軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第409話 アームスの本音?

アームスとの挨拶が済み、座布団のような敷物の上に座る。

ちょうどいいタイミングでメイドがお茶を並べ退席した。

一呼吸、間を置いてから切り出す。

「まずは感謝を。エル先生や孤児院、子供達を守って頂き本当にありがとうございます」

オレは座ったままの状態で頭を下げる。

隣に座るクリスも倣う。

「いえ、自分は何も。自分達が行かなくとも、ザグソニーア帝国の方々がきっと皆を守っていたでしょう。さらに情けないことに、自分は魔王の毒を受けてこの有様ですから……」

「そんなことは決してありません! アームスさんが体を張ってメルティア王国兵士達の暴走や魔王を止めたからこそ、皆が無事だったんです。自身を卑下するような言い方は止めてください」

オレの強い口調に、アームスは自信なさげに笑う。

毒を受けたせいか、体だけではなく、心も弱っているのかもしれない。

だが、嘘偽り無くアームスが居なければ、彼がメルティア王国兵士や魔王と戦っていなければ、被害はもっと酷かっただろう。

アームスがケンタウロス族を率いてくれたお陰で、メルティア王国騎兵に対し優位に立てた。

ランスの力により強化された『黒毒の魔王』の危険性にいち早く気付き、彼が先陣を切り時間を稼いでくれたから、最低限の被害で済んだのだ。

もしアームス達がいなければ、確実に今以上の被害が出ていただろう。

彼は力無く笑う。

「今をときめく英雄である PEACEMAKER(ピース・メーカー) 団長、リュート殿にそこまで褒めて頂けるとは。望外の喜びです」

疲れた表情で、乾いた笑い声を漏らす。

うーん……魔王の毒で体が弱り、心にまで影響を与えているようだ。

『瓢箪から駒』ではないが、ここまで気落ちしているアームスを励ます意味でも、受付嬢さんを紹介するのは良いタイミングだったのかもしれない。

彼の理想である『自分を支配して、従わせてくれる圧倒的強者』な女性を紹介することで、まず沈んでしまった心を持ち上げる。

そして心と精神の影響により、肉体も徐々に治癒するという流れだ。

咳払いをして、早速切り出す。

「……ところで、話は変わるのですが、実はアームスさんに紹介したい方がおりまして」

「自分にですか?」

「はい、実は彼女とは長い付き合いで。どれぐらい長いかというと、私の冒険者登録手続きをしてくださった程の古い知り合いで。この前、一度、アームスさんとお会いして――アームスさん? だ、大丈夫ですか?」

話の途中、アームスの顔色がはっきりと悪くなる。

思わず、話の途中で声をかけてしまうほどにだ。

彼は冷たいプールから上がったばかりのように、青い唇で尋ねてくる。

「り、リュート殿、その方というのはもしや……あの復活した『黒毒の魔王』を一撃で倒した怪物の上に座っていた受付嬢のことですか?」

「え、はい、よく分かりましたね」

『冒険者登録手続きをしてくださった』と『この前、一度、アームスさんとお会い』から、受付嬢さんを連想したのだろう。

彼女と会って以降、アームスさんは療養のためずっと実家に居る。

他の 冒険者斡旋組合(ギルド) の受付嬢に会ったこともないだろうから、当然といえば当然か。

だが、なぜ怯えたような表情をしているんだ?

受付嬢さん曰く、会った時、『目と目で通じ合うっていうんですか? 相手も私のこと熱い目で、食い入るように見つめてきてぇ』と言っていた。

アームスの性癖――げふん、げふん、理想の女性像は『自分を支配して、従わせてくれる圧倒的強者』だったはず。

彼が怯える理由など一つもない。

むしろ、そこは喜びの表情をするべきではないのか?

嫌な予感で背中に冷たい汗が流れる。

隣に座るクリスも、同様の気配を感じ取っているのか、額に尋常ではない汗を滲ませていた。

悪寒が全身を呵むため、自分でも分かるほど引きつった笑みを浮かべながら話を進める。

「そ、その受付嬢さんがアームスさんの病状を心配し、是非お見舞いに来たいと仰っているんです」

「結構です」

即答かよ!?

「け、結構ということはお会いしたいということですね。なら体調の問題もありますから、あまり大勢ではなく彼女一人で窺うということで」

「勘弁してください、リュート殿。許してください……」

アームスは涙目で頭を下げ出す。

彼のあまりに豹変ぶりに、問わずにはいられなかった。

「どうしたんですか、アームスさん!? 貴方の理想の女性像は『自分を支配して、従わせてくれる圧倒的強者』だったはずでしょう? 受付嬢さんなんてまさにぴったりじゃないですか!?」

彼はこちらの指摘に、顔を上げると真顔で答える。

「確かに自分の好みはそういうタイプの女性です。でも、物には限度があるじゃないですか。あの人はむ、無理です。じ、実は……恥ずかしくて誰にも言えなかったんですが、魔王の毒は今ほとんど完治しているんですよ。でも……あの時、魔王を一撃で葬った光景が目に焼き付いて、何度も夜、悪夢となって目を覚ますんです。なのでその本人と顔を合わせるなんて……本当に許してください」

アームスはまるで産まれたての子馬のようにがくがくと体を震わせ、さめざめと泣く。

ランスに映像を見せられた際を思い出す。

確かにあの時、彼は魔王を倒す光景をすぐ近く側で見ていた。

受付嬢さん&マーちゃんの『絶望』なんて生ぬるい光景を間近で見て、自身に向けられた訳でもないのにその余波で心が折れてしまったようだ。

つまり、彼がずっと療養していたのは魔王の毒のためではなく、受付嬢さんに対する 心の傷(トラウマ) のためだったのか!?

強すぎる毒は結局毒にしかならないわけか……。

オレはあまりの事実に、受け止めきれず再度確認してしまう。

「じょ、冗談ですよね? だって受付嬢さんは、アームスさんの好みでしょ?」

「勘弁してください」

「いや、勘弁とか、そ、そういう問題じゃありませんよね? アームスさんの好みの女性だから、受付嬢さんに紹介するって既に約束してるんですよ? あっちもノリ気だし、今更無かったことにはできませんよ!」

「確かに自分を尻にしいて、支配してくれる方が好みだと言いました。ですが何事にも限度があります! お風呂に入るのが好きだからと言って、溶岩の中に入る人はいないじゃないですか!? それと一緒ですよ! 自分には無理です!」

最後は開き直って叫び訴える。

その通りだから反論もできない。だからって、せ、正論言うなよ……ッ!

だが、ここでアームスに手を引かれたら、世界の危機だ!

どうにかして、彼に受付嬢さんの良い所を知ってもらわないと!

「で、でも結婚したら意外といい関係を築けるかもしれませんよ? 何より受付嬢さんは美人だし、気が利きますし、面倒見も良い。アームスさんは実家で傭兵家業もやってるじゃないですか? 彼女ならご希望通り問題なく、一緒に肩を並べて一緒に走り回れると思いますよ!」

「ならばリュート殿が娶ればいいのでは? 今更、奥方が一人、二人増えても問題無いでしょうし」

アームスは恥も外聞もなく開き直る。

こうなったら、何を言っても無駄だろう。

しかし受付嬢さんには、アームスを紹介するとメイヤが約束してしまっている。

さらに『ドラゴンの間』ですでにメイヤに代わってロンと決闘し、勝利しているのだ。

あちらが約束を守っているのにこちらが反故にしたら……考えるだけ恐ろしい!

どうにかしてアームスを説得しなければ。

もしかしたら、まーちゃんに乗っていない受付嬢さんに会えば、考えが変わるかもしれない。

それにメイヤとの約束は『彼との仲を取り持つ』だ。一応、取り持ったが『駄目でした』という言い逃れが通用するかもしれない。

オレはアームスに一度、受付嬢さんと顔を合わせるだけでも――と提案するため、口を開くが、

「ヒィッ!?」

隣に座るクリスが悲鳴を上げる。

彼女はオレの腕に抱きつくと、青い顔で窓に視線を向けていた。

尋常ではない彼女の態度に、自然とオレ達も窓を見る。

そこには白い塊が立ち、窓から部屋の様子を窺っていた。

よく目を凝らす。

純白の生地で作られた衣装は胸までをおおっており、肩や腕を大胆に露出している。

直に肩を晒すのではなく、細かいレースで作られた上着に袖を通すことで肌を透かしながら、純白生地とのコントラストを演出していた。

お陰で肩や腕を露出しているにもかかわらず、いやらしさはまったくない。むしろ清楚な雰囲気すら感じる。

髪は丁寧に結い、造花か生花なのか分からないが白い薔薇に似た花で髪飾りを作り止めていた。

さらに白いレースが後光のように背後に伸びている。

左右の耳たぶに真珠らしきイヤリング。

首元にも小粒だがキラキラ輝く宝石が飾られていた。

突然、窓に登場したせいですぐに理解できなかったが、どうやらあの白い衣服はウェディングドレスらしい。

さらに目を凝らす。

逆光のためすぐに理解することができなかった。

――いや、脳が理解を拒絶しただけかもしれない。

魔人種族(まじんしゅぞく) らしく頭部から羊に似た角がくるりと生え、コウモリのような羽を背負っている。

年齢は20台前半。顔立ちも整っており『可愛い』というより、美人タイプだ。

今はウェディングドレスのせいかより、一層、その美しさに磨きを掛けているのだが……目に光が無いため『綺麗』と思うより、死の恐怖を感じてしまう。

いつもの 冒険者斡旋組合(ギルド) 服ではないため、すぐに気付くことができなかったが、今、窓越しに部屋を覗き込んでいる人物は、

「う、受付嬢さん……」

そう、受付嬢さんだ!

彼女はなぜかウェディングドレス姿で、窓越しにアームスの部屋を覗き込んでいたのだった。