軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第321話 意外な収入源と今度の問題

魔王討伐から約1ヶ月後――オレや妻であるスノー達は机に向かってひたすらサインを書いていた。

「う、腕が痛いよ、リュートくん……」

「大丈夫、大丈夫。そのうち慣れるよ。書類のサイン書きで大変だったけど、一定期間過ぎると痛みが無くなるから。それまでの我慢だよ」

『リュートお兄ちゃんはこんな大変なことをしていたんですね』

「リュート様は凄いです」

「はっはっは、それほどでもないよ」

年下コンビのクリス&ココノが褒め称えてくれる。

しかし意外にも、リースはオレ以上に慣れた様子でさらさらとサインを書いていた。

「王国で過ごしていた時、執務でこなしていたことがありましたから。これぐらいならたいしたことはありません」

元王女だけあり色々執務をこなす機会があったのだろう。

何が役に立つのか分からないものだ。

さて、なんでオレ達がサインを書いているかというと――現在、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) は、 黒毒(こくどく) の魔王レグロッタリエを倒したことで大人気になっているらしい。

お陰でココリ街を訪れる人々が増えてしまった。

一目魔王を倒したオレやスノー達を見ようと、新・純血乙女騎士団本部の前に集まりオレ達が出てくるのを待つ、『出待ち』をする者があらわれるほどだ。

サインも最初は『魔王討伐』を聞いた知り合いから、お願いされた。

その話がどこかで漏れ、いつの間にか数量限定で販売するようになったのだ。

お陰で朝、最初の仕事が『サインを書く』という作業になる。

しかしオレ達も暇ではない。

他にも仕事があるため、書く枚数は絞らせてもらっている。

そのせいかどうか一枚も余らず全てその日の内にはけてしまう。

なぜこれほど人気なのか?

魔王レグロッタリエ討伐の際、ザグソニーア帝国を中心に『人種族』のみで『人種族連合』が作られ、他の種族達は参加が許されなかった。

その恨みを持った他種族が、功を焦り魔王討伐に失敗した人種族連合を非難。そして多種族で構成されたオレ達 PEACEMAKER(ピース・メーカー) を持ち上げ、他大陸で勝手に喧伝してくれたのだ。

欲に目がくらんだ人種族は魔王に敗れたが、他種族の手を借りたオレ達は無事に倒すことが出来た――なんて確かに分かりやすい物語である。

子供達にも話しやすいし、大人達の受けもいいだろう。

さらに人気の秘密は、オレ達が年若いからだ。

しかもスノー、クリス、リース、ココノは見目麗しい美少女達。

そんな可憐な少女達が現代に蘇った魔王を討伐したのだ。人気が出ないはずがない。

だが、気恥ずかしい話だが、もっとも人気が出ているのがどうやらオレ、リュートらしい。

吟遊詩人はどこから情報を仕入れたのか、より具体的なオレの履歴を元に魔王を倒すまでの流れを色々な場所で聞かせているとか。

孤児院で捨てられたオレは、魔術師としての才能は無いが魔術道具を開発。スノーを最初に娶り、貴族となり、各大陸を周り困難を乗り越え他嫁達を娶る。軍団を立ち上げ、最後に皆で力を合わせて魔王を倒す。

涙あり、感動あり、笑いありの一大スペクタル巨編だ。

特に孤児院に置いた両親が登場し、その理由を話し、最後はオレと嫁達を庇い魔王の手にかかり殺されるシーンは涙無くしては聞けないほどだ。

……実際、両親にはまだ出会っていないし、魔王に殺されてもいないけどな!

不思議と一緒に魔王と戦った旦那様やギギさん、タイガの話が登場しない。

どうもザグソニーア帝国魔術騎士団副団長、人種族、魔術師Aマイナス級、ウイリアム・マクナエルが公式で、オレ達が魔王を倒したことを口にしている。自分はただ見ていてだけだと。

結果、話題が PEACEMAKER(ピース・メーカー) の団員のみに集中しているようだ。

まぁ、旦那様やギギさん、タイガは話題に上がらないからといって怒る人達でも無いが、どこかで訂正した方がいいのだろうか?

また有名になり、『氷雪の魔女』という二つの名を持つスノーや、弓を扱う武芸者がクリスになぜか弟子入りを志願したりする者が現れることがあった。

しかし意外にも、『魔王を倒した勇者に決闘を申し込む!』という輩は未だに出ていない。

わらわらと出てくると思っていたため、皆に決闘を受けないよう注意していたのに、肩すかしを食らった気分だ。

しかし考えてみれば、当然である。

静音暗殺(サイレント・ワーカー) や 始原(01) 、魔王を倒した人物達に喧嘩を売るなんて自殺行為でしかない。

もし今後決闘を申し込んでくる者が現れたら、その時は非致死性兵器で対応しよう。

様々な好意を向けられ、持ち上げられるのは悪い気分ではないが、さすがに限度があり、色々弊害も出てきた。

まずオレや嫁達は見回りが出来なくなった。

本部を出るとすぐに囲まれて握手や子供の名付け親になって欲しいと言われ、さらには髪や持ち物を欲しがられたり、サインをねだられる。

治安を守るはずオレ達が、一番治安を乱しているという現象を引き起こしてしまうのだ。

他にも勇者との結婚を夢見る女性陣が『リュート様に会わせて欲しい』『お嫁さんにして欲しい』とひっきりなしに訪れている。

貴族や王族、豪商からも見合い話が多数来るほどだ。

この異世界には国王や皇帝、貴族、部族トップなどは存在するが、『魔王を倒した勇者』はオレしかいない。

皆が子供の頃、布団の中で聞かされる勇者が、今この世界に存在するのだ。

『勇者のお嫁さんになる!』と夢見た女性は多々いるが、『魔王を倒した勇者』、結婚相手がいなければ結ばれることはできない。

しかし現在、オレという実際に魔王を倒した勇者がいるのだ。

夢を叶える千載一遇のチャンスが目の前にあったら、手を伸ばしたくなるのが人情である。

一応、女性関係に関しては嫁とミューアが防壁になってくれているため、目立った問題は起きていない。

また商人達からは『自分の扱っている商品に勇者印が欲しい』という頼みが殺到している。

王家御用達は数あれ、勇者御用達印は存在しない。

これを放って置く商人などありえないのだ。

もちろん『相応の額は支払う』と、結構な金額や売り上げの数%を渡すという話が来ている。

基本的にお断りしているが……お世話になっている商店からも話が来て無碍にはできず、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) 御用達印を許可した。そのせいで我々もと手を挙げる商人が押し寄せてしまう結果になってしまっていた。

さらに質が悪いのは、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) を指名した 軍団(レギオン) 依頼だ。

オレ達が掲げる理念を知り、クエストを依頼してくる貧しい村や人々が増えてくれたのはありがたい。

だが中にはオレ達に会いたいがため、指名する依頼主が居た。

質が悪いとオレ達を呼び出すため、わざわざ問題を起こす奴がいた程だ。

他にも馬鹿な貴族や大商人などが、お金や権力に物を言わせて PEACEMAKER(ピース・メーカー) を従えようとしたり、スノー達に手を出そうとした。

あまりに悪質な奴等はきっちりと落とし前を付けさせてもらったが。

また観光客や入団希望者が大量に集まり、ココリ街の治安にも悪影響が出ている。

ココリ街は物資を奥地へと送る中間地点のため、食料品や衣服、消耗品は奥地に送る品物を削れば物不足にはならない。

しかしあくまで中間地点の街だ。

観光地ではないため圧倒的に宿屋が足りない。

これを商機と捕らえて民宿のように自宅を貸し出す者もいれば、溢れた人々が勝手に城壁外にテントを張り住んでいると苦情も出ている。

正直、頭が痛い問題だ。

オレは一足先にサインを書き終え、背もたれに体を預ける。

「請求先を失った魔王討伐代金が、サインや印許可、クエストで補えるのはありがたいけど、さすがに現状を放置する訳にはいかないよな」

「ですね。人が増えたお陰で一部は好景気に沸いていますが、利益を享受できない層は不満を募らせていますから」

次にサインを書き終えたリースがオレの言葉に反応する。

商人や宿屋、飲み屋などは消費量が増えて喜んでいるが、一般家庭などからは不満の声が上がっているのだ。

「いっそ人数と滞在制限をかけますか?」

「リースさん、それは少々難しいかもしれませんよ」

オレ達が会話をしていると、ラミア族、ミューア・ヘッドがちょうど部屋に入ってくる。

彼女は書類束を、オレの机へと置きながら話をする。

「小耳に挟んだところによれば、商人さん達が今回のココリ街好景気が長期化すると踏んでかなりの額を投じているらいしいですわよ。ここで制限をかけて、水を差したら破産する商人さんが出て恨みを持たれることになるでしょうね」

「そんな勝手な……」

リースはミューアの言葉に溜息を漏らす。

気持ちは分かる。

しかしこれじゃ進むも地獄退くも地獄状態だ。

オレ達の不満や呆れ顔を前に、ミューアが手を差し伸べる。

「とりあえず私の方で近いうちになんらかの策を検討しますわ。むしろとある筋から話を頂いているので、実際にそれが可能かどうかの検討会をしている最中です。なのでリュートさん達は当面大変な思いをするでしょうが、どうぞ堪えてください」

「分かった。それじゃミューアに任せるよ」

あのミューアが言うのだから、任せて問題無いだろう。

「ところでその書類はなんだ? 今日は特に書類系の仕事は無いはずだが」

オレ自身、常に一日中、部屋で書類仕事をしている訳にはいかない。

体をなまらせないように訓練したり、指導や軍事兵器開発&研究、街の見回り当番など他にも仕事がある。

例外を除き、書類仕事は重要案件以外は基本的にミューアやバーニーに判断を任せている。

むしろ前回のように大量の書類仕事をする方が稀なのだ。

「これは書類仕事じゃありませんよ。魔王討伐代金補填のためサインの他にも販売しようということになって、その品物案をまとめさせて頂いたのですわ。後、リュートさん達の方からもアイディアを出して欲しいとバニちゃんが言ってましたわよ」

「 PEACEMAKER(ピース・メーカー) クッキーに、ミル・クレープ、ポテチ、ジュース。手旗、置物、絵本……えっとこの『リュート1分の1上半身裸体人形』と『スノー、クリス、リース、ココノによるメイド服で握手会券発行』ってなんだ?」

オレは紙束を手に取り一部内容を読み上げる。

前半は普通のお土産的な物が並んでいたが、後半になるとどんどんカオス化していた。

スノー達との握手会は分かるが、オレの上半身裸体人形なんて誰が欲しがるんだよ。

「さぁ? 私自身、バニちゃんに頼まれて持って来ただけですから、詳しい内容まではちょっと……。でも、リュートさんの人形が発売するなら私も欲しいと思いますよ。ですから自信を持ってくださいね」

ミューアは笑顔で返答する。

内容を把握していないなんて嘘くさいが、その笑顔に反論する気力はない。

また完全にバーニーは、今回の好景気で魔王討伐代金補填をするつもりだ。

人数制限などを止めたのは、補填するまで逃がさないとかっていう理由じゃないよな?

スノーやクリス、ココノはサインの他にも何かさせられるのかと怯えていたのが印象的だった。

「リュートさんやクリスちゃん達も、何かアイディアがあったら紙に付けてしておいてくださいね。良いアイディアなら必要な材料や作業の費用を割り出す作業を私とバニちゃんでやりますから」

つまり、この紙束に書かれている必要経費などの割り出しは、ミューアも関わっているということだ。

『なら、やっぱり内容をしっかり把握しているんじゃないか!』とは彼女に抗議の声をあげるつもりはない。

だってミューアが怖いから。

「あげて頂いてもいいんですよ?」

ごめんなさい。

怖いので心を読むのは止めてください。

にっこり笑うミューアからオレは黙って視線をそらした。