軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

221 王宮舞踏会 14

目の前でにっこり笑ったルイスの顔に一切邪気がなかったため、私は心から安堵した。

「ルイス! 私の心の友はあなただわ」

距離を詰めて、ぎゅっと彼の手を握りしめると、ルイスはきょとりとした顔で見返してくる。

そうよね、意味が分からないわよね。

私の周りにいる高位貴族たちがハイスペック過ぎて、知らないところで色々と情報が盗まれている気がして怖くなったから、純粋なルイスに会ってほっとしていることなんて。

でも、ルイスが分かっていないからこそ、一緒にいると気が楽なんだわ。

ハイスペック軍団ならば、私の心の裡まで見通しそうだから、気が抜けないもの。

そう思って微笑みを浮かべていると、ルイスが楽しそうに口を開いた。

「ルチアーナ嬢、僕と踊ってください」

「まあ、申し込んでくれてありがとう。今日は皆さん、私の短くなった髪に気を遣ってくれるようで、次々に声をかけてくれるのよ。ルイス、あなたの友情に感謝するわ」

きっと、ルイスも思いやりでダンスを申し込んでくれたのだろうと考えての発言だったけれど、ルイスはそうじゃないとばかりに首を横に振った。

「僕のダンスの腕前はまだまだなんだよ。だから、他のご令嬢たちであれば、『下手だね』と怒られそうで身が竦むんだけれど、ルチアーナ嬢ならば怒らないでいてくれるだろうから」

まあ、私が選ばれた基準の何たる低さかしら。

でも、だからこそ、ルイスとは気兼ねなく踊れるのよね。

「ルイス様ったら、思ったことをぺらぺらと口にするのは正直でいいことだと思うけど、ご令嬢によっては不快に思うかもしれないから気を付けた方がいいわ」

特に今のように、持ち上げられたと思ったら勘違いで、地面に叩き落とされた場合には。

そう考え、親切に忠告したところ、ルイスから思いもよらない言葉を返される。

「問題ないよ。僕がダンスに誘うのは君だけだから」

「ん?」

今度こそ、ルイスの言葉にときめいてもいいのかしら?

「さっきも言ったけど、僕のダンスはまだまだだから、他の女性とは踊れないからね」

と期待していたら、案の定、落とされた。

分かっていたわ、とじとりと見つめた先にいたルイスは、とても柔らかい笑みを浮かべていた。

どこからどう見ても初々しい美少年で、光が零れているかのようだ。

うーん、この大人になりかけている、今しかない貴重な時間をルイスは過ごしているのよね。

だからこそ、ルイスの美しさと無邪気さは儚くて特別なのだわ。

「ルイス様、少しくらい踊りが下手だとしても、今のあなたと踊れるならば、金のお盆に大金を載せて差し出してくるご夫人やご令嬢が大勢いると思うわよ」

今という時間の貴重性を理解させようと助言をしたけれど、あっさりと返される。

「えー、僕はお金に困ってないから必要ないよ」

そうだった、ルイスも王国に4つしかない公爵家の令息だったわ。

実際には幼い頃から苦労と心労を重ねてきているはずだけど、彼自身はそういった面を見せたがらずに明るく振る舞うのよね。

そのことが分かっていたため、私はルイスに合わせて軽い調子を装うと、彼の手に手を重ねた。

それから、導かれるままダンススペースに歩いて行くと、一緒に踊り出す。

ダンスの腕前はまだまだだと口にしていたルイスだったけれど、踊ってみるとそんなことはなかった。

他の男性陣に全く引けを取らない腕前で、そうだった、ルイスは公爵家令息だったと再び同じことを心の中で思う。

最上位の貴族として、最高の教育を受けているのだから、ダンスが下手なわけないじゃないの、と。

そのことを指摘すると、ルイスはおかしそうな笑い声を上げた。

「ふふふ、相手のダンスが上手いと感じるかどうかは、相手に抱く感情が大きく作用すると思うんだよね。つまり、ダンス相手を好ましく思っていれば、上手に感じるんじゃないかな。だからこそ、ルチアーナ嬢が僕のことを下手だと感じたら嫌だなと思って、事前に自衛したんだよ」

「それはつまり、私がルイス様のことを好ましく思ってないんじゃないかと考えたってこと? えっ、ルイス様は何でも楽天的に考えるタイプかと思っていたわ」

意外なことを心配するのねとびっくりしていると、ルイスは肩をすくめた。

「僕だってそう思っていたよ。でも、なぜかルチアーナ嬢のことだけは悪い方に考えて、心配になるんだよね」

「そ、それはつまり……」

ルイスの言いたいことが分かった気がしてごくりと唾を飲み込む。

かたずをのんで見守っていると、彼は朗らかな表情で続けた。

「うん、自分の心が自分でも分からなかったんだけど、ルチアーナ嬢も同じように思うのならば、やっぱりそうなのかな」

「ええ、そう思うわ! 私のことばかり悪く考えるということは……ルイス様は私のことを悪女だと考えているのよ!!」

実のところ、私は悪役令嬢だから、当たらずといえども遠からずなのよね。

だから、仕方がないわと思いながらルイスを見ると、彼はびっくりした様子で目を丸くしていた。

「うわあ、そうくるんだ。先ほどはからかい過ぎたかな。ルチアーナ嬢は僕が考えている何倍も斜めにズレた考えをするよね。いや、一周回ってズレが正され、正解を引き当てるのかな。これほど僕を翻弄するのだから、君は間違いなく悪女だよ」

純粋なルイスに目の前で『悪女』と言い切られたため、がくりと項垂れる。

「うっ、やっぱりルイス様は私のことを悪女だと思っているのね。だけど、1つだけ言わせてもらうと、私みたいな悪女は世界中探しても他にはいないからね! こーんなに男性に慣れていなくて、こーんなに男性を思い通りに扱えなくて、こーんなに男性を魅了も堕落させられない悪女なんて、なんちゃって悪女もいいところよ!!」

やぶれかぶれになって私の悪女としての欠点を数え上げると、ルイスから真顔でうなずかれた。

「その通りだね。そもそもルチアーナ嬢は男心を理解できないし、他の女子たちを押しのけて男性を獲得しようという気概がないでしょう。悪女になるには色々と不足しているよ」

私から言い出したことではあるのだけど、さらに上乗せしてダメ出しされてしまった。

酷いわねと思ったけれど、ルイスの言うことはその通りだったので反論しようもなく、素直にうなずく。

「残念ながら、ルイス様の言う通りだわ。『男心理解講座』みたいな教育は受けられないものかしら」

「…………」

ルイスが酷いものを見る眼差しを向けてきたので、落ち着かなくて顎を引く。

「どうしてそんな変な顔で見るの?」

ルイスは諦めたようにため息をついた後、肩をすくめた。

「ルチアーナ嬢がそこまで酷いことを言うとは、さすがに予想外だったからかな? 試しに兄上に尋ねてみたら? ラカーシュや、今日見た限りじゃあ王太子殿下に頼んでもいいかもしれない」

「頼んだらどうなるの?」

尋ねると、ルイスは小悪魔的な笑みを浮かべる。

「実地で男心を教えてくれると思うよ。まあ、ルチアーナ嬢が相手じゃあ、初級のレッスン1で終了するだろうけど」

「失礼ね!」

とは言ったものの、心の中でルイスの言葉は至極もっともねと納得する。

ダンスがちょうど終わったところだったので、ルイスに向かって礼をすると、彼は私の手を取ってダンススペースから連れ出してくれた。

皆の邪魔にならない場所まで来たところで、ルイスは一房の藤の花を差し出してくる。

「恋愛的な意味での感情は、兄上たちと比べて不足しているかもしれないけど、ルチアーナ嬢が僕の心の友で、生涯ずっと一緒にいたいただ一人の相手であることは間違いない。ねえ、僕はこれから成長するし、僕の周りにはすごいお手本が揃っているから、僕が1番ものすごい人物になるかもよ。だから、僕に投資してみない?」

差し出された藤の花は、咲き誇っていたジョシュア師団長のそれとは異なり、色が薄くこれから咲こうとする蕾の状態だった。

期待するように見上げてくるルイスの目は大きくてあどけなく、彼がゲームの中で根強いファンを多数獲得していた理由が分かる気がした。

この大人に変わりゆく、今しかないルイスを独り占めできたとしたら、たまらないでしょうね。

私が藤の花を受け取ると、小悪魔的だったルイスはにっこりと天使のような笑みを浮かべる。

……ああ、何という落差かしら。この高低差には誰だってヤラれてしまうわね。

ルイスは間違いなく、魅力に溢れた攻略対象者だわ。

そう考えながら、私は言葉を発することもできずに、天使のようなルイスを見つめていたのだった。