作品タイトル不明
快進撃
「その黒い服を一着、仕立てていただけるかしら」
「はい、ありがとうございます」
「では、あちらで採寸させていただきますので」
ナタリーが貴婦人を奥の部屋へ案内する。その後ろ姿を見送りながら、エレナが私の隣に並んだ。
「順調ね。この七日間でもう二十着も発注があったわ」
「ありがたいことに。アンネリーゼがあちこちで宣伝してくれているみたい」
窓の外で、通りを歩く人が足を止めて店の中を覗いていく。
──でも、生産が間に合うかしら。もし予想以上に流行り出したら、大変なことになるかも。
「皆さんに報告があります」
会議室に全員を集め、私は立った。
パージ、ミシェル、ナタリー、エレナが席についている。
「現在の主力商品である帽子、靴、傘。それに解放の黒を加えると、どうしても生産が追いつきません。だから、生産ラインを強化することにしました」
「まずは採用活動の強化。そして設備投資の推進!」
パージが眉を上げた。
「な、オーナー、雰囲気変わってきたじゃないか」
「なんかかっこいい」
ミシェルが呟いた。
「毎週カートライト商会の会議にも参加しているからね。影響を受けているのかも」
照れくさくて、少し笑った。
「で、早速求人広告を打つことにしたわ」
「求人広告?」
テーブルの上に丸めた紙を広げる。
「王都では最近、新聞に広告を打つのが主流みたい。それで図案を作ってみたんだけど」
全員の視線が紙に落ちた。
「おおおおおおおおおお」
「すげえじゃないか。オーナーが書いたのかい?」
「まさか。私に絵心はないわ。画家のマルコが描いてくれたのよ」
「へー、大したもんだ」
「この広告だと、商品の宣伝と求人が同時にできるでしょ? 予算も安く済むわ」
ミシェルが頷いた。
「な、なるほど……」
「それに、新たにミシンを三台仕入れることにしたの」
「ミシンを三台も!?」
「つまり最低三人は新しい職人を採用できるってこと」
「三台も。相当高かっただろ? しかもいきなり三人も人を増やすのかい?」
「ええ。でも、みんなのおかげで毎月一定の入金があるし、ここが勝負どころだと思うの」
少し間を置いた。
「もちろん、教育は大変だし、みんなに苦労をかけると思うけど……みんなのお給金も、その分上げる。だから協力して」
「もちろんだ。とことんついていこうじゃねえか。なあ?」
「は、はい!」
返事が揃う。
「ありがとう、みんな」
◇ ◇ ◇
三日後、求人広告が新聞に載った。
応募は、期待通り殺到した。ガブリエル商店の前に人が並び、ガブリエル、パージ、ミシェルで次々と面談をこなした。
「シャルロッテ・デュボアです。父の仕立て屋で十年働いていました」
二十二歳で十年のベテラン。最近、父親と喧嘩して家を出たらしい。
「ソフィー・ベルモントです。地元の裁縫教室で学びました」
農村出身で、王都に憧れてやってきた女の子だ。目に力がある。
「シレーヌ・ローベルよ。元は貴族家庭の専属仕立て師でした」
経験者だ。そしてなんと、アンネリーゼの紹介だった。妹への感謝が、また一つ増えた。
「皆さんをガブリエル商会に歓迎します。皆さんで解放の黒を沢山作りましょう」
三人が頷いた。それぞれの目に、違う種類の覚悟がある。
「というわけで生産ラインは確保したわ。受注状況はどう?」
エレナが帳面を開いた。
「とてもいいわ。今週は四十着」
「先週の倍じゃない? なんでそんなに!?」
「それが、お客さんの中に平民の市民が増えてきているの。ここ、貴族街なのに」
私は少し考えた。
「新聞広告が効いたのかしら」
「ええ、そう言ってきたお客さんもいたわ」
──これからは市民の時代が必ず来る。
ニッキーの声が、耳の奥で響いた。
「それよりも今は採寸が間に合うか問題よ。私とミシェルだけだと、そのうちパンクしそう」
──どうする。販売員を増やす? いや、でも人件費を急速に増やせばトラブルも増える。今はまだ絞りたい。
頭の中で、何かが動いた。
「エレナ!」
「何?」
「採寸がほぼなくなるアイデアを思いついたんだけど!」