軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

219話 カナンのアトリエ

サクラから離れた場所に移住者たちの村を作った。

村を丸ごと移植という前例のないことをやったが、上手くいった。

これで、他の住民が移民したいといっても、受け入れることができるだろう。

まだやり残しの仕事もあるが、アストランティアにいるカナンが会いたいというので、向かうことにした。

彼女にもしばらく会っていないし、俺も頼みたいことがあるのだ。

それは俺の服を作ってもらうこと。

今まではシャングリ・ラで買った、コスプレ用の衣装などで誤魔化していたが、そろそろこの世界の正装を揃えてもいい頃。

貴族になったし、なにかの催事に呼ばれることもあるだろう。

カナンがどんな服を作ってくれるか、今から楽しみだ。

俺が運転する車は、プリムラと護衛のニャレサ、そして余計なおじゃま虫であるエルフが一緒に乗っている。

このエルフっていう生き物は、長生きをしているせいで暇なのか、俺にまとわりついている。

彼女曰く、俺といると面白いのだそうだ。

そりゃ、シャングリ・ラなんてものから、この世界では見たことがない未知の商品がわんさかでてくるのだから、面白いに違いない。

彼女は面白いのかもしれないが、俺はあまりおもしろくはない。

最初は、本当のエルフに会えたと喜んでいたのだが、俺の思っていたものとはかけ離れていたせいもある。

まぁ、俺たちの思い描いていたエルフは想像上の生物で、ここにいるのは本物。

アキラの話によれば――俺の後ろに乗っているセテラは、よりエルフらしいエルフのようだ。

彼のパーティーにいたエルフは、そんなことはなかったようなので、俺は外れを引いたのか。

「なぁに? ケンイチ、私のこと考えてるぅ?」

「湖に流れ込んでいる川の上流にもエルフがいるって言ってただろ?」

「うん」

「エルフの部族によって、違いがあるのかな? と思ってさ」

「え~? そんなに違いはないと思うけどぉ……」

「そうか」

「な~に? 誰かから、そんなことを聞いたのぉ?」

「俺の所に遊びに来るアキラって男がいるだろ?」

「ああ、あの変なの」

変って言うなよ。

「あいつも、エルフと付き合ってたらしいんだが……」

「私と違うっていうのぉ?」

「いや、セテラはエルフらしいエルフだと言ってた」

「それならいいじゃない」

「そうだよ」

彼女はあまり気にしていない様子。

悪口だと思ってないのか、人間のことなんて最初から歯牙にもかけてないのか。

少々理解に苦しむ俺だが、エルフにはエルフの文化と教義がある。

種族的にも違うし、只人より長い歴史を持つ彼らに、俺たちがあれこれいうほうがおこがましいとも言える。

オッサンが、小学生から人生のあれこれを諭されて、まともに相手をするだろうか?

彼らから見れば、まさにそんな感じなのかも……。

そんなことを考えている間に、アストランティアの街の中に入った。

「ふ~ん、以前に来たときよりは、随分とにぎやかになったわねぇ」

セテラが車の窓ガラスにへばりついている。

「以前って何年前なんだ?」

「う~ん? 50年ぐらい?」

「50年あったら、原っぱが街になるよ」

「そうなのよねぇ。只人ってなんでそんなに生き急いでいるのかねぇ」

「なんでって、寿命が短いからに決まってるだろ?」

「そう?」

どうも人間の寿命の感覚は、エルフには解らないらしい。

それにしても、セテラと話している間も、プリムラは黙ったまま。

「プリムラ、そろそろマロウ商会に着くよ。まだ機嫌が悪いのかい?」

「悪くありません」

「なぁに? まだ、なにか怒っているの? ふ~ん、只人の女ってのは面倒なのねぇ」

「面倒っていうんじゃないよ」

「ねぇねぇ、そんな面倒なの止めてさぁ、私を側室にしなよ」

「そうはいくか。そういうけど、貴族でエルフを側室にしているやつなんているのか?」

「さぁねぇ、そんなの聞いたことがないねぇ」

後ろから、ニャレサの声が聞こえる。

「だいたい、子どもができないじゃないか」

「そういうのは、正室とやればいいでしょぉ? 私が言っているのは側室」

エルフが後ろから手を回してくる。

「ちょっと、危ないから止めなさいっての」

「エルフ様よぉ。お嬢を怒らせると怖いんで、焚きつけるのは止めてくれねぇかなぁ」

「別に焚き付けてないしぃ」

「別に怒ってませんから」

マロウ商会の支店の前まできたので、プリムラとニャレサを降ろす。

大通りに面した石造りの3階建ての建物。

この支店は、プリムラの商売の邪魔をしたソガラムっていう商人の店をそのまま居抜きしたものだ。

一緒に俺も降りると、店に入ろうとしたプリムラを抱きよせる。

「ちょ、ちょっとケンイチ」

「ごめんよ」

「解りましたから! 人目がありますから!」

真っ赤になったプリムラが、店の中に飛び込んでしまった。

さて、彼女の機嫌を直してもらうための手段を考えつつ、車に乗り込む。

残っているのは後部座席のエルフだけだ。

「そもそも、なんで彼女はそんなに怒ってるの?」

「う~ん、彼女に手を出さなかったのに、宿屋の子とやったから――だろうなぁ」

「ああ、あの子には手を出してなかったのねぇ」

「まぁね。いいところのお嬢さんだったし」

「それなら、怒っても仕方ないかもねぇ」

「エルフ的に見ても、そうか?」

「そうねぇ、やるなら全員とやったほうがいいわねぇ」

それはどうかと思うが、そうなのか。

なにか手を考えないとなぁ。

プリムラをなだめる手を考えているうちに、カナンのアトリエ――というか家にやってきた。

赤い屋根が美しい石造りの2階建て。

今思うと――この色は、オダマキの貴族街で各屋敷の屋根を彩っていたものと似ている。

この家は裕福な家庭が所持していたということらしいので、あの赤いサンゴを使った塗料なのかもしれない。

「へぇ~いい家じゃない」

「家らしい家を持ってないエルフに解るのか?」

「それって、ちょっと馬鹿にしてるぅ?」

セテラが腕を組んで口を尖らせた。

「いや、スマン。今のは俺が悪かった」

車を玄関につけようとしたのだが、揉めているような人影が見える。

車を近くに停めて、そこに急いだ。

玄関で男と揉めていたのは、ワンピースを着て赤髪を後ろで結んでいる女性。

彼女とは、以前にこのアトリエで会ったな。

対する男は痩せ型で背が高く、金髪で金糸の刺繍をした青い服を着ている。

見るからに貴族だ。

「なんか問題か?」

「あ! ケンイチ様!」

「誰だ?!」

俺のほうを向いた男は、金髪のボブヘアの裾が開いたような変わった髪型をしている。

「ケンイチ・ハマダ辺境伯だ」

「へ、辺境伯様?!」

俺はいつものシャツとズボン姿なので、貴族には見えないだろうが。

「ここは、私の側室の家なのだが、なに用か?」

「私は、ゴーヤ男爵! 私に、カナン殿をお譲り願いたい!」

「はぁ?」

突然やってきて、何を言っているんだこいつは。

「そんなことができるわけがないだろう。お引取り願おうか」

「引き下がるわけには参らん」

なんだか知らんが、真顔である。

カナンは美人なので、こういう面倒な客に絡まれることもあると話していたが……。

トラブルなら、サクラに連絡をくれればすぐに対処するのに。

うちには、腕の立つのもゴロゴロいるわけだし。

「なになにぃ? どうしたのぉ?」

ゴーイングマイウェイでセテラがやってきたのだが、その金髪と長い耳を見て、男爵とやらが驚愕の表情のまま固まった。

「え、エルフ?!」

「そうだよぉエルフだよぉ? あなたは、だぁれ?」

さすが数百年生きているだけあって、まったく物怖じしない。

エルフにとって、只人の王侯貴族などどうでもいい存在なのだろう。

エルフと対峙した男爵の顔がみるみる真っ青になり、踵を返すとスタコラサッサ(死語)と逃げ出した。

「まったく、なんじゃありゃ」

俺はアイテムBOXから塩を出すと、その場に撒いた。

「それは何をしているのぉ?」

俺のやっている塩撒きを、セテラが不思議そうに見ている。

「嫌なやつがいたら、穢を払うために塩で清めているんだよ」

「へぇ、面白いねぇ。初めて聞いたぁ」

まぁ、おそらくは仏教が元になっているだろうし……。

そこに絡まれてた赤髪の女性がやってきた。

「ケンイチ様! ありがとうございます!」

女性が礼をすると、奥からパタパタと走ってくる音が聞こえて、白い扉が開いた。

「ケンイチ!」

俺に飛びついたのは、白いブラウスと細身の緑色のズボンを穿いたカナンだった。

「カナン、揉め事があるなら連絡をしなさいよ」

「申し訳ない。別に大したことはないのだ」

さっきのやつは、子爵夫人だったときからのストーカーらしい。

カナンが子爵と離縁したと知って、本格的にアタックしてきたようだ。

離縁しても、辺境伯の側室になったのは知っているはずだろうが、正室は無理でも側室の移動はそれなりにあるらしい。

「そんなの初めて聞いたが」

「まぁ、言ってなかったしな……」

カナンと抱き合っていると、周りをセテラがウロウロしている。

「私も抱きついていい?」

「ええ?」

どういうことかと返事に困っていると、エルフがカナンに抱きついた。

そっちかよ。

「ちょっとセテラ」

カナンが、セテラを呼び捨てにしたのだが……。

「あれ? いつの間に仲良くなっているの?」

「それが――」

俺が留守にしている間に、サクラにやってきたカナンが、セテラと意気投合したらしい。

そのときに、カナンのアトリエに遊びに行く約束をしたという。

約束したのはいいが、自分で歩いていくという選択はなかったようで、誰かが運んでくれるのを待っていたようだ。

それでセテラが、待ってましたとばかりに俺の車に乗り込んだのか。

ひたすらマイペースだな。

長寿のエルフにとって時間は無限にある。

そのうち遊びに行くという約束が、10年後――みたいな話になるのだろうか。

俺は元世界で読んだ漫画のセリフを思い出していた。

遊びに行く――と言ったが、日時の指定まではしていない。どうかそのことを諸君らも思い出していただきたい。つまり……我々(エルフ)がその気になれば遊びに行くのが10年20年後ということも可能だろう……ということ……!

こんな感じか。

「ケンイチ様、本当に助かりました」

赤髪の女性が、改めて礼をする。

「エルフに驚いていたみたいだから、もう来ないんじゃないか?」

「はぁ、そうかもしれませんね」

女のほうもセテラのほうを見て、ビクビクしている。

「そんなにビクつくことはないぞ?」

「はい――でも、エルフに捕まるとなにをされるか解らないという噂が……」

「なんか風評被害だな」

「もう、ちょっといたずらするだけなのにぃ」

街に広がっている噂にエルフが口を尖らせる。

「なんだ、やっぱりしてるのか」

「森の中で迷わせるとか、幻覚を見せるとか、そのぐらいよ?」

「森の中で迷子になったら危ないだろ?」

「そんなの自己責任だしぃ」

エルフがいるって解っているのに、森に入ってくる連中が悪いということらしい。

カナンと一緒に家の中に入る。

狭いホールの両側に部屋があり、正面には2階に上る階段がある。

ホールで抱き合いながら、カナンと話す。

「今日は、カナンに頼みがあって来たんだ」

「ケンイチから頼みとは」

彼女が話を聞きながら、俺の身体をなでまわす。

なぜか、一緒になってセテラもなでている。

「俺の正装を作ってほしくてな」

「なに! それは私に任せてほしい!」

「正装なので、あまり革新的なものは困るぞ」

「解っている」

彼女は社交界にも明るく、貴族がどんな格好をしているのかも熟知している。

「それじゃ、頼むよ」

「すぐに2階の部屋で採寸しよう!」

カナンが明るく微笑むので、俺も楽しくなってしまう。

「解った」

話がまとまり、階段を上がり始めたのだが――エルフがついてくる。

「なんでついてくるんだ? 下で待っててくれよ」

「え~? なんでぇ?」

「これから、カナンと一緒に服を作るための採寸をしながら愛を語らうんだから」

「それって、私も混ざっちゃだめなの?」

「だめだめ」

「なんでぇ? ケチぃ!」

エルフの突拍子もない言動に、カナンも困惑している。

俺はシャングリ・ラを出すと市販のお菓子の詰め合わせセットを購入した――4000円である。

落ちてきたお菓子の箱をエルフに押し付けた。

「ほら、このお菓子をあげるから下で待ってなさい」

「なにこれ~? 変わってるぅ!」

元世界のカラフルなお菓子のパッケージに、彼女が目をキラキラさせている。

それが気に入ったのかエルフは引き下がったので、今がチャンスだとばかりに、2人で階段を駆け上がった。

2人でカナンの寝室兼仕事部屋に飛び込むと、鍵をかける。

「採寸したい――裸になってくれ」

カナンの言うとおりに、シャツを脱ぐとズボンだけになった。

この世界に合わせてパンツは穿いてないので、ズボンの下はフリチンなのだが。

彼女がペタペタと俺の身体を触りながら、巻き尺で寸法を測っている。

この巻き尺も俺がシャングリ・ラで買ったものだ。

この世界は単位が統一されておらず、場所によってバラバラなので、このアトリエだけで使うなら別に単位がミリとセンチメートルでもいいわけだ。

カナンが俺の身体を測りながら抱きつき、唇を這わすのでくすぐったい。

そのあとは髪を降ろしたカナンと、2時間ほど真っ昼間から愛の語らい。

ベッドで幸せそうに寝ているカナンの金髪をなでていると、彼女が飛び起き――裸のまま机に向かうと何かを猛然と描き始めた。

どうやらスイッチが入ったらしい。

前もこんな感じだったような……。

少し苦笑いしてしまったが、仕事の邪魔をしちゃまずい。

俺も絵描きだから解るのだが、描きたいときに描き、ノリが乗ったときに描く。

これが大事なのだ。

真剣にスケッチを描いている彼女の邪魔をしないように、そ~っとズボンを穿くと廊下に出る。

そこでシャツを着たのだが、下からなにやらギャーギャーと騒ぐ声が聞こえる。

いったいどうしたんだ。

俺は階段を降りて、声のする部屋に向かった。

「おい、なにを揉めているんだ?」

皆が集まっていたのは、作業部屋。

色々な布のサンプルやら、できかけの服などがマネキンにかけられている。

マネキンといっても人型ではなく、支柱の上に頭のない布張りの上半身だけが乗っているタイプである。

俺が図を描いてやったものを元にして、アストランティアの職人が作ったものだ。

シャングリ・ラで買えば早いのだが、多少は経済の足しにしないとな。

部屋では、多くの職人を占める女性たちとエルフが揉めていた。

「あ、ケンイチ様! このエルフは酷いんですよ!」

「モガモガ……」

エルフが箱を抱えて、口にお菓子を詰め込んでいる。

「どうしたんだ?」

「ケンイチ様から頂いたお菓子を独り占めにしてるんです!」

「皆で食べろと言ったのに……」

「モガモガモガ……!」

数百歳のはずなのに、やっていることは子どもと一緒だ。

こんなエルフに、アネモネも子どもだとは言われたくないだろう。

やむをえない。

シャングリ・ラを開いて、もう1個お菓子のセットを購入した。

「ほら、おまえたちにもやる」

「やったぁ!」「きゃぁぁ!」

お菓子に女性陣が群がった。

「あま~い!」「ああ、すごく美味しいんですけど……」

お菓子を食べて泣いている女もいる。

「ごっくん! 私がもらったんだから、私のものでしょぉ」

セテラが、口に入れていたお菓子を飲み込んだ。

「一緒に食べろって言っただろ?」

「そうだっけ?」

彼女は舌を出している。

悪意があるのかないのか、エルフらしいエルフとはこういうものなのか。

「エルフってのは、ものは共有財産なんだろ? 独り占めしていいのか?」

「そうだけど――非常時以外は、食べ物は見つけた者に優先権があるから」

何もかも共有じゃ、探すのが馬鹿らしくなるからなのか。

今は非常時じゃないから、独り占めしてもいいってことか?

文化の違いにも困ったもんだと考えていると、上からバタバタと走ってくる音が聞こえる。

「ケンイチ! こんな服を考えてみたぞ!」

彼女から、スケッチブックに描かれたデザイン案を何枚か見せてもらう。

ちょっと斬新なものもあったのだが、無難なデザインを選んだ。

「もっと、諸侯の度肝を抜くようなもののほうがよろしくないか?」

「いやいや、それでなくても成り上がりとか言われてるんだから、おとなしくしたほうがいい」

「巨大な魔物を倒したり、王族を助けたり、それだけの実績を残したのですから、ケンイチ様がそれに見合った地位につくのは当然ですよ」

スタッフの1人がそんなことを言う。

「オダマキでも、魔物を倒したとか聞きましたが?」

「ええ? もう、アストランティアまで噂が流れているのか?」

「はい。マロウ商会の方から聞きました」

ああ、そういうことか。

マロウ商会は主要都市に支店があるから、ドンドン噂が広がるなぁ。

人の噂は千里を走るっていうけど、マジだな。

「オダマキの鉱山がダンジョンとつながってな。そこからスケルトンがわんさか」

「ほとんどケンイチ様が倒したと聞きましたが……」

「ええ? スケルトンってどのぐらいいたの?」

エルフは魔物の数が気になるようだ。

「150ぐらいかな?」

「それをどうやって1人で倒したのぉ?」

「え~とな、アイテムBOXに入れた」

「「「は?」」」

お菓子を食べながら話を聞いていた皆が固まる。

「アイテムBOXってのは、死体なら入るんだよ。スケルトンってのは死んでるだろ? だからアイテムBOXに入れたんだ」

「そんなの聞いたことがないよぉ」

エルフがお菓子を食べながら、長い耳をピコピコさせながら聞いている。

「ないと言われても、実際にやったんだから仕方ない。それでな――崖の上に行ったんだよ」

「それで?」

カナンが身を乗り出してきた。

「アイテムBOXから出したスケルトンを、崖の上から落っことしてやっつけた」

「「「ええ~っ!?」」」

「そんなのありぃ?」

別にインチキでもなんでもない。

容量がデカいアイテムBOXを持っているなら、誰でもできることなのだ。

「これで俺は、アンデッド系には無敵ってことになる」

「まぁ、それはそうかもしれないけどぉ」

どうやら、ちぎっては投げちぎっては投げの獅子奮迅の活躍をしたと思ったら、意外な退治法で拍子抜けしたらしい。

どんな方法でも倒せばいいだろ。

「あの~ケンイチ様、今日は泊まっていかれるのですか?」

「う~ん? そのつもりで来たが――皆が忙しいようなら、おいとまするが」

「そ、そんなことはありません!」

「そうですよ! カナン様とご一緒にお過ごしください」

「ははは、カナンは愛されているなぁ」

スタッフの言葉に彼女が顔を赤くして照れている。

こういうクリエイティブ系の会社って、会社の方針とかで揉めやすいんだがなぁ……。

俺も経験がある。

「それでぇ……夜まで時間がありますでしょ?」

女性陣が俺の所にやってきた。

「なんだ?」

「ケンイチ様に触っていただくと、すごい疲れが取れるっていうじゃないですか?」

「ああ。仕事が大変そうだからな。いいぞ」

女性陣の頭をなでてやる。別に身体を触るわけじゃないからいいだろ。

「ふわぁぁぁぁ」「ああああ!」「ひゃぁぁぁぁ!」

1人1人、反応が違うので面白い。

「それって、 回復(ヒール) の魔法なのぉ?」

俺の治療の様子をエルフがお菓子を食いながら眺めている。

「まぁ、それに近いものだと思う。使うと腹が減るが……」

「それも魔法と一緒ねぇ」

そのあと、夕方まで仕事を見学した。

当たり前だが、皆が手作業で切ったり縫ったりしている。

それを見た俺は、あることを思いついてシャングリ・ラを開いた。

ワードを打ち込んでサイトを検索する。

それは、足踏みミシン。

結果、本体はアンティークとして売っているのだが、足踏みの機械がない。

みれば手回しに改造できるアタッチメントも売っているようなので、一緒にポチってみた。

製造年は――なんと1920年。100年近く前のアンティークだが、ミシンがないこの世界では十分なオーバーテクノロジーってことになる。

値段は合計で4万円ほどで、そんなに高くはない。

大きな音を立てて、黒塗りのミシンがテーブルの上に落ちてきたので、皆が飛び上がった。

なにせ鉄の塊だ。20kgぐらいあるのではないだろうか。

「ケンイチ様!?」

「これはなぁ……まぁ、今使いかたを見せてやるよ」

100年前の機械でも、ミシンの構造は一緒らしい。

針の下に、下糸を入れるボビンがある。

それにくるくると糸を巻き、針にも糸を通す。

これは足踏みではないので、右側のハンドルにクランクを取り付けて手で回せるようにした。

これだと、ハンドルを回す係が必要になり、少々不便だが仕方ない。

「こうやって布を入れて、取っ手を回すと」

針が上下に動いて、布が縫えていく。

100年前の古い機械だが十分に使えるし、手で縫うよりはかなり速いだろう。

「「「……」」」

俺の手元を見て、皆が固まっている。

「どうした? あまり役に立ちそうにないか?」

「「「すごーい!!」」」「これって魔法ですか?!」「すげー!」

「魔法じゃないぞ。こういう機械だ」

「これだけで、布が縫えるんですか!」

「単純に縫うだけなら、こういう機械を併用すれば、作業効率を上げられるだろ?」

「ええ~っ?! こんなの見たことがないぉ」

金髪のエルフが、ミシンを覗き込んでいる。

「さすがのエルフ様も知らないか、はは」

俺の言葉を聞いた、カナンが抱きついてきた。

「ケンイチ……」

「こいつをやるから、カナンの作業がはかどればいいな。使い方は色々と模索してみてくれ」

「……はい」

彼女たちのリクエストもあったので、シャングリ・ラから中古のファッション雑誌を購入する。

「「「きゃぁぁ! 新しい本よ!」」」

落ちてきた本に女性スタッフたちが群がった。

夕方になったので皆で食事を摂る。

カナンと女性陣のリクエストがカレーだったので、インスタントカレーを食べた。

「ケンイチ! 私は、あの 虫(ワーム) みたいなやつ!」

セテラが言う虫って――カップラーメンのことらしい。

この世界でも正義といえるカレーではあるが、エルフは好きではないようだ。

簡単でいいので、カップ麺にした。

「ええ?! それって虫ですか?」

ラーメンを啜るエルフに、スタッフがビビりまくっている。

エルフは管虫を食べると言われているので、それだと思ったのだろう。

実際に彼らは管虫を食べるからな。

「違うよ。小麦粉を練って長く伸ばしたものだ」

「「「へ~っ!」」」

気味悪そうにしている彼らだが、セテラが食べるカップ麺を興味深そうに眺めている。

こういう仕事をしているわけだし、好奇心は旺盛なほうに違いない。

そして夜になる。

エルフが一緒に寝たいとうるさいので、カナンの部屋にアイテムBOXから出したベッドを並べた。

別にゴニョゴニョするわけではないから、これでいい。

エルフってのは皆一緒に食事をして、一緒に寝て、財産のすべてを共有する。

彼女は只人の暮らしを理解していると言っていたが、どうしてもエルフっぽい行動が出てしまうようだ。

色々と面倒なエルフだが、文化が違うので仕方ないということに……。

ベッドの上でカナンと一緒に毛布を被り――アイテムBOXから出した小さな灯火の中で未来を語らう。

彼女の目は、子どものようにキラキラと輝いていた。