軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第368話 大切な人々――

ランスが居るだろう中心へと向かう。

途中、巨大なストーンサークルのような岩が整然と並べられていた。

観光地として嫁達と一緒に見る分には楽しいのだろうが、さすがに今はそんな気分になれない。

ストーンサークルを超え、さらに進むと――そこにランス・メルティアが立っていた。

プロジェクターのように空に映った姿を確認したが、直に顔を合わせるのは妖人大陸最北端で戦った以来だ。

あの時に比べて見た目もだが、全体的な空気が変わっていた。

金髪の長い髪は前に見た時より伸び、地面に付きそうなほどだ。

髪は風が吹いてもいないのにふわふわと揺れている。

頭上には光の輪が浮かび上がり、彼の美貌と相まって驚くほど神秘性を発していた。

足下をグルグルと回転し、不規則に模様を変える魔法陣もその神秘性を高める手伝いをしている。

第三者に『彼が天神様の生まれ変わりです』と知らずに紹介されたら疑いもせず信じてしまうほどだ。

「やぁ、掘田くん。思いの外、早く来たね」

「 田中(たなか) 孝治(こうじ) ……」

「止めてくれよ、そんなダサイ名前。僕はもうその名を捨てたんだ。今はランス。ランス・メルティアだよ。だいたい、この剣と魔法の世界でその名前はないよ。あっ、だとしたら、掘田くんを掘田くんと呼ぶのは不味いか。ならこれからは『リュート君』と呼ばせてもらうよ」

ランスは教室で友人と会話をするような軽い調子で話しかけてくる。

屈託のない、無邪気の笑顔が逆にこちらの警戒心を刺激した。

手にしているAK47が汗で滑りそうだ。

「……ララから聞いた。もし異界の扉を開ければ、こちらの異世界が壊れるって。それは本当なのか?」

すぐに攻撃には移らず、確かめるために問う。

「別にララにはその辺りの話をした訳じゃないんだけど、やっぱり気付いていたのか。やれやれ、『予知夢者』は便利な能力だが、便利すぎるのも厄介だね」

ランスはややオーバーリアクション気味に肩をすくめる。

オレは目に力を込めながら、さらに問いかけた。

「オマエにとってララは仲間じゃなかったのか?」

「もちろん大切な仲間だよ。彼女の力がなければ、僕はこの力―― 神核(しんかく) を手にすることは絶対にできなかっただろうね。でも、大切な仲間だからと言ってなんでもかんでも話すわけでもないだろ?」

ランスが続ける。

「正直な話、僕自身、異界の扉を開いた場合、この世界が崩壊するかどうかは分からなかった。あくまで可能性の一つとして考えてはいたけどね」

『可能性の一つ』と口にした彼の声音から確信を得る。

最初は疑っていたが、天神と同等の力を得て実際に扉を開くことができるようになり、自身のおこないがどういう結果を生み出すのかも理解している口調だった。

オレは思わず一歩前へと出る。

「オマエにはこの異世界で誰一人、大切な人がいないのか!? その大切な人が、自身のエゴでどうなってもいいっていうのか!?」

「酷い言い方するなぁ。僕だってこの世界で長年生活をしていたんだ。それなりに大切な人ぐらい居るよ。父、母に、畑違いだけど弟や妹達も居るし」

『ならば今すぐ両親や姉弟達のためにも、こんな馬鹿なマネは止めろ』と言う前に、ランスが告げてくる。

「でも、それを差し引いても復讐を果たさないと。そうしなければ僕自身が納得できないし、これは絶対に譲れないんだ。リュート君が『困っている人、救いを求める人を助ける』ため 軍団(レギオン) を立ち上げたように、僕は復讐を果たすために今まで生きて、行動をしてきた。だからたとえ何を犠牲にしてでも、僕は僕の目的のために止まらない」

目を爛々と輝かせて、迷い無く言う。

オレが多くの『困っている人、救いを求める人を助ける』ため、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) を立ち上げた。

それと同じ覚悟と信念を持っていると断言されたら、もう何も告げる言葉は無い。

正悪は別にして、互いの意思、思想、イデオロギーが対立するしかないのなら、後に残された方法はただ一つ。

相容れない相手の排除――戦いである。

オレは手にあるAK47を改めて構えた。

「だったらオレが田中――ランスを止める」

「酷いなリュート君は、また 前世(まえ) みたいに僕に酷いことをするのかい」

ランスは戯けた調子で詰ってくる。

前世、オレは相馬達にイジメられている彼を見捨てた。

ずっと負い目を持ち、この異世界に生まれ変わっても忘れられず、彼への贖罪から PEACEMAKER(ピース・メーカー) を立ち上げた。

今、その許しを願った相手を排除しようとしている。

だが、罵られ、詰られ、軽蔑される覚悟は出来ている。

ランスを殺してでも、オレの大切な人達がいるこの異世界を壊させはしない。

それがオレのエゴだと罵倒されてもだ!

「そうだ。邪魔をする。詳しい文句は地獄で教えてくれ。数十年後にオレも行くだろうからな」

「あはっはあっははははっは! 行くなら一人で勝手に行ってなよ! この偽善者が!」

ランスの髪が風も無いのに威嚇するように広がる。

彼の言葉を合図に、オレは躊躇わずAK47の 引鉄(トリガー) を絞る!

7.62mm×ロシアンショートがランスへと襲いかかるが、まったく微動だにしない。

余裕の態度通り、弾丸はまるで彼を避けるように後方へと逸れる。

現在、魔力がないため感知することはできないが、抵抗陣のようなモノを周囲に張っているのだろう。

オレは構わずごり押しする。

GB15、40mmアッドオン・グレネードを発射。

さらに爆裂手榴弾を取り出し、投擲した。

爆裂手榴弾の殺傷半径は約10mのため、身を隠す場所がない時に使用する。

とはいえ、叩きつけるような衝撃波が体を襲う。

咄嗟に腕で顔をガード。

土煙がもうもうと立ちこめる。

この程度で倒されてくれるなら、ありがたいのだが……。

恐らくかすり傷すら負ってないだろうな。

弾倉を交換し、GB15に新たなグレネードを入れる。

丁度、準備を終えたところで土煙が晴れ、予想通り無傷のランスが立っていた。

7.62mm×ロシアンショート、40mmグレネード、手榴弾を喰らって無傷は当然でいまだに一歩をも動いていないとか……。

ラスボスらしくい雰囲気を出すのは構わないが、こちらとしては正直嫌になる。

つまり、想定通り現状の手持ちではランスに傷一つつけられないということだ。

敗北確定の戦いではないか。

ランスは余裕の態度で進めてくる。

「リュートくん、今ので攻撃はお終い……なんてことはないよね? 遠慮せず、存分にこの世界で培った力で抗ってくれていいんだよ」

その態度に腹が立つ。

現状の装備では彼を倒すのはほぼ不可能だろう。

だが、その余裕ぶった態度ぐらいは変えてやる!

オレは再びAK47を構え、ランスへと戦いを挑んだ。

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

「――もう終わりなのかい?」

「ち、くしょう……ッ」

AK47、グレネード、手榴弾、 特殊音響閃光弾(スタングレネード) 、USP(ハンドガン用徹甲弾のKTW弾)、etc――さらに近接で奥の手の一つであるwasp knife(スズメバチナイフ) に仕込んだ 風船蛙(バルーン・フロック) の濃縮悪臭を顔面に吹きかけてやった。

しかし魔術師S級、タイガ・フウー、 獣王武神(じゅうおうぶしん) やララにも効果有りの切り札だったが、ランスの余裕顔を変えることすらできなかった。

手持ちの武器を殆ど使い果たし、最後は腕を振るわれた一撃だけで地面を転がり、撃沈してしまう。

オレは俯せに倒れ、口から血反吐を吐く。

やはり予想通り、手持ちの武器では火力が足りない!

ランスはがっかりとした口調で話しかけてくる。

「まさか本当にこれでお終いじゃないだろ。君の決意、『困っている人、救いを求める人を助ける』の思いはその程度なのかい? 早く立って戦いなよ。早く早く早く早く早く!」

「ッ――」

ランスはせき立てるように声をあげる。

オレは立ち上がろうにも、彼の一撃が思いの外効いて顔を上げるのがせいぜいだった。

もし魔力があれば肉体強化術で回避したり、抵抗陣でダメージを軽減できたのだが……。

魔力が無いのがこれほど厄介だとは。

少し魔力に頼り過ぎていたようだ。

「やれやれ、リュート君にはまだ必死さが足りないようだ。なら君の必死さを出す手伝いをしてあげるよ」

ランスががっかりした表情を浮かべたが、すぐに嗜虐的な笑みを作り腕を振るう。

前にココリ街上空で観たような投射映像が5つ現れる。

それぞれ妖人大陸、獣人大陸、竜人大陸、魔人大陸、北大陸が映し出された。

「リュート君も今、大切な人達がどれほど危機的状況に陥っているから気になるだろう? やる気を出させるためにも折角だから見せてあげるよ」

ランスは大切な人々が危機に陥っている姿を見せて、オレを心理的にいたぶるつもりらしい。

だがそうは問屋が卸さなかった。

妖人大陸――筋肉達が乱舞する。

獣人大陸――爆炎と氷が画面を埋め尽くす。

竜人大陸――ドラゴン達が暴れ狂っていた。

魔人大陸――喜々とした驚喜的笑みを浮かべ剣を振るう義母。全身刃物を纏った料理長のマルコームさん、執事長のメリーさんが上半身裸の意外と鍛えられた筋肉を晒し奮闘している。

北大陸――雪が降り積もる中、筋肉達が暴れ狂う。

……筋肉率が微妙に多いな。

ランスは自身が予想していた事態とはまったく違う状況に笑顔を崩し、眉根を不快気に寄せる。

オレが手持ちの武器・弾薬を注いでも歪められなかった彼の余裕顔を、離れた位置に居るはずの彼、彼女達は難なく変えてみせてくれた。

オレも思わず映像に見入ってしまった。