軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第445話 軍オタアフター 問題

新人受付嬢と出会った翌日。

彼女の登場に妙なダメージを受けてしまい昨日ほどは盛り上がらなかった。

しかし、それでも嫁達に十分絞り取られてしまったが……。

何が搾り取られたのかは言わないが。

折角なのでちょっと早めに起き、皆で漁港へと向かう。

今日の朝食はすぐ摂らず、港で新鮮な魚介類を自分達で選んで購入。

宿に持ち帰って調理してもらう予定だ。

昨日と同じく馬車で出入口まで移動後、徒歩で港へと向かう。

前世、日本に居た頃も漁港の市場など生で見たことはない。

せいぜいネットやテレビ、漫画等で観たことがあるぐらいだ。

個人的にも漁港市場には興味がある。日本に居た頃、一度は船に乗って釣りをしてみたいと思ったほどだ。

すっかり新人受付嬢から受けた妙なダメージを忘れ、うきうきとした気分で市場へと向かったのだが――。

「? 想像していたより随分活気がないな」

木箱には魚や貝、蛸、カニのようなモノなどが多数積まれ、並べられている。

よく分からない文字と数字が描かれた板が、その箱や前に並べられていた。

この板で魚の値段や交渉、やりとりをしているのだろう。

テレビ等で観たことがある鮮魚市場といえなくもないのだが……漁師や買い付けの人々は目の前に並ぶ魚介類より、深刻そうな顔つきで話をしているのだ。

人手は多く、あちらこちらで話もしているのだが、そのせいで暗い雰囲気が漂い市場に活気が無い。

何かあったのだろうか?

気になったので、話し込んでいる漁師らしき人物に声をかける。

「お忙しい所、すみません。皆さん深刻そうに何かを話しているようですが、何かあったのですか?」

「うん? 兄ちゃん達は観光客さんかい?」

「はい、一昨日からこちらに泊まらせてもらってます。今日は朝食にこの町で捕られたばかりの新鮮な魚などを買えればなと思って来たんですが……」

オレの返答に漁師達が納得する。

一見さんでも交渉すれば少量なら買い付けができるらしい。

良い情報をゲットしたが、問題は次の話である。

どうも沖合に漁へ出かけた漁船が巨大な魔物に沈められたらしい。

「巨大な魔物ですか?」

「しかも助かったのは1人だけ。他の奴等はみんな喰われちまったか、船と一緒に沈んじまったらしい。助かった奴の話じゃ、とにかく大きな魔物で気付いたら船が沈められていたんだと」

船を沈めた魔物はただ『大きい』としか分からず、どういった類のモノかも分かっていないので対策が立てられないとか。

対策が立てられなければ次に沈められるのは自分達の船かも知れないので、漁師達はみんな怖がっている。

それに一時的に魔物がいるだけならまだしも、もし長期的に居座られたら漁師達は廃業するしかない。

いくら彼らの気性が荒い海の男達でも、死ぬと分かっている漁には行けるはずがないのは道理だ。

話を聞いて納得する。

市場に魚は多く水揚げされているが、ぱっと見ると大物は少ない。

海に漂っていた生存者を助けた後、周囲で漁をしている仲間達に伝えてすぐに戻って来たのだろう。

嫌な予感が当たった。

まさか昨日今日で問題にぶち当たるとは……。

せっかくの新婚旅行だというのに。

しかし、知ってしまったからには見過ごせない。

なにより、オレ達、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) の理念は『困っている人、助けを求める人を救う』だ。

漁師だけではなく、新鮮な魚介類が捕れなくなるのは観光地である湯の町リリカーンにとっても死活問題である。

放って置くわけにはいかない――が、一応、念のため新婚旅行中の嫁達にお伺いを立てる。

漁師達から距離を取り嫁+メイドと話をする。

『新婚旅行中で申し訳ないが、この状況を見過ごすことはできない。漁師達や湯の町リリカーンのためにも、漁の邪魔をする魔物退治をしたい』と。

この願いに妻達&メイドは、

「当然だよ! みんなが困っているならわたし達、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) の出番だよ!」

スノーが元気よく答える。

『困っている人、助けを求める人を救う――それが私達の使命です。新婚旅行など関係ないですよ』

クリスも笑顔でミニ黒板を掲げる。

「リュートさんもそんな申し訳なさそうな顔をしないでください。私達もやりたくて、やるのですから」

リースがこちらの心情を察してフォローまでしてくれた。

「それに新婚旅行中とはいえ、その魔物をすぐに退治すれば皆さまと過ごす時間は十分にとれますからね」

ココノの前向きな答えにメイヤが賛同する。

「ココノさんの仰る通りですわ! リュート様が開発した多種多様なすんばらしぃ兵器を用いれば海に出る巨大な魔物など鎧袖一触! 物の数ではありませんわよ!」

メイヤの慢心発言は若干フラグっぽいが、それ以上に妻達の言葉に胸が熱くなった。

軍団(レギオン) の方針とはいえ、一生に一度の新婚旅行中、嫌な顔一つせずむしろ積極的に理念を優先してくれる。

目指す理想を理解し、支えてくれる妻達に頭が下がる思いだ。

(彼女達と結婚して本当によかった)と心の底から感謝した。

一方で護衛メイドであるシアが、苦言を呈する。

「自分も若様のご意見に賛成です。しかし問題が一つ。湯の町リリカーンはハイエルフ王国エノール領。魔物退治をするのは問題ありませんが、派手に動くとハイエルフ王国から何かしらの動きがあるかと」

現在は新婚旅行という私用で旅行に来ている。

あくまでプライベートのため、第三者から横やりを入れられる言われないが、 軍団(レギオン) として動くなら話は別だ。

魔王を退治し、『魔力消失事件』を解決した PEACEMAKER(ピース・メーカー) は有名過ぎるのと、湯の町リリカーンを治める領主にも面子がある。

頼まれてもいないのに、ノコノコ出てきて解決した場合、『手柄を横取りされた』『民衆に対する人気取り』、他いちゃもんをいくらでも付けることが可能だ。

さらに問題はこの町がハイエルフ王国エノール領という点である。

現在もリースの実姉であるララ、その赤ん坊は地下牢に入れられている。ここで派手に動き活躍しても、失敗しても政治的に利用される可能性がある。

政治的に利用されるのがオレ達だけで済めばいいが、ララ&赤ん坊にも影響があるかもしれない。

シアの指摘通り、動くにしても細心の注意を払うべきだ。

これが無名の一冒険者なら話は違ってくるのだが……。

軍団(レギオン) が大きくなり、名声がついた弊害とも言えるだろうな。

「とりあえず、まずは情報収集からだ。情報が集まり次第、精査して必要な戦力を検討しよう。なるべく目立たず、迅速に行動することを心がけてくれ」

オレの指示に皆が頷く。

早速、それぞれ役割分担を決めて行動を開始しようとしたのだが……。

「あぁぁ! ちょうどよかったです! 勇者様、大変です! 事件です! 大事件が起きたんですよ!」

漁港に響き渡る大声。

視線を向けると昨日出会った新人受付嬢が、オレ達の姿を見つけて笑顔で駆け寄ってくる。

巨大魔物の出現に恐怖していた漁師達が『勇者』というフレーズにざわつき、新人受付嬢へと注目した。

新人受付嬢は 軍団(レギオン) としてではなく、新婚旅行――私用で来ているので騒がないで欲しいという昨日の釘刺しを完全に忘れて近付いてくる。

自分の口元が引きつるのを自覚した。

本気で勘弁して欲しい。

幸いまだ距離があったため、人混みに紛れつつ、離脱しようと動くが――

「『 黒毒(こくどく) の魔王』レグロッタリエを倒した勇者様! 世界中から魔力を奪った大罪人であるランス・メルティアを倒した大英雄! 世界の守護 軍団(レギオン) 、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) を率いるリュート・ガンスミス様と奥様方! 大変なんです!」

新人受付嬢は肉体強化術も使っていないのに、かなりの速度で駆け寄ってくる。

これが若さか!

オレ達は集団で移動していたため、彼女の速度にすぐ対応できず接近を許してしまう。

お陰でその場に居る漁師や観光客達などの注目を一心に集めてしまった。

皆から完全にロックオンされてしまう。

なかには『結婚式パレードを見に行ったけど、確かにあのお方は勇者さま達だべ』と言い出す人が出る始末だ。

新人受付嬢の行動により、静かに行動を起こすという当初の目的が完全に潰えてしまった。

本当に勘弁してくれ……。