軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第80話 宣戦布告

モニタの中で、フラッシュが瞬いていた。

白いシャツに黒いベスト。整った顔立ちの若い男が、たくさんの記者に取り囲まれている。テレビ越しでも目を細めたくなるくらいの白光が、彼の周囲で何度も瞬いている。

『Aランクパーティー「烈風」のリーダー、風見隼人さんが緊急記者会見を開くと発表されました――』

司会らしき声が前置きを述べると、その後ろで、風見が一歩前に出た。

『お忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。』

明るい、はきはきとした声だった。フラッシュがまた一斉に瞬く。

『単刀直入に申し上げます。私は――裏山ダンジョンのあの竜に、挑戦することをここに宣言します。』

会場がざわついた。

「ほぉう?」

リンドヴルムが、片眉を上げた。

『以前、私たち烈風は、あの竜の前で引かざるを得ませんでした。自分たちの未熟さをはっきりと突きつけられた経験でした。』

『なんと!烈風はあの竜に挑んだことがあるのですか!』

『はい、まだあのダンジョンが有名になる前、私たちはあの竜と接触しています。そして――為すすべなく敗北した。』

会場が一段とざわめきを増す。信じられない、という声が飛び交う。

風見が一歩踏み込んで、マイクの方に身を乗り出す。

『あれから時間が経ちました。私は、あの日の自分を超えるために修練を積んできた。そして今、世界中の話題になっているあの場所で、あの竜が強者を待っている、と。』

リンドヴルム泥酔事件のことだ。

シノが「うんうん」と頷いた。ユキもジト目でリンドヴルムを見つめるが、本人は知らんぷりだ。

『私は、その挑戦状を受け取りに行きます。』

会場のざわめきが、一瞬で歓声に変わった。インタビュアーらしき女性アナウンサーが、興奮した声を上げる。

『風見さん、勝算はおありですか?』

『もちろんです。勝つために今までやってきましたし、今回は秘策もあります。』

風見の目に迷いはない。

『挑戦の日程は!?』

『近いうちに。具体的な日取りは、追って発表します。』

『烈風の、他のメンバーも当然攻略に参加するということでしょうか?』

風見は、一度マイクから口を離して、息を吸い直した。

『あの日、烈風の他のメンバーは心を折られました。彼らはそれぞれの場所で別の形で再起を期しています。それは、攻略者としての彼らの判断です。私はそれを尊重します。』

風見の声は淡々としていたが、無念の念を滲ませている。

『私はあの日最後に振り返った景色を、まだ諦めきれていない。』

会場のフラッシュが、また一斉に走った。

『会見をご覧の皆様にメッセージをお願いします。』

風見はカメラをまっすぐに見た。フラッシュが連続して走り、その顔が一瞬白く飛んで、また現れる。

『必ずやり遂げます。見ていてください。』

カメラのアングルが切り替わって、スタジオが賑やかに会話を始める。

シノがリモコンを一回タップして、モニタの音声を絞った。

「ね?絶対こうなると思ったの。」

「あちゃ~っす。」

「リンちゃんが投稿したあれ、結構いろんなところに火がついちゃってるみたいなんだよね~。」

リンドヴルムは、肩をすくめた。

「ふん、よいではないか。それに、あの時の若者であれば、脅威になり得るとは思えん。」

「あの人、自分も覚えてるっす。火山に来たやつっすよね?」

シノが、にやにやと笑いながら、丸まって寝ていた猫又の毛を撫でた。猫又は寝返りで返事をした。

「それにリンちゃんってあの時全快じゃなかったよね?今だったら一捻りなんじゃない~?」

「うむ。」

リンドヴルムは、悪びれもせず頷く。

「来るなら、それなりにもてなしてやろう。久々に退屈しのぎにはなりそうじゃ。」

風見の話題は一旦終わり、それぞれが午後の予定に散っていく。

リビングには、俺とユキが残った。

ユキは、ソファのクッションを軽く整えてから、俺の隣に腰を下ろした。

蒼い瞳が、長い睫毛の影から、俺の方をちらりと窺う。

「あの……、ご主人様。」

「うん?」

「くれぐれもお気を付けてくださいね。油断禁物です。」

「烈風のことか?」

「はい、勿論それもです。それに、ご主人様はまだ腕も失ったままです。」

「ん、まぁ、そうだな。」

俺は、左手で軽く頬を掻く。

「気を付けるよ。」

ユキは、白い手を膝の上で揃えて、頷いた。

「はい、何かあれば、すぐに呼んでください。」

「うん。」

ユキが、白い指先を膝の上でそっと重ねて、目を細めた。

ふと、転移陣の光が、リビングの一角でふわりと立ち上がった。

「あ、お邪魔します……!」

ひかりが、白い光の中から、ぴょこんと顔を出した。両手で薄い封筒を抱えている。

「あら、ひかりさん、どうぞ。」

「は、はい、ありがとうございますユキさん。」

ひかりが、俺の方を見て、目をぱちりとさせた。栗色のショートボブが少しだけ揺れる。

「遥さん、こんにちは!いきなり来ちゃってすみません。」

「自分の家だと思っていつでも来ていいぞ~。」

「えへへ、ありがとうございます!」

「それで、どうしたんだ?何かあったか?」

ひかりが嬉しそうに、俺の向かいの椅子に腰を下ろした。封筒を、テーブルの中央に置く。

「あの、これ、見てもらおうと思って。」

「ん?」

封筒は薄く、攻略者協会の透かしが端に入っていた。

俺はそれを開いて、中身を取り出す。

1枚の説明資料には「Cランク昇級試験のご案内」と、太い活字で書かれていた。

俺は、ひかりの方を見た。

ひかりは、両手を膝の上で握って、こちらを見つめている。

「Cランク昇級、受けようと思って!」

「おお。」

「Dランクに登録されてからもう結構経ちますし、最近、新しいスキルも芽生えました。」

「そうだな。」

「正直、試験を受けるのは、ちょっと自信ないんですけど――。」

ひかりは、両手をぎゅっと握った。

「私、ちゃんと自分で前に進みたいんです。それに、遥さんもまだCランクでしたよね?実力は、大分差がついちゃったように感じますけど、それでも、追いつきたいんです。」

「うん。」

「応援してくれたら、嬉しいですけど。」

ひかりが、ちらりと、俺を覗き込んだ。

「もちろん応援するに決まってる。」

「……えへへ。」

「確か、Bランクの攻略者と模擬戦をするんだったよな?」

「はい、遥さんの時と同じだと思います。」

俺は、通知書の試験要項のページに目を落とした。確かに、内容に差はないようだ。

「俺も身体を動かしておきたかったところだ。練習するか。」

「え?でも、大丈夫ですか?まだ、その、腕が……。」

「そろそろ身体が鈍りそうでさ、ステータスだけは丈夫だから良い相手になると思う。Win-Winだよ。」

「えへへ、Win-Winです。」

ユキが、横からふっと笑って、ひかりの方を向いた。

「ひかりさん、頑張ってくださいね。」

ひかりが、首をすくめて、両手を膝の上で握り直した。

「あ、あの、私、お二人の間に、お邪魔してしまったんじゃ……。」

「そんなこと無いよ。」

「そ、そうですか……?」

「ええ。あなたのように明るい方は、好ましいですよ。」

ユキはひかりを妹のように可愛がっている節がある。ひかりのまっすぐなところを気に入っているようだ。

ひかりが、両手で頬を押さえて、目をぎゅっと瞑っている。耳まで赤い。

「……まぁ、とりあえず。」

俺は改めてひかりの方を向いた。

「試験日いつの予定だ?」

「2週間後です!」

「分かった。それまでに模擬戦をやろう。筆記の方は、ひかりなら大丈夫だろう。」

「はい!」

「ま、ひかりなら受かるよ。Dランクに昇格した時より、よっぽど安定してるしな。」

「だ、大丈夫ですかね……。」

「あぁ。それに、俺の時も試験官に手も足も出ないやつが多かったけど、それでも光るものがあるやつは合格してたように思う。絶対大丈夫だ。」

「何とかなる気がしてきました。が、頑張ります!」

そういえば、と俺はぼんやり思う。

俺自身も、確か井筒さんから昇格の話をされていた。あの時はユキがブチ切れてお流れになったけど、そっちも考えないとな。

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貯金残高:10,350,000円 / ダンジョン蓄積魔力:6,480

スキル:【剣術】Lv.5 / 【身体強化】Lv.5 / 【戦闘機動】Lv.3 / 【危機感知】Lv.3 / 【状態異常耐性】Lv.2 / 【魔力操作】Lv.2 / 【マナバースト】Lv.3

眷属:ユキ(エルダーエルフ)/ ハヤテ(鷹獣人)/ リンドヴルム(祖竜)/ シノ(九尾)/ 猫又(下位妖獣)/ コムギ(土精)/ メフィス(契約の悪魔)/ リヴァイアサン

【ダンジョン構成】

入口 → 温泉街エリア(補給/工房/宿泊/食堂/湯治/神社)→ 森エリア / 火山・大空洞エリア / 海洋エリア&バベルの塔 → 居住エリア(塔最上階)→ コアの小部屋

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