軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

275 ときめきの聖夜祭 9

確かにどちらも難問だけど、お兄様であれば何とかしてくれるのじゃないかしら。

そう希望的観測を抱いたけれど、カールが長年かけてどうにもならなかった問題を、兄一人に丸投げするのはさすがにあんまりだろう。

そう思ったため、私に何ができるのかしら、と考えながら質問する。

「難しいですか?」

すると、兄はおかしそうな表情を浮かべた。

「難しくはない。何といってもカール殿は極上品だから、どちらも容易く解決できるだろう。むしろ、その2つをこれまで問題だと思っていたことが問題だろうな」

「まあ」

難しいことをとても簡単なことのように言うわねと思いながらカールを見ると、彼は驚いたように目を丸くしていた。

そのため、何か失礼な物言いがあったかしらと、カールに尋ねてみる。

「カール様、私か兄の物言いに失礼があったら申し訳ありません。何か気に障ることがありましたか?」

カールは戸惑ったように兄を見た。

「いや、ただ……サフィア殿に驚いただけだ。こんな風に自信をもって、誰もが魅力的だと思えるような話し方をする者がいるのだと」

兄はおかしそうな笑い声を上げる。

「ははは、これは参りましたね。面と向かって褒められたのだ。私の全力でもって、カール殿をサポートしなければならないようだ」

兄の笑い声は爽やかで嫌味がなく、そのセリフもカールの気持ちを楽にするものだった。

そのため、相変わらず簡単に相手を魅了するわねと、呆けたように兄を見つめるカールを見て思う。

兄は人が好きなのだ。

そして、いつだって純粋な好意で行動するから、誰からも好かれるのだわ。

そんな兄は何かを思い出したようで、誰かを探すように視線をあちこちに彷徨わせた。

「ユーリア嬢とセリア嬢はどちらだ? 先ほど、お前と一緒のところを見かけたから、てっきり一緒にいるかと思ったが」

「えっ、魔術戦の最中だったのに、よく周りを見る余裕がありましたね」

びっくりして聞き返すと、兄は朗らかな笑い声を上げた。

「ははは、相手は中級魔術の使い手でしかなかったのだ。そんな相手に余裕がないようでは、ジョシュア師団長に怒られる。3年かけて、彼のもとで何を学んだのかとね」

実際に兄が誰かから何かを学んだというのが信じられなくて、具体的に尋ねてみる。

「師団長から何を学んだんですか?」

すると、兄は何かを懐かしむかのように目を細めた。

「そうだな……仲間とは大切なものだということを学んだな」

そう言うと、兄はカールを見つめた。

「水魔術の上達と上手な人付き合い。どちらも一朝一夕で身に付くようなものではないため、ゆっくりサポートさせていただくことにしましょうか。まずは一つだけ覚えてください。大切なものを間違えない、ということを」

「大切なもの、ですか?」

カールが戸惑ったように尋ねると、兄は悪魔でも誑かすような笑みを浮かべる。

「全てを等しく大切にするというのは幻想です。自分にとって何が大切なものかを見極め、大切なものを大切にすることが大事なのです。少なくとも、私はその考え方でこれまで上手くいってきました」

「そう……ですか」

ぽつりと呟いたカールが途方に暮れた顔をしたので、彼はきっと大切にする相手をまだ見つけられていないし、大切にする方法も分からないのだわと思う。

そして、兄の表情を見るに、兄はカールの状況が分かっていながら、敢えて発言したのだと気付く。

きっと、カールであればいつの日か、兄の言葉の意味を理解するだろうと期待して。

カールに対して牽制するようなことを言っておきながら、結局のところ、兄は誰に対しても親切なのよね。

ふっと微笑んでいると、兄が「それで」と私を見てきた。

「ご令嬢方はどちらかな?」

「ユーリア様とセリア様は西エリアにいます。先ほどまでお2人と一緒でしたが、カール様が女性に囲まれて困っていたので、取り急ぎ避難させた方がいいと、カール様を北エリアに連れてきたんです」

兄は理解したように頷く。

「つまり、カール殿が困っている『上手な人付き合い』というのは、大勢の女性に迫られてどうしていいか分からないということか?」

「その通りです。カール様はこれまでずっと静かに暮らしてきたので、多くの女性に寄ってこられても、対処の方法が分からないんです」

兄は考えるように顎を摘まんだ。

「ふむ。1番簡単なのは、やはり大切な相手を見つけることだな」

「どういうことですか?」

意味が分からずに聞き返すと、兄はにこりと微笑んだ。

「大切な者に誤解されたくないから一人にしてほしいと言えば、大抵の者はそっとしておいてくれるはずだ」

兄の言葉はその通りだと思われたものの、さらりと口から出るところがすごいわよねと感心する。

けれど、兄にとっては当然なことのようで、簡単なことだとばかりに微笑んだのだった。