軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

159 「甘い言葉収集ゲーム」結果発表 5

家紋の花を持つ貴族家は、その領地を花の名前で呼ばれる。

フリティラリア公爵家の領地が「黒百合領」と呼ばれるように、王太子のリリウム家が元々治めていた領地は、「白百合領」と呼ばれているのだ。

そして、私が望んだのは、その白百合領を訪問することだった。

「ルチアーナ、お前は一体何を考えている?」

兄は全く理解できないといった表情で、私を見つめてきた。

それはそうだろう。

リリウム王家が聖獣を使役できないとの事実は、王家のみの秘密だから、そのことを知らない兄は、なぜ私が聖獣の使役を頼まないのかと不思議に思っているのだろう。

そして、突然、白百合領を訪問したいと言い出したことを、全く理解できないでいるのだろう。

けれど、こればっかりは説明できない。

「この世界は私がプレイした乙女ゲームの世界なので、イケメン高位者たちの事情を知っています! その情報によると、王太子は聖獣を使役できていなくて……」

と口にしたら、正気を疑われるだろうから。

そして、もっと正直に、「実は、聖獣の手懐け方がさっぱり分からないので、何かヒントが見つからないかと期待して、白百合領に聖獣に会いに行きます」と言ったら、もう少し計画的に行動しろと止められるだろうから。

そのため、私は誤魔化すための偽りを口にした。

「最近、私は山登りに目覚めたのです! ぜひ、白百合領にある由緒正しい聖山に登ってみたくなりました!!」

両手で握りこぶしを作って力説してみたけれど、誰一人私の言葉を信じる者はいなかった。

あれ……。

突然、何を言い出したんだ、と呆れた表情を浮かべる面々を前に、私はこうなったら仕方がないと、もう1段妥協することにする。

「ええと、ところで、学園の実習の話ですが、高位貴族家の領地を訪問するか、王宮舞踏会に出席するかを選択できましたよね?」

舞踏会は12月から翌年3月にかけて開催されるものだけれど、その皮切りとなるのが、12月15日に行われる王宮舞踏会だ。

そして、デビュー後のご令嬢であれば、学園の実習という名の下に、このスーパープレミアムな舞踏会に参加できるのだ。

ただし、もちろん人数制限があるので、学園の生徒は「高位貴族の領地訪問」か「王宮舞踏会への出席」かを選択する形になっている。

そして、実質的には「王宮舞踏会への参加」はわずか10名の狭き門なので、権力だとか、実家のコネだとかを利用して、高位貴族のご令嬢が埋めていくのだ。

もちろんルチアーナもその両方を利用して、早々に王宮舞踏会への参加権をもぎ取っていた。

けれど……今となっては、別に参加したくもない夜会なのだ。

「そして、そろそろ実習の時期ですよね。私は『王宮舞踏会への参加』権を獲得していましたが、その権利を放棄しますわ。代わりに、実習として白百合領の訪問を希望します」

「は?」

兄は信じられないとばかりに、目を見張った。

「ルチアーナ、お前は正気か? 学園からの参加であれば、舞踏会の夜に王宮へ宿泊でき、翌日、王太子殿下出席の茶会に参加できるのだぞ!?」

もちろん、ダイアンサス侯爵家は高位貴族なので、王宮舞踏会の招待状は黙っていても送ってもらえる。

けれど、その場合、兄が言ったような学園特典は付いてこないのだ。

前世の記憶が蘇る前の私ならば、憧れの王太子と同じ屋根の下に泊れて(注:この場合の屋根はものすごく広く、客用寝室と王太子の寝室はフロアから異なります)、お茶会でご一緒できるなんて、夢のようだと考えただろう。

けれど、今の私はそんな特典に全く魅力を感じないのだ。

ただし、そんな気持ちを前面に出し過ぎると王太子に失礼だし、これまで王太子を追いかけ回していた私の態度と違い過ぎて、周りの者たちに違和感を抱かせるかもしれない。

そう考えた私は、両手を組み合わせると、夢見るような表情を浮かべた。

「もちろん、王太子殿下とご一緒できるなんて、とても胸がときめきますわ。だから、とってもとっても王宮舞踏会に行きたいけれど! ……うーん、青い空と高い山が私を呼んでいるのよね!!」

「…………」

「…………」

「…………」

瞳を輝かせて山への憧憬を語ってみたけれど、どういうわけか兄と王太子とラカーシュから無言でじとりと見つめられた。

そして、それらの態度から判断するに、3人ともに私の言葉をこれっぽっちも信じていないことは明白だった。

……まあ、疑り深い人たちだこと!

そう3人の人間性を嘆いていると、兄が呆れた様子で頭を振った。

それから、兄は確認するかのように私の顔を見つめてきた。

「ルチアーナ、それがお前の望みなのだな?」

「はい!」

はっきりと返事をすると、兄は諦めのため息をついた。

「そうか。あらゆる望みが叶いそうな絶好のタイミングで、なぜそのような陳腐な望みを口にしたのかは分からないが、……お前の希望であれば、それでいい。ああ、だが、その希望は実習の内容を変更するだけだから、殿下に頼むまでもない話だ。教師に伝えれば、すぐに変更手続きをしてくれるだろう」

「はい、そうします」

確かに、兄の言う通りだろう。

実のところ、白百合領は領地訪問の中でも、ダントツに人気がない場所なので、舞踏会参加から白百合領訪問に変更する手続きであれば、簡単に済むはずだ。

ちなみに、高位貴族の領地訪問とは、学園に在籍している高位貴族の領地を、数日間訪問する実習になる。

基本的に、高位貴族の領地であれば、王都に近接しているので、その領地を治める家の生徒が付いてきて、初日なりとも領地を案内するものだけれど、いかんせん王太子の領地は遠すぎた。

なぜなら、元々、リリウム家が賜っていたのは侯爵位ではあるものの、その領地は王都から離れた南部地域の山岳地帯にあたるからだ。

そのため、王太子は白百合領まで付いてこない。

だからこそ、自分の欲望に忠実なご令嬢たちの中に、王太子がいない田舎の山岳地帯の訪問を希望する者はほとんどいないのだ。

「お兄様、『夏の庭』を見に行くお約束でしたよね。そろそろ参りましょうか?」

もうこの場に用はないと思った私は、兄を理由に生徒会室を退出しようとする。

すると、兄は苦笑しながら、私の頭に片手を乗せた。

「ルチアーナ、私は未だにお前を理解できないようだ。だから、なぜお前がそれほど満足気な表情をしているのか分からないが、……お前がいいのであれば、それでいい」

それから、兄は王太子とラカーシュに顔を向けた。

「殿下、妹は私が考えるよりも無欲だったようです。妹の言葉通り、今回の件は『たかがゲーム上の行き違い』ですから、これ以上お気にされませんように。ラカーシュ殿、君についてはルールを違えてもいないのだから、もちろん気にする必要はないからな。それでは、失礼します」

私も慌てて、兄に続いて挨拶をする。

「ええと、収穫祭のゲームはすごく楽しかったです! むしろ、特別な対応をありがとうございました。では、これで失礼しますね」

それから、想定外の展開に驚いている王太子とラカーシュ、その他生徒会のメンバーを残して、兄と2人で生徒会室を後にしたのだった。