軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第40話 ブラッド家、反撃の狼煙

リュート、12才

オレとお嬢様は無事、メイヤ・ドラグーン家に居場所を貰えることになった。

少々予想していた反応とは違ったが、歓迎してくれるなら問題無し。

彼女の好意で旅の疲れを癒すためまず風呂場に案内される。

脱衣所で衣服を脱ぎ、風呂場へ入った。

「おぉ……」

泳げそうなほど広い浴室にたっぷりの湯が張ってある。

石鹸やタオル、新品の桶まであった。

さすが竜人大陸に名が轟く天才魔術道具開発者。

金には困っていないらしい。

体を石鹸でくまなく洗い、垢を落とす。

こちらの異世界に転生してほぼ初めて、肩まで熱い湯に浸かった。

「あぁ~生き返る。やっぱり風呂はいいな」

泳ぎはしなかったものの、広々とした浴槽に浸かり手足を伸ばし堪能する。

風呂から上がると着替えが用意されていた。

竜人種族の男性が着る伝統衣装が綺麗に畳んで置かれていたのだ。

デザインは前世の中国にあるカンフー衣装と似ている。

半袖、七部丈のズボンが特徴だ。

廊下に出ると、メイドさんが待っており食堂へと案内される。

案内された食堂前で、お風呂から上がったお嬢様と鉢合わせした。

彼女も竜人種族の女性が着る伝統衣装ドラゴン・ドレス姿だった。

女性のドラゴン・ドレスはチャイナ服のデザインそのままだ。

真っ赤なドラゴン・ドレスにスリットから覗く細い太股に思わず目が行く。

「おっと足が滑っちゃったぞー(棒)」

わざとらしくつまづき、お嬢様のドラゴン・ドレス姿を間近で眺める。

細い足首、湯上がりでほんのり赤く染まった太股。

ツルツルの素肌はまだ湿っていて、触ったら絶対に気持ちいいだろうと分かる。

幼い肢体だからこそ、背徳的魅力を放っていた。

もし今のお嬢様を前世の街中で見掛けたら、ストーキングする自信がある!

お嬢様は湯上がりの肌をさらに赤く染め、さっとミニ黒板で足を隠す。

そこがまた可愛らしい。

オレはわざとらしく咳払いをして、床から立ち上がりついた汚れを払う動作をする。

危ない危ない。もう少しでお嬢様に見惚れていることがばれるところだった。

そしてオレ達はメイドさんに扉を開けて貰い、食堂へと入る。

「お待ちしてましたわ、リュート神様、クリスさん」

屋敷の主であるメイヤ・ドラグーンが満面の笑顔で出迎えてくれた。

彼女の歳は18才。

お嬢様と同じ赤いドラゴン・ドレスに袖を通している。

胸は大きく、腰もくびれ、足もスラリとモデルのように長い。

顔立ちも100人中100人が褒め称えるほどの美人だ。

頭部から伸びる2本の竜角以外は、見た目は殆ど人種族と変わらない。

彼女は好意的な態度で食事を勧めてくる。

「お話があるようですが、まずは食事を楽しみませんか? うちの料理人が、お2人のために腕によりをかけて作りましたの」

メイヤの合図で運ばれてくる。

料理は丸く、2重構造になっているテーブルへと所狭しに置かれた。

そう、中華テーブルだ。

蒸した肉まん。

烏龍茶のように薄茶色のお茶。

他にも小龍包、春巻き、焼売、餃子、水餃子など――中華的な飲茶の世界が広がる。

魔人大陸から竜人大陸への移動のため食事量を減らし、所持金を節約していたオレ達のお腹が鳴る。

「ささ、2人とも遠慮無くお食べ下さい」

メイヤに勧められ、オレとお嬢様はお礼を言って、料理に手を伸ばした。

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中華テーブルを埋め尽くした料理を3人で食べ尽くしてしまう。

烏龍茶に似た薄茶色のお茶―― 茶々(ちゃちゃ) という名称らしい――を飲みながら、メイヤに改めてここに来た経緯を聞かせた。

自分の 軍団(レギオン) を立ち上げるため孤児院を出て冒険者になった。

そして新人冒険者狩りに引っかかり、身ぐるみを剥がされ、奴隷に落ちたこと。

運良くクリスお嬢様の父親――ダン・ゲート・ブラッド伯爵に買われ、命拾いした。

その恩人である彼女の両親が現在囚われている。

両親と実家を奪い返すための資金や情報が必要なため、頼るべくメイヤに会いに来たことを正直に全部話した。

もし協力してくれるなら、クリスの両親とブラッド伯爵家奪還後、必要経費+相応のお礼金をブラッド伯爵家から支払うことを約束する。

この約束にお嬢様も同意の頷きをする。

しかしメイヤは申し出に首を横へ振った。

「謝礼金などいりませんわ。ですが代わりにリュート神様にお願いがあります」

「お願いですか?」

メイヤは椅子から立ち上がり、床に両膝を付くと手を拳の形にして胸の前で重ねる。そして深く、頭を下げた。

給仕をしていたメイド達が息を飲むのが肌で伝わる。

「この姿勢は竜人種族にとって最大限の敬意を払う方にのみ行うものです」

メイヤが説明する。

前世の日本で言うところの土下座か?

「どうか、どうか……このメイヤ・ドラグーンをリュート神様の弟子にしてください!」

「で、弟子なんて! 天才魔術道具開発者のメイヤ様が弟子なんて畏れ多いですよ!」

「とんでもありませんわ! リュート神様こそ、天才! 天才という言葉すら足りない才能の持ち主ですわ!」

「あのところでさっきから気になってたんですが、なんで名前に『神様』をつけてるんですか?」

「これほど素晴らしい魔術道具を製作した方を神様と呼ばずなんと呼べばいいのでしょうか? わたくしには見当もつきませんわ!」

「お、お気持ちは嬉しいんですが……さすがに神様扱いはちょっと」

「では、『リュート様』では如何でしょうか?」

「リュートと呼び捨てで呼んでください」

「『リュートきゅん様』ではどうでしょうか?」

「いや、だから! 呼び捨てでいいですって! てかなんですかその『リュートきゅん様』って!?」

「無理ですわ! リュートきゅん様を呼び捨てなどと! 口が裂けたとしても言えませんわ!」

「……なら『様』付けでいいです。けっして『きゅん』とか付けないでください」

オレは諦め溜息をつく。

メイヤは改めて迫ってきた。

「それではリュート様とお呼びさせて頂きますわね。わたくし、リュート様が弟子にしてくださるまで片時もお側から離れません!」

メイヤは続けて叫ぶ。

「もしリュート様が望むなら全てを捧げますわ! 地位、財産、そして心も体も! 全てを! なのでどうかリュート様の弟子にしてくださいまし!」

いい加減、お嬢様の悲しそうな視線が痛い。

「分かりました。弟子にします。心とか体とかいりませんから、代わりに旦那様たちを救い出す協力をお願いします」

「ありがたき幸せ!」

メイヤは太陽すら吹き飛ばす満面の笑顔を浮かべた。

長旅と食事の満腹感、協力を取り付けた緊張感からの解放で眠くなる。

お嬢様もそろそろ限界のようだ。

今日はゆっくり寝て、明日から詳しい話をして、計画を進めようとオレが提案する。

お嬢様とメイヤも同意し、その日は解散になった。

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翌朝。

メイヤ邸の敷地内にある工房側の広場にオレ、お嬢様、メイヤが集まっていた。

メイヤに頼み魔術で土壁と土台を作ってもらう。

土台の上に煉瓦を並べ的にする。

その間に銃の状態をチェックする。

約2年以上ぶりに、偽冒険者達に騙し取られた自分の製作した『S&W』『AK47』を手にした。

リボルバーは 撃鉄(ハンマー) のメイン・スプリングがへたり、 撃針(ファイヤリングピン) も摩耗していた。これ以上摩耗が進んでいたら 雷管(プライマー) をちゃんと叩き、破裂させることが出来なかっただろう。

シリンダー内部も掃除をしていないらしく、空薬莢をエジェクター・ロッドで押し出す際、スムーズに行かなかった。

もっと酷くなっていたら発砲後、エジェクター・ロッドをハンマーなどで叩いて空薬莢を排莢しなければならなくなっていただろう。

AK47はタフなだけはあり、特に問題無さそうだ。魔術液体金属の取り扱いに慣れた後に造ったのも良かったのかもしれない。

バナナ・マガジンを装填し、安全装置を解除。

セミ・オートマチックへ。

コッキングハンドルを引き、 薬室(チェンバー) にまず弾を1発移動。

立射で煉瓦を1つずつ撃ち砕いていく。

不調など無く快調に動く。

さすが水田に半年ほど埋められ、後に掘り起こされた錆びて汚れきったAKでも問題無く発砲できた 突撃銃(アサルトライフル) だ。

念のため後で分解するつもりだが。

「どうでしょうか、リュート様。何か問題はありましたか?」

「リボルバーの方は、やや調整が必要ですが、どちらも大きな故障はないようですね」

お嬢様は意外にも怖がらず、ハンドガンに興味を示す。

むしろ……

『リュートお兄ちゃん、私にもその魔術道具の使い方を教えてくれませんか?』

積極的に学ぼうとしている。

『この魔術道具を使って、お父様、お母様、みんなを助ける力になりたいんです』

お嬢様は鼻息荒く、戦う意思を示す。

ほんの少し前まで、自室から出るのに怯えていた少女の姿はもう完全になかった。

「もちろんです。お嬢様にも存分に戦ってもらうつもりです。むしろ、自分達にとってお嬢様こそ最大戦力であり、切り札になると思います」

『私なんかがですか?』

お嬢様は予想外の返答に困惑する。

オレは嘘偽り無いことを示すように真剣な微笑みで答えた。

「お嬢様には『S&W M10』リボルバーや『AK47』ではなく、もっと相応しいものを用意させて頂きます」

お嬢様に相応しいものとは――

「お嬢様の特性を遺憾なく発揮する銃、それは――スナイパーライフルです」

『すないぱーらいふるですか?』

「はい。……今度は我々、ブラッド伯爵家の反撃の時間ですよ」

これが後に『魔術師殺し』、『 夜姫(よるひめ) 』、『 悪夢(ナイトメア) 』と呼ばれ恐れられる、1人のヴァンパイアが誕生した瞬間だった。