作品タイトル不明
連続更新SS ある意味の初体験(前)
とある指名クエストを受け、ザグソニーア帝国の近くにある町を訪れた。
そこそこ大きい町だが、飛行船ノアを止めるほどの飛行船倉庫がある訳ではないため、ノアは帝国に置いて馬車で移動してきた。
久しぶりにのんびりとした旅を満喫する。
町に到着すると宿を決めてから、 冒険者斡旋組合(ギルド) を訪ねた。
町の規模としては珍しく大きい。
大きいと言っても縦にではなく横に広がっている。
冒険者斡旋組合(ギルド) の扉を潜り中へ入るとすぐに理由がわかった。
横に広がっているのは飲食スペースが併設されているからだ。
今まで見てきた 冒険者斡旋組合(ギルド) は銀行か市役所のようなタイプだった。
今回のような飲食スペースが併設されているタイプを見るのは初めてである。
とはいえ飲食スペースが併設されている以外は、いつもの 冒険者斡旋組合(ギルド) と変わらないのだが。
感心しながら受付を済ませるため木札を受け取ろうとすると――
「おいおい、いつから 冒険者斡旋組合(ギルド) は子供の遊び場になったんだ?」
飲食スペースで飲み食いしている大男が周囲に聞こえるように声を出す。
彼が座るテーブルには5人の男達も座って談笑していた。
彼らの顔色や漂ってくる匂いから酒精を飲んでいるのがすぐに分かる。
昼間から酒を飲み、仲間内でああやって大声で喋るのはどうかと思いつつも、注意するほどではないため気にせず数字番号が焼き印された木札を受け取った。
途端に大男が怒りを露わに大声で叫ぶ。
「無視してんじゃねぇぞクソガキ! 俺様を誰だと思ってやがる! 舐めた態度取るとどうなるか分かってんのか!? あぁあッ!」
彼の台詞から仲間内で話しているのではなく、他者に絡んでいることを理解した。
内容からすると子供に絡んでいるようだ。
さすがにそんな行為は見過ごせず、彼が絡んでいる子供を探るため 冒険者斡旋組合(ギルド) をぐるりと見回す。
飲食スペースも含めて見たが、それらしい子供の姿は無い。
もしかして昼間から酒を飲み過ぎて酔っぱらっているだけなのか?
だとしたら良い迷惑だ。
「オマエに言ってるんだよ! 黒髪のガキが! 女連れて調子に乗ってるんじゃねぇぞコラ!」
「……もしかしてオレ達に絡んでいるのか?」
大声を出し、騒いでいる男が席を立ち、オレ達へと歩み寄ってくる。
彼が目の前に立っても信じられない。
だが現実としてどうやら、オレ達はこの髭もじゃ大男に絡まれているようだ。
今回のクエストに参加しているのはオレ、スノー、リース、シアである。
仕事前のため皆、現在の装備は軽装だった。
オレはUSP、スノーはリボルバー、リースは特に何も持たず、シアが護衛するようにコッファーを手にしている。
確かに銃器を知らない人が見たら、手ぶらで 冒険者斡旋組合(ギルド) を訪れた新人冒険者に見えなくもない。
また目の前に立つ男からすれば、オレ達を子供扱いするのも分かる。
男の身長は目算で2mを越えて、装備している革鎧の上からでも筋肉が発達しているのが分かった。
髭がもじゃもじゃと生え、髪の毛はぼさぼさに伸ばしている。
もしここが 冒険者斡旋組合(ギルド) でなければ、山賊の頭と勘違いしそうな風貌だ。
彼からすればオレやスノー達が子供に見えてもしかたないだろう。
男は酒精に酔った赤ら顔で自身の胸元を漁り出す。
彼は物理的にオレ達を上から見下ろし、冒険者タグを見せつけてくる。
「俺様はなレベルⅢのパズルル様だ。オマエらみたいなガキ共が何人束になっても敵わないぐらい強いんだ。分かるか? そんな俺様を無視してコケにした罪はちゃんと償ってもらわないとな」
ニヤニヤと得意面で語り脅してくる。
手慣れた様子から新人冒険者に似たようなことを何度も繰り返しているようだ。
また先程までパズルルが居た飲食スペースのテーブルでは男達がニヤニヤと同じような得意顔をしている。
他の席や 冒険者斡旋組合(ギルド) スペースにも他冒険者はいるが、誰も助けようという素振りは見せない。
むしろ余興を前にした観客のように楽しんでいるか、無関心かのどちらかだった。
本来、止めるはずの 冒険者斡旋組合(ギルド) 社員も『我関せず』という態度で仕事をしている。
さすがにそれはどうなのだろうか……。
まさか 冒険者斡旋組合(ギルド) に来たらこんなベタなイベントに巻き込まれるとは……。
普通、こういうお約束イベントは駆け出し冒険者時代に起こるものではないのか?
RPGで言うならレベル99の勇者にスライムが挑んでくるような状態だ。
逆に対処に困るという話である。
実際、撃退するのは簡単だ。
レベルⅢは一般的に新人を脱した一人前扱いの冒険者のことを指す。
とはいえ相手はこちらを新人冒険者と勘違いし、酒精で酔っぱらって油断し切っている。
極端な話、ここで彼を殺害しても無罪放免になる権力やツテもオレ達は所持しているのだ。
伊達にハイエルフ王国エノールの『名誉士爵』で、冒険者ランクと 軍団(レギオン) ランキングどちらもカンストしている訳ではない。
USPを撃ち込んでもいいし、シアにコッファーで9mmを叩き込ませることも可能だ。
だがさすがに殺すのは不味い。
オレは一番面倒が無い方法を選択した。
『自分達の身分を明かし、相手側に大人しく引いてもらう』だ。
オレは首からかけている冒険者タグのヒモを指で引っかけて取り出そうとする。
――それより早く彼があきらかな敵対行動をとってきた。
男はオレに一歩近付くと、視線を落とし酔っぱらった赤ら顔を近づけ睨み、脅してくる。
「びびって声も出ないみたいだな。後ろの女共と持ち金を置いていけ。そしたら痛めにあわずに済むぞ」
「いいぞ兄貴!」
「おれはあの一番胸のでかいエルフの女を分けてくださいね!」
髭男が座っていたテーブルの男達が嬉しそうに声を出す。
他のテーブルや 冒険者斡旋組合(ギルド) に居る一部冒険者も、口笛やヤジを飛ばしてくる。
冒険者斡旋組合(ギルド) 社員は未だに助けようとする素振りを見せない。
オレの背後で殺気が膨らむ。
スノー、リース、シアだ。
一線を越えた髭男の態度と囃し立てる冒険者、無関心な社員に腹を立てているのだ。
それはオレ自身もである。
オレは目の前の髭男の手を取って親指を握り、逆関節方向へと曲げた。
酒精を飲み酔っぱらっていた男は突然の反撃に対応できず、指の関節を極められたまま捻りバランスを大きく崩させる。
後は足を払えばお終いだ。
髭男は自身より圧倒的なオレに為す術もなく転がされ、顔から床へと落ちる。
『ギャッ!?』と短い悲鳴を聞くより早く、指から手を離し男の右腕を決めて、背中を膝で押さえつけた。
ここまで10秒もかかっていない。
PEACEMAKER(ピース・メーカー) では体術の訓練もしているため、この程度は誰でも出来る。
後は空いている左手でUSPを抜き銃弾を叩き込むのもよし。
ナイフで好きな場所を刺してもよし。
面倒なら髭男の背中を押さえている膝を肉体強化術で補助し、背骨を折ってもいい。
やりたい放題である。
しかしどの手段もとらず、改めて首から冒険者タグを取り出し名乗った。
「オレは PEACEMAKER(ピース・メーカー) 、リュート・ガンスミスだ。今日は指名依頼を受けたから仕事で来たんだ。悪いが新人冒険者じゃないんだよ」
この自己紹介に 冒険者斡旋組合(ギルド) 内部が凍り付く。
空気や時間まで物理的に止まったかのように皆、静止した。
一番最初に声をあげたのは意外にも、押さえつけられている髭男だった。
「びびるんじゃねぇ! はったりに決まってるだろうが!」
「疑うならタグを確認してもらっていいぞ」
あまりに堂々した態度に、髭男の主張で若干『こいつ本物か?』という疑いの視線を向けられたが、すぐに霧散する。
またあちこちでひそひそと会話がなされた。
( PEACEMAKER(ピース・メーカー) 、リュート・ガンスミスと言えば魔王を倒した勇者の……)
(魔力消失事件を解決した英雄でもあるんだろ。確か黒髪、黒目で嫁も複数居て獣耳や胸のでかいエルフが居るって聞いたことがあるぞ)
(確かに黒髪、黒目で嫁達も噂と一致するが……)
(後、趣味はトイレを改造することで、どんな魔術道具を開発するより情熱を傾けている変態らしい)
(いや、おれは筋肉が大好きでよく暇があると筋肉を鍛えているって聞いたぞ)
ウォッシュトイレはともかく、旦那様系の話が混ざっているようだ。
体力維持のためトレーニングは欠かさないだけで別に筋肉は愛していない。
彼らの噂話から、最近警邏中に商人に声をかけられると『リュート様の筋肉は張りがあり、キレがあって素晴らしいですね!』と褒めてきていた理由が分かる。
旦那様のマネをして上着を脱いでポージングを決めなくてよかった。冗談でもそんなことをしていたら今後、筋肉を褒められ続けられるところだった。
「タグなんていくらでも偽造できるだろうが! 騙ってるに決まっているんだよ! クソが!」
最近の商人と筋肉について考えていると、腕を極め背中を押さえられて動けない髭男が喚く。
冒険者登録する際、タグは偽造・勝手な内容変更禁止。
さらに特殊な防止魔術が施され、本人確認がおこなわれるため偽造は不可能だと説明されているはずだろう。
しかし彼は諦め悪く叫び続ける。
「不意打ちするなんて卑怯だ! 今すぐ俺様を解放して、正面からちゃんと戦えや! ぼこぼこにして勇者って騙り化けの皮をはがしてやる!」
この発言に再び場の空気が変化する。
確かに冒険者タグには特殊な防止魔術が施され、本人確認がおこなわれるため偽造は不可能とされているが、絶対ではない。
もしかしたらこの世界に何かしらの方法があって、誤魔化していることがあるかもしれない。
髭男の挑発を無視して戦いを避けるなら、彼は本物の勇者ではなく冒険者タグを偽造した偽者なのかも……。
何より勇者、英雄と讃えられる者の戦いを実際にこの目で見てみたい――という好奇の色がこの場に居る者達の瞳に宿る。
この世界に娯楽は少ない。
噂の勇者が戦う姿など、滅多に見られないある意味最高の娯楽である。
好奇心を抱くのはしかたないだろう。
周囲を味方に付けたと思ったのか押さえ込んでいる髭男がさらにまくし立ててくる。
「勇者って謳うなら俺様と戦えや! 俺様と戦うのが怖いなら、別に逃げてもいいんだぞ。そしたら今度からは『腰抜け勇者』って呼ばせてもらうがな!」
周囲に居る人々も口には出さないが、目で『戦え!』と訴えている。
唯一、 冒険者斡旋組合(ギルド) 社員達はどう対応すればいいか分からず、おろおろとしていた。
この雰囲気で戦いを避けたら『偽勇者が出た』と噂が流れる可能性が高い。
オレは溜息をついて、髭男を解放する。
「分かった。そんなに痛い目に遭いたいなら遭わせてやるよ。特別にハンデも付けてやる。好きなだけ仲間を連れてこい。オレは1人で十分だ」
「ガキが調子に乗りやがって。泣いて喚いて命乞いをさせてやる。おい野郎共! いつまで飲んでやがる! このガキをぶち殺すから手を貸せ!」
飲食スペースで飲んでいた男達が慌てて立ち上がり、髭男と合流する。
オレ達は無視して、さっさと 冒険者斡旋組合(ギルド) にある訓練場へと移動した。
冒険者斡旋組合(ギルド) の訓練場では、数人の冒険者が真面目に訓練をしていた。
オレ達が姿を現すと、剣呑な雰囲気で手を止め警戒した視線を向けてくる。
厄介事に巻き込まれたくないと顔にありありと書かれてあった。
移動途中、護衛メイドのシアがリースの『無限収納』からこっそりと装備品を取り出し、手渡してくれる。
「若様、こちらを」
「さすがシアだな。ありがとう」
しかもちゃんとこちらが欲しいと思っていた 戦闘用(コンバット) ショットガン、SAIGA12K&非致死性装弾一式だ。
こういう所がシアの凄い所である。
髭男達も訓練場に到着すると、自分達が所持している武器を抜く。
普通、訓練所にある刃を潰した剣などを使うのではないのか? 彼らは本気でこちらを殺しにかかってくるようだ。
まぁ別に真剣だろうが、訓練用の武器だろうが当たらなければいいだけである。
オレは指摘せず、準備が整うのを待つ。
訓練をしていた冒険者も状況を理解したらしく、邪魔にならいよう端へと移動する。
髭男は大剣で他、手下は全部で5人。
3人がショートソードで、残り2人は弓を手にしている。
バランスが取れたパーティーといえなくもない。
ただし冒険者タグを所持していなかったら、完全に山賊にしか見えないのが欠点ではあるが。
髭男が大剣を両手に握り締め、肩へと担ぐ。
「俺様をコケにして、喧嘩を売ったことをあの世で後悔するんだな!」
「はいはい、分かったからさっさとかかってこい。時間がもったいないから」
「ッッッ! このクソガキが!」
挑発すると簡単に血が上り、冷静さを失う。
髭男は地面を蹴り、高速で襲いかかる。
その動きは予想以上に素速い。
すぐに相手が魔力で体を補助していることに気付く。
オレは足を同じく肉体強化術で補助し、後方へと飛び距離を取る。
先程までオレが立っていた地面に大剣がめり込む。
「へっへっへっ……よく避けられたな俺様の必殺の一撃を。だがいつまでこの攻撃を回避し続けられるかな」
髭男は得意気に大剣を担ぎ直す。
背後に控える部下達も得意気な表情をしていた。
魔術師にはなれないが、魔力を持つ者なら、先程のように一時的に肉体強化術などで体を補助することができる。
実際、オレも魔術師としての才能は無いが、幼少時代から少ない魔力をいかに効率よく使うかに頭を悩ませてきたものだ。
一方、髭男はというとわざわざ全身に魔力を巡らせているため、すでに肩で息をしている。
あと使えて1、2回が限界だろう。
「野郎共! 俺様に合わせろよ! 次でこの生意気なガキをぶっ殺してやる!」
髭男の声に手下の男達が呼応するように声を上げ矢で狙いを定め、手にしたショートソードを見せびらかせるようにしながら距離を縮めてくる。
たまにショートソードの刃を舐める奴が居たが、あれは意味あるのだろうか?
まったく恐怖を煽らないし、むしろ刃を舐めて汚い、手入れが面倒になる程度の感想しか出てこないのだが……。
こんな事で怪我を負うのも馬鹿らしいので、さっさとケリを付けるためSAIGA12Kを構える。
ほぼ同時に髭男が全身を再び肉体強化術で補助して、大剣を振りかぶる。
「くたばれ――っぶぐあ!?」
カウンター気味に非致死性装弾の木製のウッド弾が髭男の顔面に食い込む。
男は蹈鞴を踏むも、まだ倒れていない。
オレは畳みかけるように2、3発と非致死性装弾を叩き込む。
「ぐぶばぁ!」
さすがに合計4発の非致死性装弾を叩き込まれて髭男は意識を手放す。
発砲音と非致死性装弾の威力に驚いた手下達は、オレを攻撃するどころか足をすくませ震え上がる。
念のためマガジンを交換した後、手下達へ銃口を向ける。
「ヒィ!? た、たすけ――ぶば!?」
「逃げ、ぐぎあゃ!」
「降参し、ばぁんぐあ!?」
震えて立ち竦んだ者や逃げようとした者、剣を捨て降参を表明した者など関係なく非致死性装弾を撃ち込む。
端から見ると嗜虐的だが、二度とこのような事をしないよう、また今回の戦いを観戦している冒険者達に対する戒めのため手を抜かず心を鬼にして非致死性装弾を叩き込んだ。
決して、ずっと見下された態度を取られて腹が立っていた訳ではない。
結局、模擬戦は10分もかからずオレの完勝だ。
髭男&手下達を全員KOした後、SAIGA12Kを手にしたまま観戦していた冒険者へと視線を向ける。
オレ達のことを『偽者勇者ではないのか?』と疑っていた者、髭男の行動を囃し立てていた者達が一斉に視線を逸らす。
中にはそそくさと逃げようとする者も居たが、逃がすつもりはない。
今回の件で 冒険者斡旋組合(ギルド) を含めて一言いわないと納得できないからだ。