軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第39話 魔石姫・後編

『魔石姫』――竜人大陸の魔術師メイヤは、妖人大陸の魔術師学校に約1ヶ月と数日で辿り着いた。

魔術学校側にある都市に宿泊する。

もちろん、一番高い宿の一番広い部屋だ。

その街から馬車で魔術学校を目指す。

魔術学校はその性質上、広い平野に作られていた。

その周辺に民家などは建ててはいけない規則になっている。

魔術の訓練で周囲に被害を出さないためだ。

石で作られた要塞都市のような魔術学校校舎があり、生徒たちの宿舎などはその側に建てられている。

さらに周囲は2重の壁によって囲われていた。

外敵を防ぐ意味もあるが、内部からの魔術攻撃等を防ぐ意味合いの方が大きい。

メイヤの馬車が最初の壁に設けられた守衛所に止められた。

借りてきた馬車を操る御者が、守衛と揉めている。

どうやら紹介状も無く来たため、中には入れられない――と守衛に断られているようだ。

現地で雇った御者が馬車内にいる雇い主と直接話をしてくれと指をさす。

守衛は困った表情で、馬車の扉をノックした。

メイヤの世話をするため付いてきた1人のメイドが応対しようとしたが、その動きを彼女が止める。

メイヤ本人が話をするつもりらしい。

メイドがうやうやしく扉を開く。

守衛が頭を掻きながら尋ねてきた。

「あー申し訳ないんですが、お約束があるか身内が校内にいるか、または許可書などがないと入れない決まりになってまして。後日、約束を取り付けて来て頂けませんか?」

守衛が事務的に対応してくる。

その態度にメイヤが苛立つ。

気付いていないとはいえ、天下に才を轟かせているこのメイヤに対してする口の利き方ではない。

彼女は絶対零度の視線で守衛に命令した。

「……メイヤ・ドラグーンが来たと学校長に伝えなさい。言えば分かりますから」

「め、メイヤ・ドラグーン――!? 貴女があの魔石姫ですか!?」

どうやら魔術学校の守衛だけあり、彼女の名前を知っていたらしい。

先程までの事務的な態度から一転、直立不動の姿勢で声音を震わせる。

「た、大変失礼いたしました。すぐに学校長と連絡を取り付けるので少々お待ちください!」

「なるべく早くお願いしますわね」

「は! 直ちに!」

守衛は一度、事務所に戻ると、待機している他の仲間に言付けして学校へと駆け出した。

約30分ほどで守衛が馬車へと戻ってきた。

「す、すみません大変お待たせ致しました! ただいま学校長は不在で、変わりに学年長が応対させて頂きますので、このまま正面玄関までお進み下さい」

「ご苦労様」

一言告げ、メイヤは再び馬車を走らせる。

第1障壁、第2障壁を越えて校舎正面玄関に辿り着く。

そこにはすでに1人の教諭が待ち構えていた。

線の細い、頭皮が薄くなりかけている神経質そうな男だった。

彼はメイヤの馬車を直立不動で出迎える。

馬車を降りると、彼は汗を浮かべた笑顔で会釈して来た。

「お会いできて光栄です、メイヤ・ドラグーン様。私はここで魔術道具授業を担当してます。人種族のカルアと申します」

「初めましてカルアさん。突然の来訪、申し訳ありませんわ」

「いえいえ。魔術道具開発でご高名なメイヤ様にお会いできるなんて、光栄の極みですよ。ささ、ここで立ち話もなんですから、中へどうぞ」

メイヤとメイドは校舎に入ると、応接間へと通される。

部屋には革張りのソファー、蟲甲で作られたテーブル、花瓶に生けられた花々。壁には絵画がかけられ、窓から見える風景は1階のため壮観ではない。至って普通の応接間だ。

人種族の事務員らしき女性が、 香茶(かおりちゃ) を煎れて持ってくる。

彼女が部屋を出ると、カルアは額の汗をハンカチで拭きながら用件を尋ねてきた。

「それで今日はどのようなご用件で?」

「こちらに居る生徒で獣人種族、白狼族のスノーさんという女性に会いに来ましたの。彼女をここに呼んでもらませんかしら」

「す、スノーくんですか!? 彼女がまた何かやらかしたんですか!?」

「また?」

カルアの動揺に思わずメイヤは聞き返してしまう。

彼は更に噴き出る汗を拭いながら、しどろもどろで説明した。

「彼女は優秀な生徒なのですが……逆に優秀すぎて、問題に巻き込まれやすいようでして。新入生の私兵100人相手に無双してみたり、言い寄られた上流貴族の男子を返り討ちにしたり、なぜか商人が雇った冒険者達を1人で撃破したりと……お、思い出しただけで胃が……ッ」

「まぁ無礼な商人がいるものですわね」

メイヤはしれっと同情する。

どう考えても最後の商人は、彼女の要求で動いていた人物達だ。

「お話は分かりました。ですが、わたくしはどうしてもスノーさんにお話があるのです。なので今すぐ呼んでくださらないかしら?」

「わ、分かりました。今なら彼女も授業を受けていると思うのですぐに呼べると思います」

カルアは席を立つと、急ぎ足で応接間を出た。

約10分ほどメイヤとメイドが待たされる。

ノック音。

カルアの後に、一人の女生徒が姿を現す。

真っ白な肌、大きい瞳に、影が出来るほど長い睫毛。

長い銀髪をポニーテールに纏め、同色の狼耳が時折微かに動く。

雪の精霊のように美しく、また同時に可愛らしさを兼ね備えている美少女だった。

左腕につけている金属製の 腕輪(ブレスレット) が、窓から差し込む日光を受けて輝く。

だが一番目を引くのは、魔術学校生徒を示すマントでも隠せないほど大きな胸だ。

美しく可愛らしい美少女なのに巨乳というアンバランスさが、男心を擽るのだろう。

女性に不自由しないであろう上流貴族の男子生徒が、彼女に言い寄るのも頷ける。

スノーは右手を胸に、左手でスカートを少しだけ持ち上げ頭を下げる。

正しい礼儀作法の挨拶だ。

「初めましてメイヤ・ドラグーン様。わたしは獣人種族、白狼族のスノーと申します」

「忙しい中、呼び出してしまって申し訳ありませんでしたわね。どうぞお座りになって、スノーさん」

「失礼します」

スノーはメイヤの正面に座る。

カルア教諭はスノーの隣に腰を下ろした。

「無駄な話は嫌いなので、単刀直入に申し上げますわね。スノーさんがお持ちになっている魔術道具を譲ってくださらないかしら? もちろん謝礼として望むだけの金貨を差し上げますわ」

「魔術道具……?」

品物に思い至るとスノーはあからさまに溜息をつく。

「ドラグーン様もですか? 最近、リュートくんの作った魔術道具を売って欲しいって人がいっぱい来て困ってるんですよ。あれはわたしにとってとても大切な物なので、いくらお金を積まれても売れません」

「そこをなんとかお願いしますわ。お金はいくらでも出しますから!」

「売れない物は売れません。そういう話なら失礼します」

「ま、待ちなさい!」

スノーが席を立つとメイヤも慌てて後を追う。

だが、彼女は『魔石姫』である自分の制止を聞かず、部屋を出ようとする。

プライドに触り思わず口を滑らせてしまった。

「リュート様はもう魔物に殺されて死んでいるわ!」

スノーの足が止まる。

メイヤの口は止まらない。

「だから、あの魔術道具は貴女のような価値も分からない人が持っていい物じゃない! 彼の功績を後世に残すためにも、わたくしのような者が持つべきなの――ッ!?」

スノーが振り返ると同時に、メイヤの額に『S&W M10 2インチ』リボルバーの銃口が押し付けられていた。

メイヤはスノーのリボルバーを抜く動作を全く察知することができなかった。

彼女が振り返ると、いつの間にか額に銃口が押し付けられている――その結果だけが残る。

「リュートくんが死んだ? 嘘つくのは止めてよ。あのリュートくんが、魔物なんかに殺されるわけないでしょ。どうして、そんな嘘をつくの……?」

確かな殺気を放ちスノーが 撃鉄(ハンマー) を上げる。

皮肉にもそれが今まで運ばれて来た偽物とは違うことを示す。

だが、 撃鉄(ハンマー) が上がる意味を理解しているメイヤは『ヒィッ!』と小さく悲鳴をあげた。

永遠と思える時間……実際は10秒程度だが、スノーは 撃鉄(ハンマー) の位置を戻すとマントの下にしまう。

「失礼しました」

彼女は礼儀正しく一礼して応接間を出て行った。

九死に一生を得たメイヤはへなへなとその場に座り込んでしまう。

「メイヤ様!?」

「姫様!」

残されたカルアとメイドがへたり込んだメイヤに慌てて駆け寄る。

彼女の瞳には恐怖の涙が浮かんでいた。

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

「むかつく! むかつく! むかつく! あの女、絶対に許しませんわ!」

メイヤは飛行船で約1ヶ月と少しかけて自宅へと戻る。

しかし一向にスノーに対する怒りは収まらない。

彼女は世界に名を轟かせているメイヤ・ドラグーン。

竜人種族のプライドは高いが、彼女はさらに輪を掛けて高いのだ。

自室のベッドでごろごろ、ごろごろ枕を掴み悔しさで転がる。

体を起こし悪い顔で思案した。

「どうにかしてあのリボルバーを奪えないかしら……。裏から手を回して魔術師協会や魔術学校に圧力をかける? それとも1流の盗人を雇って盗み出してもらったり、後は……」

いくつか案を考えていると、ノック音が響く。

声をかけるとメイドが入ってきた。

「失礼します。あの魔術道具を製作したリュートを連れてきたと言う商人の方が来ているのですが、如何致しましょうか?」

「……はぁ、またですの」

メイヤ自身が情報や品物を求めているから、商人達などの訪問は増えたが――過去二度ほど、この手の詐欺商人が彼女の元へ押しかけて来ていた。

適当な子供奴隷を連れて来て、魔術道具の製作者『リュート』を名乗らせ、高額な謝礼金をせしめようとするのだ。

だが連れて来られた子供は、魔術液体金属で『S&M』『AK47』など作れる筈も無く、嘘はすぐにばれてしまう。

謝礼金をせしめようとした商人は2人とも、詐欺として幼なじみ――竜人王国第一王子に頼み牢屋へ叩き込んでやった。

こんな馬鹿な手は通じ無いと、他の商人達に対する脅しとして。

なのに三度目。

懲りずにまた馬鹿が来たらしい。

「……折角だから憂さ晴らしに相手をしてあげましょう。応接間に通しなさい」

「畏まりました」

メイドは一礼し、商人達の元へ向かう。

メイヤはストレスを吐き出す丁度良い獲物を見付けて、口の端を笑みの形に歪ませ、ベッドから立ち上がった。

メイヤがメイドの手で服を着替え、身だしなみを整えている間、商人達を応接間で待たせる。

商人だけがソファーに座り、金髪の少女と黒髪の少年は後ろになぜか立っていた。

メイヤは後ろに長い槍を手にした男2人の使用人を引き連れ、応接間に姿を現す。

彼女は女王のように尊大な態度で、正面のソファーに腰を下ろした。

「初めましてメイヤ様。私はラーノ奴隷館で奴隷商をやらせて頂いております。メイヤ様はある魔術道具にご執心だとか。実は私達が扱っていた奴隷にその製作者が居たので連れてきた次第です」

商人が後ろに立つ、黒髪の少年を紹介する。

もちろん名前はリュート。

隣に立っている金髪少女は魔人種族、ヴァンパイア族のクリス・ゲート・ブラッド。

少女に目を向けると彼女は怯えた表情で、リュートの陰に隠れてしまう。

メイヤはその少女――クリスに目を惹かれる。

少女は服装や髪などが旅のせいか汚れているが、全体的にお人形のように可愛らしい。自分のペットとして飼いたいぐらいだ。思わず舌で自身の唇を舐めてしまう。

そしてリュートを名乗らされている黒髪の子供が、どうして自分が奴隷になったのか経緯を話し聞かせてきた。

彼は偽冒険者に騙されて『S&W』『AK47』を取り上げられ、奴隷として売られた。その証拠に腕には奴隷の証しである魔術陣が刻まれている。

現在はこちらにいるクリスの父に買い取られ、彼女を主とした血袋兼執事となることで生き延びることが出来た――と説明した。

メイヤは感心する。

設定が細かく、話し手にも熱が篭もっている。迫真の演技だ。

初めて聞いていたら、ある程度信じたかもしれない。

メイヤは足を組み直し、挑発するように口元を弛める。

「なるほど、分かったわ。もし本当に彼が『リュート』なら、『S&W』『AK47』の質問になんでも答えられる筈よね? もし仮に偽物だったりしたら――」

メイヤの背後に立つ男2人が、威嚇するように槍で床を叩く。

クリスがびくりと小動物のように震えた。

黒髪の少年は背後の彼女を庇いながら同意する。

「構いません。どんな質問でも答えます」

「決まりね。なら最初に……『S&W』『AK47』の原材料は何が使われているか分かるかしら?」

「金属スライムから採れる魔術液体金属です」

「正解ね」

「『S&W』『AK47』で使われている 弾薬(カートリッジ) の名前を答えなさい」

「 38スペシャル(9mm) と7.62mm×ロシアンショートです」

「正解ね」

ここまでは、『リュート』を調べて魔術道具の扱い方を記したメモを辿れば答えられるものばかり。

メイヤは足を組み直す。

「なら次は実際に『S&W』『AK47』の調子を確認してくださらないかしら。もちろん、製作した本人なら問題無く出来ますわよね?」

「はい、大丈夫です」

黒髪の少年はノータイムで返答する。

よっぽど自分を誤魔化す自信があるのだろうと――メイヤは胸中で呟く。

メイヤは工房から『S&W』『AK47』をメイドに運ばせた。

テーブルの上に『S&W』『AK47』が置かれる。

しかしこれからはメイヤを騙すためだけに、他の商人が持ち込んだ真っ赤な偽物。

持ち主ならすぐに分かるはずだ。

偽物の彼は、適当に弄り『問題ありません』と言い出すつもりなのだろう。

メイヤはその時、彼が手にしているのは偽物だと明かす。

その時の驚き、困惑した表情を想像して1人意地の悪い笑みを浮かべた。

「さぁ、遠慮無く手にとってくださって結構ですわよ」

「それじゃ失礼して」

少年はクリスを背後から離し、テーブルの下座に立ち『S&W』『AK47』を順番に手に取る。

「……これ、偽物ですよ。シリンダーはがっちりはまってるし、 銃身(バレル) のライフリングも付いて無いし。AKも違う。軽すぎるし、 引鉄(トリガー) も動かない。マガジンもガッチリくっついて離れないし……あのもしかして実は本物の『S&W』『AK47』を持ってなかったりするんですか?」

「………………………………………………へぇ?」

メイヤは絶句する。

体の奥、魂から震えるのを自覚した。

「も、もももも、もしかして、ほほほほ、本物のリュート神様なのでしゅか?」

どもり、最後は噛んだ彼女の台詞にやや怯えながらリュートは同意する。

「はい、そうですが……何か問題でもありますか?」

「お会いしたかったです! 神様!」

メイヤはソファーを吹き飛ばす勢いで、リュートの足下に這い蹲る。

手を取り、何度も何度も接吻を繰り返し、しまいには足にまで口づけをした。

「ちょ!? や、止めてくださいよ! くすぐったいです!」

あまりの変わりように抵抗するリュート以外、全員が反応出来ず固まってしまう。

メイヤは興奮と感動で紅潮させた歓喜の笑顔で奴隷商人へ向き直る。

「この神様はいくら!? 言い値で買いますわ!」

「い、いえあの先程も説明させて頂いた通り、リュートは彼女――クリスお嬢さんの奴隷です」

「そうだったわね!」

メイヤはクリスに詰めより、交渉する。

「お願いクリスさん! 神様をわたくしに売ってください! 元の金額の10倍! いいえ、100倍払いますわ!」

しかしお嬢様はびくびくと震えながらも、力強く首を横に振る。

ミニ黒板に文字を書き、メイヤに突き付けた。

『リュートお兄ちゃんを……家族を売ることなんて出来ません。もう誰も失いたくないから……』

「お嬢様……ッ」

クリスの言葉にリュートは感動で胸を詰まらせる。

彼は咳払いして気持ちを切り替え、メイヤと交渉を始めた。

「実はメイヤ・ドラグーン様にお願いがあって伺ったのです。その理由をお話ししたいのですが、少し長くなりますが宜しいですか?」

「では、是非今日は家へ泊まっていってください! それにもう少しで夕食のお時間ですから、料理を準備させますわ! あっ、その前に旅でお疲れですわよね? 衣類も汚れているようですし、もしよろしければ疲れを癒すためまずはお風呂にお入りください。着替えも準備させますので!」

メイヤはリュートに鼻息荒く迫り、有無を言わさぬ迫力で畳みかけてくる。

彼は一言だけ、『は、はい。よろしくお願いします』と喋るだけで精一杯だった。

メイヤは彼らを連れてきたラーノ奴隷館の商人に言い値の報酬を渡すと、リュート達を嬉々として屋敷へと引き取った。