軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

喧騒と湯気、肉の都の再訪

牧場を後にした俺たちは、再び街道を歩き、かつて訪れた街の門をくぐった。

その瞬間、暴力的なほどの熱気と匂いが全身を包み込んだ。

滴り落ちる脂、そして食欲を刺激するスパイスの香り。

「ん〜! いいにおい!」

ロウェナが鼻をクンクンとさせ、輝く瞳で通りを見渡した。

通りの至る所で肉が焼かれ、呼び込みの大声が飛び交う「肉の都」ヴァイデ。

「前とは大違いだな」

俺は立ち並ぶ屋台を見回して呟いた。

以前訪れた時は、例の騒動のせいで流通が止まり、どの店も肉不足で殺気立っていた。

値段も高騰し、店主たちの顔も険しかったものだ。

だが今はどうだ。

どの店の軒先にも、新鮮な肉塊が山のように吊るされている。

品揃えは豊富で、店主たちの表情も明るい。

牧場での一件が、こうして街の活気を取り戻させたのだと思うと、感慨深いものがある。

「へへ、おなかすいたー! えど、どこにする?」

ロウェナが獲物を探す狩人のような目で俺を見た。

「そうだな。せっかくだし、前とは違う店を開拓してみるか」

「さんせーい!」

俺たちは活気に満ちた大通りを歩き始めた。

数分ほど歩くと、一際香ばしい煙を上げている店が目に入った。

店の前には大きな鉄板があり、店主が豪快に巨大な串焼きを焼いている。

「あそこがいい!」

ロウェナが指差した。直感で選んだらしい。

「よし、決まりだ」

俺たちはその店に入り、空いていたテーブル席に腰を下ろした。

壁には、今日のおすすめメニューが書かれた黒板が掛かっている。

「えーと、きょうのおすすめは……」

ロウェナが椅子に座り直し、慣れた様子で黒板の文字を目で追う。

「あった! 『とくせい……厚切りステーキ串』! それと、『パンとスープ……おかわり自由』!」

彼女はメニューを指差し、ハッキリとした声で読み上げた。

ただ文字を追うだけではない。

自分にとって重要な情報を、瞬時に抜き出している。

「よく読めたな。じゃあ、俺もそれに乗るか」

「僕もです。……もちろん、大盛りで」

注文を聞きに来た店員に、三人分の厚切りステーキ串を頼む。

以前なら量に怯んでいたかもしれないクリスも、今では平然とした顔で「大盛り」を口にしている。

旅という日常が、俺たちを少しずつ、だが確実に変化させていた。

やがて運ばれてきたのは、剣のように長い串に刺さった、巨大な肉塊だった。

滴る肉汁が皿に溜まり、湯気が立ち上っている。

「いただきます!」

ロウェナがナイフとフォークを構える。

カチャカチャと食器を鳴らす手つきはスムーズだ。

串から肉を外し、一口大に切って、熱々の塊をフーフーと冷まして口へと運ぶ。

「んん~! おいしい!」

満面の笑みで頬張る姿は、見ていて清々しい。

以前来た時は、街のピリピリした空気に少し遠慮がちだったが、今は心から食事を楽しんでいる。

隣を見れば、クリスもまた、所作こそ丁寧だが、豪快に肉を口に運んでいる。

見た目の細さとは裏腹な、旅人としてのたくましさが同居する、今の彼らしい食べっぷりだ。

俺も負けじと肉にかぶりついた。

溢れる肉汁、噛みごたえのある赤身。

質の良い肉だ。流通が安定している証拠だろう。

「……うまいな」

俺はロウェナの口の端についたソースをナプキンで拭ってやった。

彼女はされるがままになりながらも、視線は次の肉、そしておかわり自由のパンへと向いている。

その旺盛な生命力を見ているだけで、何だか俺まで腹が満たされるような気分だった。

満腹になり、食後の果実水を飲みながら一息つく。

店の喧騒が、今は心地よいBGMのように聞こえる。

「……さて」

俺は空になった皿を見つめ、口を開いた。

「ここを出れば、あとは街道一本で領都だ。実質、この長い移動も一区切りだな」

その言葉に、ロウェナがコップを置いた。

「……もう、おわり?」

「とりあえず、目的地に到着ってことだ」

俺の言葉に、ロウェナは少し考え込むような顔をした。

毎日違う場所で寝て、違う景色を見て、三人で歩き続けた日々。

それが一旦落ち着くことに、名残惜しさを感じているのかもしれない。

「旅が終わるわけではありませんよ、ロウェナちゃん」

クリスが優しく声をかけた。

「ここからが新しい生活のスタートです。領都に着いて、準備を整えて……また色々なことが始まります」

「……うん!」

ロウェナは頷き、リュックに入っている本をそっと撫でた。

その手つきは、これからの未来への期待を確かめているようにも見えた。

「よし、行くか」

俺は席を立った。

代金を支払い、店を出る。

背後には喧騒のヴァイデ。

目の前には、午後の日差しに照らされた、領都へと続く整備された王道。

三人の影が長く伸びる。

その足取りは力強く、迷いなく、一旦のゴールである俺の故郷へと向かっていた。