軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

137 兄妹デート 7

不敵な笑みを浮かべ、自信満々にこちらを見つめてくる兄を見て、どうやら相手が誰であれ、全く負けるつもりがないようだわと思う。

にもかかわらず、自分のことを『子羊のような平和主義者』と表現するのは、いかがなものか。

そもそも子羊はこれほど好戦的な表情をしないし、兄が正当防衛の範囲を逸脱するであろうことは分かっているのに。

けれど、そんな兄の実力をもってしても、定められた断罪を回避することは難しく思われた。

なぜならここはゲームの世界だからだ。

一個人の力で、定められた世界の流れを―――それもゲームのメインストーリーという、一番大きな流れを変えられるものだろうか。

「どうした、ルチアーナ。そんなに面白い顔をして、まだ何か心配なのか?」

眉を寄せて考えていると、兄から不思議そうに尋ねられる。

一瞬、躊躇したものの、ここまできたら心配事を全て明確にすべきだと考え、私は口を開いた。

「その……、お兄様はお相手が誰であれ、全く負けるつもりはないですよね。もちろん、お兄様の実力は分かっていますけど、それでも私は心配なのです。なぜなら『運命の恋』と『悪役令嬢』は組み合わせが悪く、この2つが交われば、『悪役令嬢』は必ず失恋して、破滅する決まりになっているからです。少なくとも、これまで私はそう信じてきました」

「なるほど」

端的に同意する兄を見て、あれ、と思う。

『なぜそう思うのか』と尋ねられる場面だろうに、兄は聞いてこなかったからだ。

不思議に思って見つめてみても、私の言葉を待っている様子だ。

その姿を見て、私はやっと兄のスタンスを理解した。

そして、お兄様は本当に忍耐力があるというか、思いやりがあるというか、凄いわねと感心する。

普通、これだけ親身になって話を聞き、自らが体を張る形になったならば、『知っている情報を全て出せ』と言いたくなるはずだからだ。

にもかかわらず、兄は私が出してきた情報を咀嚼するだけで、出そうとしない情報を要求するつもりはないのだ。

恐らく私の表情などから判断し、私が本当に言いたくなさそうな話は取捨選択して、スルーしてくれているのだろう。

「……お兄様は凄いですね。色々と聞きたいことがあるでしょうに、一切強引に聞き出そうとしないなんて」

感心して言葉にすると、兄は何でもないといった様子で肩を竦めた。

「私はお前に助力したいだけで、困らせたいわけではないからな」

それは凄くありがたい考え方ですけど、実行するのは難しいですよね。

頭が良くて先が見える分、きっと色々と知りたいだろうにと考えながら、感謝を込めてもう一度頭を下げる。

「脱線してすみません。ええと、話を戻しますと、私はずっと『運命の恋』と『悪役令嬢』が組み合わされば、我が侯爵家が取り潰されて、家族全員で放逐されると信じてきました。そのため、お兄様の能力の高さは信じていますが、それでも、断罪される未来への恐怖が拭えないのです」

兄は確認するように小首を傾げた。

「ふうむ、では、放逐されても問題ないことを示せば、お前は安心するのか?」

「えっ」

どうすれば私が安心するのか、ですって?

私はぱちぱちと瞬きをすると、胸に手を当てて兄の言葉を咀嚼する。

そう……そうかもしれない。

兄が言うように、放逐されても問題がないと思えれば、私は安心できるのかもしれない。

そう考え、兄を見つめながら頷くと、兄は「ふむ」と言いながら指を顎にかけた。

「やあ、では全く不本意なイメージだが、実際には私の能力が低く、ラカーシュ殿やジョシュア師団長に後れを取った場合、どうするかを示せばいいのだな? ……そうだな、その場合はすっぱりと貴族姓を捨てて、一家で国外にでも逃亡するか?」

「えっ!」

つい先ほど、兄はどこででも生きていけると考えていたにもかかわらず、実際に兄の口から、侯爵家を捨てるような言葉が飛び出したことに驚いて、目を見開く。

なぜなら前世の記憶を持っている私とは異なり、兄は混じりっけなしの生粋の貴族だからだ。

由緒正しい侯爵家に銀のスプーンをくわえて生まれてきており、誕生から現在までピカピカの貴族としての生活しか送っていない。

もちろん兄は色々と分かっているから、貴族であることの恩恵がどれほどのものか、十分理解しているだろう。

その兄が、生まれ持った強大な既得権益を全て投げ捨ててもいい、と言い切るなんて……。

ピカピカの貴族である兄の言葉とは思えないわと、ぎょっとして目を見開いていると、兄は楽しそうに笑った。

「ははは、安心しろ、ルチアーナ。私の魔術は案外金になる。そして、誰だって、与えられた環境の中でしっかり暮らしていくものだ。両親は暫く面倒なことを言ってくるだろうが……それだけは頭が痛いな……よし、そこは私とお前で一日置きに対応するとしよう」

面倒な両親の対応について、きっちり平等に分け合おうとしてくるところが、いかにも兄らしくて、放逐後のシミュレーションに現実味があるように思えてくる。

けれど……たった今聞いたばかりの話に、これほど対応できるなんて普通じゃない。

兄の順応性の高さについていけず、ぽかんと口を開けていると、兄はふと、おかしなことを思い出したとばかりに笑った。

「面白いな、ルチアーナ。このタイミングでラカーシュ殿とジョシュア師団長を切り捨てたとしたら、お前は正に『悪役令嬢』だ。極上の男性を使えるだけ使っておいて、用済みになった途端にポイと捨てるのだからな。だが、その場合、……『悪役令嬢の呪い』が発動したのではなく、私にはお前が彼らを実際に使い捨てたようにしか見えないな」

「えっ!?」

想定もしていないことを言われて、どきりと心臓が跳ねる。

驚く私の前で、兄は面白そうな表情を浮かべた。

「あの2人の力が必要な時だけ親しくしておいて、用がなくなった途端にすげなくするのであれば、それは呪いのせいでお前が悪く見えるのではなく、実際にお前が悪いのだ。つまり、お前自身が呪いと同じ結果を招く行動を、自ら取っていることになる。だから……」

兄は片目を瞑ると、ぱちりと指を鳴らした。

「そうやってお前が呪いを恐れて後ずさることで、結局は呪いと同じ効果を引き寄せているのではないか?」

兄の言葉に、私は目から鱗が落ちる思いがした。