
だが、その隣にいた葵は違った。
「…………」
葵は、蒼白な顔のまま、小刻みに震えていた。
それは、死の恐怖から解放された安堵の震えだけではない。
彼女の目は、周囲に散らばる魔物の残骸と、その中心で平然と立っている俺を、信じられないものを見るような……本能的な『恐怖』の目で見つめていたのだ。
(誠さん……これ、Cランクの強さなんかじゃない。
スキルも使わずに、ただ殴っただけで魔物が消し飛んだ……。
誠さんって、一体何者なの……?)
葵が内心で俺の異常性に強い疑問と恐れを抱いていることなど露知らず、俺は周囲に散らばる大量のドロップアイテムや魔石を拾い集め始めた。
五十体以上の魔物のドロップだ。
小さな山ができるほどの量がある。
俺は、愛用している黄色い『ドドンキのレジ袋』をアイテムボックスとして呼び出し、その小さな袋の口を開けた。
「よっと。ほい、ほい、っと」
俺は何気ない動作で、オーガの角や、アーマーリザードの皮、大量の魔石、武器の欠片などを、次々とその小さなレジ袋の中へ放り込んでいく。
物理法則を無視して、次々と山のような素材が小さな袋の中に吸い込まれていく光景を見て、葵がハッと息を呑んだ。
「ま、誠さん!? それって、もしかして……『アイテムボックス』持ってるんですか!?」
「ん? ああ、そうだよ、ドドンキの袋だけどね」
俺が何の気なしに答えると、しずくと葵の二人は目を丸くして絶句した。
「ほ、本当ですか!? アイテムボックスって、発生確率がかなり低いユニークスキル級ですよ!? レア中のレアじゃないですか!」
「しかも、こんなに大量の素材が全部入っちゃうなんて……。
誠さん、そのアイテムボックスの『容量』って、どのくらいあるんですか?」
葵が身を乗り出して聞いてくる。
アイテムボックスの容量。
そういえば、前に聞いた時は4畳半って言ってたっけ。
俺はドドンキの袋の中の亜空間を思い浮かべながら、正直に答えた。
「うーん……だいたい、四畳半くらいかな」
「「――よ、よじょうはん!?」」
二人の声が綺麗にハモり、ダンジョンに響き渡った。
葵はワナワナと震える手で俺を指差し、半狂乱のような声を出した。
「よ、四畳半って……誠さん、自分が何言ってるか分かってます!?
通常、世界最高峰のSランク冒険者が持ってるアイテムボックスでも、大きくてせいぜい『2メートル四方』
……つまり一畳か二畳分くらいしかないんですよ!?
四畳半なんて、そんなの国宝レベルですよ!」
「へ……?」
俺はポカンと口を開けた。
知らなかった。
俺のドドンキ 袋(アイテムボックス) 、実はとんでもないオーバースペックだったらしい。
「あ、いや……ははは! 気のせいかも! 今見たら、意外と狭かったわ、一畳くらい一畳くらい!」
「絶対嘘ですよね!? 今、明らかそれ以上入っていきましたよね!?」
「そ、それは……圧縮技術的な何かで……!」
完全に異常性が露呈してしまったことに焦り、俺は冷や汗を流しながら強引にお茶を濁すことにした。
「と、とりあえず、今日はもう戻ろう! どちらにせよ大量のモンスターを相手にしたから、二人とも疲労が溜まってるだろ! これ以上無理するのは危険だからな!」
「あ、あの、誠さん……!?」
俺は問答無用で二人の背中を押し、逃げるようにダンジョンを後にしたのだった。
◆
数時間後。
新宿の冒険者ギルド本部へと戻った俺たちは、買取カウンターで受付の雨宮さんにドロップアイテムの精算を依頼していた。
俺がドドンキの袋からドサドサと大量の魔石や素材をカウンターに出すと、雨宮さんの目が点になった。
「こ、これは……。Dランクの素材とはいえ、すごい量ですね……。
これだけで、普通のパーティーの数ヶ月分の稼ぎになりますよ。結城様、一体どうやってこの量を一日で……?」
「ああ、実は不運なことにトラップにかかっちゃいまして。モンスターハウスの中に入っちゃったんですよ」
俺が苦笑いしながら告げると、雨宮さんは持っていたペンをポロッと落とした。
「モ、モンスターハウス!?
そんな……大部屋のトラップですよね!? ギルドの鉄則では、モンスターハウスに遭遇した場合は、一切戦わずに全力で『撤退』するのが絶対のルールです! 一体どうやって逃げ延びたんですか!?」
雨宮さんが血相を変えて身を乗り出してくる。
俺は、首を傾げながら普通に答えた。
「確かにそうなんですけどね、でも普通に倒せましたよ?」
「……はい?」
「いや、だから、群れを全部殴って……」
そこまで言って、俺は雨宮さんの完全にフリーズした顔と、周囲のギルド職員たちのどよめきに気づいた。
(ヤバい、またやらかしたか……!)
俺は慌てて両手を振り、作り笑いを浮かべた。
「あ、いや! 違いますよ! たまたま運良く、ダンジョン内で大規模な落石トラップが連鎖して、魔物たちが勝手に潰れたんです!
俺たちはただ、それを拾ってきただけで……! な、そうだろ二人とも!?」
俺が必死に話を振ると、しずく達はどこか遠い目をしながら口を開いた。
「……はい。誠さんが、まるで落石のように、群れを……」
「うん、誠さんという名の自然災害が……」
「おい!? 合わせろよ!」
葵まで頭を抱えて呟くものだから、雨宮さんはますます訝しげな表情になった。
「落石で潰れた……? でも結城様、このオーガの角も魔石も、割と綺麗な状態で残っていますが……」
雨宮さんの鋭い指摘に、俺の背筋に嫌な汗が流れた。
確かに、ただの暴力で殴り倒したとはいえ、素材の価値を下げないように急所だけを的確に破壊したのだ。
落石でペチャンコになったような痕跡はどこにもない。
「そ、それは……奇跡的な落石で……! と、とにかくそういう事なんで! 精算の方、あとはよろしくお願いします!」
「あ、ちょっと結城様!?」
俺は雨宮さんの制止を振り切り、逃げるようにカウンターから立ち去った。
後ろからは「落石でこんなに綺麗に素材が……?」という雨宮さんの困惑する声と、しずくと葵の溜め息が聞こえてくる。
俺の異常性がこれでもかと露呈し、全く誤魔化せていない気晴らしのリハビリ探索だったが、何とかなった……と思う。