軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

これから立つ場所

式典が終わり、夜の古都に再び静けさが戻り始めた頃。

灯りの落ちた通りを、馬車がゆっくりと進んでいた。

石畳の音は一定で、昼間よりも柔らかい。

外套を羽織ったまま、エルフリーデは窓の外を見ていた。

式典会場を離れても、街にはまだ余韻が残っている。

人の動きは少ないが、どこか気配だけが張り付いているような夜だった。

「……疲れた?」

向かいに座るルーカスが、低く聞く。

労いというより、状態確認に近い声だった。

「いいえ」

エルフリーデは、すぐに答える。

「思っていたよりは」

自分でも、少し意外だった。

緊張がなかったわけではない。

だが、押し潰されるような疲労は残っていない。

ルーカスは、短く頷いた。

「それなら、上出来だ」

評価でも、称賛でもない。

今日という場の基準を、淡々と満たしたという判断だった。

しばらく、馬車の音だけが続く。

エルフリーデは、膝の上で手を組み、静かに口を開いた。

「……私」

一瞬、言葉を選ぶ。

「今日は、“守られている”感じが、あまりしませんでした」

否定でも、不満でもない。

事実を確かめるような言い方だった。

ルーカスは、少しだけ視線を向ける。

「嫌だった?」

「いいえ」

即答だった。

「むしろ……」

少しだけ、間を置く。

「安心しました」

それ以上は、説明しない。

ルーカスは、その意味を問い返さなかった。

理解しているというより、同じ結論に辿り着いている。

「ああいう場は、立ち方が問われる」

「立ち方、ですか」

「そう」

淡々と続ける。

「誰と話したかじゃない。誰と、どう距離を取ったか」

エルフリーデは、その言葉を反芻する。

雲漢。

ヴァルディス。

アルディア。

そして、その後に続いた各国の反応。

「……距離を、選びました」

自分の言葉で、確認する。

「正解だった」

短く、はっきりと。

「少なくとも、今夜は」

馬車が、角を一つ曲がる。

遠くに、宿の灯りが見え始めた。

エルフリーデは、首元のネックレスに一瞬だけ意識を向ける。

触れはしない。

ただ、そこにあることを確かめる。

「次は」

彼女が言う。

「もっと、はっきりした場になりますね」

通商会合。

正式な交渉。

記録に残る場。

「なる」

ルーカスは否定しない。

「でも」

一拍も置かず、続ける。

「今日みたいに立てれば、十分だ」

エルフリーデは、小さく息を吐いた。

「……そうですね」

馬車が、宿の前で止まる。

御者の気配。

護衛の足音。

夜は、もう完全に落ちていた。

扉が開く直前、ルーカスが一言だけ言う。

「今日は、よくやった」

それは、労いだった。

評価ではなく、同じ場所に立った人間への言葉。

エルフリーデは、ほんの一瞬だけ迷ってから答える。

「ありがとうございます」

それだけで、十分だった。

二人は馬車を降りる。

式典は終わった。

だが、今日得た立ち位置は、消えない。

次に進む準備は、すでに整っていた。