軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第444話 軍オタアフター 悪寒

湯の町リリカーン 冒険者斡旋組合(ギルド) 支部出入口から1人の女性が出てくる。

手には箒とちりとりを持ち、一度眩しそうに太陽を見つめた後、胸の前で両手を握り締める。

気合いを入れているようだ。

彼女はやる気に満ちた表情で立てかけておいた箒を手に取ると、掃除を開始する。

鼻歌混じりで機嫌良さそうに箒を動かす。

彼女は 冒険者斡旋組合(ギルド) の受付嬢で、 魔人種族(まじんしゅぞく) らしく頭部から羊に似た角がくるりと生え、コウモリのような羽を背負っている。

年齢は20台前半。前世で例えるなら短大を卒業して、今年就職した女性社員といった風体だ。 冒険者斡旋組合(ギルド) 服がよく似合っている。

って! どこからどう見ても受付嬢さんじゃないか!?

オレ達が彼女の存在に驚いていると、 冒険者斡旋組合(ギルド) 前を掃除していた受付嬢さんの手が止まる。

彼女もこちらに気付き、ジッと見つめてきた。

眼を細め、首を傾げる。まるで情報は知っているが、初めて生で見た人物の名称を思い出そうとしているようだ。

不意に発光するように彼女の瞳が輝く。

その態度はまるで憧れのスターと出会ったような輝き具合だ。

受付嬢さんが手に箒を持ったままこちらへと駆け寄ってくる。

目の前の来ると、興奮気味に尋ねてきた。

「あの! もしかして皆さんは魔王を倒し、魔力消失事件を解決した PEACEMAKER(ピース・メーカー) 様ではないですか!?」

彼女の声は大きすぎて通りすがりの人達が足を止める。

今回はお忍びでハイエルフ王国エノールの領地に来ているため、あまり目立ちたくない。

下手に目立って新婚旅行中に何かあっても面倒だからだ。

とはいえ相手はあの受付嬢さんと瓜二つ。

どう見ても関係者だ。

口調や台詞から本人や今まで出会った人物ではないのは確定。

無視する訳にはいかない。

オレは咳払いしてから相手に落ち着くよう声をかけ、ジェスチャーをする。

「あまり大きな声を出すのは回りの方々の迷惑になるので、落ち着いてください」

「す、すみません! 私ったら興奮して……」

彼女は素直に声量と気を落とす。

あの受付嬢さんに比べると、言動が擦れていない印象を受ける。近くでみると顔つきもどこか幼く、声も若々しい。彼女が来ている制服も『着ている』というより『着せられてる感』が強かった。

とりあえず道の真ん中で会話をするのも何なので、 冒険者斡旋組合(ギルド) 前へと移動する。

改めて自己紹介を交わす。

「仰る通り自分達は PEACEMAKER(ピース・メーカー) です。ただ現在は 軍団(レギオン) としてではなく、新婚旅行――私用で来ているのであまり騒ぐのは勘弁してください」

「も、も、もし訳ありませんでした! 母から皆様のお話を聞いて、ずっとお会いしたいと思っていたのでつい興奮し過ぎてしまいました」

彼女は再び反省し深く頭を下げる。

母?

受付嬢さんではないし、彼女の妹や従姉妹でもない。残るのは北大陸に居る方か?

「もしかして北大陸の 冒険者斡旋組合(ギルド) で支部長を務めている?」

「はい! その娘です!」

にこにこと元気よく返事をする。

『母や他親戚によく似ていて驚かれるんですよ』と、彼女は定番ネタを披露するように告げてくる。

知っているよ!

またあの受付嬢さんに似た人物が居たとは……。

もう何度目か分からないやりとりだ。

いい加減、遺伝子は仕事をして欲しい。

いや、仕事をした結果なのか?

混乱していると目の前の受付嬢さんが話をする。

彼女自身、結婚式パレード&パーティーに出席する予定だった。しかし、新人受付嬢として研修があったため出席することができなかったらしい。

なので勤務地でオレ達に出会えて本当に幸運だと喜んでくれる。

喜んでくれるのは嬉しいのだが……彼女はとんでもないことを口走った。

「私も憧れのお姉ちゃんのような『伝説の受付嬢』になって、皆さんをサポートできるよう頑張ります!」

「伝説の受付嬢?」

「はい! お姉ちゃん――皆さんもご存じのドラゴン王国、第一皇子、ロン・ドラゴン様に嫁いだ受付嬢です。お姉ちゃんは 冒険者斡旋組合(ギルド) でも、有名な受付嬢なんですよ。知りませんでしたか?」

オレ達は首を横へと振る。

改めて彼女から、受付嬢さん伝説の話を聞いた。

彼女曰く――当時、まだ無名だった PEACEMAKER(ピース・メーカー) 団長のリュート・ガンスミスの才能を見抜き手厚くフォローした高い先見性の持ち主。

さらに 冒険者斡旋組合(ギルド) の不正を見抜き、受付嬢にもかかわらず義憤から自分の立場も顧みず、上層部や下部など関係なく罪を告発し裁いた。

冒険者斡旋組合(ギルド) の不正を暴いたことで受付嬢という立場を失ったが、彼女の徳の高さに魔物大陸でも特出した力を持つ 魔物(まーちゃん) が付き従うようになる。

また一時は、魔王を倒した勇者、『魔力消失事件』を解決した英雄である PEACEMAKER(ピース・メーカー) と意見の食い違いから仲違いをしてしまった。

しかし、たとえトップ 軍団(レギオン) 相手にも引かずに意見をする姿に、ドラゴン王国、第一皇子、ロン・ドラゴンが感銘を受けて、彼女を妻にしたいと強く願うようになる。

「そんなお姉ちゃんが今では 冒険者斡旋組合(ギルド) 内部で『伝説の受付嬢』と呼ばれるようになったんです! 私もお姉ちゃんのように正義心を持ち、不正を許さない公平な受付嬢になりたくて! だから、私にとってもお姉ちゃんは憧れなんです!」

目の前の新人受付嬢さんは、大きな瞳をキラキラと輝かせて断言した。

新人故にまだ世間を知らず、理想を夢見る――そんな瞳の色だ。

『…………』

一方で内情を知るオレ達は、彼女とは正反対に暗い表情になる。

まさか 冒険者斡旋組合(ギルド) 内部であの受付嬢さんが伝説扱いされているとは……。

数々の奇行を考えれば確かにそうなってもおかしくはない。

だいたい 冒険者斡旋組合(ギルド) 内部の不正を訴え出たのもギギさんに振られた腹いせだし、まーちゃんが彼女に従うのも恐怖からだ。

ロン・ドラゴンが受付嬢さんを気に入って嫁にしようとしているのは――彼の器が大きいからか、感性が一般人に比べて著しく狂っているかのどちらかだ。

個人的には後者の可能性が非常に高い気がする。

口が裂けても言えないが。

「そ、そうなのか。オレ達もお姉さん――受付嬢さんには色々お世話になったから気持ちはよく分かるよ。き、君もその……頑張って!」

「ふわわわぁッ! まさか PEACEMAKER(ピース・メーカー) 団長様に応援してもらえるなんて! はい! 私も頑張って皆様や大勢の冒険者達のために今後も尽くします!」

とはいえ、ここで余計なことを言って、受付嬢さんの耳に入っても困る。

オレ達は微妙な表情になりながらも、新人受付嬢に当たり障りのない返事をした。

彼女は声をかけられたのが本気で嬉しいらしく、瞳の輝きを当社比2倍にして満面の笑みを作った。

これ以上、長く話をしているのも邪魔になるので、早々に断りを入れて 冒険者斡旋組合(ギルド) を後にする。

彼女はオレ達の姿が見えなくなるまで、邪気の無い純粋な笑みで見送ってくれた。

衝撃的な出会いをしたのもそうだが、この後の展開を考えると頭が痛くなる。

受付嬢さんと初めて会った時、偽冒険者に騙され奴隷として売り飛ばされた。

ハイエルフ王国エノールで受付嬢さん妹と出会った時は、 大蠍(ジャイアント・スコーピオン) 退治やルナの誘拐、結界石が破壊され国の危機になる。

北大陸、ノルテ・ボーデンの 冒険者斡旋組合(ギルド) では受付嬢さん叔母が居て色々厄介事に巻き込まれた。

彼女達の一族に関わると大抵ろくな目に遭わない。

せっかくの楽しい新婚旅行なのに、新人受付嬢と出会ったことで事件に巻き込まれる気がしてきた。

まるで旅先で名探偵の孫などに出会ったような心境だ。

新人受付嬢に妙なダメージを受けたため、観光を続行する気分は完全になくなってしまう。

オレ達は来た道を無言で引き返す。

誰も何も口にしなかったが、そのまま真っ直ぐ宿へと戻る。

―― 白銀邸(はくぎんてい) に戻り、妻達と一緒に露天風呂へ入ってリフレッシュしようとしても、決して『嫌な予感』が薄れることはなかった。

折角の新婚旅行だ。できればこのまま平穏無事に過ぎて欲しいものだが……往々にして悪い予感というのはよく当たる。

翌日、『事件が起きる』というオレの嫌な勘が的中する。

その事件とは……