軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第425話 脱走事件

リースから相談を持ちかけられた。

その内容とは『脱走未遂事件が起きたのですが失敗して、結果、ララお姉様とお腹の赤ん坊と共に処刑すべきという派閥が優勢になってしまったのです』とのことだ。

オレはあまりの内容に思わず驚きの声をあげてしまう。

その後、リースから詳しい話を聞かされた。

地下牢に囚われているララ自身が脱走未遂を起こした訳ではない。

ララを支持する派閥が、地下牢に閉じこめられている彼女を連れ出し、妖人大陸最大国家であるメルティア王国へ亡命しようとしたのだ。

元々ララを支持する派閥は当時、最大派閥と言ってよかった。

しかし、現在は既にリースの弟が産まれ、次期トップとしての教育が始まっている。

また、以前ハイエルフの城――ウッドキャッスルの約10km地点にある『結界石』が破壊されるとララが『予知夢者』で予言していた。

その危機を救うため、当時オレ達はリースの願いによってハイエルフ王国エノールを訪れていた。

しかしオレ達が結界石問題に関わるのに腹を立てララ派閥が、ルナを誘拐。

ルナを無事に帰して欲しくば、オレ達に国外へ出ろと要求してきた。

そして、オレ達は一度ハイエルフ王国エノールを出たが、ルナを救出しすぐに引き返した。

誘拐計画を企てたハイエルフの若者達は、国王からかなり厳しい罰を受けた。

愛娘であるルナが売り飛ばされる寸前だったわけだから当然といえば当然だ。

詳しい罰は知らないが、ララ派閥は誘拐事件を切っ掛けに力を落としていった。さらに次期国王となる弟が産まれ、ララがランスに協力してこの世界を揺るがす歴史的犯罪を犯した。

ララ派閥は風前の灯火まで力を落としてしまう。

彼らは一発逆転を願いララを救い出し、メルティア王国へ亡命しようとしたのだ。

メルティア王国は力を落としているとはいえ、妖人大陸最大の国家。

メルティア王国の元王子であるランスの血を引き、ハイエルフ王国王族の血を引く子供がララのお腹に居る。

メルティア王国に亡命後、ララの赤ん坊にメルティア王座を継がせ、次にハイエルフ王国へと返り咲くという計画を企てていたらしい。

彼らからすればメルティア王国、ハイエルフ王国エノールの二国を同時に手に入れるナイスアイデアだった。

しかし、そのバラ色の妄想は、ララが居る地下牢に到達する前に頓挫してしまう。

地下牢に辿り着く前に捕まってしまったのだ。

捕まえた彼らを尋問した結果、以上の計画が明るみに出た。

馬鹿が暴走して捕まり罰を受けるだけなら深刻になる必要はない。

問題はララの立場が悪くなってしまったことだ。

もう二度とこのような問題が無いよう『母子ともに処分すべき』という声が強まっている。

ララ自身は何もしていないのにだ!

手紙でリース父曰く、故に当分、ハイエルフ王国エノールには近付かないよう警告される。

下手に里帰りして、今回の騒動に巻き込まれないようにするためだ。

一通り説明を聞く。

昨夜からリースが落ち込み、シアがピリピリしていたわけだ。

馬鹿な支持者が暴走したせいで、何もしていない姉&赤ん坊を処分すべきという声が大きくなったら、オレでも怒るだろう。

とはいえすでに事件は起き、解決してしまっている。

もし『ララ&赤ん坊脱走計画』の情報を事前に知っていれば、極秘裏に実行犯を止めて無かったことにできたかもしれないが。

後はハイエルフ王国エノールの問題である。

唯一、オレ達に出来ることがあるとするなら、方法は一つしかない。

リースが膝の上に置いた手をギュッと握り締める。

「父は手紙で私とルナに関わらないよう厳命していました。下手に関わって私達自身にまで被害が出ないようにとの配慮でしょう。……それでも私は見過ごすことができないのです。これは私自身の我が儘です。感情論で、まったく理論的でも、メリットもありません。それでもリュートさんにお願いしたいことがあります。 PEACEMAKER(ピース・メーカー) で、姉と赤ちゃんについて保証して欲しいのです」

もしオレ達が出来ることがあるとするならば、リースの願い通りララと赤ん坊について PEACEMAKER(ピース・メーカー) で保証することだろう。

仮に保証した場合、何か問題が起きた際、責任を取る立場になるということだ。

正直、うちの 軍団(レギオン) になんのメリットもない。

むしろ世界を敵に回した実行犯、主犯格の血を引く赤ん坊という危険な爆弾を抱えることになる。

さらにそうしたとしても、彼女達の将来は暗い。

一生母子共々、牢屋で過ごす可能性が高いのだ。

本当にデメリット&暗い未来しかない。

リース自身、一晩考え込み、それでも真っ直ぐオレを見つめて言葉を続ける。

「姉はリュートさんやスノーさん、クリスさん、ココノさん、メイヤさん、他大勢の方々に迷惑をかけてきました。命を落とした方も居ます。それでも、出来るなら姉を見殺しにすることだけはしたくありません。身内だから、家族だからという利己的な理由ですが、私の姉を、赤ちゃんをどうか助けてください! お願いします!」

彼女は深々と頭を下げてくる。

リュート・ガンスミスの妻でもなく、ハイエルフ王国エノールの王族でもない。

ただ家族を助けたい一心で頭を下げる少女の姿があった。

オレの答えなど初めから決まっている。

席を立ち、リースの隣へと座る。

彼女の肩を叩き、顔を上げさせた。

「ありがとう、リース。話をしてくれて。ララさんと赤ん坊の件、分かったよ。 PEACEMAKER(ピース・メーカー) で二人の身柄について保証させてもらうよ」

「いいんですか?」

「もちろん。リースの姉なら、オレの義姉でもあるんだ。それに色々あったが、理由を知ればスノー達だって絶対に反対しないよ。たとえ誰に反対されても、団長として絶対に約束する。だから、もう大丈夫だ」

リースが安堵から、涙をこぼす。

オレはそんな彼女を抱きしめ、背中を軽く叩く。

「ありがとうございます、リュートさん。私、もし断られていたらララお姉様が処刑されるかもと思って……」

「オレが大切な奥さんのお願いを断るわけないだろ? たとえ保証した後に問題が起きても、オレ達には 軍団(レギオン) の団員や力を貸してくれる人達が大勢いる。だから後ろめたく思ったり、将来のことを考えて落ち込まなくても大丈夫。きっと上手くいくさ」

リースはオレの胸で何度も頷く。

彼女のさらさらとした金髪を撫でながら、落ち着くまで声をかけ続けた。

10分ほどだろうか……ようやくリースが落ち着き顔を上げる。

彼女は兎のような赤い目で、憑き物が落ちたような表情を作った。

「ありがとうございます、リュートさん。なるべく早く姉達について保証する旨のお手紙をお願いします。すぐに国へ贈るので」

「手紙は今日中に――っていうか、今すぐ書くよ。でも手紙より、オレ達が直接乗り込んで説明した方が説得力ないか? 結婚式の報告もあるし」

オレの提案にリースが首を横に振る。

「止めておいた方がいいと思います。父も手紙に書いていましたが、私やルナが帰省して暴走したララ派閥に襲われたら余計に姉の立場が悪くなります。それが天下の PEACEMAKER(ピース・メーカー) ならなおさらです」

オレ達がハイエルフ王国エノールに行ったとしてララ派閥に襲われる理由など無い――と思ったが、馬鹿は想像以上に馬鹿なことをするものだ。

仮にオレ達を襲い人質にして、ララ釈放の要求を通すぐらいするだろう。もしくは逆恨みで単純に襲いかかってくるか……。

もしそうなったら国王の面子的にもララ&赤ん坊を庇い続けるのは難しい。

リースの指摘通り、帰省せず手紙で身柄を保証する方が無難だな。

一応、ミューアに頼んで正式な外交ルートで釘も刺しておこう。

彼女が目を光らせていれば安心だ。

オレは早速、執務室の机に座り手紙を書く。

――書いている途中で気付く。

考えてみれば、ララがオレの義姉とするなら、ランスが義姉の夫になるのか……。

あのランスが義兄(厳密に言うと違うが)。

思わず書いている手が止まる。

「? リュートさん、どうかなさいましたか?」

「いや、ララがオレの義姉になるなら、ランスが義兄になるんだなと思ってさ。変な気分になったんだ」

「確かになんだか可笑しいお話ですね」

泣いた後、リースが笑みを浮かべる。

オレも釣られて笑ってしまった。

しばらく二人で笑った後、改めて手紙を書き出した。