軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

277 ときめきの聖夜祭 11

踏み入った東エリアは閑散としていて、人っ子一人いなかった。

そのため、私は首を傾げる。

「あら? 各チームに生徒は同じ数だけ配置されているのよね。どうしてこのエリアは空っぽなのかしら?」

セリアが困ったように微笑む。

「この場所が空っぽというよりも、特定の場所が密集しているのではないでしょうか」

「それは一体どういう……」

尋ねかけたところで、池の周りに人が大勢集まっているのが見えた。

そのため、何事かしらと足早に進む。

すると、人だかりの中心に、輝ける3人の人物がいるのが見えた。

ああー、セリアの言いたいことが分かったわ。

そして、これだけ多くの人を集めることができる魅力的な人物なんて限られているわよね。

それは当然、攻略対象者であり、東チームの役付きに選ばれた……。

「えっ、あれが狩人なの!?」

私は目を丸くすると、少し離れた場所に立っている3人のうちの1人を見つめた。

前世で繰り返し読んだ絵本に、シャツに短パン姿で、三角帽子を被った狩人が出てきた。

そのため、同じような姿をイメージしていたけれど、ルイスは全然違っていた。

装飾の多いきっちりした服を着込み、その上からびらびらの膝まであるコートを羽織っている。

さらに、ブーツを履き手袋までしていて、首から下の肌を一切露出していなかった。

それだけでなく、頭にはウェスタンハットに洒落た鳥の羽を付けたような帽子を被っている。

色味が派手であれば、違った印象を受けたかもしれないけれど、全体が黒一色だっため、狩人と言われればそうかもしれないという気になった。

ああー、収穫祭の露出が多い衣装もよかったけど、きっちりと肌を隠した衣装もいいわね。

高潔でノーブルな雰囲気が前面に出ているもの。

「これがこの世界の狩人なのね!」

感心した声を出すと、セリアが困ったように眉尻を下げた。

「いえ、多分一般的な狩人とは違うと思います。あれは『公爵家の狩人』です」

「えっ……確かにそうかもしれないわね」

セリアの言う通り、あんなにレースとフリルがたくさんついた高級そうな服を着ている狩人なんて、滅多にいないだろう。

森の中をちょっと歩いただけでも、フリルが枝に引っ掛かって破れそうだし、実用的ではないはずだ。

ただし、聖夜祭の衣装としては完璧なのよね。

何より、一緒にいる2人と完璧なリンクコーデになっているもの。

そう考えながら、ルイスの左右に立つ人物に視線を移す。

……この2人は揃いの服を着ているけれど、全くもっていただけないわね。

なぜなら強い光沢がある騎士服を着用し、腰に剣を佩いているジョシュア師団長とオーバン副館長は、息が止まるほど魅力的だったからだ。

首元までかっちり詰まっている騎士服は膝まである長いもので、さらにはロングブーツを履いているため、首から足先まで完全に隠れている。

つまり、肌を一切露出させていないのだけれど、逆に禁欲的で色っぽく見えるのだから、恐ろしい高等テクニックだ。

しかも、騎士服の色は漆黒だ。

あの2人は間違いなく聖属性だろうに、全身黒ずくめの格好をしているのは暗黒騎士を模しているのだろう。

滅多に見られない格好をしていることにプレミアム感が出るとともに、普段とのギャップでどきりとする。

さらに、とどめとばかりに、ジョシュア師団長は片目に黒い眼帯をしているし、オーバン副館長はトレードマークの眼鏡が 片眼鏡(モノクル) に変わっている。

ついでに、ルイスは色眼鏡をしている。

ああー、3人揃って全女性の息の根を止めにきたわね。

本気を出し過ぎだわ!

今夜だけのイベント用の格好でしょうに、めちゃくちゃカッコよくて高そうで、本人にバッチリ似合う特注の服を着用してくるなんて、ファンサービスのし過ぎだろう。

そのうえ、普段しない眼鏡をかけるというお茶目っぷりまで見せてくれるなんて、この3人は全乙女を夢中にさせたいのだろうか。

あまりの完璧な麗しさに、女性だけでなく男性も集まってきて凝視してしまうのは仕方のないことよね。

「ああー、イケメンの本気というのはこんなにすごいものなのね! ウィステリア公爵家の3兄弟が麗し過ぎるわ。生徒たちが大勢寄ってきて、視線を外せないのも納得で、その他の場所に人っ子一人いないはずよ」

心の声を言葉にすると、セリアから訂正された。

「ルチアーナ様、3人ではなく4人です。シメオン・ハイドランジア侯爵家子息もいますわ」

その言葉にはっとする。

「えっ? あ、ほ、本当だわ!」

何てことかしら。

確かに、3人の近くにシメオンが立っているわね。

当然のことながら、王太子の側近であるシメオンは美形だ。

にもかかわらず、レベル違いの美形であるウィステリア公爵家の3兄弟が煌びやか過ぎて、シメオンを見逃してしまっていたわ。

はあー、私の人生で美形を見逃すという由々しき事態が起こるなんて何事かしら。

私は気を取り直すと、シメオンについてコメントする。

「ええと、シメオン様は文官……というか、図書館員の格好ですね。素敵ですね!」

私なりにシメオンを褒めたつもりだったけれど、自分の耳にもおざなりに聞こえたため、セリアが困ったように見つめてきた。

「ルチアーナ様ったら、正直過ぎますわ」

確かに、ウィステリア公爵家の3兄弟への感想と比べたら、熱が足りていなかったかもしれないけど、シメオンにも原因があるんじゃないかしら。

ウィステリア公爵家の3人に比べたら、全然本気度が足りないもの。

3兄弟は素晴らしい外見をしているけれど、それ以上に本気で着飾ってきたから、多くの生徒が歓喜して群がったのだ。

相手を夢中にさせたいなら、まずは自分が本気にならないといけないわ……と、シメオンが生徒たちを夢中にさせたいかどうか不明ながら、心の中で独り言ちる。

それから、さすがは魅了の3兄弟だわと、もう一度煌びやかな兄弟とその周りに集まる生徒たちに視線をやった。

なるほど。西チーム、東チームと回ったことで、だんだん自分の役割が分かってきたわ。

役付きというのは、各チームの広告塔であり、外交の交渉役なのだ。

だから、自チームに引き籠っているのではなく、いろんな領地を回って、できるだけ自分を魅力的に見せて、自領のよさをアピールするのが正しい行いじゃないだろうか。

そうして、最終的に他チームの生徒を魅了して、自チームに呼び込めたら最高よね。

そう考えていると、後ろから可愛らしい声が響いた。

「お姉様!」

驚いて振り返ると、我が侯爵家にいるはずのダリルが走ってくるところだった。

「えっ、ダリル?」

一瞬誰だか分からなかったけれど、それも仕方がないことだろう。

なぜならダリルは普段と全くイメージが異なる、真っ白いフワフワの服を着ており、背中には小さな翼が付いていたのだから。

びっくりして目を丸くすると、ダリルは勢いをつけてジャンプし、私にぎゅううっと抱き着いてきた。

「今日は家族が一緒に過ごす日だよね。だから、お姉様と一緒にいたくて来ちゃったよ」

「まあ」

ダリルの言う通り、元々、聖夜は家族とともに過ごす日だ。

しかしながら、学園の聖夜祭は真夜中まであるから、私が家に戻るのは明け方になるだろう。

そして、ダリルはいつだって早く寝るから、私が戻った時には眠ってしまっているに違いない。

だから、私と一緒にいるため学園まで来てくれたのだろうけど、困ったわね。

本日の聖夜祭は、学園の生徒だけに限られたクローズドのイベントなのだ。

ダリルにどう説明したものかしらと考えていると、彼は少し離れた場所にいるジョシュア師団長とオーバン副館長を指差した。

「ジョシュア兄上とオーバン兄上は生徒じゃないけど参加しているね!」

「うっ、それは」

さすが、ダリル。痛いところをついてくるわね。

たじたじとなっていると、ダリルが私を見上げてきた。

「お姉様がいなくて退屈だったから、久しぶりにウィステリア公爵家に遊びにいったんだ。そうしたら、兄上たちは揃ってリリウム魔術学園のイベントに参加中だって言われた。だから、兄上たちだけズルいと思って、僕も来たんだよ」

ダリルの気持ちは分かるけど、ジョシュア師団長とオーバン副館長は学園にいるべき理由があるのよね。

「ええと、それなんだけど、ジョシュア師団長とオーバン副館長は……」

ちゃんと正規の手続きを踏んでいるのよ。

そう言いかけたところで、セリアが悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「お姉様はプリンセスですよね」

「え?」

セリアの言いたいことがわからずに、ぱちぱちと瞬きすると、セリアは微笑みながら一つの提案をしてきた。

「プリンセスの役付き権限を行使して、ダリルを聖夜祭に招待してはどうですか」

「そ、その手があったわ!」

まあ、そんな権限があることをすっかり忘れていたわ。

そして、私は誰も呼んでいないから、ダリルを招待することができるじゃないの。

状況が好転したのを感じ取ったようで、ダリルがそそのかすような表情を浮かべる。

「お姉様、僕を聖夜祭に呼ぶのはいい考えだと思うよ。だって、今夜の僕は、皆のお手伝いができるからね」

「皆のお手伝い?」

嫌な予感を覚えながら質問すると、ダリルはにこりと邪気のない笑みを浮かべた。

「聖夜は恋を叶える日でもあるんだよね? だとしたら、僕の特殊魔術は今夜のためにあるようなものじゃないかな」