軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第317話 APFSDS

オレは飛行船ノア・セカンドへ合図を送り、リースに地上へと降りてもらう。

対魔王用に作っておいた兵器の準備に取り掛かるためだ。

しかし魔王の体が一瞬で治癒されたと思ったら、今度は際限無く膨張を始めるとは……。

さらに、魔王の体の一部が千切れて、今まで見たこともない醜悪な魔物を生み出し始める。

魔物達は危機感を抱いているが如く、対魔王兵器の準備に取り掛かるオレ達を執拗に狙い始めた。

そのため準備の間、ギギさん、タイガ、ウイリアムに時間稼ぎをしてもらう。

「『 10秒間の封印(テンカウント・シール) 』!」

タイガは魔物の鋭く伸びる触手攻撃を回避し、本体へと手のひらで触れる。

『 10秒間の封印(テンカウント・シール) 』により、魔物の魔力が10秒間だけ止められてしまう。

『魔法核』の暴走によって、魔王の肉体から千切れて生み出された魔物には効果絶大らしく、途端に動きが鈍くなる。

「我が手に絡まれ風の鞭! 風鞭(ウィンド・ウィップ) !」

その隙にギギさんが風の攻撃魔術でトドメを刺して行く。

タイガが先行し、魔物達の攻撃を回避しながら次々『 10秒間の封印(テンカウント・シール) 』で弱らせて、ギギさんがトドメを刺す。

アイコンタクトもとらず、まるで長年連れ添った夫婦か、恋人の如く完璧な連携で魔物達を倒していく。

同じ町でエル先生と一緒に孤児院の仕事をしていれば、同僚的仲にはなるだろう。

しかし、仲良くなり過ぎじゃないのか?

まさかとは思うがギギさんとタイガは――と妙な疑いを持ちそうなほど、阿吽の呼吸を見せつけてくる。

一方、ウイリアムはというと、ギギさん&タイガ以上に活躍を見せていた。

「ふん! ふん! ふんふんふんふんふんふんふんぬぅううぅ!」

彼は『 千の刃(サウザンド・ブレード) 』という二つ名に違わず、周囲に魔術の刃を作り出す。

その刃の柄を握り締めると、かけ声とともに発射。

向かってくる魔物へと次々に突き刺していく。

闘技場でスノー達と決闘した時は、あの魔術の刃は手を触れず飛ばしていたはずだ。

なのになぜ今は手で投げているんだ?

しかも前より断然その威力が強くなっている。

しかし本人はまだその威力が気に入らないらしく、懺悔するように声をあげる。

「クソ! 師匠のような攻撃がまったくできない! 自分にはまだ師匠のような筋肉が無いからか!」

もしかしてさっき旦那様がやった『マジック・バンカー・バスター』のことを言っているのか?

あれは高々度からの落下速度とバンカー・バスター本体の重量があってからこその威力だ。

いくら旦那様でも地上で落下速度&位置エネルギー抜きで、『マジック・バンカー・バスター』のマネごとなんて出来るはず……無いよね?

「俺、この戦いが終わったらもっと筋肉を鍛えるんだ」

おおおおおおい!

ウイリアムさん、なに新手の死亡フラグを立てているんだよ!

てか、ワイルドハンサムなエリート魔術師だったのに、今はワイルドを超えて筋肉のことしか考えていない汗くさい男性キャラに変わり過ぎだろう!

いったい旦那様にどんなことを習ったんだよ!

思わずツッコミを入れそうになる。

そんなオレにスノー&リースが声をかけてくる。

「リュートくん、こっちの準備終わったよ!」

「こちらも終わりました」

「了解、オレの方も準備終わったよ!」

リースが出した『対魔王用兵器』――120mm 滑腔砲(かっこうほう) の発砲準備を終える。

この120mm 滑腔砲(かっこうほう) と徹甲弾――装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS:Armor Piercing Fin Stabilized Discarding Sabot)が今回、対魔王用として準備した兵器だ。

8.8cm対空砲(8.8 Flak) の台座などを利用しているため、見た目は似ているが中身は完全に別物である。

一番分かりやすい違いは、 8.8cm対空砲(8.8 Flak) の砲身内部にはライフリングが刻まれているが、この『対魔王用兵器、120mm滑腔砲』にはそれが無い。

ライフリングが刻まれていないので、120mm『滑腔砲』という名前が付いているのだ。

前世地球では、元々は大砲(火砲)の内部は発射した際、弾が詰まったり、引っかからないようにと 滑らか(スムーズ) だった。つまり『滑腔砲』だった。

だが砲弾を回転させて安定して直進させる技術――ライフリングが開発される。

お陰で命中率、射程、威力が上昇。

戦車に限らず、第二次世界大戦時は砲身には基本的にライフリングが刻まれていた。

しかし成形炸薬弾が開発されると状況が変わる。

成形炸薬弾を回転させると、対象に着弾する際、金属分子のジェット噴流――メタルジェットが回転によって散らばってしまう問題が生じた。

結果、再び滑腔砲が使用されるようになる。

現在の戦車砲の主流は滑空砲が採用されている(イギリスを除く)。

つまり時代の流れにより最初は『滑腔砲』だったのが、『ライフリング砲』、再び『滑腔砲』にと変化して行った。

これはなかなか面白い流れだと思う。

ちなみにソ連が世界で初めて戦車(T―62戦車)に滑空砲を搭載した。

話を戻す。

ではなぜオレは 8.8cm対空砲(8.8 Flak) という万能火砲があるのに、わざわざ120mm滑腔砲を製作したのか?

答えは簡単である。

単純に、120mm滑腔砲から発射される徹甲弾の破壊力の方が高いからだ。

相手は魔王だ。

そのためわざわざ120mm滑腔砲を用意したのだ。

では、どれぐらい威力に違いがあるのか?

8.8cm対空砲(8.8 Flak) を搭載した対戦車砲の徹甲弾の貫徹力は、 圧延均質装甲鋼鈑(RHA) は距離1000mで、193mmあるとされている。

120mm滑腔砲の徹甲弾――装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)の貫徹力は、同じく1000mで、440mmだと言われている。

8.8cm対空砲(8.8 Flak) の2倍以上の貫徹力を持っていることになる。

前世、地球時代、テレビで『これがどれぐらい凄いのか分かりやすく表現して欲しい』とリポーターが自衛隊員に尋ねた。すると隊員は、『たとえゴ○ラが現れたとしても装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)があれば倒せる』と断言していた。

それほどの破壊力を持つなら対魔王兵器としてこれ以上のものはないが、まだ研究中のため今回もちこんだ物は試作品でしかない。

ルナからの注意では『3発撃ったら以降は絶対に使っちゃ駄目!』とのことだ。

3発以降は耐久度が保証しかねるらしい。

だが正直、3発も必要ない。

この1発で魔王とは決着を付けるつもりだ。

オレはスノー、リースと一緒に120mm滑腔砲を支える台座のアンカーを地面に打ち、固定を終える。

JM33(ドイツ製DM33のライセンス生産による日本製、浸徹体タングステン合金。ちなみに浸徹体は敵装甲に衝突時、一定以上の速度があれば発生する圧力によって装甲・浸徹体双方が流体のようにふるまい、敵装甲に穴を開ける)を模して作成した砲弾――装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)を両手で持ち、装填する。

装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)の全備重量は約19kgもある。

装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)は発射すると、太く重い矢(弾丸長:575mm、弾丸質量:7.3kg)が初速1650m/sでぶっ飛んで行くのだ。

ギギさん、タイガ、ウイリアムのお陰で魔王までの射線から魔物達が排除される。

「発射準備が完了しました! 全員退避してください!」

オレが叫ぶとギギさん達はすぐさま退避してくれた。

魔王は未だに増殖し、魔物を生み出している。

オレは魔王レグロッタリエ本体が居るだろう場所に狙いを定めて、撃発レバーを握り締める。

前世、オレを殺害したであろう張本人であろう魔王レグロッタリエと、冒険者駆け出し時代にオレを騙し奴隷として売り払ったエイケント。

現在二人は混ざり合い魔法核の暴走により膨れあがっていた。

彼らに恨みは無い――と言えば嘘になる。

しかし、今この瞬間、復讐できる暗い喜びや高揚感は無い。

ただ目の前の、オレ自身の大切な人達を傷つける、他善良な人々を脅かす敵を倒す感情しか胸にはない。

オレにとって彼らは復讐相手ではない。

ただ害悪、倒すべき敵だ。

オレはそんな彼らを正面から見据え、握った撃発レバーの腕に力を込め、かけ声とともに引く。

「耳を押さえて、口を半開きにしろ! いくぞ!? ファイアッ!!!」

爆音。

滑腔砲内部で装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)の本体である矢――弾芯が 装弾筒(サボー) のお陰で無事に加速。

滑腔砲から初速1650m/sで飛び出し、真っ直ぐ魔王へと向かい飛翔する。

ギギさん達が退避したことで、120mm滑腔砲へと殺到しかけた魔物達は、発砲した際の爆風によって粉々に引き千切れる。

装弾筒(サボー) は滑腔砲から一緒に飛び出すが、途中で弾芯と分離。

8.8cm対空砲(8.8 Flak) 、徹甲弾の2倍以上の貫通力だ。

魔王レグロッタリエは本能的にガードしたのか、狙った本体中心に増殖した肉体を集結させる。

しかし装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)は構わず撃ち抜いてしまう。

まさに神々にすら届きうる一撃。

魔王レグロッタリエは悲鳴を上げることすらできず、本体中心に増殖した肉体を集結させたほぼ全てを抉り取られてしまう。

さすがに致命傷だったのか、空いた穴を中心にぼろぼろと崩れ落ち、黒い砂へと変化していく。

他魔物達も魔王死亡と同時に黒い砂へとなり、崩れ落ちていった。

「…………」

オレ自身に復讐心などない――なのに後に残った黒い砂の山から、オレはしばらく目を離すことができなかった。

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

「……なるほど『予知夢』の通り、堀田くん達が勝ったのか」

ララは自身の持つ『精霊の加護』の一つ『千里眼』で、リュートvs魔王戦を監視していた。

戦闘が終わると、すぐにランスへと報告する。

彼はすでにララのもう一つの『精霊の加護』である『予知夢』で勝敗を知っていた。

そのため『リュート達が勝利した』と聞いてもたいして驚くことはなかった。

彼は座っていたソファーへとさらに体を預け、人好きする笑みを浮かべる。

「これで予定通り、『魔法核』の熟成も無事に完了したわけだね。さて、それじゃ今夜にでも『魔法核』を取りに行こうか」

「今すぐに向かわなくてもいいのですか?」

「大丈夫、大丈夫。所詮、彼らに『魔法核』を取り扱う知識なんてないだろうし。それほど急がなくても問題ないよ」

ララの問いにランスは美味しそうに香茶を口にする。

彼は飲み干すと、ララへ向けてカップを向ける。

「だからもう一杯、お茶を淹れてくれないか?」

この願いにララはカップを受け取ると、一礼して部屋を出る。

むろん、ランスに飲んでもらうお茶を淹れるためにだ。

魔王よりなおドス黒い悪意は、未だ静かにその身を伏せていた。