軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第408話 お見舞い

「ははっははは! よく来たなリュート!」

「クリスや皆さんもお久しぶりね」

魔人大陸、ブラッド家。

いつものように裏の平原に飛行船ノアを停めて、魔術で簡単ながら屋根を作り出す。

執事長のメリーさんに案内され、慣れ親しんだリビングに通された。

メリーさんに土産を手渡し終えたところで、旦那様達――ダン・ゲート・ブラッド伯爵と、セラス・ゲート・ブラッド奥様が姿を現す。

旦那様は筋トレの途中だったのか、上半身が裸で流れる汗をタオルで拭っていた。

旦那様が部屋に入っただけで、室内温度が数度上昇する。

どんだけの熱量なんだよ……。

奥様は『のほほん』とした笑みを浮かべ、相変わらず一児の母とは思えない楚々とした容姿をしていた。

いつも優しい笑みを浮かべ、朗らかな空気を漂わせている。

普通なら、奥様が側に居るだけで心が和むのだが――オレはランスに映像を見せられ知っている。

両手に鞭のようにしなる剣を持ち、巨大なスライム化した旦那様のオジ達や悪漢共を喜々として切り裂いていた奥様の姿を。

娘であるクリスでさえ、母親のそんな姿を見たことがないだろう。

普段、優しげな奥様が、悪鬼羅刹のごとく鬼気迫る姿で戦う姿は夢に視そうなほどインパクトがあった。

あの映像を観た後、長年奥様に抱いていたイメージが粉々に砕け散ったのは言うまでもない。

そんな二人が仲良くソファーへ座り、オレ達が訪ねて来たことを心底嬉しそうに歓迎してくれる。

オレはまず二人に頭を下げた。

「すみません、急に押しかけてしまって」

「はははっはっははっは! 畏まる必要などないぞ! ここはリュートの家でもあるんだ! 朝昼晩だろうが、 軍団(レギオン) やモンスター、敵を連れて来てもかまわんのだぞ!」

「そうそう。遠慮なんて必要ないわ」

旦那様が豪快に笑い無茶なことを言い出す。

軍団(レギオン) はともかく、モンスターや敵を一緒に連れて来ては駄目だろ……。

奥様も気楽な様子で同意する。

二人とも強者のため、モンスターや敵を連れて来たとしてもアトラクション程度にしか考えていないのだろうな。

オレは適当に笑いを零し、流しておく。

「そういえば一つ気になることがあるのだけど、リュートとメイヤちゃんの左腕……」

「気付いてしまいましたか、奥様」

奥様の指摘にメイヤは扇子を手に、優雅に微笑む。

今まで見てきたなかで一番のドヤ顔を作る。

「たいしたお話ではないのですが、つい先日、リュート様から『是非に!』自分の妻になって欲しいと申し込まれまして。わたくしも一番弟子としてリュート様のことは尊敬しておりますし、一人の異性としても憎からず想っておりましたので、お受けすることにしたんですよぉ」

メイヤはメルセさんが運び、そつなく並べた香茶を優雅に手に取りながら、余裕の態度で語り出す。

その態度はまるで『自分こそが正妻である』と言いたげなものだった。

メイヤ……めっちゃ調子に乗ってるな……。

旦那様や奥様は、娘の旦那がさらに妻を迎えたというのに気にすることなく祝いの言葉を贈る。

「そうかそうか! 結婚とはめでたいな!」

「メイヤちゃん、結婚おめでとう。何か祝いの品を贈らないといけないわね」

「旦那様、奥様、祝いの品などお気になさらず、言葉だけで自分達は満足ですから」

メイヤが返答するより先に、オレが断りを入れた。

さすがに、クリスの実家から結婚祝いを頂くのは心苦しい。

旦那様達が返答するより早く、用事を切り出す。

「実は今回突然押しかけたのは、ケンタウロス族、アームス・ビショップさんにお会いしたくて。魔王の毒に冒され療養しているとお聞きしたのですが、現在もなのでしょうか?」

「リュートの口からまた珍しい名が出たな」

「……妖人大陸で孤児院を営むエル先生の危機に駆けつけて頂いたので、改めてお礼のご挨拶をと思いまして」

旦那様達に向かって『アームスさんに女性を紹介しに来た』とは言えなかった。

オレの胸中に気付いているのか、いないのか。

二人は指摘せず、知っていることを教えてくれる。

「我輩が知る限り、未だ床に伏せているらしい。どうも復活した魔王の毒が思いの外強力だったとか」

「妹のカレンちゃんも心配して見舞いに来ていたけど、仕事があるからって獣人大陸に戻っちゃったのよね」

実家から帰ったカレンから話は聞いていた。

あれ以降、結構時間が経っているのにもかかわらず、未だに体調が回復しないとは……。

よほど魔王の毒素が強いようだ。

「なるほど……ありがとうございます。では、明日、彼の見舞いにビショップ家へ行ってきたいと思います」

旦那様達は、明日オレが伺いやすいように先触れの手配をしてくれる。

大変助かり、再度お礼の言葉をのべた。

一通り用事が終わると、今度は肩の力を抜いての談笑だ。

香茶を飲み茶菓子を口にして、近状を報告する。

気持ち的に、受付嬢さんにアームスを紹介する話は伏せてだ。

その間、シアが一切のメイド仕事に手を出そうとしなかった。

いつもなら他家だろうと、他の城のメイド仕事だろうと、古参のような顔で仕切るはずなのだが……。

なのに今回は妙に大人しい。

気になって視線を向けると、彼女は手を出そうとしないのではなく――出せずにいるようだった。

メイド長であるメルセさんの仕事が完璧過ぎて、手を出せずにいるらしい。

隙を見ては手を出そうとするが、その隙が無く互いに牽制しあっている状態だ。

皆が楽しげに談笑している横で、水面下では苛烈な戦いが繰り広げられていた。

彼女達は何をやっているんだよ……。

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翌日、昼過ぎ。

オレとクリスはケンタウロス族、アームス・ビショップの見舞いに行く。

当初、当事者であるメイヤも連れていこうと考えたが、結局、彼女は同行させなかった。

妹の幼馴染みで何より面識があるクリス、その夫であるオレなら問題はないだろうが、重婚相手の一人であるメイヤを連れて行っても気まずくなるだけだ。

相手があのアームスでも病人なのだから、気を遣わなければならない。

竜人大陸での土産を片手に、ビショップ家へと向かう。

ビショップ家は相変わらずデカかった。

ビショップ家は武器や防具の販売、製造、開発がメインの家である。

その武器や防具等の性能チェックを踏まえ、一族で傭兵稼業もやっているのだ。

カレンから聞いた話だと――長兄が実家のトップとして経営を担当。

次兄のアームスが長兄の補佐下に付き、一族の若い衆を纏める傭兵稼業のトップを務めているらしい。

兄二人の気質は真逆だが、それがかえって良かったのか、いがみ合うことなく仲が良いとか。

この2人が互いに足りない部分を補完することで、ビショップ家を支えているのだ。

オレとクリスは訓練所を脇目に、玄関を目指す。

訓練所ではケンタウロス族の若者達が、鎧を身につけ、模擬戦用の武器を手に実戦さながらの訓練をおこなっている。

気合いの入った声がここまで聞こえてくるほどだ。

このグラウンドのように広い訓練所で、旦那様の兄弟達に鉄槌を下し、ギギさんが謝罪をしたのだと思うと懐かしい気持ちになる。

玄関に辿り着く。

ビショップ家の屋敷は規格がとにかく大きかった。

二階はなく、玄関や廊下も幅や高さがある。

屋敷自体の敷地面積が圧倒的に広い。

ケンタウロス族は基本体が大きいため、その配慮なのだろう。

オレ達の前に案内の方が姿を現す。

挨拶をした後、見舞い品を渡した。

案内の方は早速、アームスの私室へと案内してくれる。

私室に到着すると、さらに奥にある寝室へと通された。

「ようこそお越し下さいました。リュート殿、クリス殿。寝室から失礼します」

映像越しではなく、久しぶりにアームスと顔を合わせる。

寝室の床には分厚い絨毯が引かれ、さらに何枚もの敷き布団のような布が重なっている。その上にアームスは身を横たえ、掛け布団を体に掛けていた。

窓から差し込む日光が壁の本棚の背表紙を照らす。さらに本棚の隣には剣、甲冑、槍などの武器防具が自然な形で置かれていた。

病気療養のためか、苦痛を和らげるためかやや甘く薬の匂いがする煙を静かに焚いている。

アロマキャンドル的なモノだろうか?

アームスは映像越しに観た時より、頬が痩けていた。

腕や足、体全体が一回り縮まった感じである。

「こちらこそ療養中にも関わらず、お時間を頂きありがとうございます」

『ありがとうございます』

オレとクリスは突然、受付嬢さんの話をせず、まず最初に挨拶をしたのだった。