軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第41話 スナイパーライフル

リュート、13歳

竜人大陸の魔術道具開発者、メイヤ・ドラグーンの屋敷でお世話になってもう数ヶ月。

衣食住を世話になる代わりに――要望通りメイヤをオレの弟子にした。

弟子になった彼女に銃の製作を教授することになったが、もちろん条件を付けた。

勝手に広めないこと、悪用しないこと、他問題が起きたらオレの指示に従うこと――以上、3点だ。

この条件にメイヤは、『もしこの条件を破るようなことがあれば、リュート様の前で舌を噛み切り死んでみせますわ』と清んだ瞳で断言してきた。

やだこの子、怖すぎ。

清んだ瞳で、心底本気の自害を誓ってくるとはオレも思わなかった。

だが逆に言えばメイヤが、オレを裏切ることはほぼ無いだろう。

しかし、いくら天才魔術道具開発者と持て囃されてても、製作は難しかったらしい。

まず魔術液体金属で部品が造り出せない。

魔力を注げば硬くなるはずなのに出来上がった金属製の板は右側が堅く、左側が酷く脆い――なんて酷くバランスが悪い物しか出来ないのだ。

形も不揃いで、厚みや強度も不完全。

イメージ力が低すぎるのか、または違う問題か……。

弾薬(カートリッジ) もやらせたが、まず無煙火薬がイメージ出来ないらしい。

弾薬(カートリッジ) にただ破裂の魔術を詰め込めばいいという訳ではない。

しかし、無煙火薬など見たことも聞いたこともないメイヤに、イメージして魔力を変換して 弾薬(カートリッジ) に込めろ――というのがまず間違いだった。

とりあえずオレは彼女にまず座学で、リボルバーと 突撃銃(アサルトライフル) の 弾薬(カートリッジ) の違いやライフリングの意味、ハンドガンに使う金属の強度問題etc――まず基礎的な銃の知識を教えることにした。

座学中、同時並行でクリスお嬢様には魔力のコントロールを指導する。

お嬢様の魔力はオレと同じぐらい。

なら魔力のコントロールを覚えればオレ程度にはなれるはずだ。

オレはこのコントロール技術を覚えるのに、研究期間を除けば約30日ほどかかった。

お嬢様もだいたいそれぐらいの日数で技術を身に付けた。

昼。

竜人種族は朝、昼、晩と食事を摂る。

郷には入れば郷に従え――お嬢様とオレもしっかりと3食摂った。

午後はお嬢様の体力作りと戦闘訓練を行う。

お嬢様はラフな恰好に着替えて、長い髪を縛り準備体操をする。

最初はメイヤ邸の外周を走らせる。

体力作りのためのランニングだ。

お嬢様は引き籠もっていたせいで体力が無い。

そのためまずは基礎体力を付けるための訓練を行っていた。

ランニングが終われば体術、剣術の練習だ。

体術はひたすらオレと模擬戦闘を行う。

剣術は木刀を持たせて素振り、オレとの打ち合いをする。

この練習メニューはオレがギギさんに教えて貰ったのと同じだ。

(ギギさんは、なぜあんなに愛していたブラッド伯爵家を裏切ったんだろう……)

いくら考えても本人に問い質さなければ、答えなど分かる訳がない。

そのためにも力を付け、魔人大陸に戻る必要がある。

夜、お嬢様は疲れのピークから夕食が終わるとお風呂に入ってすぐ眠ってしまう。

オレはメイヤと2人、工房に篭もってスナイパーライフル製作に励む。

製作するライフルは――レミントン、M700Pだ。

正確にはM700Pをベースに制作するつもりでいる。

まずスナイパーライフルとはどういったものなのか?

第一次大戦頃まで、歩兵部隊は数百メートルから1000メートルも離れて横隊に広がってボルトアクションライフルで射撃をしていた(ボルトアクションとは――ボルト(薬室の後ろに位置する円筒形パーツ)をハンドルで手動操作し、弾を単発装填し発射する方式)。ところがそうした(単発装填しか出来ない)歩兵の隊列は、 機関銃(マシンガン) の登場によって簡単に撃ち倒されるようになった。

機関銃(マシンガン) の据えられた陣地を歩兵がこれまで通りに攻撃すれば死人の山が出来る。そこで夜襲をかけたり壕を掘りながら、接近戦や乱戦に持ち込むことが多くなった。だが、ボルトアクションライフルでは撃つ度にボルトを前後する間に敵兵に襲いかかられてしまう。

そのため歩兵の持つ銃は遠距離でじっくり狙って撃つよりも、近距離での速射性が求められるようになったのだ。

そして 短機関銃(サブマシンガン) (拳銃弾を使用した小型の機関銃)や 突撃銃(アサルトライフル) が開発され、戦場では短時間に多くの弾を相手に浴びせかける戦術が主流となっていった。

しかし遠距離に居る人物(敵の指揮官、通信を担当する者や機関銃を撃つ者など)を強制的に排除するため、射程が長くて精密な射撃可能な銃器が求められるようになった。

ボルトアクションライフルは新たな要求に応え、精密射撃に必要な要素を入れて改良された。

こうして『スナイパーライフル』が生まれたのだ。

しかし一口に『スナイパーライフル』と言っても軍用、狩猟用、射撃競技用と標的や使用する状況などによって求められる用途が違ってくる。

例えば狩猟用の場合――ボルトアクションライフルを軽量化した物を『マウンテンライフル』と言う。

『マウンテンライフル』とは、『長距離射程を持ち、銃本体の重さが比較的軽く、大物猟ができる銃』だ。

重量が軽いと強い弾を撃つ時、反動が強烈にかかる。

だが反動より重い銃を担いで山を歩き回る事を重視し、軽量化された。

射撃競技用の場合――競技用ライフルには弾倉が無く、競技用に特化しているため独特の形状をしており、持ち運びを考えて造られてはいない。

そのため射撃競技用の狙撃銃は、命中精度があっても実用向きでは無い。

競技用ライフルをそのまま狙撃銃にしている例は無い。

そして軍用――軍や警察が使用する『スナイパーライフル』は、持ち運びを考えられた形状を持ち、さらに自重もそこそこある為反動もマウンテンライフル程ではなく、威力もあるバランスが取れた銃だ。一般的に『スナイパーライフル』と言われれば軍用・警察用の狙撃銃と言えるだろう。

今回、オレが作ろうとしているライフルも軍用・警察用に分類される狙撃銃だ。

ちなみに軍隊などではボルトアクションライフルより命中精度が低い、 自動式(オートマチック) ライフルが選ばれる場合もある。

その理由はボルトアクションは単発しか撃てないが、 自動式(オートマチック) なら、2発3発と撃てるため、即応力が高いからだ(例えばテロリストが複数いても対応出来る等)。

だが 自動式(オートマチック) は弾発射の直後に再装填が自動で行われる。その時、内部で動く部品の振動が射撃に影響を与えてしまうため命中精度がボルトアクションライフルより低くなってしまう。

AK47を製作しているため、ソ連軍で制式採用されていたセミオートマチックのスナイパーライフル、SVD(ドラグノフ狙撃銃)を作るという選択肢もあった。

ドラグノフの機関部はAK47を元に作られている。スコープを含めても重量は4・3キロとオートマチックにしては軽い。

H&KのPSG―1という 自動式(オートマチック) ライフルは8・1キロもある。

しかし今回、旦那様や奥様を救出する際、1人、もしくは2人とも人質にされる可能性がある。

その場合、奥様さえ確実に助ければ旦那様なら自力で脱出出来るだろう。

だからオレは100mで許容誤差2cm以下、300mで許容誤差6cm以下の高い命中精度を持ったスナイパーライフルを求め、M700Pをベースにした。

M700Pはアメリカの銃器メーカー、レミントン社の狩猟用ライフルM700をベースに、警察・軍特殊部隊向けに開発された高性能狙撃ライフルだ。このM700Pは 銃身(バレル) 長が長く命中率が非常に高い。確実な初弾命中が要求される警察の特殊部隊・人質救出作戦等に使用されるボルトアクションライフルだ。

スペックは以下の通り。

口径 :7・62mm×51 NATO弾

全長 :1662mm

バレル長:660mm

装弾数 :5発『インナーボックス・マガジン』

今回の目的にもっとも適しているスナイパーライフルだ。

オレはまずライフリングを刻むための芯棒作りに取りかかる。

スナイパーライフル製作にはAK47より精度が求められる。

全ての作業を慎重に行わなければならない。

集中力が重要だ。

「……ちょっと疲れてきたな。今日はこの辺にしておくか」

そして数時間の作業後、切りの良いところで終わらせ、割り当てられた自室へと深夜戻る。

ベッドに倒れ込み、目蓋を閉じるとすぐに眠りに落ちた。

現在はこんな風に、1日を過ごしていた。

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

午後、体術の訓練時間。

中庭でオレはお嬢様と模擬戦闘を行っていた。

お嬢様がラフな恰好で、長い金髪を縛り全力で殴りかかってくる。

もちろん肉体強化術で身体を補助しながらだ。

オレはお嬢様の右ストレートをサイドに回り込むサークリングであっさりと回避。

左ジャブで足を止めて、右サイドキックを蹴り込む。

「ッ!?」

お嬢様は危ういところで蹴りをガード。

しかし勢いに負けて地面を転がる。

「お嬢様、攻撃が雑ですよ。相手の次の行動を予想して技を組み立てないと。ただ殴り合うだけなら、子供でも出来ますよ。さぁ早く立ってください」

お嬢様は地面に手を付きながら、荒く息をつき動こうとしない。

オレは構わず彼女を罵った。

「まったくいつまでファックしたみたいにヘバっているんですか? しゃんとしなさい! このウジ虫が!」

お嬢様は荒い息のまま、悔しそうに顔をあげる。

「お嬢様はこの世界で最下等の生物だ。お嬢様は魔人種族じゃ無い。両生生物のクソをかき集めた値打ちしかない! どうした! 悔しかったら根性を見せろ!」

お嬢様は歯を食いしばりながら立ち上がり、構える。

「よく立ちました! いい根性です。ご褒美にシゴいてやります。野垂れ死ぬまでシゴいいてやります! ケツの穴でミルク飲むまでシゴき倒してやります!」

「こらーーー!」

怒声に振り返ると、お嬢様の幼なじみの1人である魔人種族、ケンタウロス族のカレン・ビショップが怒っていた。

カレンの後ろにメイドが立ち、手には彼女の物らしい大きな旅行鞄を預かっている。

カレンは肩を怒らせ、ポニーテールを揺らしながらオレに歩み寄ってきた。

「リュート! 使用人の分際でクリスになんて口の利き方をしているんだ! よく単語の意味が分からんが、絶対にイヤラシイ意味だろ!」

「!? 良く来てくださいましたカレン様! 無事、手紙が――」

オレがカレンの登場を喜んでいると、ここの主であるメイヤが青筋を立て激怒し台詞を遮る。

「なんて無礼な! 魔人種族の分際で天才を越える大天才、リュート様にそんな口を利くなんて! 衛兵! 何をしているの! 早くこの無礼者を叩き出しなさい! なんで屋敷にこんな輩が入っているんですの!」

「落ち着けメイヤ。彼女はお嬢様のご友人のケンタウロス族のカレン・ビショップ様だ。あちらの状況を把握するため、手紙を出して来て貰うって前に話していただろ?」

「……クリスさんのご友人でしたか。どうりで可愛らしい方だと思いましたの。初めましてカレンさん。わたくし、リュート様の一番弟子を務めますメイヤ・ドラグーンと申します。我が家だと思ってくつろいでくださいね」

「こ、こちらこそよろしく」

メイヤはオレが叱ると、人が変わったように友好的な態度を取る。

カレンも彼女の態度の変化に驚き、声が上擦った。

カレンは咳払いをして改めて、オレに向き直る。

「兎に角、逃亡中の身の上とはいえ主であるクリスになんて口を利いているんだ」

「いえ、あれは訓練の一環です」

「訓練の?」

「お嬢様も納得済みです。軍隊式のスパルタです。でなければあんな口を利きませんよ。ねぇ、お嬢様?」

『はい、リュートお兄ちゃんの言う通りです』

お嬢様はミニ黒板に文字を書き、カレンに見せる。

『カレンちゃん、わざわざ来てくれてありがとう。久しぶりに会えて本当に嬉しいよ』

「それはこっちの台詞だ。行方不明になったと聞いた後に、私宛に手紙が届いた時は本当に驚いたぞ。名前に聞き覚えが無いのに、中を開いたら見覚えのあるクリスの文字で書かれていたんだからな」

カレンはお嬢様に歩み寄り、彼女を抱き締める。

「本当に無事でよかった……クリスが行方を眩ませたと聞いて、私だけではなくバニやミューアも心配してたんだぞ」

2人はまるで姉妹のように抱き合い、無事を喜び合う。

オレ達はメイヤに頼み、少し前にカレン宛に手紙を書いたのだった。

本当は他2人にも送りたかったが、お嬢様の親友3人に同時に手紙が届き、皆一斉に行動されたら目立ってしょうがない。

話し合いの結果、軍事関係に精通しているカレンだけに手紙を送ることにした。

彼女の実家は大きな武器・防具屋を営んでいる。

販売だけではなく、実際に製作も行っていた。

カレンの実家は私的に傭兵を抱え、彼らに武器&防具を渡して各地に派遣。実際に商っている武器を使わせて戦場などで名前を売り、商売に繋げているらしい。また戦闘後に傭兵達に武器等の改善点をあげてもらい、使い勝手の修正なども行っているようだ。

実家がそうであるが故に、彼女も武人としての教育を受けているため、安心して行動を任せられる。

カレンを竜人大陸のメイヤ邸に呼んだのは他でもない。

現状、どうなっているのか最新の情報と無事を知らせるためだ。

一応、お嬢様に『お家騒動に他一族が手を貸すのは御法度ではないのか?』と尋ねたが、直接手を貸すわけでは無いから問題無い――という答えを得た。だから、躊躇無くカレンに手紙を出すことが出来たのだ。

カレンはお嬢様から離れると、目元に浮かんだ涙を指で拭う。

「リュートも無事でなによりだ。クリスを守ってくれて本当にありがとう」

「いえ、ブラッド伯爵家の執事として当然のことをしているだけです。それで着いた早々申し訳ないのですが、現在の状況を教えて頂けますか?」

「では、良い天気ですから、中庭でお茶の準備をさせましょう」

メイヤが手をあげると、すでに準備していたようにメイド達が中庭にテーブル、椅子、日傘、 茶々(ちゃちゃ) 、お茶菓子を設置する。

3分も経たず中庭に小洒落た空間が出来上がる。

体術訓練を一旦中止して、オレ達は中庭でお茶を飲みながらカレンの話に耳を傾けた。

カレンが伝えてくれた情報によると――

旦那様は捕まった後、魔術防止首輪で魔力を封じられ奴隷として売られてしまったらしい。

魔人大陸では無く、別大陸に売られたことまでは分かるが、行き先は不明。

奥様はブラッド伯爵城にある尖塔の最上階に監禁されている。

彼女の首にも魔術防止首輪が付けられ、自力での脱出は不可能らしい。

城には現在、ヴァンパイア族当主、長男のピュルッケネン・ブラッド、次男のラビノ・ブラッドが居座っている。

彼らは旦那様が行っていた事業を奪い取ってうるさく口を出しており、さらに無闇に暴力を使い賃金も不当に下げているため、職人達からかなりの反発を受けている。お陰で事業も停滞気味のようだ。

メリーさん達生き残りの使用人達は、逃げ出した後各地に潜伏しているが、戦力が少なくてどうにも出来ない状態らしい。

旦那様がいない今、戦力差は圧倒的に不利だ。

さらに城には長兄ピュルッケネンと次男ラビノの他にも、ヴァンパイア族の魔術師複数人が常駐し、外部からの襲撃を警戒している。そのため手も足も出ない。

不幸中の幸いは奥様の安全が保証されていることだ。

人質が彼女しかいない現状、もし下手に傷つけ自害でもされたらメリーさん達や他ブラッド伯爵家と付き合いのあった一族達も黙ってはいない。旦那様までならブラッド家兄弟の問題だと抗弁も出来るが、奥様については別だ。何かあれば彼女の親族も黙ってはいない。

奥様が死んだらさすがにお家騒動で片付ける限度を超えている。

血で血を洗う戦になる。

もちろん彼らはそんなことを望んでいない。だから、奥様の安全は保証されているのだ。

また、だからこそ奴らはお嬢様を草の根を分けて探している。

お嬢様が居れば、仮に奥様が亡くなってもお嬢様を新たな人質にすることによって、メリーさん達の暴発を防ぐことが出来るからだ。

カレンが悔しそうに歯噛みする。

「出来れば私も力を貸したいが、一族のお家騒動に他が手を出すのは御法度。情報提供程度しか出来なくてすまない」

「いえ、それでも十分助かります。でも、いいんですか? お家騒動に手を出すのが御法度なら、情報提供とはいえこんなマネをしても」

お嬢様から『大丈夫』という答えを得ていたが、一応念のためカレンにも聞いておく。

彼女はオレの質問に『ニヤリ』と底意地悪い笑みを浮かべる。

「私はただ親友の無事を知り尋ね、世間話をしているだけだ。そこからどのような情報を抜き取られているのか、私には分かるはず無いだろ?」

つまりこの程度なら『手を貸す』には当たらないらしい。

基準がよく分からないが、問題無いならいい。

「カレン様、ありがとうございます。お陰で現在の状況を正確に把握することが出来ました。これなら僕が考えていた作戦の1つが使えそうです」

「ほう、それはどんな作戦内容なんだ?」

オレは実家で私的傭兵を抱える武人系女子のカレンに話を聞いて貰い、客観的意見を求めた。

作戦内容は難しくはない。

少人数で、城から脱出する時に使った抜け道から内部に侵入。

奥様と合流後、城から抜け出すのだ。

この時、城の警備の目を反らすため、メリーさん達使用人には陽動としてどこかで派手に暴れて欲しい。戦力は少ないだろうが、一度だけなら可能だろう。

そうすればヴァンパイア当主は警戒して、魔術師達を陽動先に派遣。結果として城の警備は手薄になる。

カレンは腕を組み、作戦内容を胸中で検討する。

「……なるほど。シンプルではあるが、戦力を整え力押しで城を攻めるよりはずっと現実的だな。しかしクリスとリュート2人で、セラスさんを救出するのは厳しくないか?」

彼女の指摘に眉根を顰める。

確かに現状、城を侵入するための戦力が足りない。

「お嬢様は侵入組には入りません。彼女は撤退時の補助役に就いて貰いますから」

「なら、リュート1人でやるのか? 魔術師でもないオマエが?」

「あ、あの……ッ」

黙っていたメイヤが挙手する。

彼女は頬を赤らめ、潤んだ瞳で立候補してきた。

「ならばリュート様の一番弟子であるこのわたくしが相方を務めさせて頂きますわ! わたくしならリュート様を恋人のような、妻のような、忠実な下僕のような――いえ! それ以上の気配りで補佐出来る自信がありますわ!」

「いや、メイヤは駄目だ。魔術師Bマイナス級だけど、運動音痴だろ? さすがに相方として連れて行くわけにはいかないよ」

「うぐ!?」

心臓に矢が刺さったように胸を押さえて倒れ込む。

だが実際彼女は運動音痴で、一度お嬢様と一緒に訓練を受けたが、足手まといにしかならなかった。

その時はさすがに時間が無い上に、邪魔だったので訓練を辞退してもらった。

『では 冒険者斡旋組合(ギルド) で冒険者を雇っては如何でしょう?』

「それは絶対にありえません」

お嬢様の提案を速攻で却下する。

他の冒険者……信用置けない他者をこんな重要な作戦に加える訳にはいかない。奴らは所詮金で雇う他人でしかない。どんな問題を起こすか……ッ。

偽冒険者に騙された苦いトラウマが脳裏を過ぎる。

メリーさん達には陽動を担って欲しいため、戦力には入れない。

第一、彼らはヴァンパイア族当主に目を付けられ、常に監視されている。

秘密裏の奇襲作戦に加えることは出来ない。

城への侵入のためには最低でも後1人人材が欲しい。

魔術師Bマイナス級以上で、オレと知り合いで信用できる人物。出来れば魔術を習得し、かつハンドガンの扱いに長けていれば言うことは無い。

そんな人物など居るわけ――いや、1人心当たりが居る。

一緒にエル先生の孤児院で育った、オレの婚約者スノーだ!

「妖人大陸で魔術師学校に通っている婚約者のスノーが居てくれれば、話が早いんだけど。急いで迎えに出ても往復で約1年以上かかるし……さすがに無理か。ん? どうしたメイヤ、顔色が悪いぞ」

メイヤは滝のように汗を流し、青い顔をしていた。

「いえ、その実は……なんというか、あの……」

メイヤは歯切れ悪く口籠もる。

カレンはメイヤの態度より、リュートの言葉に反応した。

「リュートには婚約者がいたのか。知らなかったぞ」

「同じ孤児院出身の幼なじみです。話す機会がなかったので、すみません。でも、都合良く現れないかな。届けオレの声! なんて――」

「リュートくん!」

両手を天に広げ、冗談として適当な祈りを捧げた瞬間。

まるで狙ったようなタイミングで中庭に植えられた木の陰から1人の少女が姿を現す。

銀髪のポニーテール。犬耳、尻尾、雪原のような白い肌、服の上からでも分かる巨乳の美少女が目に涙を浮かべている。

「会いたかった……会いたかったよ、リュートくん!」

妖人大陸で魔術師学校にいるはずの婚約者であるスノーが、なぜか目の前に立っていた。