作品タイトル不明
ロザリー一味
「ねえ、あなた。一緒に住まわせてもいいでしょう?」
ロザリーが甘く言った。
マリアが一歩前に出る。ロザリーとそっくりの顔が、ジャックに向かって深く頭を下げた。
「旦那様、どうぞよろしくお願いします。侍女とでも思っていただければ……」
「だが、お前の妹を侍女扱いするわけには……」
ロザリーが、ふっと笑った。
「もちろん」
「……」
「私の妹だからこそ」
声が、一段低くなった。
「あなたと楽しめることもありますわ」
ジャックの喉が、ゆっくり動いた。
「旦那様、精一杯尽くさせていただきますわ」
マリアが静かに言った。
ジャックの目の奥で、何かが盛大に燃えた。
「ま、まあそれなら……」
「良かったわ」
ロザリーが扉に手をかけた。
「それでは今日は、家族で──」
ガチャ、と扉が開く。
「パーティにしましょう」
トーマスとヴィンセントが立っていた。袋と瓶を抱え、揃って笑っている。
「なっ!?」
「マリア、引っ越しおめでとう」
「旦那さん、これ差し入れでさあ」
ワインの瓶が、ジャックの手に押しつけられた。
「おい、ロザリー。またこいつらがなんで──」
「こいつらは私とマリアの旧友なのですわ」
ロザリーが微笑んだ。
「せっかくだから友人も呼んで、パーっとやりません?」
ジャックは瓶を持ったまま、口を開けた。閉じた。また開けた。
◇ ◇ ◇
ガブリエル洋品店の朝は、いつも布の匂いから始まる。
「ニッキー・カートライトです」
ニッキーが頭を下げた。私の隣に立ち、三人の前で、少しも気負いなく笑っている。
「この方が、帽子を買い付けてくださった方よ。みんなにも紹介するわ」
パージ、ミシェル、ナタリーが、それぞれ微妙な顔をしていた。
「ど、どうも」
パージが短く言った。次の瞬間、ニッキーがその手を両手でしっかりと握った。
「よろしくです、パージさん」
「お、おう」
「あなたの作る帽子は素晴らしい。特に皮のなめし方は、真似できる人がいない技術だ」
パージの眉が、少し上がった。
「……ど、どうも」
今度は声に、わずかに照れが混じった。
ニッキーはミシェルへ向いた。
「あなたがミシェルさんですね。あの靴を作ったという」
「は、はい」
「あんな斬新なデザイン、見たことがない。どちらでご勉強を?」
「独学ですけど」
「信じられない」
ニッキーが本当に驚いた顔をした。ミシェルは何と言っていいかわからない様子で、耳の先が赤くなっていた。
「そしてナタリーさん。あなたがガブリエルさんと共に店を切り盛りしているとか」
「そ、そうです」
「あなたを見て一眼で、この店が流行るのがわかりました。なんというか……」
ニッキーが、ふっと笑った。
「輝くような笑顔です」
ナタリーが、釣られるように笑った。頬が少し赤い。
──す、凄まじい距離の詰め方ね。
私は少し引いたところから、その様子を眺めた。
◇ ◇ ◇
夜になると、パージはすっかり出来上がっていた。
「気に入った! あんたは素晴らしい若者だ!」
「いえ、パージさんのお話こそ、大変学びになります」
「すっかり意気投合してるわね」
私はグラスを持ちながら言った。
「ニッキーさん、本当にいい人ですね」とミシェルが言う。
「ですね。本当に素敵な人」
ナタリーが笑顔で頷いた。
ミシェルがナタリーを見た。
「いや……でも、まだ知り合ったばかりで、信用しすぎるのはちょっと……」
「?」
「ガブリエルさんはどう思います?」
「彼は信用できるわ」
「ガブリエルさん?」
二人が同時にこちらを見た。
「……だって」
私はグラスを置いた。
「お金を貸してくれたんだもん」
「!?」
──ニッキーは三年間の独占契約の証として、一千万Rの低利融資を約束してくれた。これで王都への進出に目処がついた。
「いよいよ、王都で勝負するわよ」
二人がまだ目を丸くしている。
「さあ、私たちも乾杯しましょう」
「はい!」
グラスが重なる。乾いた音が、店の中に小さく響いた。
この地に残るもの。
バルサン邸では、ロザリーたちの笑い声と、ワインの栓を抜く音が夜を揺らしていた。
新天地を目指すもの。
ガブリエル洋品店では、仲間の声と、乾杯の音が重なっていた。
この日が、将来激突する二つの商会の、最初の宴であった。