軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第320話 お引っ越しするかも?

妖人大陸、ザグソニーア帝国からココリ街まで飛行船ノア・セカンドを使えばほぼ一日で到着する。

飛行船ノア・セカンドは通常の飛行船より横幅がある。

新・純血乙女騎士団本部グラウンドに停めるのは難しい。

そのためグラウンドを拡張し無理矢理、停めるスペースを作り出したのだ。

時間は昼を少し過ぎたあたりだ。

オレ達はすでに飛行船ノア・セカンドで簡単に済ませているため、改めて新・純血乙女騎士団本部で作ってもらう必要はない。

飛行船から下り、倉庫への移動はリースに頼む。

彼女の『無限収納』で一時的に収め、後は徒歩で移動して倉庫に飛行船をしまってもらう。リースの精霊の加護は本当に便利でありがたい。

「リュートさん、お帰りなさいませ」

「お疲れ様です!」

下半身が蛇で上半身が人のラミア族、ミューア・ヘッド。

3つ眼族のバーニー・ブルームフィールドが順番に声をかけてくる。

「二人とも、オレ達が留守の間本部を守ってくれて、本当にありがとう」

「いえいえ、これも団員としての役目ですから。皆さんが戻ってきたということは、魔王の件は――」

「ああ、無事解決だ。きっちり魔王を倒して、帝国の勧誘も振り切ってきたよ」

「それは上々。さすがリュートさんです」

「す、凄いです。魔王を倒すなんて!」

ミューアは腹に一物あるような笑顔で、バーニーは純粋に驚きの表情で讃えてくる。

「別にリュートさんに対して何か策を計ることはありませんよ」

「ミューアさん、心を読むのは止めてください」

彼女は読心術でも心得ているかの如く、こちらの心情を読んでくる。

本気で彼女だけには逆らわないようにしよう。

「リュートさんの表情が読みやすいだけですわよ。ところでバニちゃんが用事があるそうなんですが、今お時間大丈夫でしょうか?」

「ああ、構わないよ」

「あ、あのではここではアレなので執務室に行きましょう」

バーニーは心底嬉しそうに、オレの裾を力強く掴むとせかすように引っ張ってくる。

まいったな。

どうやらバーニーは魔王討伐をしたオレに惚れてしまっているようだ。

クリスの幼馴染みである彼女達に手を出すつもりはない。

いくらクリスでも幼馴染みが自分と同じ嫁だと気まずいだろう。だから嫁に取るつもりはないのだが。

どうにかしてバーニーにそのことを伝えて、諦めてもらおう。

オレは執務室に移動する前に、カレンへ同行した隊員達を任せる。

明日から通常業務を担当してもらうため、その割り振りと現在働いている隊員達の休日手配を頼んだ。

彼女は気持ちよく返事をする。

妻であるスノー達も移動で疲れたのか雑務を片づけた後、自室に戻って休むと言われその場で解散となった。

オレはバーニーと二人、新・純血乙女騎士団本部の執務室へと向かう。

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

「では、リュートさん、帝国に行っている間に溜まった書類にサインをお願いします!」

「どうせこんなことだろうと思ったよ!」

オレは執務室に到着すると、椅子に座らされる。

一旦、バーニーが部屋を出ると、山になった書類を抱えて机の上に置いたのだ。

バーニーは優秀な事務員だ。

彼女が PEACEMAKER(ピース・メーカー) の財務――お財布を握っている。

ある意味、最も PEACEMAKER(ピース・メーカー) で力がある人物なのかもしれない。

優秀な彼女でも、代表であるオレ自身が決裁しないといけない書類に手を出すことはできない。

想像以上に帝国へ滞在し、魔王討伐に時間を取られた。

結果、こうして書類が溜まってしまったのだろう。

「この机の上にある書類は今日中に目を通し、サインをお願いしますね」

「これ全部を今日中に!? 2、3日後とかじゃ駄目なのか?」

「駄目ですよ。むしろ、すぐ提出しないといけないのを頭を下げて、無理して待ってもらっているんですから」

バーニーは一枚の書類を取り出し、笑顔で告げる。

「それでは早速、始めましょう。まずこれは我が 軍団(レギオン) と 始原(01) で食料品や消耗品の仕入れ先を――」

魔王を倒して帝国から帰ってきてさすがに疲れているのだが、バーニーにはオレを解放するつもりはないらしい。

なんと団長使いが荒い子だ。

しかし逆らうわけにもいかず、オレは疲れた体に鞭打ちながら、書類との格闘に勤しんだ。

こういう時、栄養ドリンク系が欲しくなるな。

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「お、終わったぁぁっ!」

夜、遅く最後の一枚にサインをする。

昼過ぎに本部へと帰ってきて、書類内容を確認してはサインを書くという行為を繰り返しを行っていた。

夕食時もバーニーは席から離れることを許さず、いつの間に頼んでいたのかシアが片手で食べ易いモノを準備して運んできたのだ。

さらにトイレへ行こうとすると、男子トイレ入り口まで付いてきた。

別に逃げるつもりはないが、ヤンデレ系彼女に飼われる男のような気分になる。

しかしお陰様で、日をまたぐことはなく山のようにあった書類を片づけることができた。

「お疲れ様でした、リュートさん」

「バーニーもお疲れ、付き合わせちゃってごめんな」

「これも仕事ですから大丈夫ですよ。あっ、それと一件だけよろしいですか?」

『まだ書類があるのか!?』と顔を強ばらせる。

バーニーも心情を察したのか微苦笑を浮かべて否定する。

「もう今日はサインしてもらう書類はありませんから、大丈夫ですよ。ただ最近、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) ――正確には下部組織の新・純血乙女騎士団に入隊したいという人が増えているんです。たぶん魔王討伐したという話が広がるとさらに入隊希望者が増えると思います。どうしましょうか?」

元々、純血乙女騎士団は試験さえ突破すれば魔術師でなくても入れる軍団だった。

だが現状、新規団員の面倒を見る余裕がない。そのため断ってはいるが、意外と『いつ試験をおこないますか?』という問い合わせが多いのだ。

『新』とついてはいるが、外から見れば前軍団の慣習を引き継いでいると思われてもしかない。

「個人的な意見を言わせてもらえるなら、そろそろ人数を増やしてもいいかなと思います。今回の魔王退治の際に、本部を最低限回せる人材を残してもらいました。でもやっぱり残った 娘(こ) 達は口には出しませんが、大変だったと思うので。もちろん、魔王退治の方がもっと大変だったでしょうが」

確かにバーニーの言葉にも一理ある。

最低限回せる人材のみで、休み無くいつ戻ってくるか分からないオレ達を待つ。

精神的にも肉体的にも、本部に残った団員達は辛かっただろう。

今後、魔王クラスの問題が何度も起きるとは到底思えないが、確かにそろそろ軍団の団員数を増やした方がいいかもしれない。

オレはまず嫁達や他団員に相談してから決めると、バーニーに告げた。

彼女も嫌な顔せず、『お願いします』とだけ返してくる。

彼女自身、この場ですぐ決まる内容ではないと思っていたのだろう。

とりあえず、今日の仕事を無事片づけることができた。

オレはバーニーと別れ、嫁達が待つ自室へと向かった。

現在、オレ達は新・純血乙女騎士団本部3階の客間を自室に使用している。

オレ、スノー、クリス、リース、ココノの5名で、そこで生活をしていた。

もちろん手狭だが、『狭いのも悪くない』と嫁達は言ってくれていた。だが、さすがにベッドは狭すぎて新しく買い直した。

自室に戻ると、すでにスノー達は部屋着に着替えリビングで談笑していた。

すでに寝ているかと思ったが、どうやらオレを待っていてくれたらしい。

廊下を抜け、扉を開きリビングに顔を出すと、皆で出迎えてくれる。

オレも彼女達の手を借りて室内着に着替えると、ソファーへ体を沈める。

シアがきっちりとしたメイド服で、香茶を淹れてくれた。

オレはお茶を口にしながら、先程バーニーから聞かされた話をする。

そろそろ人員を増やしてもいいかもしれない、と。

これに対して嫁達は――

「確かにそろそろ人を増やした方がいいかもね」とスノー。

『ですね。もっと人数を増やしてスナイパーを養成したいです』とクリス。

「人数を増やすなら、この本部も手狭になりますね」とリース。

「となると増築か、もしくは新たに支部をお作りになるのでしょうか?」とココノが問う。

オレはココノの疑問に、一度咳払いをして告げた。

「皆の言う通り、もし団員を増やすならこの本部も手狭になる。だが増築や新しく支部を作るのは少々早いと思うんだ。そこでオレ達が本部を出て竜人大陸時代のように住宅を借りようと考えている」

オレ達が本部を出たところで、スペースが増大する訳ではない。

これはあくまで建前だ。

「魔王も倒したし、 軍団(レギオン) も団員を増やす話が出るほど落ち着いている。だから、そろそろオレ達自身、本部を出てもいいと思うんだが……どうだろう?」

今までは『甲冑事件』に始まり、 始原(01) との対立、魔王問題等で本部から離れることは難しかった。

しかし現在は人数を増やす話が出来るほど、 軍団(レギオン) として安定している。

もうオレ達がわざわざ本部に常時居る必要はない。

いくら本部で一番の客間を与えられていると言っても、ホテル暮らしのようなモノだ。

どうしても心の底から落ち着くのは難しい。

この提案に嫁達は諸手をあげて賛成する。

「ナイスアイディアだよ、リュートくん!」とスノー。

『確かに 軍団(レギオン) も落ち着きましたし、本部を出てもいい頃合いですね!』とクリス。

「でしたら少々大きめの家を賃貸か、購入しませんか? 恐らく今度もココリ街を離れるのは難しいでしょうし……だったら全員で子供が出来ても手狭ではないほどの家にした方が後々楽だと思うので」とリース。

「リュート様との子供……」

最後のココノはオレとの子供を想像して、両手を頬に当ててふにゃりと表情を弛める。

他の妻達も同じように想像し、表情を幸せそうに弛緩させる。

オレ自身、彼女達との子供を持つ姿に幸福を覚えた。そのせいで失言をしてしまう。

「確かにそろそろ子供を作るのもありだよな。魔王も倒したし、それ以上の奴はいくらなんでも出てこないだろう。もし居るとしたら受付嬢さんぐらいだろう」

『!?』

その場に居る全員が幸せな夢から覚め、震え上がる。

瞬時に全員の脳内に、大きな住宅を購入し、嫁達と子供を作り、大家族で幸せに生活する光景が浮かぶ――だが、そんな姿を目撃した受付嬢さんが敵へと回ったら……。

想像しただけで絶望感と涙が込みあがってくる。

クリス&ココノは抱き合い涙目で震え、スノー&リースは思い詰めた瞳で遠くを見つめていた。

完全に失言である。

オレは慌ててフォローした。

「だ、大丈夫だって! あの人はああ見えて一般常識も理性もちゃんとあるから! ギギさんと結婚したエル先生が、受付嬢さんの被害にあっていないのがいい証拠だろ!」

『…………』

しかし嫁達の反応は芳しくない。

オレも言っていて自信がなかった。

あくまでエル先生が見逃されたのは、彼女の女神オーラによるところが大きい。

オレ達が同じように見逃してもらえるのだろうか?

いや、だが仮に敵対したとしてもこちらには魔王すら倒した120mm滑腔砲と装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)がある!

もしそれでも駄目なら、旦那様に協力してもらい再び『マジック・バンカー・バスター』で撃ち抜けば……いや、駄目だ! その程度で倒れる姿が想像つかない!

明日は休日のため、外へ出て物件を皆で見に行こうとは約束したが、先程のような盛り上がりが起きることはなかった。

オレ達は不安に怯えながら就寝したのだった

翌日、午前。

一晩寝て、受付嬢さんへの恐怖から目を反らす空気になった。

とりあえず受付嬢さんのことは忘れて、引っ越し物件を探しに皆で出かける準備をする。

本部入り口を出るところでルナと顔を合わせる。

「あれ、どうしたのみんなして。珍しい。どこかの会議にでも出るの?」

ルナはこれから自身の研究室に向かうのか、ラフな作業着姿をしていた。

これでもハイエルフ王国エノール、第三王女である。

「これからリュートさん達と引っ越し先の物件を見に行くつもりなの」

「リースお姉ちゃん達、引っ越すの?」

「色々問題も片づいて、団員達を増やすかもしれないから、少しでもスペースを空けるためにオレ達がまず出ようと思ってさ」

「一緒に付いてきたいとか、住みたいとか言っても駄目ですよ。それにあくまで今回は見て回るだけで、本当に本部から出るかも分からないんですから」

随分前、ルナが飛行船に密航してまでオレ達に付いてきた。

彼女はそのまま留学扱いとなり、竜人大陸にあるメイヤ邸へと預けられた。その時、彼女も『一緒の自宅に住みたい!』と我が儘を言ったのだ。

今回、リースは我が儘を言う前に釘を刺した。

だが、ルナは不満そうに頬を膨らませることもなく、むしろ迷惑そうに眉を顰める。

「当たり前じゃん、この歳になって『お姉ちゃんと一緒じゃなきゃ嫌だ』なんて言うわけないじゃん。クリスちゃん達とは仕事で会えるし、だいたいお姉ちゃんと一緒の家とか超ダサイよ」

「だ、ダサイですか……」

ルナの予想外の言葉にリースがしょんぼりと肩を落とす。

ルナは落ち込むリースを放っておいて、『仕事があるから』とさっさと研究室へと向かってしまう。

オレは落ち込んでいるリースの肩に手を置き、慰める。

「ルナも親離れ――お姉ちゃん離れする歳頃だったってことだろう。いいことじゃないか。ちゃんと成長していることが確認できて」

「仰る通りなのですが……うぅぅ、昔は何をするにも『お姉ちゃん、お姉ちゃん』と後ろを付いてきたのに」

「あっ、ちょうどよかった。これからリュートさんのところへ向かおうと思っていたところだったんですよ。皆さんでお出かけですか?」

ルナと入れ替わるように、今度はバーニーが声をかけてきた。

彼女の手には何枚もの紙束が握られている。

「バーニー、それってサインする書類か? 昨日で早急にすませるのは全部やったはずだろ? 漏れでもあったのか?」

「いいえ、違いますよ。リュートさんが頑張ってくれてお陰で昨日の時点で緊急に処理しなければいけないモノは全て終わっています。これは請求書です」

「請求書?」

「はい。こないだの帝国と魔王討伐にかかった費用ですよ」

「えっ?」

オレは思わず間抜けな声を漏らしてしまう。

改めてバーニーから請求書を受け取り確認する。

飛行船ノア・セカンドの改造費、団員達の人件費、食料などの補給物資代、M2や弾薬製造と魔王討伐の際などに使用した魔術液体金属代金などなど――そこには帝国、魔王討伐にかかった合計金額が別紙に明記されていた。

バーニーが微妙な顔をして尋ねる。

「あの……わたしは現地に行っていないので詳しいやりとりをしらないのですが、ちゃんとザグソニーア帝国や他国家にかかったお金を支払ってもらったんですよね? もしくはその約束をちゃんと取り付けてあるんですよね?」

……支払っても、約束も取り付けてませんでした。

ザグソニーア帝国に報奨金をもらうと、彼らの指揮下に入ったことを内外にアピールすることになる。他国家も同じだ。

下手な策謀に付き合う前に、そうそうに離脱してきた。お陰で魔王討伐に関する支払いや約束も取り付けてくるのを忘れたのだ。

PEACEMAKER(ピース・メーカー) 事務担当が笑顔を浮かべる。

笑っているのになぜか恐怖を感じてしまう。

「つまり今回の出費はすべて PEACEMAKER(ピース・メーカー) が支払う、ということですか?」

「そういう……ことに……なるかもしれません……」

オレは怖々と肯定する。

さすがに今から戻って『お金ください』とは言えない。

言えるが、これを切っ掛けに帝国や他国家が PEACEMAKER(ピース・メーカー) を取り込もうと躍起になる可能性がある。

バーニーの笑顔がさらに深く割れる。

もちろんその日、引っ越しの話は流れた。

魔王討伐にかかった資金……プライスレスとはならなかったらしい。

しかし悲観する必要はそれほどなかった。

なぜなら後日、意外な形で資金を稼ぐことになったからだ。

その意外な方法とは……