軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第318話 ウイリアムの成長

魔王レグロッタリエ討伐後、魔法核を回収するべく黒い塵の山となった場所から探そうとした。

しかし黒い塵自体が毒素を孕んでおり、この中から魔法核を探し出すのは困難で、取り出すために塵を風などで吹き飛ばす訳にもいかない。

そのためスノーに頼んでいったん氷漬けにしておく。

後日、時間をかけ塵を浄化し、魔法核を回収することにしたのだ。

一通りの片づけ作業を終えると、帝国へと帰還する。

ルナやカレン、他 PEACEMAKER(ピース・メーカー) メンバー達を残している。

魔王討伐成功を伝え、心配しているだろう彼女達を安心させるためにも早々に帰ろう。

ザグソニーア帝国上層部は 黒煙結界(ネグロ・ドィーム) が消失したことを斥候の報告によってすでに把握済み。

むしろ帝国上層部や民衆達は突然地面が揺れたことに驚き、『魔王が何かまた新しい動きを見せたのでは!?』と戦々恐々していたらしい。

実際は、あの揺れは魔王が何かしたのではない。

旦那様が『マジック・バンカー・バスター』を投擲したせいだ。

それを報告するかどうかで迷い、一旦保留にした。とりあえず無事に魔王レグロッタリエを討伐したことを告げる。

さすがに最初は上層部もすぐに『魔王討伐』という事実を飲み込むことができずにいた。

しかし帝国側の人材であるウイリアムも同意したことで、ようやく魔王が倒されたことに納得する。

すぐさま帝国上層部は、人種族連合として参加した各国、民衆達に『魔王討伐』のニュースを伝えた。

地震に怯えていた人々はこの一報により、安堵し歓喜の声をあげる。

魔王討伐を祝して式典が催されることになったが、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) は辞退した。

別に恰好をつけた訳ではない。

単純に魔王の残した黒い塵の山を浄化して、魔法核を取り戻す。その作業にかかりっきりになるため、式典に参加する余裕があまりなかったのだ。

魔法核は使い方によって、レグロッタリエのような怪物を生み出すことすら可能な代物である。

まさか帝国や他人種族連合側の力を借りる訳にもいかず、PEACEMAKERメンバーのみで作業に当たった。

ギギさん、タイガの手も借りて黒い塵を浄化。

棒倒しの砂山のように少しずつ黒い塵山を崩していった。

魔力が無く浄化に参加できない者達は、魔物や不審者が近付かないよう周辺の監視に当たる。

旦那様はあまり魔術を使うのが得意ではないため、浄化には不参加。

今回の魔王討伐の最も貢献した人物のため、帝国でのんびりしてもらっている。

魔王討伐したというのに、なんとも地味な展開である。

しかし式典に参加して、皇帝から褒美を授与され PEACEMAKER(ピース・メーカー) が帝国傘下扱いされるよりはずっといい。

またこの地味な作業をしておいたお陰で、ユミリア皇女の好意が再びウイリアムへと移った。

彼も魔王討伐に参加した人物の一人だ。

周囲から持ち上げられる彼の姿を見て、再び惚れ直したようだ。

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そんな彼――ウイリアム・マクナエルは、今回の魔王討伐を説明するため、帝国国内にあるとある屋敷へと向かう。

その屋敷とは帝国ザグソニーア帝国魔術騎士団長を務める人物、人種族魔術師Aプラス級、レイーシス・ダンスが住まう場所だ。

二つ名を『 合成生物士(キメラメイカー) 』と呼ばれ、帝国内外では恐れられている。

レイーシスとウイリアムは遠縁ではあるが親戚同士である。

そのためウイリアムは子供の頃から年に一度はこの屋敷を訪れていた。

レイーシスは先の魔王戦で黒煙により毒化。

魔王軍魔物達に追いつめられるが、リュート達が駆けつけたお陰で命拾いをした。

以後は広がる 黒煙結界(ネグロ・ドィーム) 問題や軍の再編など問題が山積みだっため、事務仕事メインで表立って出て来るとはなかった。

レイーシスは初老手前の年齢にもかかわらず肌に張りがあり、無駄な贅肉もまったくない。

瞳は刃のように鋭く、髪をオールバックに撫でつけている。

ペットが主人に似るという俗説があるように、レイーシスの住まう屋敷は彼に似た重圧的雰囲気を醸し出していた。

そんな重苦しい屋敷の廊下をウイリアムが悠々と歩く。

足取りは非常に軽やかだ。

使用人の案内で彼は屋敷の主が居る書斎へと通される。

「オジ上、失礼します」

「……よく来た。ウイリアム、座りなさい」

「はい、失礼します」

ウイリアムはオジの指示に従いソファーへと腰を下ろす。

ソファーが悲鳴を上げるように軋んだが、レイーシスは気にせず書斎に置かれた机に座ったまま書類に目を通し続けていた。

しばらくすると、ウイリアムの前にメイドが香茶を置く。

彼女は一礼すると部屋を出た。

メイドが部屋を出て行くと、レイーシスが顔を上げる。

「ではウイリアム、報告を聞こうか。 PEACEMAKER(ピース・メーカー) と行動を共にし、魔王との戦いで何があったのか」

「はい、目にした限りのことを報告させて頂きます」

ウイリアムは姿勢を正すとオジへと報告をする。

ダン・ゲート・ブラッドの『マジック・バンカー・バスター』から始まり、魔王の暴走、そして120mm滑腔砲、装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)の破壊力について。

また帝国へ戻って来て、ユミリア皇女と再び親交を結んだことを。

レイーシスは腕を組み、目を閉じ報告を集中して聞く。

そして一通り聞き終えると、ゆっくりと瞼を開き漏らす。

「よくやった、ウイリアム」

レイーシスが人を褒めるのは珍しい。

彼は饒舌に語り出す。

「 PEACEMAKER(ピース・メーカー) に魔王を横取りされたのは気に喰わんが、ウイリアムが少なからず手助けしていたのはありがたい。これで帝国があの『 黒毒(こくどく) の魔王』レグロッタリエを倒したと喧伝できる。さらに気の多いユミリア皇女を再び取り込んだのも見事だ」

レイーシスの瞳に、黒毒にも負けないほどの黒い欲望が浮かび上がる。

「現在、メルティア王国は魔術師長、人種族魔術師Aプラス級、クンエン・ルララルを失っている。その穴を埋めるのに数十年は必要だろう。今回の魔王討伐に帝国が貢献したことを利用すれば、その数十年の間に王国との国力を十分埋めることができる。立ち回りを間違わなければ、帝国はほぼ確実に王国を凌駕し妖人大陸一の国家として名を馳せるだろう」

レイーシスの分析は ほぼ(、、) 正解だ。

彼の言葉通り、立ち回りを間違えさえしなければ、帝国は人種族トップの国家へと躍り出ることが可能だろう。

レイーシスの『 合成生物士(キメラメイカー) 』は、人種族最強の魔術師S級、 始原(01) 団長、アルトリウス・アーガーの力とよく似ていたため、彼の力は『アルトリウスの下位互換』とあしざまに陰口を叩かれていた。そして、その陰口はレイーシスにとってとても我慢できるものではなかった。

その屈辱を拭うために人種族トップ国家にザグソニーア帝国を押し上げる。

親戚であるウイリアムに、ユミリア皇女を娶らせて、自分が裏から彼らを操る。

そうなって初めて、レイーシスの傷つけられたプライドが回復するのだ。

ウイリアムは一度、魔王戦でレイーシス共々完敗している。

なのに今度は PEACEMAKER(ピース・メーカー) と行動を共にし、魔王を撃破。さらにユミリア皇女の気持ちを再び取り戻すことにも成功したのだ。

最悪の場合、妖人大陸を 黒煙結界(ネグロ・ドィーム) に飲み込まれる事態すら想定していたことを考えれば、レイーシスにとっては大逆転ホームランもいいところである。

だが彼には唯一、誤算があった。

ウイリアムがオジの迫力に負けて唯々諾々と従う若者から、一皮剥け――一筋肉が増量して、ビルドアップしていたことにまだ気付いていなかったのだ。

「早急にウイリアムの魔王討伐祝いを開き、大陸中に広め喧伝しなければな。その際、ユミリア皇女の気が変わらぬうちに祝宴を上げよう。 PEACEMAKER(ピース・メーカー) に関しては気に喰わぬが、魔王を倒した実力を考えると放置はできんな。他国に奪われる前に、相応の地位を準備して取り込まなければ……。ウイリアム、彼らがその気になるよう手を回す準備を頼んだぞ。魔王と一緒に戦ったオマエなら、彼らもそうそう邪険にはすまい」

「いいえ、できません。そんな紳士的ではないことなど」

「……なんだと?」

まさか断られるとは思っておらず、ウイリアムの拒絶に眉根を寄せる。

レイーシスから放たれる重圧が増え、書斎の重力が倍以上になったとさえ錯覚するほどだ。

「自分はただPEACEMAKERが動きやすいように露払いをしただけ。師匠の活躍などに比べたら、これぽっちも役立っていません。なのに横から手柄を攫うような、紳士的でないマネはできるはずがありません」

しかし、そんな重圧の中、ウイリアムはどこ吹く風といった態度で反論し、ソファーから立ち上がりオジへと近付く。

「オジ上は筋肉の足りない細い体をしているから、そんな紳士的ではないことを考えてしまうんですよ? もっと筋肉を鍛えないと」

「むゥ……」

この発言にさすがのレイーシスも、表情を顰める。

彼自身、魔術騎士団団長として、部下達の先頭に立っても恥ずかしくないよう体は鍛えている。

彼の年齢を考えれば、同年代の男性と比べても筋肉質な体つきをしていた。

(魔王を退治した戦を経験し、気が大きくなっているのだろう。若者にはよくある現象だ。驚くような体験をし、自分自身も成長したと錯覚する愚かな勘違いだ)

実際に珍しい体験を経験し成長する場合もある。

だが、普通はそうそう簡単に人は成長するものではない。

ずっと逆らって来なかった親戚の子供であるウイリアム。

レイーシスは再びどちらが上なのか改めて教えるため、近付いてきたウイリアムを睨みつけた。

「!?」

しかし、目の前に立つウイリアムを前にすぐに気付く。

彼が以前のウイリアムでないことを。

「う、ウイリアム……オマエ、でかくなっていないか?」

よくよく彼を観察すると……首は膨れあがり、胸板も厚みを増している。腕の筋肉も凹凸がくっきりと分かるほど鍛え抜かれ、暗い書斎だったため遠目では分かり辛かったが、肌も以前と比べて黒くなっている。

身長は変わらないのに分厚さが増しているのだ。

元々、ウイリアムは筋肉質だったが、さらに筋肉がでかくなっていたのだ。

彼は暑苦しい笑顔を『にっこり』と浮かべて、オジの腕を取り書斎から連れ出そうとする。

「師匠が言っておりましたよ。『健全な筋肉には紳士な精神が宿る』と。オジ上も筋肉を鍛えれば、そんなつまらぬ紳士的ではないことを考えることもなくなります。ちょうどこの報告の後、師匠と一緒に筋肉トレーニングをする約束をしているのです。是非、オジ上も参加してください!」

レイーシスは抵抗するが、ウイリアムの腕はまったく離れない。

肉体強化術で身体を補助し、無理矢理振り払おうとするがびくともしないのだ。

ウイリアムの力強さと変わりように、沈着冷静なレイーシスが声を荒げる。

「う、ウイリアム! 離せ! は、話はまだ終わっていないのだぞ!」

「ははははは! 話など筋肉を鍛えながらでもできますよ!」

ウイリアムは以前は恐怖心を持ち、精神的に屈服していたレイーシスに怒鳴られても気にする様子もない。

あまりの変わりようにレイーシスは、何か違法魔術薬で操られているのかと疑うほどだった。

しかし、ウイリアムは心底楽しそうにオジへと語りかける。

「オジ上! 確かに最初は痛くて、苦しくて辛いかもしれませんが、すぐに気持ちよくなり、やみつきになりますからご安心を!」

「は、離せウイリアム! 私をどうするつもりだ!」

レイーシスは彼の言動に動揺し、抜け出そうと暴れる。

だがどれだけ足掻いても、ウイリアムの手から抜け出すことはできなかった。

のちにウイリアム・マクナエルは、ユミリア皇女と結婚。

ザグソニーア帝国、皇帝の座へとつく。

彼は人々に筋肉トレーニングの素晴らしさを伝えるため政策をいくつも立ち上げた。

また自身も筋肉トレーニングを生涯にわたり続け、その紳士的態度から『筋肉皇帝』と呼ばれ人々から親しまれたとか。

レイーシス・ダンスは、ある日を境に筋肉トレーニングにドハマりする。

以前の彼は周囲に重圧を与える空気を流す人物だったが、現在は基本的に上半身裸で筋肉トレーニングをする紳士的人物に変貌した。

彼曰く『自身の 虚栄心(プライド) に拘るより、筋肉に拘るべき』と標榜。

特に若い人々に筋肉トレーニングをするべきと主張するようになる。

さらに自身が団長を務める魔術騎士団団員達にも精神修行、健康維持を兼ねて筋トレを推奨。

結果、魔術騎士団は魔術師集団にもかかわらず、人種族国家で最もムキムキマッチョな騎士団となる。

国家の垣根を越えて魔物討伐などをする際、ザグソニーア帝国魔術騎士団は魔術を使わず素手で討伐。

他国家騎士団や軍関係者達に衝撃を与え、『奴等とは絶対に戦いたくない』と言わしめるほどだった。

そしてその荒々しい印象とは異なり、彼らの中には紳士的ではない団員は一人もいなかった。

他国も彼らの紳士的態度に感銘を受け、精神修行として『ザグソニーア帝国式筋肉トレーニング』を取り入れるべきとの意見が出る程だった。

いつしかザグソニーア帝国は『紳士と筋肉の国』と妖人大陸に住む人種族達から尊敬の念を集めるようになる――とは、まだこの時、誰も夢にも思っていなかった。