軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第319話 脱獄

黒い塵の山を浄化して七日――ようやく一通りの浄化を終えることができた。

しかし、魔王レグロッタリエが使用した『魔法核』は最後まで見つからなかった。

「やっぱり120mm 滑腔砲(かっこうほう) の一撃で破壊したのだろうか?」

実際、破壊されてもおかしくない。

滑腔砲から初速1650m/sで飛び出す装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)。

その威力は 8.8cm対空砲(8.8 Flak) 、徹甲弾の2倍以上の貫通力を誇る。

現状、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) が出せる最大の破壊力である。

いくら魔法核でも直撃すればただでは済まない威力だ。

ちなみに『マジック・バンカー・バスター』は、例外扱いだ。

あれは旦那様の助力がなければ、あれほどの破壊力は出せないためだ。

魔王レグロッタリエを倒すための装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)を使用した攻撃だったが、魔法核を破壊してしまった可能性は十分ある。

魔法核を回収できなかったのは残念だが、毒素を含む黒い塵を浄化できたのはよかった。

黒い塵が広がり、一般人に被害が出る――なんてことはなくなった。それだけでも浄化という地味な作業をした意義があったというものだ。

一応、念のため後一日は周辺に魔法核が無いか PEACEMAKER(ピース・メーカー) メンバー全員で調べてみたがやはり発見することはできなかった。

さすがに調査を打ち切り、帝国へと戻ることにした。

これ以上、現場を探しても見つからないだろう。

それにいい加減、ココリ街に戻りたい。

街の守護を最低限の人員を残しおこなっているため、負担が増大。

疲労が蓄積しているだろう。

パンクし、潰れる前に戻っておきたいのだ。

オレ達側の事情を察したギギさん達は、新型飛行船ノアで孤児院まで送ると言ったのだが断ってきた。

「俺とタイガならすぐに戻れる。だから、リュート達は一日でも早くココリ街に帰還してやれ」

「すみません、ギギさん。協力してくださった上、気まで遣ってもらって」

オレはギギさんの気遣いを素直に受け取る。

「気にするな。――そっちの方がこちらとしても都合がいいからな」

「ギギさん?」

「いや、何でもない。気にするな」

ギギさんは意味深な言葉を残すと、タイガと一緒にそうそうに去ってしまった。

今更ギギさんがオレ達の敵に回ったり、裏切るようなことは絶対にありえない。

誰かに脅されたとしても、ギギさん達の側には魔術師S級のタイガがいる。

彼女なら大抵の問題は単独で撃破できる実力がある。だから、さっきの言葉も気にする必要はないのだろうが……。

いったいどうつもりで呟いたんだろう。

疑問を抱きながら、今度は旦那様のもとへと向かう。

「おお! リュート! 作業は終わったのか!?」

飛行船ノア・セカンドを停める倉庫の扉を開く。

倉庫内には旦那様だけではない。上半身裸、下は短パン、場合によってはブーメランのようなパンツ姿の男達が汗を流していたのだ。

人数は100人は確実に居る。

見知った顔だとウイリアム。

見覚えのある顔だと、ザグソニーア帝国魔術騎士団団長を務める人種族、魔術師Aプラス級、レイーシス・ダンスが居た。

魔王から人種族連合が撤退する際、指示を出していた人物だ。

その際、遠目だが目にした印象は、前線に立ち剣を振るう豪傑というより、頭がキレる参謀タイプだった。なのに現在、彼は上半身裸で一心不乱にスクワットをしている。

足下には水たまりのような汗溜まりが出来ていた。

一体何が彼をそこまで変えたのだろうか?

またウイリアム、レイーシス繋がりで倉庫内に居る他男達は、魔術騎士団団員達なのだろう。

男達は閉め切った倉庫内で汗を流すため、天井付近には雲のようなものが形成されていた。

さらに男達の体温で室内はサウナのような熱気に包まれている。

オレはそんな目の前のすさまじい光景に、ギギさんに対する疑問も一瞬で吹き飛ぶ。

濃い世界が目の前に広がっていた。

「うん? どうしたリュート、入り口で固まっていないで入って来るがいい!」

旦那様の再度の言葉に意識を取り戻す。

オレは慌てて断りを入れた。

「い、いえ、作業は終わったので、自分達は帝国から出ようと思いまして。それにココリ街をギリギリ回せる人員の人数しか置いてきていないので、いい加減戻らないと団員の疲労が蓄積し過ぎてマズイと思うので。旦那様も魔人大陸へ送らせて頂くので、帰る準備をして頂けると嬉しいのですが」

この言葉にまっさきにウイリアム達が反応する。

「そんな師匠! どこにも行かず帝国にずっと居てください!」

「師匠がいなくなったら自分達はどうすればいいか……」

「僕達を見捨てないでください!」

まるで昔の青春ドラマのシーンにありがちな熱血教師に抱きつく生徒達のごとく、ほぼ裸で汗だくな男達が旦那様に分厚い筋肉をぶつけるように抱きつく。

約100名による押しくらまんじゅうと化す。

その中心に居る旦那様は、男達の体当たりのような抱きつきを彼らよりさらにでかい自身の筋肉でしっかりと受け止める。

「泣くな同士達よ! どれほど離れようとも我輩達は、筋肉によって繋がっている。千切れても! 千切れても繋がり、太く、強く、堅くなる! つまり筋肉の絆は永遠なのだ!」

『師匠ッ!』

軽く頭痛がしてきて、オレはこめかみに思わず指をあてる。

汗を掻いたほぼ半裸の男性達(100人)が汗と涙を流し、抱き合う姿はインパクトがあり過ぎた。

その後結局、旦那様も自分で帰るからと、乗船を断られた。

なんでも魔王戦の際、高々度からの落下で足首を挫いたことをまだ気に病んでいるようだ。

魔人大陸に帰ること自体をトレーニングにしたいらしい。

さすが旦那様としか言いようがない……。

オレ達側も片づけを終え、今回お世話になった各所に後腐れ無く挨拶を済ませると、早々にザグソニーア帝国から出発した。

ザグソニーア帝国上層部は、『魔王を倒した新たな勇者様の式典を豪華におこないたい云々』とエサを出し、引き留めようとして来たが一蹴。

利用されるつもりは微塵もない。

さすがにあちら側も人種族第二の国家とはいえ、『魔王を倒した現世の勇者達』である PEACEMAKER(ピース・メーカー) に恫喝や脅迫などといった強硬手段はとれなかった。

民衆や各国から非難を受けるのはもちろんマズイが、魔王を倒した後に矛先を今度は自分達に向けられたら目も当てられないからだろう。

実際、帝国の城など旦那様の力を借りて『マジック・バンカー・バスター』を使えば一発で消し飛ぶ。

オレ達は現在、この異世界でほぼ最強の火力を得たに等しいのだ。

そんな輩に喧嘩を売るなど正気の沙汰ではない。

ユミリア皇女もウイリアムに夢中ですでにオレなど眼中になく、お陰でスムーズにザグソニーア帝国を出国することができた。

魔王を倒したというのにやや地味な幕引きだった。

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リュート達、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) がザグソニーア帝国を出国後、魔王を倒した平原に黒い影が二つ姿を現す。

黒い影の一人が、手を地面へと向け魔力を集中する。

まるで蛍のようにキラキラと輝く粒が、手のひらへと集束し――最後には『魔法核』が再び姿を表した。

魔法核は以前のように七色ではなく、清浄なる銀色に変化していた。

「成功だ」

「おめでとうございます、ランス様」

「ありがとう、ララ。これも君のお陰だよ」

「いえ、私など……たいしたことはしておりません」

黒い影――大国メルティアの元次期国王、人種族・魔術師Aプラス級、ランス・メルティア。

ハイエルフ王国エノール第1王女、ララ・エノール・メメア。

二人が声を交わす。

ララの謙遜にランスが微笑みを浮かべ告げる。

「何を言ってるんだい。ララが上手くレグロッタリエ――相馬を騙し魔法核を使わせて魔王に仕立て上げてくれたから、こうして完成させることができたんだ。君が居てくれて本当によかったよ」

「ランス様……ッ」

ララはランスの言葉に感動し、乙女のように頬を赤らめ瞳を潤ませる。

「これで予定通り作戦が進められる。あっ、でも発動するタイミングを間違えて堀田くんを死なせないように気を付けないと。作戦を発動して、数万人単位で死亡した中に彼が含まれていました――なんてつまらないからね。それに堀田くんには僕以上の地獄をみてもらわないと」

「ですね。そのためにも人材確保が必要かと。前回は 始原(01) 本部地下牢に入れられていた元純血乙女騎士団、ルッカを連れ出しましたが、次の相手はこちらなど如何でしょうか? PEACEMAKER(ピース・メーカー) だけではなく、彼らに縁の深い人物達に強い恨みを持っているようですし」

ララは懐から取り出した紙をランスへと手渡す。

彼は紙に書かれている情報にざっと目を通した。

「ふむふむ、なるほど……確かに僕達が探す条件に合うね。よし、それじゃ早速、彼を勧誘しにいこうか!」

「今夜は『魔法核』も手に入れましたし、お休みになられた方がよろしいのではありませんか? 遅くまで起きていらっしゃると、明日の起床が辛くなりますよ」

レグロッタリエを騙し魔王化させ、さらにランス達の行動で数万人の死者が出ることはほぼ確定している。

なのに彼らの会話はまるで極普通のやりとりのような、たわいないものだった。

自分達の行動によって数万人規模の死者が出ることに微塵も罪悪感を抱いていないのだ。

まさに悪魔の会話である。

ランスが笑顔で、ララへと告げる。

「無事に『魔法核』も手に入って今は気分が高揚しているんだ。これじゃ眠れないよ。だからほどよい疲れを得るためにも一仕事したいんだ」

「なるほど……了解致しました。では、私もお付き合いします」

ランスはララを抱き寄せると、転移魔術で目的の場所へと向かう。

暗闇の中、吹雪が全てを凍り付かせるように吹き付けている。

まるでこれから訪れる悪魔を拒絶するかのように。

しかし、ランスにとって投げた水がすぐさま凍るほどの寒さや吹雪など関係ない。

彼はララを連れてあっさりと、北大陸最大の都市、ノルテ・ボーデンへと辿り着く。

さらに転移。

北大陸には一年中雪が降り続け、特別な輸出品があるわけではない。

そのため留置所を建設し他国の犯罪者を受け入れ、代わりに他国からの資金援助を受け取るというシステムが存在する。

その留置所の一つに――元身分の高い者、極悪な犯罪者、特殊な罪を犯し表沙汰にできない者など、特別な問題を抱えた犯罪者が集められた特別な監獄が存在する。

その監獄内でもっとも深い地下にある牢獄の前にランス達は立っていた。

この特別な監獄がどれほど厳重な警備をしていても、ランスにとっては意味がない。

彼は鉄格子越しに囚われている人物に声をかけた。

「お初にお目にかかります。オール・ノルテ・ボーデン・スミス様」

「……誰だ貴様は、どうやってこの監獄に……僕様のところまで辿り着くことができたんだ。ここはこの世で一番警備が厳しい監獄なんだぞ」

地下にもかかわらず吐く息が白くなるほど気温が低い。

唯一の光源は豆電球ほどの魔術光だ。

その光が微かに奥に居る人物を映し出す。

北大陸を治める上流貴族、その当主の座を奪うため実父、兄の殺害を目論み失敗。

最後は禁忌の魔術を使い巨人族の群れを引き寄せ、本来守るべき民衆を巻き込み自爆しようとしたアムの弟・オールが牢屋に居た。

元々長髪だったが、さらに伸び今では腰までの長さになっている。

かつては少女と間違うほどの美少年だったが、目は落ちくぼみ、頬は痩け、日光をまったく浴びていないため死人のように肌が白い。

実父、兄殺害未遂、民衆を巻き込み自滅しようとした。

国家反逆罪を適用され死刑でも文句は言えない。

だが、アムは実弟を殺害することができず、こうして地下深く閉じこめることにした。

残りの人生を牢獄で過ごさせようというのだ。

ある意味、死刑より重い罰とも言える。

そんなオールの問いをランスは無視して、逆に告げる。

「恨みを晴らしたくないか?」

オールの絶望しきった表情が微かに揺れる。

彼は悪魔のように問い続けた。

「兄、アム・ノルテ・ボーデン・スミスに。君の計画を妨害した PEACEMAKER(ピース・メーカー) に。そして何より君自身を裏切ったこの世界そのものに――復讐したくはないかい?」

「…………したい。復讐したいに決まっている! 僕様の計画を台無しにした兄や PEACEMAKER(ピース・メーカー) ! そして僕様を次男に産み、魔術師としての才能を与えなかったこの世界そのものに! 復讐したいに決まっているだろう!」

オールは即答した。

地下特別房に居るのを忘れて、外に居る見張りの兵士に届くほどの怒声を上げる。

オールの怒り、恨み辛みは未だに晴れておらず、むしろより深く根を生やし膨れあがっていたのだ。

外に居る見張りの兵士が異変に気が付き、中へと入ろうと複数ある鍵を開け始める。

ランスは構わず、一歩前へ。

鉄格子の間から右腕を差し出す。

「ならばこの手を取れ。復讐する力を与えようじゃないか」

それはまるで悪魔の誘い。

オールは彼の手を取れば人としての人生を終えることを本能で理解する。

死ぬだけならまだましだ。

恐らく『人』という枠を超え、魔の存在になりはてるだろう。

だが、それでも彼はランスの手を力強く握り締めた。

「たとえあんたが魔王でも、僕様に復讐する力を与えてくれるなら、なんでもしてやるよ」

「素晴らしい回答だ。仲間として歓迎するよ、オール」

地下特別房を警備する兵士が複数ある鍵を開け、牢屋を確認すると――そこにオール・ノルテ・ボーデン・スミスの姿は無かった。

牢屋の鍵を鍵以外の器具で開けた傷は無し。

周囲を捜索するも吹雪が止んだ雪の上には、兵士達の足跡しか見つけられなかった。

オール・ノルテ・ボーデン・スミスはまるで煙か、幽霊のごとくその姿を消してしまったのだ。

<第17章 終>

次回

第18章 日常編6―開幕―