軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第378話 北大陸4

無事にオールを助け出し、ほぼ裸で抱き合い涙する兄弟が落ち着いた頃合いを見計らって、ダン・ゲート・ブラッドが口を挟む。

「アム殿、ノルテの長としてオール殿の今後の処遇についてなのだが、法に則った場合、彼はどのように処罰されるのかな?」

「それは……」

アムは思わず口を噤んでしまう。

100体以上の巨人族を引き連れ、街や住民を危機に晒し、城塞を破壊している。

前回だけでも重罪なのに、今回でさらに罪を重ねた。

『死刑』

それ以外は無い。

ダンは黙り込んだアムの代わりに断言する。

「普通に考えれば『処刑』以外はありませんかな?」

「そう、ですね……」

アムは苦々しく同意するしかない。

大勢の兵士が見ているなか、身内だからと法をねじ曲げたら当主失格である。

返事をした手前、後から覆すこともできない。

アムは八つ当たりだと分かっていながらも、ダンを思わず睨みつけてしまう。

そんな兄を、オールが宥める。

彼は完全に憑き物が落ちた表情で告げる。

「兄様、僕はもう十分だ。自分の間違いに気づけた上、人外に堕ちたにもかかわらず再び人として生まれ変わることができた。それにまたこうして素直な気持ちで兄様と向き合えただけで、僕はもう満足だよ」

「オール……」

弟の雪解け水のような澄んだ笑顔に、アムは涙を流しそうになる。

彼が本心から、死刑にされても恨みの欠片一つなく満足に死ねると言っているのが分かってしまう。

アムはつい未練がましく、弟を死なせないための抜け道を考えるが思いつかない。

あるにはあるが、『オールの身代わりとして偽者を処刑する』『国外に逃がす』『事故等で遺体が回収できないことにして、死んだように擬装する』などの曲がった手ばかりだ。

もし弟可愛さに実行した場合、オールの覚悟を汚し、ノルテの当主として道を外れることになる。

一度道を外れたらどうなるのか――実父やオールが辿った道を振り返れば分かるだろう。

『それでもぼくは……』とついアムは考えてしまう。

しかしアムが悪魔の誘惑に負けそうになった時、ダン・ゲート・ブラッドが冷たく断言した。

「いや、まだ足りぬな。ただ『死刑』にしただけでは足りぬと思うのだが」

「ミスター・ダン伯爵? 何が足りぬというのですか?」

「資金だ」

ダンが即断する。

彼はオールによってほぼ半壊している第2城壁へと視線を向けた。

「オール殿を処刑すれば、法としては処理される。だが、壊れた第2城壁や兵士達が負傷した傷の治療費、見舞金、復帰までの保証金、バリスタや魔石代金、住人達が避難したせいで経済が滞った資金――あげたら切りがない」

ダンの指摘通り、当主であるアムとして資金の補填は頭が痛い問題だ。

オールを処刑すれば、全てが元通りになるなら話は早いのだが……。

実際、復旧するのに莫大な予算と年単位の時間がかかるだろう。

「そこで我輩からの提案なのだが……オール殿には『死刑』より、ただ死ぬより辛い苦役を与えるべきだと思うのだが、どうだろうか?」

澄んだ笑顔を浮かべていたオールの顔に、怯えが走る。

死は既に受け入れているが、それ以上に辛いことを想像し不安になったのだ。

人として当然の感情変化である。

怯える弟を前に、兄は当然、激怒した。

「ミスター・ダン伯爵! 確かに人材、設備、経済的損失は決して看過できるものではない! だからといって死を覚悟する者の魂を汚すマネをするなど……ッ! 弱者をいたぶるマネをするのが紳士だとでもいうのですか!?」

「紳士とは、時に他者から冷酷非道と罵られ、恨みを持たれたとしても物事をおこなえる者のことをいうのだよ」

ダンはアムの怒りなどどこ吹く風で、あっさりを受け流す。

アムや他兵士達の瞳に失望が浮かぶ。

だが、ダンは彼らの視線や失望など気にせず、飄々と提案した。

「オール殿には我輩も奴隷時代に働いていた鉱山での強制労働を申しつけることを提案するぞ。過酷な鉱山で魔石や鉱物を採掘し、今回かかる費用をオール殿自らの労働で贖うのだ。それこそ死ぬまで一生涯かかってもな!」

ダンの提案に失望の表情を作っていたアムや他兵士、怯えていたオール自身も惚けた顔をする。

「それってつまり……」

「どうだろうかノルテ当主殿、我輩の提案は受け入れてもらえるだろうか?」

アムの台詞を最後まで言わせず、ダンは暑苦しい笑顔でウインクを一つする。

オールを処刑にするのではなく、より苦しく重い罰である強制労働につかせる。確かに鉱山での働きは過酷だ。

しかし生きることはできる。

都合がつけば何度でも弟と顔を合わせ、話をすることもできる。

なおかつ、今回の費用をオール自身が賄うため鉱山での強制労働なら、単純な『死刑』にするよりも理に適っており、批判や混乱も生じにくい。

アムはすぐに断言した。

「ミスターダン・ゲート・ブラッド伯爵、助言感謝致します。ノルテ・ボーデン当主としてアム・ノルテ・ボーデン・スミスと命じる。オールよ、今回と前回の騒動にかかった費用を贖うため鉱山での強制労働を言い渡す」

「はい、ありがとうございます。ノルテのため、自身の一生を懸けて励ませて頂きます」

オールはアムから離れると、地面に手を突き深々と頭を下げ同意した。

オールの肩にダンが手を乗せる。

彼が顔を上げると、ダンは熱い笑顔でアドバイスを贈る。

「オール殿、鉱山では体だけではなく、心の筋肉も鍛えるのだぞ!」

「はい、ダン・ゲート・ブラッド伯爵!」

2人のやりとりに兵士達、マッチョ達、アムが自然と手を叩いていた。

傷つけられた兵士達、恐怖を与えられた住民達、誰もがまだ完全にオールを許してはいない。

しかし彼は過酷な鉱山で一生涯働きながら、少しずつその罪を償っていけばいい。

そのおこないは単純に死ぬより過酷だろう。

だが、オールは笑顔で罰を受け入れた。

『死刑』を受け入れた時よりも、ずっと澄んだ笑顔で――。

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「これからよろしくな兄弟!」

「はい、よろしくお願いします!」

「一緒に筋肉を鍛えようぜ!」

オールは労働先の先輩であるジェンリコ達に囲まれ、どこかすっきりとした表情で挨拶を交わす。

ダンはその光景を離れた位置で頷きながら眺めていた。

そんな彼に、アムがいつのまにか側へと寄っていた。

「先程は失礼な態度を取ってしまい大変申し訳ありませんでした。改めて、弟を救ってくださりありがとうございます」

「何! 気にするでない! ははあっはははははは!」

アムの謝罪&お礼に対して、ダンは笑いながら彼の肩を叩く。

ダンは本心から、先程のアムの態度を気にしていないようだ。

アムは躊躇いながらも問わずにはいられなかった。

「……弟を救って頂いたのに、こんなことを尋ねるのは恐縮なのですが……あの力を使えば魔人大陸の彼らを救えたのではないですか?」

アム自身、一時、リュート達と行動を共にしていたため、クリスとリュートがどうやって結ばれたのかを知っている。

当然、流れとしてダンと兄弟達の関係も耳にしていた。

空に浮かんだ映像には、彼の実兄達が映っていた。

『オールを救った力を使えば彼らを救えていたのではないのか?』と疑問を抱いたのだ。

もしオールを救うために、自身の兄弟達を諦めたとしたら――どう恩を返せばいいか分からない。

そのため尋ねずにいられなかったのだ。

「いや、無理だろう。あの様子では、我輩の声などもう聞こえなくなっていただろうからな」

アムの予想に反して、ダンは即断言する。

「筋肉も同じだ。近すぎる筋肉を同時に鍛えることはできない。日を分けて鍛えなければ、疲労が溜まって筋肉が育たぬ。それと同じで近すぎる者同士は……難しいのだ」

「ですが! ぼく達はミスター・ダン伯爵に助けられた! きっと何か方法があるはず! 恩を返すためにも是非力にならせてください!」

アムの申し出にダンは快活に笑う。

「はははっはははは! 気にするな! それが大人の――紳士としての勤めだからな!」

ダンはいつもの満面の笑みだったが、どこか寂しげに雰囲気を纏わせていた。

アムは思わず喉が詰まってしまう。

むしろ彼に対してどんな言葉を告げればいいのか。どれほど胸中で言葉を選んでも、無粋にしかならなかった。

ダンは空気を変えるように一層、大きな声で笑う。

「アム様、ご無事ですか!?」

笑い声を遮るように女性の声が響き渡る。

今だパンツ一枚のマッチョ男達を掻き分け、一人の女性が子供を抱きしめ姿を現す。

子供は女性の腕の中で寝ているらしい。

「アイス! シユ! どうしてここに! 雪山の白狼族達のとこへ避難したのではないのか!?」

「ごめんなさい……白狼族と合流したのですが、やはりアム様が心配で引き返して来てしまって。戻ったらすでに戦いが終わったと聞いたので、居ても立ってもいられず……」

アイスは申し訳なさそうな表情で謝罪を口にする。

いつもピンと綺麗に張っている耳も今はさすがに項垂れていた。

「お叱りは後でいくらでも受けます。ですが、まずはアム様、お怪我はありませんか? 気分が悪くなったりしてませんか? 背中や後頭部など、ご自身で確認できない部分に傷が無いか確認させてください」

アムさえ絡まなければ普段はクールなアイスが、今は心配のし過ぎで涙目になりながらわたわたする。

「落ち着いてくれ、アイス。ぼくに怪我はないよ。兵士達とミスター・ダン・ゲート・ブラッド伯爵達の尽力のお陰でね」

「ダン・ゲート・ブラッド伯爵、ご尽力頂き感謝致します」

「はははははっはあ! 何、気にするでないご婦人よ! 全ては友のためだからな!」

ダンはアイスのお礼に対して、豪快に笑い応える。

声が大きすぎたのか、アイスの腕の中で眠っていたシユが目を覚ましてしまう。

さすがのダンも口元を抑えた。

「少々、声が大きすぎてしまったようだ。愛娘殿をおこしてしまうとは」

「移動中もずっと寝ていたいので、むしろちょうどいいぐらいです。ほら、シユ、アム様――パパにご無事だったご挨拶をしましょう」

「シユ、ぼくの天使ちゃん。さぁ、おいで、お目覚めのキスをしてあげよう!」

アムは先程までのシリアスな空気は霧散し、愛娘を前に当主、兄ではなく一人の父親としてデレデレと相好を崩す。

愛娘シユも眠りから覚めた目を擦り、声がした方へと顔を向ける。

一転、眠たげな目をキラキラと輝かせ、垂れていた耳と尻尾が元気よくピンと跳ねた。

彼女は両腕を伸ばし、声をあげ求める。

「きんにく! きんにく!」

「…………」

空気が凍る。

シユは父であるアムに目もくれず、ダンへと両腕を伸ばす。

母親アイスの腕から落ちそうな勢いだったため、ダンが代わって抱き上げる。

シユはダンに抱き上げられると嬉しそうに、金属のような胸筋を嬉しそうにペチペチと小さな手で叩く。

「きんにく! きんにく!」

「ははははっは! シユ殿はこの歳にして筋肉の良さが分かるか! 筋肉はいいぞ!」

「いいぞぉー!」

「さすが北大陸最大都市当主の娘さんだな!」

「筋肉の素晴らしさをちゃんと教えているとは、上流階級はやはり一般人とは根本的にちがうんですね」

シユの周りに鉱山組が集まり出す。

ほぼ裸体で、強面の男達に囲まれても少女は怯えるどころか、さに上機嫌になる。

どうやら筋肉に囲まれて嬉しいようだ。

まさに今のシユは筋肉サーの姫状態である。

一方、アムはというと――

「……ぼくも筋肉を鍛えようかな」

「あ、アム様は今のままで十分、素敵ですから!」

アイスとしてはアムがどんな姿になろうとも愛が変わることはない。

だからといって、世の女性が理想とする白馬に乗った王子様のような現在の彼から、ガチムチマッチョな姿に変える必要はないのだ。

アイスは真剣にアムを思いとどまらせようと説得を開始した。

これがアム&アイス夫婦の結婚して以来、初の喧嘩となる。

そんな両親を差し置いてシユは幸せそうに筋肉達に囲まれていた。

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後にシユ・ノルテ・ボーデン・スミスは、一代で北大陸を統一。

初の女帝として北大陸に君臨する。

統一の原動力になったのは、彼女が主導でおこなった鉱山採掘の徹底的な効率化だ。

北大陸は他大陸に比べて、外貨になる輸出品が圧倒的に少ない。

ほぼ唯一の輸出品は魔石や鉱石等の地下資源だ。

彼女は採掘に魔術道具を積極的に導入し、システム化、現地での加工までおこなった。

場合によって顧客にまで届けたとか。

この販売方法の確立により、巨額の資金を稼ぎ出す。

元々、北大陸の魔石等は他大陸に比べても品質がよかった。

その点に目を付けたシユは、北大陸の魔石をブランド化し、他大陸との差別化をはかったのだ。

この新規システム・販売方法に関しては、彼女が独自で作り出したモノではない。

魔人大陸、ダン・ゲート・ブラッド伯爵、リュート・ガンスミスの助言やアドバイスを参考にしたといわれている。

この資金を土台に北大陸統一を成し遂げたのだ。

またシユは魔術道具の大量使用による鉱山の効率化だけではなく、その一方で人材の育成・教育・保護を誰よりも積極的におこなっていた。

実例として有給休暇、保養施設、家族手当等の福利厚生を充実。

他にも世界初、会社内に、採掘従業員達用のレクリエーションルームを設立する。

楽器演奏者を招待しライブを開いたり、トレーニングジムの開設、発表会などをおこなったりもした。

彼女がなぜここまで人材の保護に力を注いだかというと、シユの父方の叔父にあたるオールからの助言があったからと言われている。

オールは巨人族を使いノルテ・ボーデン襲撃をおこなったため捕縛され、鉱山にて強制労働を義務付けられた。

元上級貴族にもかかわらず、彼は真面目に鉱山での強制労働に従事する。

現場をよく知るオールが、姪にあたるシユに人材の重要性を訴えたことで、彼女は福利厚生を充実させたらしい。

シユは知識を持ち、懸命に働く叔父オールとの関係を大切にしていたのだ。

彼は死ぬまで一鉱夫として働き、犯した罪を償う。

鉱夫達の生活環境、地位向上にも尽力した。

そのためオールの死後、彼はいつしか鉱夫達から『鉱山の父』と呼ばれ語り継がれるようになっていた。

シユ・ノルテ・ボーデン・スミスは、初の女帝として北大陸に君臨するも、初期頃は周囲からすぐに座を妹弟達にうばわれるのではないかと危惧されていた。

なぜならシユは妹弟達と違い唯一魔力を持っていなかったからだ。

しかし、周囲の予想に反してシユは長く女帝を務め、他妹弟達は彼女の手足として彼女に忠実に従っていた。

従った理由の一つとして、シユが世界三大美女に必ずあげられる程の美貌を持っていたからだと言われている。

『白い宝石』『雪の女王』『北大陸の至宝』など彼女を讃える言葉は数多い。

類い希な美貌を持つ彼女に婚姻を申し込む男性は後を絶たなかったが、彼女の好みは『筋肉が発達した男性』のため、大抵の男が顔を合わすこともできず断られた。

彼女が筋肉を好んだエピソードとして最も有名な名言が残っている。

「魔力がなければ、筋肉をつければいいじゃない」

とある歴史家曰く――『シユ・ノルテ・ボーデン・スミスの好みが少しでも違っていたら歴史は大きく変わっていた』とさえ言われるほどだ。

最後にシユがどれほど美しい女性かを現すエピソードが残っているので紹介しようと思う。

竜人大陸、国王の妻は子供達を集め、彼女を恐れて震えながら忠告した。

『シユ・ノルテ・ボーデン・スミスには近付いてはダメ。あれは美しすぎて心を狂わせる魔性の女だから』と。

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こうして無事に、北大陸の戦いは集束する。

次の舞台は獣人大陸。

鉄と氷、銃弾の戦いが始まる。