軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12 第三王子のお世話係

「関わるな……とは、どういう意味でしょうか」

「そのままの意味。あんたの耳は飾り?」

ルイはイースの顔を見上げ、挑発するように言った。その声も表情もとても冷たい。

(メイド長がいたときと、全然態度が違うような)

さっきまでの態度は外行き用で、猫を被っていたのだろう。しかし、イースは侍女になるためにここに来たので、簡単に引き下がるわけにはいかない。

「ですが私は、ルイ様の身の回りのお世話をさせていただくためにこちらに参りました」

「それが必要ないって言ってんだよ。着替えも、髪を洗うのもとかすのも、俺は自分のことはなんだって自分でやれる。他人の手助けなんてなくていい」

ルイはソファにどすんっと座って、ふんと鼻を鳴らし、足を組んだ。

「ご立派であらせられます!」

「は…………?」

イースは両手を胸の前で組み、素直に感動の言葉を口にした。

「そのご年齢で、自分でなんでもできるなんて、本当に立派です」

「べっ、別にこのくらい、普通だろ」

褒められたルイの頬が、ほんのりと赤く染まり、彼はふいと顔を背けた。

ルビはルイと同じ年齢だが、病気があるため日常の多くのことをイースがサポートしている。ひとりで何でもできるルイは本当にすごいと思った。

ルイは決まり悪そうに頭を掻いたあと、立ち上がって、こちらを指差した。

「――とにかくだ。あんたを採用してやるが、くれぐれも俺の邪魔するな」

「かしこまりました」

なんだか、前途多難を予感した。

それからルイは机に向き合い、勉強を始めた。イースはルイに言われた通り、彼の勉強の邪魔をしないように、部屋の隅で気配を消して見守る。

いつ手伝いを求められてもいいように待機していたが、ルイは本やインクなどの準備から片付けまで、本当に何でも自分でこなした。部屋には、次から次へと家庭教師がやってきて、九歳の王子に英才教育を施していった。

メイド長から、ルイの一日のスケジュール表を見せてもらったが、予定がびっしり詰まっていた。勉強だけではなく、剣術や馬術、バイオリンにダンスまで。

(こんなに忙しくて、お身体が心配だわ)

この国の王族は、将来国家を運営していくために、幼いころから厳しい教育を受けると聞いたが、これでは心が休まる暇がない。

子どもらしく遊んで息抜きをする時間も必要ではないかと、いつもルビに対して思っていることを、ルイにも思った。

今日最後の教師が、締めの言葉を言う。

「それでは、本日の講義はこれで終了です。お疲れ様でした」

「本日もご指導のほどありがとうございました。明日もよろしくお願いします」

「しっかり復習と予習をしておくのですよ」

「はい、先生」

ルイは、イースに見せる冷たい態度が嘘のような丁寧な挨拶をし、天使の笑顔を浮かべていた。

教師が帰って行ったあと、ルイは背もたれにだらんと背を預け、頭の後ろで手を組んだ。そして、冷たい声で言う。

「あんたさぁ、いつまでそこに突っ立ってる気?」

「……邪魔をしないようにと、ルイ様がおっしゃいましたので」

「そういうことじゃない。控え室で茶でも飲んでのんびりしてればいいだろ」

「それでは、私がここにいる意味がありません。ルイ様が困ったときにお手伝いするのが私の役目なので」

するとルイは、少し考えたあとに「水」と短く命令した。イースが水を持っていくと、彼はコップをイースの頭の上にひっくり返した。

「きゃっ……」

かけられた水が、イースの長い髪を伝ってぽたぽたと絨毯を濡らしていく。

「そうして俺に取り入るつもりか?」

「そんなつもりじゃ……」

「絨毯、拭いておけよ」

「…………はい」

(どうして私にだけ辛く当たるの? いえ、これまでの侍女たちにもきっと、同じような態度だったんだわ)

水が染みたシャツの冷たさを感じながら、絨毯を呆然と見つめる。

ルイに仕えていたメイドたちは、一ヶ月ともたずに辞めていったと聞いていたが、そうなってしまった理由がここにある気がした。

彼はこちらをきつく睨みつけながら言い放った。

「俺はもう、誰も信用しない。……ひとりで平気なんだ」

そのとき、彼の瞳が揺れる。

イースにはルイの顔が、今にも泣き出しそうになりながら『助けて』、『見捨てないで』と訴えているように見えた。

(こんな風になった理由が何かあるはず)

正直、仕事内容が合わなければ別の職場を探せばいいと思っていたが、ルイを放っておいてはいけない気がした。

「また、明日も来ます。今日はどうかゆっくりお休みください」

イースは丁寧にお辞儀をし、そっと部屋を出た。

◇◇◇

(どうしよう。ルイ様は、同じ歳でもルビと全然違ったわ)

ルビは落ち着いた性格だが、ルイはかなり気が強く、思ったことをはっきり言う性格だ。

口は悪いし粗野だけれど、なんだか放っておけない、不思議な子どもだった。

イースは自宅の玄関の前で、扉を開ける瞬間に顔をしかめる。

「けほっ、けほ……。こほっ……」

(最近、よく咳が出る)

ルビには隠しているが、ザナルティア竜王国に来てから体調が悪い日が続いている。思い当たる理由は、番契約を結んだサリアスと離れていることだ。

精霊族の血が濃いイースが番契約を結んだ相手から逃れようとすれば、その命をむしばまれていく。それを覚悟の上で、屋敷を飛び出してきたのだ。しかしどうにか、ルビがひとりで生きていけるようになるまでは、死ぬわけにはいかない。

イースはおもむろに、両手の指で口角を持ち上げて気を引き締める。

(しっかりしなくちゃ。お姉ちゃんだもの)

ルビの前では、いつも笑顔でいようと決めている。イースが不安そうにしていたらルビを心配させてしまうから。

今ごろルビはお腹を空かして待っているだろう。

早く、夕食の準備をしなくては。そう思って玄関を開けた直後、美味しそうな匂いが鼻腔に届き、思わぬ光景が目に入ってきた。

「「お帰りなさい」」

疲れきったイースを出迎えたのは――ルビとヴィルだった。食卓には、様々な料理が所狭しと並んでいて。

(ヴィル様……!?)

イースは驚き、目を瞬かせた。