軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第371話 竜人大陸戦3

『GURUGALALLAALLAALLLALLALALALLLAL!』

ドラゴン達の一斉の咆哮。

敵対者ではない竜人種族民達でさえ、怯えた表情を浮かべ、中には腰を抜かしている者もいた。

ドラゴン達はそんな彼らなど気にせず、海上にいる 静音暗殺(サイレント・ワーカー) 達へと群がる。

上空から火を吐き出し、雷を落とし、岩の巨大槍をぶつけたりなどやりたいほうだいだ。

静音暗殺(サイレント・ワーカー) は巨人族サイズとはいえ相手は空を飛ぶドラゴン。

攻撃魔術を飛ばしても悠々と回避できる一方的距離から攻撃を受け続けている。

為す術もなく一体、また一体と海の藻屑と化す。

まさに『蹂躙』だった。

終末的光景を眺めながら、ドラゴン王国第一皇子、ロン・ドラゴンは眉一つ動かさず軽く愚痴をこぼす。

「まったく……オジ上もドラゴンの研究ばかりにかまけていないで、普段もこれぐらいは働いて欲しいものだ」

ドラゴンの群れはロンの指示で動いているわけではない。

ドラゴン研究に情熱を傾け過ぎて、自分自身がドラゴンになってしまった竜人種族の魔術師S級、『 龍老師(ロン・ラオシー) 』が率いているのだ。

ロンは 龍老師(ロン・ラオシー) を『オジ上』と呼んでいるが、近い親族というわけではない。

血を辿れば遠縁の親戚筋ではあるが、昔から 龍老師(ロン・ラオシー) はドラゴン王国の相談役的なことをしていた。

彼の国への忠誠心はあまり高くはない。研究費、人材派遣などのために協力しているのだ。

何度も顔を合わせている年上男性のため、いつしか『オジ上』と呼ぶようになった。

ロンは海上の戦いを確認し終えると、改めて先程まで自身が戦っていた 静音暗殺(サイレント・ワーカー) へと向き直る。

『まさか魔力を失っているのにここまでやるとは……想定外だな』

ロンに背を向け海上でドラゴン達に倒されていく自分自身を見つめながら、誰へともなく言葉を漏らす。

だが、 静音暗殺(サイレント・ワーカー) からは未だに敗北感、勝負を投げ出した気配は微塵も出ていない。

静音暗殺(サイレント・ワーカー) もロンへと向き直る。

『竜人大陸全土を灰にするのはさすがに無理そうだが、俺もプロだ。雇い主からの依頼――リズリナ・アイファンの殺害だけはきっちりとやらせてもらうぞ!』

「……朕の前で民を傷つけることが――あまつさえ、手にかけることができると本気で思っているのか?」

静音暗殺(サイレント・ワーカー) は巨人族の体躯にもかかわらず、素早い身のこなしでロンを超えて、リズリナを殺害しようと駆け出した。

リズリナは殺意を向けられ『ひぃッ!』と小さく悲鳴を漏らす。

彼女を守ろうと、研究員達が壁になるよう彼女の前へと出るが――徒労に終わる。

静音暗殺(サイレント・ワーカー) がリズリナに到達するより速く、ロンの右手に握られた『 聖竜昇竜刀(せいりゅうしょうりゅうとう) 』が素早く振り抜かれる。

刀身から白いドラゴンのアギトが姿を現し、リズリナに駆け寄ろうとする 静音暗殺(サイレント・ワーカー) の両足だけを残し呑み込んでしまう。

両足は主を失い長時間立っていられず、ゆっくりと石畳の地面へと倒れた。

倒れた際、振動と音でその場に居る皆の耳目を集める。

――故に反応が遅れる。

「けほ……な、なによ、これ……」

剣のように鋭い腕がリズリナの背後から彼女の胸に突き刺さり、赤い血を傷口からしたたらせていた。

「!? お、お嬢おぉぉぉおぉぉおおッ!?」

リズリナの異変にようやく気付き背後を振り返った彼女を慕う部下達が驚愕と悲鳴が混じり合った声をあげる。

リズリナの背後、風景がぐにゃりと歪む。

姿を現したのはもちろん 静音暗殺(サイレント・ワーカー) だ。

巨人族ほどのサイズではなく、約180cm。

大柄だがあくまで常識的サイズの人型をしていた。

『まったく、こんな序盤で姿をさらすとはな……予定が狂いまくりだぜ』

静音暗殺(サイレント・ワーカー) は最初、巨人族サイズの分身体を海上から目立つように移動。

耳目や戦力を集中させ、常識的サイズの人型本体で目標であるリズリナを暗殺後、後方で指示を出す王族や貴族などの上位者を殺害する予定だった。

強固に守られた上位者を誰にも気付かれず殺害することで、 静音暗殺(サイレント・ワーカー) 復活の狼煙、デモンストレーションにするつもりだったのだ。

王族、貴族、宗教関係者――権力者がもっとも敵に回したくないと恐れた世界最強の暗殺集団、 処刑人(シーカー) を率いていた時のように。

しかし予想外にロンが強すぎて、大幅に予定が狂ってしまったが……。

『まぁいい。最低限、雇い主からの要望は果たしたわけだしな』

彼は一度捻り周囲の臓器をズタズタに裂いてから腕を引き抜く。

即死レベルの致命傷。

たとえ即死せずとも、魔力が無い現状では絶対に助けることができない傷だ。

リズリナは声もあげられず、地面へと倒れる。

静音暗殺(サイレント・ワーカー) は腕に付いた血を払うように一振りしてから、ロンへと右腕を突き出す。

『「自分の前では民は殺させない」だったか? 寝言をほざいた後、目の前で殺された気分はどうだ。最悪か? だが次はこうなるのは貴様だ。昼も、夜も、いかなる時も絶望しろ。便所でも殺される恐怖に震えていろ。貴様を殺す者――この 静音暗殺(サイレント・ワーカー) に狙われた、自身の不運を呪いながらな!』

静音暗殺(サイレント・ワーカー) は獰猛な笑みを浮かべる。

だが、ロンはそれを気にした風もなく、静かに 静音暗殺(サイレント・ワーカー) へと声をかける。

「朕はドラゴン王国、第一皇子、ロン・ドラゴンである。朕の言は絶対。凡夫よ、一体そのなまくらが、どの民を傷つけたというのだ?」

静音暗殺(サイレント・ワーカー) はロンの正気を疑った。

今、目の前でリズリナを殺害したというのに、眉一つ動かさず問うてきたからだ。

負け惜しみか、彼のような権力者からすればリズリナ一人など民の内に入らないのかと、殺した本人である 静音暗殺(サイレント・ワーカー) 自身が、自分の出した答えに気分を悪くする。

『!?』

だが気付く。

ロンの問いが虚言、負け惜しみではない――文字通り『生きた証』が彼の腕の中にいつのまにか存在したからだ。

『な、なんで! なんで俺が殺したリズリナ・アイファンがそこにいるんだぁっぁあぁッ!』

「その方が手を掛けたと錯覚したのは、 聖竜昇竜刀(せいりゅうしょうりゅうとう) が作り出した『幻影』である」

ロンの手にある 聖竜昇竜刀(せいりゅうしょうりゅうとう) が日光を反射し、輝く。

聖竜昇竜刀(せいりゅうしょうりゅうとう) の材料となる牙は、エンシェントドラゴンのものだが、ドラゴン王国の祖とエンシェントドラゴンが盟友の絆を交わした際に与えられた物だ。

初代王となる祖は、エンシェントドラゴン本人の協力の下、牙を鍛え加工し 聖竜昇竜刀(せいりゅうしょうりゅうとう) を作り出した。

ドラゴンの牙は全てを切り裂く。

神、悪魔、魔王――例外はない。

さらにエンシェントドラゴンの牙から作り出したため、その力を受け継ぎ千とも万とも言われるエンシェントドラゴン本人の能力を使用することができるのだ。

永い時を生き、蓄積された魔術。

その力を持ってすれば見た目だけではなく、突き刺した手応えすら誤認させるほどの『幻影』を作り出すなど造作もない。

ちなみに王族のみの秘だが、この宝刀、 聖竜昇竜刀(せいりゅうしょうりゅうとう) を抜くことがドラゴン王国の次期国王になるための試練である。

もし2人以上刀を抜いた者が居た場合は、いかに宝刀の力を引き出せた者が次代の王になる。

だがドラゴン王国の歴史上、十全に宝刀の力を引き出せたのは初代と次期国王であるロン・ドラゴンのみだ。

『こ、この化け物がぁぁぁッ!』

天神化したランスの力によって、常識外の化け物になった 静音暗殺(サイレント・ワーカー) だったが、それ以上の怪物を前に絶叫。

すぐさまロン達に背を向け、街――大陸奥地へと逃げ出す。

当然、魔力で身体を強化し、全身に流して風景と同化し姿を消してだ。

彼は戦闘を放棄し、逃走を選択した。

しかしロンは慌てず、いつもの涼しげな表情を浮かべている。

「言ったはずだ――」

一瞬、姿がぶれる。

次には港へ向けて右手に握る 聖竜昇竜刀(せいりゅうしょうりゅうとう) を空中へと突き出す。

なぜか刀身が途中で消え、空間をまたいで先端が再び姿を現していた。

「ドラゴンの 眼(まなこ) は全てを見通す、と。朕の眼、ドラゴン・アイから逃れる術はなし」

『あ、ありえない。ありえないだろうが!』

風景が歪む。

まるでピンで止められた虫のように背後から宝刀を突き刺された 静音暗殺(サイレント・ワーカー) が姿を現す。

彼は大陸奥地へと逃げ出したと見せかけ、こっそり港へと戻り海底へと場が静まるまで息を潜めるつもりだったのだ。

しかしロンの眼、ドラゴン・アイは全てを見通していた。

結果、まるで先程、リズリナを突き刺したように今度は 静音暗殺(サイレント・ワーカー) が背後から胸に刃を突き刺されることになる。

「ドラゴンが住まう地を選んだことを後悔し、永遠に滅びよ」

『ヒィ! ひいぃいぃ、た、助け――』

命乞いをするより早く、貫かれた胸を刃の先から再びドラゴンのアギトが生まれ出て、一口で 静音暗殺(サイレント・ワーカー) を呑み込んでしまう。

海上ではドラゴンの群れが彼の分身体である巨人族サイズをほぼ狩り尽くしていた。

結果だけみればあれだけの戦力を前に、死傷者無しという奇跡が起きる。

なのにその場に居る民達は誰も歓声をあげない。

リズリナが120mm 滑腔砲(かっこうほう) で一体の巨人族サイズを倒した後でさえ、驚愕されたが後ほど惜しみない賞賛を送られた。

しかし、ロン・ドラゴンの実力は敵だけでなく、守護するべき民でさえ畏怖させるほど圧倒的だった。

彼自身は当然とばかりの態度で、民から畏怖されてもまったく気にしていない。

民から畏怖されることが『王』の仕事だと言わんばかりの態度だ。

彼は 聖竜昇竜刀(せいりゅうしょうりゅうとう) を鞘に収めると、従者の一人を呼びつけ現場雑務を命じる。

自身は終わったとばかりに、王宮へと帰宅しようとしていた。

「お、お待ち下さい!」

リズリナが帰宅しようとするロン・ドラゴンへと声をあげ、駆け寄った。

ロンの肉壁になるように従者達が彼女の前に立ちふさがる。

リズリナは構わず、両膝を付くと手を拳の形にして胸の前で重ね深く、頭を下げる。

「ご無礼を承知で、メイヤ・ドラグーンについてご報告がありお声をかけさせて頂きました!」

「朕の妻候補であるメイヤ・ドラグーンの? 許す。申してみよ」

この言葉に肉壁になっていた従者が左右に分かれ、ロン・ドラゴンはリズリナへと向き直る。

リズリナはまず 静音暗殺(サイレント・ワーカー) から助けてもらってお礼を言う。

「まず先程は助けて頂き誠にありがとうございます。あたし――自分はメイヤ・ドラグーンが所属する 軍団(レギオン) 、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) から新兵器開発の研究を任されております技師です。なので少なからずメイヤ・ドラグーンとは面識があります」

「軍団同士の繋がりだけではなかろう。リズリナ・アイファン、アイファン商会の長女。上に二人兄がいたな。そして朕の妻候補であるメイヤ・ドラグーンとは魔術師学校、魔術師大学校の同期だったはずだ。違うか?」

「は、はい! 間違いありません。で、ですがなぜ自分のことを詳しくご存じなのでしょうか?」

「? 何を不思議がることがある。民を知らずしてなぜ王が務まるのだ?」

ロンは心底分からないといった声音で返答した。

彼は自国の民の名前や簡単な経歴、親族関係等を全て把握しているのだ。

それも宝刀、 聖竜昇竜刀(せいりゅうしょうりゅうとう) の能力の一つだが、種明かしをするつもりはない。

リズリナや他民達は心底驚愕し、再び彼に対して恐怖と忠誠を新たにする。

リズリナは冷や汗を垂らしながら、本題へと移る。

「じ、自分のような者を存じて頂き誠にありがとうございます。仰るとおりメイヤ・ドラグーンとは知らぬ仲ではありません。故に彼女が取る行動も予想がつきます。恐らく彼女達、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) は先程の怪物を作り、『 神核(しんかく) 』を手に入れたというランス・メルティアを倒しに向かっているはず。皇子が力添えすれば彼の者にも必ず勝てると思うのですが……」

彼女の言葉は、その場に居る民達全員が思ったことだ。

ロンの実力、移動のためのドラゴン達。ランスを倒すための戦力はすでに整っている。

彼らからすればロンにランスを倒してもらい、魔力を取り戻して欲しいのが本音だ。しかし誰も『ちょっとランスの所へ行って倒してきて』とは恐れ多くて口にできず、ロンの帰宅する姿を眺めるしかなかった。

リズリナは PEACEMAKER(ピース・メーカー) 、メイヤ・ドラグーンとの繋がりがあり、予想では彼らはランスを倒しに向かっている。

彼らが――メイヤが倒されたらライバル(自称)として面白くないし、研究費だって惜しい。

だから魔王を倒した軍団と妻候補の名前を出し、ロンへと進言したのだ。

暫しの沈黙の後、ロンが問う。

「……なぜドラゴンは強いのか分かるか」

「も、申し訳ございません! わ、分かりません」

リズリナは冷や汗の量を増やし、頭をさらに深くし素直に答えた。

ロンはたいして気にせず答えを告げる。

「ドラゴンがドラゴンだから、ドラゴンは強いのだ」

あんまりな答えに皆、微妙な空気を漂わせる。

しかしロンはそんな空気など一切気にしない。

「故に ドラゴン(強者) は ドラゴン(強者) を知る。朕は弱者に興味など無い。空に映った姿を見れば分かる。あれは力は多少あるようだが、心の根の弱い矮小な小物だ。朕の嫁候補であるメイヤ・ドラグーンが、あの程度の小物に敗北などありえん」

ロンは話が終わったとばかりに背を向け再び歩き出す。

以後は一度も振り向かず、王宮へと帰宅してしまった。