軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

220 王宮舞踏会 13

私が返事をするよりも早く、隣にいたジョシュア師団長が渋い表情で口を開いた。

「それはどうかな。『お前の用意したプレゼント』であるところの私が、これからルチアーナ嬢と何曲も踊る予定だからな。その後、彼女の体力が残っているかは甚だ疑問だ。きっとお前は、その時初めて『プレゼントは不要だった』と実感することだろう」

ジョシュア師団長の言葉は、先ほどの兄の言葉に引っ掛けたウィットの効いた嫌味だ。

兄はジョシュア師団長のことを『兄が用意したプレゼント』だと表現し、「好きに使ってくれ」とまで言い切ったのだから。

けれど、するりとこのような言葉が出てくるあたり、ジョシュア師団長は本当に頭がいいと思う。

師団長とともにダンススペースに足を踏み入れると、楽団は不自然に見えない形で演奏していた曲を終わらせた。

こういう場面を見るにつけ、公爵家というのは大きな力を持っているのだと実感する。

何一つ指示をしなくても、周りの者が気を利かせて、最上の場面を準備しようとしてくれるのだから。

それとも、ジョシュア師団長の無言の迫力が、楽団に彼の望みを実現させたのかしら。

そう考えている間に、楽団は新たな曲を演奏し始め、私はジョシュア師団長とともにフロアに滑り出た。

ジョシュア師団長は見上げるほどに背が高いので、ヒールを履いても身長差があるのだけれど、組んだ瞬間に彼が私の高さに合わせて、重心を低くしてくれた。

上半身はまっすぐ伸びているので、傍から見て不格好さはなく、むしろ膝を曲げた角度で踊る姿は玄人仕様のようで格好がいいのだけれど、ジョシュア師団長に負担がかかる態勢であることは間違いなかった。

けれど……師団長は体を鍛えているので、この態勢でも曲の最後まで耐えられる気がする。

「ジョシュア師団長は立派な体をしているんですね」

すごいわねと称賛するつもりで口にしたけれど、師団長が戸惑ったような表情を浮かべたため、私はすぐに失言を悟った。

あっ、これではまるで師団長を間近でまじまじと見つめた結果、素敵な肉体をしていますね、と言っているようなものだわ。

それは妙齢の令嬢としてどうなのかしら。

控えめに言っても、痴女寄りの発言じゃないかしら。

そもそも未婚の女性は、男性の体をじろじろと眺めないものだから、完全に淑女失格よね。

「ち、違います! そうではなくて、私が言いたかったのは……」

慌てるあまり、言いたかったことが分からなくなってしまい、言葉が続かなくて困っていると、師団長が安心させるかのように微笑んだ。

「ルチアーナ嬢、心配しなくていい。君の真意は理解しているから」

それから、私の気持ちを落ち着かせようとしてくれたようで、紳士らしく話題を変えてきた。

「先ほど、王太子殿下と踊っている君を見ていたが、君の髪が短くなったのは殿下に何らかの助力をした代償だったのだな」

「えっ?」

「聖獣の炎に自ら飛び込むとは無茶をする」

「ええっ??」

秘密の話のはずなのに、どうして知っているのかしら、と目を丸くしていると、師団長はこともなげに「唇の動きから読んだのだ」と口にした。

「ええええっ!?」

驚愕して大きな声を上げたけれど、ジョシュア師団長は肩をすくめただけだった。

「難しい話ではない。サフィアはもちろん、ラカーシュ殿や王太子殿下も同じことができるはずだ」

「そ、そうなんですか? 知らなかった……」

高位貴族のスペックはとんでもないわね。考えもしない技術を身に付けているわ。

ダンスをしている最中の会話であれば、音楽にかき消されるから何をしゃべっても外部に漏れない、と思ってぺらぺらと話をした私が甘かったのだわ。

ううう、何てことかしら。気付かないうちに、私の様々な秘密が暴かれているかもしれない。

貴族怖い。スペックが高過ぎて、高位貴族が怖い。

そう考えてびくびくしていると、貴族の中の貴族であるジョシュア師団長が私をじっと見つめた後、ふっと甘やかに微笑んだ。

「前にも言ったが……あなたの短い髪型は軽やかで素敵だな。ルチアーナ嬢によく似合っている」

「そっ、それはありがとうございます」

師団長が前置きしたように、彼は前にも同じセリフを2回口にしてくれた。

同じ誉め言葉を3回繰り返されたことで、ジョシュア師団長が本当にそう思っているような気持ちになって口元が緩む。

私は胸の中が暖かくなると同時に気恥ずかしさを覚え、それ以降は黙って師団長とダンスを踊った。

ジョシュア師団長がターンをするたびに、彼の長い髪が広がり、シャンデリアの光を受けてきらきらと輝く。

……本当に、魅了の公爵家に相応しい麗しさだわ。

師団長に見とれているうちに流れていた曲が終わってしまい、残念な気持ちになっていると、ジョシュア師団長が尋ねるかのように首を傾げた。

何を尋ねられているのかを理解してうなずくと、師団長は続けてもう1曲踊ってくれた。

あっという間に2曲目が終わり、満足して笑みを浮かべていると、師団長は胸に挿していた一輪の花を差し出してきた。

それは見事に咲き誇った藤の花だった。

まあ、ラカーシュに続いて胸に挿していた家紋の花を差し出されたわよ。

こちらも偶然だろうけど、私の髪色と同じ色のリボンが結んであるわ。

「ルチアーナ嬢、あなたを想って色付いた藤の花だ。私に春を呼び込んで、花を咲かせることができるのはあなただけだから」

師団長は体を屈めてくると、艶のある声でそう口にした。

それはいつぞや船の上で口にされたセリフと同じものだった。

通常であれば2回目の言葉というのはインパクトが弱まるものだけれど、どういうわけか師団長に関しては繰り返しの効果でより本気度が伝わってきて、倍のダメージを受けてしまう。

あああ、紳士の皆さんは一体私をどうしたいのかしら。

王太子にしろ、ラカーシュにしろ、ジョシュア師団長にしろ、もう少し手加減してくれないと、今日が私の命日になってしまうわ!

兄に藤の花を手渡しながらそう考えていたところ―――目の前にルイスが現れた。

彼はふわりとした笑みを浮かべ、行儀よく私の全身に視線を走らせた後、称賛の言葉をくれた。

「ルチアーナ嬢、今日もとっても素敵だね」