軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第377話 北大陸3

「はははっははははは! そう畏まらなくてもいいぞ! 当然のことをしたまでだからな!」

ランスの支配から解かれた約100体以上の巨人族達は、開放してくれた魔人種族、ヴァンパイア族、ダン・ゲート・ブラッド伯爵に懐いていた。

一体の手のひらに彼が乗ると、一列に並んで握手&挨拶会が続く。

まるで体育会系の伝統行事のようだ。

巨人族が一人の人物に頭を下げ敬う姿に、北大陸の住人達は驚愕を通りこし、魂が抜けたように呆然としていた。

幼い頃から絵本や物語では敵だったり、絶対に抗えない災害扱いの巨人族の群れが、ダン・ゲート・ブラッド伯爵個人に礼儀正しく挨拶をしているのだ。

ショックを受けるなというほうが無理である。

一通り挨拶が終わった所で、ダンは地面へと下りる。

彼は巨人族達を前に告げた。

「たとえ遠く離れていても我輩達は強く太く硬い筋肉(友情)で繋がっている。悲しむことはないのだ。さぁ自分達が居た場所へ帰るがいい。もう二度と捕まったりするでないぞ」

巨人族は最初こそ戸惑い、動揺していた。

だがしばらくすると、整然とした列を作り、雪山奥地へと戻っていく。

時折、寂しそうに振り返るが、止まらず雪山へと進む。

ハイエルフ族魔術師S級、『氷結の魔女』ホワイト・グラスベルの占いで、『ダン伯爵の友人達に危機が迫るでしょう。恐らく彼らだけで解決は不可能。皆はきっと貴方の手を借りたがるでしょう』という結果を受けた。

これだけなら、『ジェンリコ達に危機が迫っているから』と読み取れる。

しかし、ダンは言った『人種、性別、産まれ、宗教、立場、地位名誉、年齢――どれだけ表面が違っても筋肉だけは同じ! 故に筋肉に差別はないのだ!』と。

そう! 彼はジェンリコ達だけではない。

ランスに縛られていた巨人族達を救うために来たのだ!

そしてダン・ゲート・ブラッド伯爵は最後の一人を救うため、歩み出す。

巨人族が雪山奥地へ過ぎ去ると、意識を回復したアム・ノルテ・ボーデン・スミスが、1人実弟オールの元へと近付く。

「兄様……」

「オール……」

オールが同一化した巨人族は足下から崩れた。

結果、アムの目線より少し高い位置に、オールが居る形になる。

近くでよく見るとオールは石壁に両手、両足太股の半ば過ぎまで埋め込まれたような姿をしていた。

まさに異様な光景である。

アムは変わり果てた実弟を前に厳しい表情で、腰から下げている 細剣(レイピア) を抜く。

アムはオールに止めを刺そうとしているのだ。

彼は過去に禁術で街を危機にさらした。

再び街を危機にさらし、城壁を破壊したのだ。

幸い、第2城壁の一部破壊、兵士達に死者無し負傷のみで済んだが、一歩間違えば多くの住人達が犠牲になっていた。

当主として罪を見逃す訳にはいかない。

何より巨人族の中に人体が埋まっている。

穴を開けて入れているのではない。

石材と肉が融合し癒着しているのだ。

たとえ魔力が戻ったとしても元に戻すことは不可能だと一目で分かる。

実弟は復讐のため、人間の尊厳を売り渡し怪物になってしまったのだ。

アムはせめてもの情けとして、自分の手で弟を処刑しようとしている。

兵士達は誰も止めることができなかった。

たとえここで止めたとしても、石と融合した身体では助けようがない。

オール自身、憑き物が落ちたような表情をしていた。

オールは目を閉じる。

処刑の合図だ。

アムは一度涙がこぼれそうになった瞳を当主として堪え、鋭いものにする。

細剣(レイピア) の刃を寝かせた。

肉親として最後の慈悲として、余計な苦痛を与えないように心臓へと狙いを定める。

アムの腕が放たれる前の矢のごとく、引き絞れられた。

「アム殿、待たれよ」

細剣(レイピア) が振るわれる直前、大きく分厚い手がアムの腕を掴む。

約100体以上の巨人族を雪山へと返したダン・ゲート・ブラッド伯爵が止めに入ったのだ。

「止めないでください、ミスター・ダン伯爵。これは領主としてのケジメなのだから。ノルテ・ボーデンを預かる身としてオールのしたことは看過できないのです」

アムは感情を押し殺し、機械的な口調で告げる。

ダンがそんな彼に問う。

「アム殿、それが貴殿の本心なのか?」

「……ッ」

領主としての表情が、ダンの一言であっさりと崩れる。

当然だ。たとえ大罪を犯したとしても、アムにとってオールは幼い頃から可愛がっていた弟。

自身の手で喜び勇んで殺したいはずがない。

奥歯を噛みしめ黙り込む表情が万の言葉より如実に語っていた。

「……兄様の言う通りだ。僕の罪は許されるべきじゃない」

実兄アムの苦悩を前に、オールが口を開く。

彼は今にも雪が降り出しそうな曇天の空を眺め、ぽつぽつと語る。

「それにランスが言っていた。正直彼の話はよく分からなかったが、僕の肉体は巨人族と細胞レベルで混ざり合い同化しているらしい。だから、もう二度と普通の人間には戻れない、と。香茶に溶かした砂糖を、再び抜き出すことができないようにもう二度と元通りには戻れないんだ」

オールは空から兄へと向き直る。

「だったら、最後は兄様の手で殺して欲しい。……兄様に殺されるなら、本望だ」

「オール……」

弟の言葉にアムは 細剣(レイピア) を手放しそうになった。

兄としての本心を言えば、たとえ怪物化した今のままでも構わない。生きていて欲しい。

だが、オール自身がそれを望まないのも分かっている。

ならせめて、弟が望むことをしてやろうと、再び 細剣(レイピア) に力を込める。

そんなアムにダン・ゲート・ブラッド伯爵が問う。

「アム殿、貴殿はオール殿を救いたいか?」

「…………」

ダンの問いにアムは答えられない。

さらに問う。

「アム殿、素直に答えて欲しい。弟を救いたくはないのかね?」

「……たい……ている」

「聞こえないぞ! もっと大きな声で!」

「たいに、決まって――」

「もっと、腹から出ていないぞ! 魂から想いを吐き出すのだ!」

ギリッと歯ぎしりが響く。

ダンの煽りに、アムが感情をぶちまけてしまう。

ノルテを預かる領主としてではなく、兄として答える。

「助けたいに決まっている! オールは弟なのだぞ!」

「ならば救おう!」

アムの答えより大きな声で、ダン・ゲート・ブラッドが叫ぶ。

暑苦しい紳士的な笑顔で、彼は断言する。

「言ったはずだ、我輩は友を助けに来たと! その中にオール殿も含まれているに決まっているではないか! なぜなら筋肉は友達! ならば友のために一肌脱ごうではないか!」

すでに『ピース君着ぐるみ』を脱いで、ブーメランパンツ一枚じゃないかというツッコミは気にせず。

「フンヌバァァアァアァァァ!」

ダンはオールを前にサイドチェストをする。

分厚いダン・ゲート・ブラッド伯爵の筋肉が今までの倍以上になったと錯覚するほど厚くなる。

同時にオールの体に異変が起きる。

「か、体が熱い? いや、筋肉が熱くなっている!?」

「オール殿! 信じよ! もっと自分の筋肉を信じるのだ! さぁ筋肉を震わせるのだ!」

オールは指示に従い本能の、魂の、筋肉の思うままに自身を信じて震わせる。

しかしここで問題が発生した。

ダンが苦しげに奥歯を噛みしめる。

オールの細胞を活性化させて全身を復活させるには筋肉が足りないのだ。

(クッ、我輩一人だけでは筋肉が足りぬ。このままでは……)

「兄貴、俺様達を忘れてもらっては困るぜ!」

声に振り返ると、ジェンリコ達、鉱山メンバーが揃っていた。

当然、全員パンツ一枚で筋肉バリバリの男達だ!

「兄貴の願いが俺様の願い。兄貴が嫌がっても助太刀させてもらうぜ!」

「自分達もです! ダンの兄貴のためなら――いえ、筋肉(友)を救うためなら協力は惜しみませんよ!」

「俺もです!」

「私も!」

と、筋肉男達がオールを救うため、群がる。

先程まで自分達を殺そうとしていたオールに対して、率先して慈悲の筋肉を差しだそうとするのだ。

そんな彼らにダンは心底喜びの笑みを浮かべる。

「はははははっはあは! 我輩としたことがうっかりマッスルしてしまうとは!」

『うっかりマッスル』とは! マッスルでもうっかりするという言葉である!

「ジェンリコ! 皆よ! 全員の筋肉を合わせるのだ!」

『応ッ!』

掛け声と同時に新たなポージングを取る。

しかし彼らだけではまだ足りない。

ジェンリコがアムや兵士達にも声をかける。

「まだまだ筋肉が足りない! オマエ達も筋肉を貸してくれ!」

『筋肉を貸してくれ』とか意味が分からない台詞に戸惑いながらも、アム&兵士達は彼らに習って衣服を脱ぎ、裸体を晒しながらオールを囲んでポーズを取る。

北国、降り積もる雪原。

崩れた第2城塞前で、筋肉の輪が広がっていく。

「もっともっともっと! 筋肉を震わせるのだ!」

『フヌオォォォォオォッォォォオォッ!』

掛け声とともに、筋肉が震え尋常ではないパワーを生み出す。

いつしか筋肉の輪を中心に雪が溶け、空を塞ぐ曇天がそこだけ吹き飛ばしていた!

さらに熱気は膨れあがる。立ちのぼる蒸気、男達の流れる汗、浮かぶ血管!

今、極寒の雪国で最も熱い、暑すぎる戦いが繰り広げられていた!

同時にオールの巨人族と融合している両手、太股の周辺に罅が走る。

その罅は男達の熱気とともに徐々に広がっていく。

罅の広がりは止まらず、最後は周辺部分が砕け散り、吐き出されるようにパンツ一枚、ほぼ全裸のオールが抜け出る。

「ッゥ!?」

「お、オール!?」

まるで吐き出されるように地面に落ちたオールを心配して、同じくパンツ一枚のアムが駆け寄る。

「兄様……」

「オール、手足は……無事だ。元に戻っているぞ!」

アムの喜びの声通り、オールの手足はちゃんと普通の人間の肌をして、指があり、動いていた。

オールが涙を流す。

「兄様、僕は……僕は……」

「今はいい。何も言わなくていい。オールが無事に戻ってくれて、ぼくは嬉しいよ」

「兄様!」

兄は涙する弟を抱きしめる。

弟は兄を抱きしめ返すと、その腕の中でむせび泣いた。

美しい兄弟愛を前に、ダン・ゲート・ブラッド達は同じように感動し涙しながら拍手する。

マッチョな男達の拍手を浴びながら、弟の犯した罪を一時だけ忘れ、兄は彼の無事を喜んだ。