作品タイトル不明
第370話 竜人大陸戦2
『おっ……おおおおぉぉぉぉぉぉおぉおおぉぉぉぉッ!!!』
ようやく聴力と120mm 滑腔砲(かっこうほう) の衝撃から回復した竜人種族警備兵士や漁師、商人達が、魔石付きバリスタでも傷一つつけられなかった 静音暗殺(サイレント・ワーカー) を倒した事実に驚愕と歓喜の声をあげる。
彼らの視線はすべて怪物化した 静音暗殺(サイレント・ワーカー) を倒した竜人種族、『 宝石と石炭(ジェム&コール) 』、リズリナ・アイファンへと向けられた。
しかし、彼女はというと――
ようやく注目を浴びているというのに、120mm 滑腔砲(かっこうほう) を背負った多脚戦車型『クモクモ君あるふぁ』のチェックに夢中になっていた。
どうやら彼女は壊滅的にタイミングが悪いらしい……。
リズリナは各部のチェック、特に足回りを重点に確認する。
「うーん、やっぱり今の『クモクモ君あるふぁ』じゃ120mmの衝撃に耐えきれないわね。結構、足回りに罅が入っちゃってる。後、1、2回撃ったら折れちゃうわねこれじゃ」
「重量を増やした分、足回りの負担が多すぎるんすよ。お嬢、やはり少し重量を抑えてみてはどうですか?」
取り巻き――研究員の一人であるおっさんが進言するが、すぐに彼女は却下する。
「駄目よ! これ以上重量を減らしたら、発砲時の反動に耐えきれず最悪ひっくりかえっちゃうわよ」
実際、リュート・ガンスミスから120mm 滑腔砲(かっこうほう) を受け取ってすぐ、『運搬クモクモ君』に無理矢理備え付け、発砲した。
その際、ひっくり返りはしなかったが反動で脚が折れ、振り回されてしまったのだ。
その結果を踏まえ、『クモクモ君あるふぁ』は『運搬クモクモ君』に比べて脚、胴回り――全体的に約1・5倍から、部位によっては2倍近く大きくし反動の衝撃に耐えられるように重量と強度を増やしている。
そのため『運搬クモクモ君』より、『クモクモ君あるふぁ』はずんぐりとしている。
現在は直線フォルムで角張っているが、削って丸みをつけたらマスコットキャラクターか、ゆるキャラとして通じる可愛さが出そうだ。
「やっぱりて巨人族の石材割合を増やさないと駄目ね」
「そうなるとまだまだ完成には時間がかかるっすよ」
「大丈夫よ! なにせ天下の PEACEMAKER(ピース・メーカー) がバックについているんだから! この問題が片づいたら、さらに予算をせびればいいのよ! 後、今回の迷惑料もたっぷり請求してやるわよ! あははは! メイヤ・ドラグーンはせいぜいあたしの研究のために、貢げばいいのよ!」
リズリナは PEACEMAKER(ピース・メーカー) 会計が聞いたら血の涙を流しそうな台詞を高らかに叫ぶ。
と、その時――
『グきゃきゃきゃ! PEACEMAKER(ピース・メーカー) にイヤガラセをするのは楽しいが、俺としてはもっと直接的なのが好みだな。たとえば――』
ぐにゃりと――まるで空間から突然、湧き出したように港に姿を現す巨人。
その声音に皆、聞き覚えがあった。
なぜなら、先程までうるさいほど叫んでいた 静音暗殺(サイレント・ワーカー) のものだったからだ。
120mm 滑腔砲(かっこうほう) によって上半身が千切れたものとは別の一体が姿を現す。
彼の体が金属化したのは何も防御能力を増大させるためだけではない。
金属のような光沢を持つことで、魔力で表面の色を変化――地球で言うのなら『光学迷彩』のように周囲に風景に溶け込むことができるようにするためだ。
アメリカでも現在、歩兵用にカメレオンやタコのように周囲の風景に溶け込むような光学迷彩を開発し、装備させようとしているらしい。
方式はある意味簡単で、歩兵が着る服をテレビ画面のように映像を映し出せるようにして、コンピューターが周囲の環境を把握し移動する際、服にその風景を映し出す、というものだ(まだ実用化はされておらず実験段階の未来兵器扱いだが)。
現れる敵は、その一体だけでは終わらない。
空間が揺れると港の奥まで無数の 静音暗殺(サイレント・ワーカー) が姿を現す。
数は100以上。
一体でも手こずったのに、100体以上居るのだ。
先程まで歓喜の声をあげていた竜人種族男性達、高笑いをしていたリズリナも動きを止め、青い顔で目前の光景に見入る。
絶望的光景。
その中で唯一上機嫌に 静音暗殺(サイレント・ワーカー) が笑う。
『あはははっっはははは! 絶望したか! 俺の新たな力は、魔力を流せば周囲に溶け込み、姿を隠すことができるんだ! 血界魔術(けっかいまじゅつ) は魔術を使っても魔力の流れを感じさせない! これを組み合わせたらまさに最強最新の力! さらにさらに複数の分身体を同時に操作することができるのだ! 無能な部下や協力者などいらない! 俺は俺だけが最強で最新の暗殺者なんだ!』
静音暗殺(サイレント・ワーカー) の勝ち誇った高笑いに誰も彼もが反応できず呆然とするしかなかった。
もちろんリズリナ達もだ。
未だに『クモクモ君あるふぁ』は健在で、装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)もまだある。
しかし敵は100体以上存在するのだ。
撃てても後、2回が限界。
どう足掻いても勝ち目はない。
俄然に広がる絶望した表情を前に 静音暗殺(サイレント・ワーカー) は高笑いを繰り返す。
『絶望しろ! 絶望しろ! あの時の俺のように絶望しろ! もっと深く絶望しろ! 絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望ぉおおおおおぉッ!』
「――騒がしい凡夫だな。不快な声が百里まで届くほどだ」
涼やかな声音。
颯爽と従者を連れた若人が、絶望する竜人種族達の前に姿を現す。
その場に居る竜人種族達は、別の意味で複数の 静音暗殺(サイレント・ワーカー) が姿を現した以上の衝撃を受ける。
慌てて到着したばかりの若者のために彼は避け、道を造り平伏した。
若者は当然とばかりに平伏した人々の前を悠然と歩く。
黒く長い髪を三つ編みに。
竜人種族の男性が着る伝統的なドラゴン・カンフーをよりゆったりとした作りにした衣装に袖を通していた。その衣服には金や銀糸が惜しげもなく使われている刺繍が施されている。
彼の手には一本のドラゴンの装飾が施された刀が握られている。
若者は一人、 静音暗殺(サイレント・ワーカー) の前へと立つ。
「朕はドラゴン王国、第一皇子、ロン・ドラゴンである。平伏せよ、下郎」
威風堂々、傲岸不遜――竜人種族の若き次期王が迷い無く告げる。
「卑しき者にもかかわらず朕の民を傷つけ、安寧を妨げ、その財産を不当に毀損するとは不届き千万。今すぐ平伏し、首を出せ。さすれば名誉ある死を与えてやろう」
『……馬鹿かオマエ。死ね』
静音暗殺(サイレント・ワーカー) は剣のように鋭い右腕をロンへと無造作に振り下ろす。
巨人族ほどの体躯の彼が、腕を振り下ろすだけで必殺の一撃になるだろう。
誰しもがロンの死を確信した――が、
『!? ど、どうして死なない!?』
ロンは左手に持っていた刀の鞘で、 静音暗殺(サイレント・ワーカー) の一撃を受け止めていた。
腕一本で、巨人族ほどある体躯の攻撃を受け止めているのだ。
静音暗殺(サイレント・ワーカー) が驚愕するのも当然の反応である。
静音暗殺(サイレント・ワーカー) は2、3度と同じように攻撃を繰り返すがその全てを彼は防ぐ。
さすがの 静音暗殺(サイレント・ワーカー) も攻撃の手を止めて、問わずにはいられなかった。
『き、貴様! どうして俺の攻撃を防ぐことができるんだ! たとえ魔術師といえど魔力は失っているはずだろう!? なのにどうして!』
ロンは猛攻を受けたにもかかわらず汗一つかかず涼しい顔で、 静音暗殺(サイレント・ワーカー) からの問いに答える。
「愚問を。たとえばドラゴンが羽根を失ったとしたら脆弱になるか? たとえば炎をはけなくなったら、または体躯が矮小にったら、弱者となるか? 答えは否。ドラゴンはドラゴンだから強者たるのだ。魔力の有無など強者の一要素にしかすぎない。真の強者は魔力など無くとも強いのだ」
あまりの一方的な論理にさすがの 静音暗殺(サイレント・ワーカー) も唖然としてしまう。
ロンは気にせず、手にした刀の柄に手を掛ける。
「朕の王家に伝わる宝刀、『 聖竜昇竜刀(せいりゅうしょうりゅうとう) 』。エンシェントドラゴンの牙を鍛え製造された究極の刃。 聖竜昇竜刀(せいりゅうしょうりゅうとう) に抗えるモノなし」
彼が抜いた刀身の側面には東洋竜のような細長い体躯のドラゴンの絵が彫られていた。
刀身はどこまでも透き通っており、彫られたデザインからも武器というより美術品に近い。
一閃。
刀身の先から白いドラゴンのアギトが出現し、 静音暗殺(サイレント・ワーカー) に襲いかかる。
彼は咄嗟に回避。
回避が間に合わなかった右腕が、白いドラゴンによって何の抵抗もなく喰われ消失してしまう。
静音暗殺(サイレント・ワーカー) は思わずロンから、距離を大きく取る。
見た目通り、金属の塊で相応の硬度を持つ自身の体を、あっさりと欠損させたロンに戦慄を禁じ得なかった。
『……昔、噂程度には耳にしていた。ドラゴン王国の王族はドラゴンの血が流れている。その血が歴史上最も濃く出たのが第一皇子、ロン・ドラゴンだと。優れた魔術師程度だと思っていたがまさかこれほどとは……貴様、本当にただの竜人種族なのか? ドラゴンが姿を変化しているとかではないのか?』
魔力無しでの馬鹿げた腕力、耐久力、そして宝刀とはいえ自身の体をあっさりと欠損させた攻撃能力。
魔力が消失している現在、本来であればどれもありえないことだ。
しかし 静音暗殺(サイレント・ワーカー) は自身の手、体で進行形で体験中である。
だが最初こそ動揺したが、余裕の態度は崩さない。なぜなら彼の圧倒的優位は代わらないのだから。
『まぁいい。ドラゴンだろうが、ワイバーンの血だろうが殺してしまえばただの肉塊だ。どれほどの力を持っていようが所詮は一匹! 俺達をせいぜい頑張って倒してみせてくれよ! 一人でも逃したら後ろにいる大切な大切な 国民(ごみ) 共がぶち殺されるぞ! あははっはっはあはっはっはっはは!』
魔力無しでロンの強さは異常だが、 静音暗殺(サイレント・ワーカー) はまだ残り100体以上健在だ。
ロンが腕力、耐久力、攻撃力は優れているといっても所詮は一人。
どれほど強くても一人でできることなど限られている。
さらに彼の背後には力のない民達が居る。
巨人族並の巨体を持つ 静音暗殺(サイレント・ワーカー) を一体でも撃ち漏らせば、その後の被害はどれほどに及ぶか想像もできない。
――なのにロン・ドラゴンの態度は変わらない。
むしろ 静音暗殺(サイレント・ワーカー) の浅慮を呆れるように溜息を漏らす。
「だからキサマは凡夫なのだ」
『……なんだと!?』
「ドラゴンはたとえ白黒兎が相手でも全力で狩る。そして、ドラゴンの 眼(まなこ) は全てを見通す。朕がこの程度を想定していないとでも?」
彼は右手にした 聖竜昇竜刀(せいりゅうしょうりゅうとう) を天へとかざす。
まるで打ち合わせしていたかのように、竜人大陸奥の空から海岸へ向かい黒い群れが姿を現す。
最初は鳥の大群かと思いきや――その大きさは鳥程度ではない。
空を黒くするほどのドラゴンの群れ。
その数は千を超えるだろう。
「蹂躙を開始する」
ロン・ドラゴンは死刑執行を告げるように 静音暗殺(サイレント・ワーカー) へ向けて断言した。