軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

陽だまりの庭と、未来を育む家

宿を出た俺たちは、そのまま不動産を斡旋しているギルドへと逆戻りした。

「いらっしゃいませ。……おや? さっきの」

カウンターにいた職員が、数時間前に来た俺たちの顔を覚えていてくれた。

「条件が変わった。長期滞在の宿じゃなく、一軒家を探したい」

俺がそう告げると、職員は目を丸くした。

「一軒家、ですか? それも賃貸で?」

「ああ。期間は……未定だが、年単位になるだろうな。この子が学校に通うことになったから、静かで勉強に集中できる環境がいい」

俺はロウェナの頭にポンと手を置いた。

職員は納得したように頷き、奥から分厚いファイルを持ってきた。

「なるほど、教育熱心な親御さんですね。それならファミリー向けの物件がいくつかありますよ」

「書物を置けるスペースと、日当たりも重要ですね。庭があれば、家庭菜園……いえ、気晴らしにもなります」

クリスも横から希望を付け加える。

職員は苦笑しつつ、いくつかの物件をピックアップしてくれた。

紹介された物件を見て回る。

一件目は貴族街に近い豪華な屋敷だったが、「家賃が無駄に高いし、緊張して落ち着かない」という理由で却下。

二件目は市場に近い便利そうな家だったが、「外がうるさくて集中できない」という理由で却下。

そして三件目。

案内されたのは、住宅街の端、少し坂を登ったところにあるレンガ造りの家だった。

「ここは築年数は古いですが、造りはしっかりしています。前の住人が植物好きだったそうで、庭も広めですよ」

職員が重厚な鉄の門扉を開ける。

庭は手入れされておらず草が伸び放題だが、日当たりは抜群だ。

「……おにわ!」

ロウェナが目を輝かせて駆け出した。

雑草の中に埋もれた花壇の跡を見つけ、嬉しそうに振り返る。

「えど! ここ、お花がいっぱい植えられそう!」

「中も見てみるか」

その時、玄関の扉がガチャリと開いた。

「おや? 内見のお客さんかね?」

出てきたのは、作業着を着た白髪の老人だった。手には工具箱を持っている。

「大家さん! すみません、急な案内で」

職員が慌てて頭を下げる。

どうやら、手入れに来ていた大家と鉢合わせしたようだ。

「いいってことよ。どうだい、気に入ったかい?」

大家は人懐っこい笑顔で俺たちを見た。

「悪くないですね。日当たりもいいし、静かだ」

俺が答えると、大家はニカッと笑った。

「だろう? ワシの自慢の物件だ。地下室もあるから、物置にも困らんぞ。……まあ、昔は使用人部屋に使ってたんだがな」

「地下室?」

「ああ。ワインの貯蔵庫にするもよし、秘密基地にするもよしだ」

大家は冗談めかして言った。

俺とクリスは顔を見合わせた。

地下室があれば、食料の備蓄や、あまり人目につけたくない装備の保管にも使える。

「それに、この家は頑丈だ。ちょっとやそっとじゃ壊れんよ。……気に入ったなら、いっそ買っちまってもいいんだぞ?」

大家が冗談半分で言った言葉に、俺は少し考え込み、そしてニヤリと笑った。

「……買い取るのは、住んでみて気に入ってからにしますよ。まずは賃貸で」

「ガハハ! そいつは手厳しいな! ま、ゆっくり見ていってくれ」

大家は豪快に笑い、俺たちに鍵を渡して去っていった。

家の中に入る。

一階には広いリビングとキッチン、そして暖炉。

地下への扉を開けると、ひんやりとした空気が漂う広めの空間があった。確かに物置には十分すぎる広さだ。

二階に上がると、部屋が三つ。

「ここ、あかるくて気持ちいい! ほんが読みやすそう!」

南向きの部屋に入ったロウェナが歓声を上げた。

窓からは街が一望でき、遠くには学校の時計塔も見える。

「……塀も高いし、死角も少ない。防犯上も悪くないな」

俺は窓枠の頑丈さをチェックしながら呟いた。

クリスもまた、満足そうに頷いている。

「風通しもいい。磨けば光る家ですね。庭を整備すれば、良いハーブ園……いえ、花壇になりますよ」

「よし、ここに決めるか」

俺は職員に向き直った。

資金はある。

俺は即金で契約金と半年分の家賃を払い、正式に鍵を受け取った。

鍵を受け取ったその足で、俺たちは家具屋へと向かった。

ベッド、テーブル、椅子。

生活に必要な家具を次々と買い込んでいく。

そして一番の買い物は、俺が選んだ頑丈で広い「書き物机」だった。

「これがこれからの、お前の戦場だ。しっかり使い込めよ」

「うん! ありがとう!」

ロウェナは机の天板を愛おしそうに撫でた。

まだ本は少ないが、これからここに知識が積み重なっていく予感がした。

家具の配送を頼み、俺たちは再び新居へと戻った。

時刻はもう夕暮れ時だ。

「さて、最初の任務だ。……大掃除を開始する!」

「おー!」

俺の号令と共に、窓を全開にして掃除が始まった。

俺は力仕事担当。

家具の配置や床の修繕をこなす。

クリスは手際よく窓を拭き、高いところの埃を払っていく。手作業で丁寧に。

ロウェナも雑巾を持って、一生懸命床を磨いている。

「ここはわたしのへやだから、じぶんでやる!」

その顔は煤で汚れているが、生き生きとしていた。

空っぽだった部屋に、生活の灯がともっていく。

日が沈み、辺りが暗くなった頃。

ようやく掃除と家具の搬入が終わった。

「ふぅ……。腹減ったな」

俺はリビングの床に座り込んだ。

まだ調理器具が揃っていないため、夕食は街の屋台で買ってきたピザとシチューだ。

テーブルもまだ届いていないので、床に座って食べるピクニック・スタイルだ。

「いただきます!」

ロウェナが大きなピザを頬張る。

労働の後の飯は格別だ。

「さて、城は手に入れた。あとは学校の手続きだな」

俺が言うと、ロウェナは真剣な顔で頷いた。

「うん。わたし、がんばる」

「焦らなくていい。……まずは、この家での生活に慣れることだ」

クリスが優しくフォローした。

「ごちそうさまでした。……明日は庭の草むしりですね」

「げっ、まだそんな大仕事が残ってたか」

俺は仰向けに寝転がった。

天井を見上げると、そこには温かいランプの光が揺れていた。

宿屋の借り物の天井ではない。俺たちの城の天井だ。

外から見れば、暗かった窓に灯りがともっているのが見えるだろう。

ここが今日から、俺たちの「我が家」になる。

長い旅の果てに辿り着いた、安息の地。

俺は目を閉じ、その温もりを噛み締めた。