軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13 三人で囲む食卓

エプロン姿のヴィルは、当然のようにイースを出迎え、爽やかな笑顔で言った。

「疲れてるでしょ。早く手を洗っておいで。ご飯できてるから」

「はい、ありがとうございま――っじゃなくて、あの……どうしてここに?」

「面接がどうだったか気になって来たら、ルビがお腹空いたみたいでさ。一緒にご飯を作ってイースを驚かせようって。ね?」

ヴィルが視線を向けると、ルビはこくん、と頷いた。

「すみません。また、色々と気を遣わせてしまって。ルビの面倒まで」

「全然。むしろ、俺が遊んでもらったようなもんだから」

そう言って彼は、優しく目を細めた。

それから、手を洗ったイースはルビに手を引かれ、席に着いた。

テーブルの美味しそうな料理の数々に、イースの瞳が輝く。疲れていたからお腹はぺこぺこなのだ。

赤ワインで煮込んだ肉に、野菜のバターソテーと、キノコの香草和え、野菜たっぷりのスープと、カリッと焼いたパンも食欲をそそる。デザートにはぶどうが添えてあった。

「僕も野菜を切ったんだよ」

「すごく綺麗に切れてるね。怪我はしなかった?」

「う、うん」

ルビはおもむろに、怪我をした指を背中に隠し、ちらりとヴィルを見て「内緒」と囁き合った。

楽しそうに笑い合うふたりの様子を見て、イースは思った。

(なんだか、私のいない間に仲良くなってる……?)

これまでルビは、大人をとても警戒して懐かなかったから、驚いた。

ヴィルはエプロンを片付け、「それじゃ、あとはふたりでゆっくり」と言って、自分は帰ろうとした。

イースは、彼の袖を摘んで引き止めて言う。

「せっかくなので、一緒に食べませんか?」

「!」

男性を食事に誘うのは初めてのことで、なんだかやけにどきどにしてしまう。ヴィルがわずかに眉を上げたのを見て、慌てて手を離す。

「その……ご迷惑で、なければ」

「迷惑なわけないよ。むしろ、家族の時間に入れてもらっていいの?」

「ええ、もちろん。私たちは大歓迎です」

近くにいたルビも、「一緒に食べましょう」と誘った。

「じゃあ、お言葉に甘えて」

ヴィルの爽やかな微笑みを見て、鼓動が忙しなくなるのを感じた。

その後、三人は一緒に夕食を食べることにし、テーブルを囲って手を合わせ挨拶した。

「「「いただきます」」」

いつもルビとふたりだけの食卓に、大人の男性がひとり加わって不思議な気持ちだ。

三人で食べるご飯は、いつもより美味しく感じた。感じた、というより、イースが作るものよりよっぽど美味しい。

「どう?」

「美味しい……」

イースの感想を聞いたルビは、ぱっと表情を明るくしてヴィルを見上げる。

「姉様、美味しいって」

「よかったな」

「今度はさ、魚の料理を一緒に作ろう」

「ああ、もちろん」

「お菓子もいいよね」

「じゃあ今度はデザート付きにしようか」

「うん」

イースは置いてけぼりで、ルビとヴィルは楽しそうに次の約束をしている。

自分の知らない間にふたりはすっかり仲良くなったようで、ちょっとだけ寂しい。

「お料理が上手なんですね。普段からお作りに?」

「レシピ見て、普通に作っただけだよ」

レシピ通り作るのも、ある程度器用でなくてはできない。

料理は基本的に女性の仕事という価値観が一般的なので、さらりとこなしてしまうヴィルにギャップと好感を抱いた。

「で、今日の面接はどうだった?」

「実は……」

イースはさっそく、今日見てきたルイの様子を話した。ルイがなぜかイースに冷たく当たると知ったヴィルは言った。

「第三王子殿下はちょっと、複雑な事情があってね。王子の中で唯一、母親が違うんだ。出生のことで、王宮内でずっと肩身の狭い思いをしてきて」

ザナルティア竜王国の王妃はひとりしかいない。ルイの母親は娼婦だった。ルイを産んだあと、側室にはならなかったが、王宮で暮らすことは許された。しかし、王妃を中心とした周りの人々からの風当たりが強く、心労がたたったのか三年前に他界した。

「ルイは王妃様が手配した侍女に繰り返し嫌がらせを受けて、誰にも心を開かなくなったんだ。だから今は、『王族として認められるためには誰より優れていなくてはならない』という亡くなった母親の教えだけを信じている」

侍女に辛く当たるのは、過去に侍女に嫌がらせを受けていたことがトラウマになっているからだろう。

それでいて、家庭教師やメイド長という王宮で地位のある存在には礼儀正しく接しているのは、居場所を失うのが怖いからかもしれない。

ルイは過去のトラウマや矛盾を抱えながらも、王子としてふさわしい自分を演じ、努力している。

まだ彼は、九歳の子どもなのに、たくさん苦労してきたのだと想像した。

すると、それまで大人しく夕食を摂っていたルビが口を開く。

「お母さんは亡くなったかもしれないけど、ルイ様にはふたりのお兄さんがいるんでしょ? お兄さんはどうして助けてくれないの?」

「ルビ、王族の人間関係はとても複雑なのよ」

ただでさえルイは、婚外子という微妙な立場にある上、力を貸せば、弟を後継争いに引き入れるのではないかと周囲が疑いを抱く可能性がある。

これは可能性のひとつに過ぎないが、兄弟であっても、一定の距離を取らなくてはならない理由が王族には往々にしてあるのだ。

すると、ヴィルが苦い顔をして言う。

「いや、ルビの言う通りだ。君のお姉ちゃんみたいに、立派な姉や兄ばかりじゃない。俺もそうだ」

ヴィルにも兄弟がいるのだろうか。

罪悪感がこもっているような声だった。それを悟ったルビが、気を利かせて言う。

「でも僕は、ヴィル様みたいなお兄様がいたら、楽しいだろうなって思います」

にこにことかわいい笑顔を浮かべるルビに、イースは胸をきゅんと射抜かれる。

(なんていい子なの――!?)

姉馬鹿かもしれないが、ルビは優しくて思いやりのある自慢の弟だ。

もういっそ、馬鹿と言われても構わない。よくできた弟を持った誇らしさに浸っていると、ヴィルが何気なくとんでもないことを言った。

「はは、兄様になってもいいよ」

「本当ですか? やったぁ」

爽やかな笑顔を浮かべるヴィルと、無邪気に喜ぶルビ。

まるで、休日に遊びに行く約束を交わすような軽いノリだが、そう簡単に兄弟になれるものではない。方法があるとすれば、それは――。

「だってさ。どうする?」

「……っ!」

彼は頬杖をつき、口角をゆるりと持ち上げる。

ヴィルとイースが結婚すれば、ヴィルとルビは義理の兄弟になる。結婚と明言されていないものの、意味を理解したイースの顔が赤くなる。

「か、からかわないでください」

「はは、ごめん」

ヴィルは飄々としていて掴みどころがなく、何を考えているの分からない。だが、「どうする?」と尋ねてきた瞳は、真剣なものだった。

(冗談、よね……? でも目が、本気だったような)

真に受けるつもりはないけれど、顔の熱はしばらく引いてくれそうになかった。

「……と、とにかく、ルイ様に少しでも信頼していただけるよう明日からも頑張ってみます」

「ああ、応援してる。第三王子殿下は、本当はとても寂しがり屋なんだ。イースみたいな人が傍にいてくれたらって思うよ」

そうしてイースは、ルイの侍女として頑張る決意を新たにした。