軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

276 ときめきの聖夜祭 10

「ルチアーナ、カール殿はしばらく北エリアで預かろう。彼にはここでゆっくりしてもらうから、お前はご令嬢方のもとに戻りなさい」

兄がありがたい提案をしてくれたので、私は2人と別れると、来た道を戻っていった。

ユーリア様やセリアと別れた場所に戻ると、全員が同じ場所に揃っていた。

そして、ビオラ辺境伯家の家族会議は終わったようで、グレッグとジーンはユーリア様から離れた場所にいたけれど、その表情はげっそりしていて、一気にやつれたように見えた。

というか、先ほどは裸だった上半身に煌びやかな騎士服をまとい、完璧なる近衛騎士の格好で噴水の側にたたずんでいたので、女子生徒たちが憧れの眼差しで2人を見つめている。

女子生徒の気持ちになって見つめてみると、やつれたのではなく、愁いを帯びたと言えなくもない。

「ああー、確かに黙ってたたずむ姿は、文句の付けようがないイケメンよね。カール様がいなくなったから、女子生徒たちはがっかりしていなくなるかと思ったのに、ビオラ辺境伯兄弟が代わりを務めてくれたようね」

さすがはユーリア様のお兄様たちだわと感心していると、私に気付いたユーリア様とセリアが近寄ってきた。

「サフィア様にカール様を預けてきましたか?」

ええと頷くと、2人は「そうですか」と悩まし気なため息をついた。

「なかなかに難しい問題ですよね。カール様は生まれたての雛のように純粋過ぎて、上手く生きていくことができなさそうですが、そこが魅力でもあるのですよね」

「そのため、サフィア様に上手な世渡り方法を伝授されたら、カール様としては生きやすくなるのでしょうが、今のカール様をお好きな方々はがっかりするでしょうね」

2人の言いたいことが理解できたため、分かるわと頷く。

「カール様は洗練された見かけとは異なり、不器用なところが魅力なんですよね。兄がカール様を変え過ぎないよう祈っておきますわ」

とはいえ、カールからしたら、生きやすくなるのであればそれに越したことはないだろうし、変わることで女子生徒が寄ってこなくなるのであれば万々歳だろう。

だから、変わってほしくないというのは、今のカールを好きな人たちの我儘よね。

そう考えていると、セリアが1つの提案をしてきた。

「次は、私が所属する東エリアに行きませんか? 実のところルイスが同じチームで、ルチアーナ様を連れてくるように申し付かりましたの」

私はぎくりとしてセリアを見る。

「まさか……ルイス様は役付きではないですよね?」

ルイスはまごうことなき攻略対象者の一人だ。

そのため、カール同様、華やかなイベントでは華やかな立場に選出されるのではないかしらという私の予想は当たっていたようで、セリアは驚いたように目を丸くした。

「よく分かりましたね。ええ、ルイスは『狩人』に選ばれましたの」

やっぱりね。ルイスも攻略対象者の一人として、輝く星の下に生まれてきたんだわ。

私はさらなる嫌な予感を覚えて、まさかねと思いながら質問する。

「それで、ルイス様は役付き権限を行使して、どなたか外部の者を招待されたんですか?」

セリアは複雑そうな表情で私を見てきた。

「私はルイスのことを素敵な公爵家令息だと思っているのですが、彼は少しだけお坊ちゃまなところがあるのです。ですから、『どうしても優勝したい』と最強カードを切ったんです」

「えっ」

私は膨れ上がる嫌な予感とともに顔をしかめる。

ルイスが持っている最強カードといったら1枚しかないわ。

「まさかとは思いますが、ジョシュア師団長が招待されたんですか?」

恐る恐る尋ねると、セリアはこくりと頷いた。

ああ、セリアの言う通り、ルイスはお坊ちゃまだけど、ジョシュア師団長もルイスに対して過保護だわ。

それは絶対に切ってはいけないカードだと分かっているでしょうに、受け入れているのだもの。

がくりと項垂れると、セリアが言いにくそうに言葉を続けた。

「それで、我が東チームのもう一人の役付きはシメオン・ハイドランジア侯爵家令息なんです」

「シメオン・ハイドランジア侯爵家令息。……ああ、王太子の側近ですね」

学園内には王太子の側近が2人いて、そのうちの1人がシメオンだ。

ちなみに、側近のもう1人はルネ・ロードデンドロン伯爵家令息になる。

「シメオン様は物静かな方でして、普段は本を読んで過ごすのがお好きなんです」

「そうなんですね」

セリアは王太子の従妹だけあって、王太子の側近情報まで詳しいようだ。

「それで、国立図書館の館長・副館長に並々ならぬ憧れを抱いているらしく、ルイスがジョシュア師団長を呼ぶと言った時、それならばとルイスにオーバン副館長を呼ぶよう頼んでいましたの」

「ああ……」

陸上魔術師団長という王国一の魔術師に加えて、国立図書館の副館長という王国で一、二を争う知識の持ち主を呼ぶなんて、何を考えているのかしら。

学園のちょっとしたチーム戦の域を超えているんじゃないかしら。

そう思ったけれど、セリアは思ったよりも楽観的なようで、大らかに微笑んだ。

「すごい実力者揃いで私も驚きましたけど、皆さんいい大人ですからね。学園のお楽しみゲームだと理解して、手加減してくれるはずですわ」

「……そうだといいですね」

少なくともサフィアお兄様を相手にしたジョシュア師団長は、これっぽっちも手を抜かないような気がするわ。

だから、2人が顔を合わせないよう、せいぜい祈りましょう。

そう思いながら、私たちは東エリアに足を踏み入れたのだった。