軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

196 聖獣「不死鳥」 11

無表情ながらも前傾姿勢になり、ぼたぼたと汗を滴らせているエルネスト王太子とラカーシュは、疲れ果てているように見えた。

それはそうだろう。

たった2人で凶悪な魔物を倒したのだから。

「すごいわね! 以前、ラカーシュ様のお城で倒した魔物以上に凶悪なはずなのに、追い払うだけでなく倒してしまうなんて」

そもそもこの2人は、当然のことのように初めから上級魔術を発動させていたけれど、そのこと自体が驚愕に値することなのだ。

たった2人で凶悪な魔物に立ち向かっただけでなく、実際に倒してしまうその腕前に感嘆する。

私のちっぽけな火魔術では、とてもできない芸当だわ。

そう考えながら尊敬のまなざしで見つめていると、隣からおかしそうな声が響いた。

「ルチアーナはこの何倍もすごいことをやり遂げるのに、この程度のことでいちいち心を動かされるのね☆」

「えっ、私は何もすごいことなんてやり遂げてないわよ。カドレアも見ていたでしょうけど、今日の私は聖獣と一緒に地面に座っていただけだわ」

至極当然の主張をしたけれど、カドレアは肩をすくめただけで返事に代える。

うーん、私の言葉を聞く気がないわね。

「あなたの 守護者(ガーディアン) 候補は悪くないわね。わたくしが魔力を分け与えて以降、あの2人は戦い方を変えたわよ。相手が飛翔しているから不利だと気付いて、先に 飛竜(ワイバーン) の翼を落としたの。そうね、竜も地面に落ちたらただの大きなトカゲだわ★★★」

相変わらずの話ぶりだけれど、これでもエルネスト王太子とラカーシュの2人を褒めているのだろう。

そのことを証するように、カドレアは2人に向かって歩いていくと、バチンとウィンクをした。

「初めて戦う魔物相手に、わずかな時間で攻略方法を見出すなんて悪くないわ。命が懸かった場面では、焦ったり気が急いたりしてなかなかできないことでしょうに。いいわ、及第点をあげる。ルチアーナをあなた方にあずけましょう★☆」

そう言うと、カドレアは地面の上に横たわっている 飛竜(ワイバーン) に手を伸ばす。

それから、魔物の額にはまっている青い宝石の上に手をかざすと、……まるで吸い込まれるように魔物の額から宝石が外れ、彼女の手中に納まった。

「危険は去ったようだから、わたくしもお暇するわね。わたくしは 南星(シスト) に用があるから、この宝石は彼への手土産にもらっていくわ☆☆」

カドレアはそう言うと、再び空中へ浮き上がった。

「またね、ルチアーナ☆☆☆」

そして、言いたいことだけを言うと、カドレアは暗闇の中に消えていったのだった。

残された私は、不死鳥を腕の中に抱えながら、少し離れた場所にいる王太子とラカーシュを見つめた。

すると、荒い息を吐いていた2人は、戦闘直後の酩酊状態から戻ってきたようで、はっとした様子でこちらに顔を向ける。

「ルチアーナ嬢、無事か?」

ラカーシュは脇目もふらずに走り寄ってくると、私の顔を両手で挟み込んだ。

彼らしくない強引な仕草に驚いたけれど、ラカーシュから真剣な表情で覗き込まれたため、心配されているのだと気付いてこくこくと頷く。

けれど、彼は私の返事だけでは満足できなかったようで、私の顔に怪我がないかを丁寧に確認し始めた。

戦闘直後のラカーシュは手袋をしておらず、戦ったことで体温が上がったようで、私に触れる彼の手に熱を感じる。

そのことを気恥ずかしく思い、彼の手から意識をそらそうと、間近に迫ったラカーシュの顔に視線を移す。

すると、彼の真剣な表情が目に入り、「真顔になるとイケメンが際立つわねー」と不謹慎な考えが浮かんだため、そんな場合じゃないわと気持ちを引き締めた。

ラカーシュは見えるところ全部を確認しないと気が済まないようで、私の両手を丁寧に確認した後、ドレスから出ている首元を不躾にならない程度に目視確認していた。

それからやっと、安心したようなため息をつく。

「ルチアーナ嬢、君が無事でよかった」

ラカーシュが確認作業を行う間、エルネスト王太子も心配そうに私を見ていたけれど、怪我がないことが分かった途端、ほっとしたように肩の力を抜いた。

「よかった、聖獣も……」

けれど、そこで王太子の言葉が途切れる。

月に雲がかかっていたため、おぼろげにしか見えなかった聖獣の様子が、再び明るい月明かりに照らし出されたことで、はっきり見えるようになったからだ。

言うまでもなく、聖獣はボロボロに傷付き、たくさんの羽根が抜けてしまっていた。

「まさかそんな! 不死鳥が 飛竜(ワイバーン) ごときにここまでやられるのか!?」

慌てた様子で聖獣の前に膝をつき、震える言葉を口にする王太子は、目の前の光景が信じられない様子だった。

恐らく、王太子が知っている聖獣は今よりももっと強かったのだろう。

王太子の声を聞いた聖獣は、それまでぐったりとしていた顔を上げると、じっと彼を見つめた。

長らく契約をしていた王家の者の声を、聞き分けたのかもしれない。

王太子が緊張した様子で聖獣を見つめ返していると、聖獣は訴えるような鳴き声を上げた。

「キィーッ!」

けれど、それは人の言葉でなかったため、当然のことながら王太子には理解できない様子だった。

「不死鳥、どうかしたのか? 望みがあるのならば、分かるように言ってくれ!」

王太子は真顔で聖獣に頼み込んだけれど、聖獣はふいっと顔を背けると、火口に顔を向けた。

それから、残った力を振り絞るように大きく羽ばたくと、ふらふらしながら空に舞い上がる。

「えっ!」

「不死鳥!?」

「飛ぶな、傷が開くぞ!!」

聖獣が羽ばたくたびに、大量の羽根が空中に飛び散っていく。傷口が開いているのだ。

無理をすると傷が広がるから、と聖獣に制止を呼び掛けたけれど、聖獣には私たちの声が聞こえた様子もなく、一心に飛び続けていた。

そのため、私たち3人は聖獣の後を追いかけて走り始める。

一所懸命に足を動かしながら、私はセリアが視たという『先見』について考えを巡らせていた。

セリアは魔物に襲われて聖獣が亡くなる姿を視たと言っていたけれど、カドレアの話では不死鳥は決して死なないとのことだった。

代わりに、再生するとの話だったので、セリアにはその再生した姿が亡くなったように見えたのではないだろうか。

あるいは、ボロボロの体で地面にうずくまっている姿が、すでに息がないように見えたのかもしれない。

いずれにしても、魔物は討伐されたので、聖獣の命の危険は去ったはずだ。

そう希望的観測を抱きながら、必死になって後を追いかけていると、聖獣はまっすぐ火口に向かって行き―――そのまま落下するかのように、火口の中に飛び込んだ。

「なっ、不死鳥!?」

王太子は叫び声を上げると、火口に走り寄る。

私も慌てて走っていくと、王太子とラカーシュとともに火口の中を覗き込んだ。

けれど、―――そこには、ぐつぐつと赤く燃え滾る高温のマグマが渦巻いているだけで、不死鳥の姿は見当たらなかった。