作品タイトル不明
第301話 vs魔王レグロッタリエ
突如訓練場に乗り込んできた魔王化したレグロッタリエは、眼下に居る帝国人達に告げる。
「知った顔も居るようだが、俺様の用件は一つだ。美姫、ザグソニーア帝国第一皇女、ユミリア・ザグソニーア―― 銀薔薇(シルバーローズ) をもらい受けに来た。大人しく皇女を差し出せ。そして帝国は俺様の下につけ。さすれば世界の半分はオマエ達にくれてやるぞ? どうする、皇帝?」
この場に相応しくないのは重々承知だが、オレは思わず感動してしまう。
だって、『世界の半分をやるから云々』なんて魔王から直々に聞けるなんて思わなかったからだ。
『世界の半分をやるから云々』は、男子が『言われたい台詞ランキング』のトップ10には入る台詞だろう。
他にも『昨晩はお楽しみでしたね』や『貴様の力はその程度か?』『実はオマエには許嫁が居る』なども存在する。
もちろんこれは自分の一方的な意見ではあるが。
オレが変な感動をしている一方、魔王レグロッタリエと帝国皇帝が話を進める。
「貴殿が魔王レグロッタリエか……まさか本当に実在したとはな」
「ふん、そんなことどうでもいいだろう。それでどうする? 娘を差し出すのか、出さないのか?」
「……一つ訊きたい。何故、我が娘、ユミリアを求める?」
「俺様は元々ザグソニーア帝国のスラム街で産まれた」
「な、なんと!? 貴殿は我がザグソニーア帝国出身なのか!?」
レグロッタリエは律儀に語り出し、皇帝も彼の言葉に丁寧なリアクションを返す。
一方、微妙にはぶられているオレ達、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) メンバーはさくさく戦闘準備をおこなう。
その間、レグロッタリエは過去話を語り出し、帝国側は律儀に聞いていた。
「親の顔を知らず、似たようなガキ共とつるんで盗みや 強盗(たたき) をし、時には仲間を売ったりして兎に角その日を生き延びる。そんなクソみたいな生活をずっと送っていた。そして俺様が10歳ぐらいの時、ユミリアを目にした。当時、帝国は『スラム街の住人にも仕事と施しを』とスローガンを掲げて支援をやったよな。国民の人気取りのために。あの時、ユミリアが耳目と人気を集めるための御輿として担がれていたはずだ」
「た、確かに……当時そのようなことをしましたが……」
皇帝の側にいた大臣らしき人物が口ごもる。
「あの時、綺麗なドレスを着て、手に一杯の菓子を持ち、街やスラムのガキ達に手渡すまだ幼いユミリアに俺様は見惚れてしまったんだ」
彼らがノリノリで語り合っている間も迎撃準備を整える。
8.8cm対空砲(8.8 Flak) はさすがに見逃されないのと、現状発砲した場合、魔王の言葉に聞き入っている帝国側に被害を出す可能性があるため使用不可。
念のためすぐに取り出し準備できるように、リースには囁き告げておく。
スノーはAK47に徹甲弾の弾倉を選択。
クリスはVSSから、 対物狙撃銃(アンチ・マテリアル・ライフル) のバレットM82へ。
オレもリースから、 ALICE(アリス) クリップで止められた装備一式を受け取り装着。手にはスノーと同じAK47。『GB15』の40mmアッドオン・グレネードの準備をする。
リースはパンツァーファウストを手に取る。
ココノ、メイヤには安全のため下がってもらう。
シアには2人の護衛についてもらった。
もちろん彼女の武器はコッファーだ。
準備を終えても魔王は語り、帝国側は聞き入っている。
帝国は『世界の半分云々』の返答をまだしていない。その前にこちらの判断で勝手に攻撃をしたら駄目なのか?
というか、帝国側の兵士達は話に聞き入っていないで、戦う準備ぐらいしろよ。
声に出してツッコミを入れたいが、どうも話が佳境に入ったらしい。
皇帝は重々しく告げる。
「……なるほど。その時に我が娘ユミリアを娶りたいという分不相応な願いを抱き、魔王に身を落としたのか」
「いいや、違うね」
皇帝のドヤ顔回答を、レグロッタリエは即座に否定する。
魔王は割れたような壊れた笑みを浮かべ、楽しげに告げる。
「俺様は愛と甘いミルクの味しかしらない幼いユミリアを見て思ったんだ! こいつを汚したい! あの可愛らしい顔を苦痛と絶望、快楽と破壊の狂気で汚してやりたいってな! 俺様の下で汚れていくユミリアの姿を想像しただけで、下着がぐちょぐちょになったぜ!」
レグロッタリエの壊れた笑いに、ユミリア皇女が短く悲鳴を上げる。
これはどうやら決裂しそうだな。
皆に目配せして、開始早々現在の最大火力をぶち込む確認をする。
しかしレグロッタリエは本当に救いようがないほど屑だな。
ある意味、ここまで屑だといっそ清々しくもある。
「さぁ皇帝! 再び問おう! ユミリア皇女を俺様に差し出せ! さすれば世界の半分をくれてやる!」
「断る! 我が娘、ユミリアを貴様のような魔王に渡すわけにはいかぬ! 騎士達よ! 汝らの力を魔王に示せ!」
皇帝の言葉にようやく周りにいた帝国騎士達が、戦闘準備を開始する。
腰に下げている剣を抜き、観客として集まっていた貴族達の護衛と魔王に突撃する兵士に分かれる。
遅い。
それぐらい命令される前にやっておいて欲しいものだ。
オレ達、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) メンバーはさっさと攻撃を開始する。
AK47(徹甲弾)、バレットM82の12.7mm(12.7×99mm NATO弾)。
オレはGB15の40mmアッドオン・グレネードで、リースはパンツァーファウストを発砲する。
爆音、爆風が訓練所に居る人々にまで届く。
帝国側の間で『やったか!』という声が聞こえてくる。
止めてください、変なフラグを建てるのは。
「……ふはははは! その程度の攻撃で俺様に傷をつけられると本気で思っているのか? パチンコ玉程度にしか感じぬぞ!?」
全く、帝国側が変なフラグを建てるからまったくの無傷じゃないか。
そんな冗談はともかく、レグロッタリエは前回ただ漏れてしていただけの黒い魔力の風を自身の周囲に展開。
彼を中心に黒風が高速で回転している。どうもあれでオレ達の攻撃を防いだらしい。
となると見た目は黒い風だが、想像以上に硬いらしいな。
「抜剣!」
ようやく戦闘準備を整えた帝国自慢の魔術騎士団員達が剣を抜き、肉体強化術で身体を補助。訓練所の床を蹴り、空中に浮かぶレグロッタリエに切りかかる。
手にした剣は魔剣らしく、魔力を通して淡く光り輝く。
その攻撃は、魔王の周囲に渦巻く黒風を切り裂いた。
どうやら魔力を含んだ攻撃だと破壊しやすいらしい。
これは貴重な情報だ。
「隙有り! 魔王よ、覚悟しろ!」
すぐに後続が追いすがり、若い魔術騎士が嬉々として黒風が薄くなった部分へと切り込んでいくが――
「隙だと? そんなものどこにあるのだ」
「ぐあぁ!?」
一瞬で先程の2倍の厚さの黒風が生み出され、追撃してきた若い魔術騎士の魔剣を防ぎ、本人を吹き飛ばす。
どうやらレグロッタリエは本気を出していなかったらしい。
黒風はまさに攻防一体の万能武器。魔術騎士達の隙間を縫って、オレ達も攻撃をしかけるが黒風に弾かれて防がれる。どうも向かってくる攻撃をオートで防ぐようだ。
背後でシアが『攻防一体最強武器はコッファーです。異論は認めません』と瞳で訴えてくる。
別に張り合わなくてもいいだろうに。
だが、レグロッタリエの黒風は攻撃、防御能力だけではなかった。
「ぎゃははは! それじゃユミリア皇女は勝手に俺様がもらっていくぞ!」
「きゃぁああ!」
黒風はまるで黒い蛇のように伸びて素早くユミリア皇女の体に巻き付くと、彼女を易々と持ち上げる。
これにはさすがに皇帝も慌てて声を荒げる。
「我々の警備はいらぬ! ユミリアを、娘をなんとしても取り戻すのだ!」
『オオオォォッ!』
皇帝の指示に、貴族達を守護していた魔術騎士達すら雄叫びを挙げレグロッタリエへと突撃する。
しかし、黒風に阻まれ近づくことさえできない。
オレはリースに視線を向けると、彼女は頷き動き出す。
その間、注意を引きつける意味も込めて、オレもユミリア皇女救出へと突撃する。
足と目だけに魔力を注ぎ強化!
短期決戦で駆け出す。
魔術騎士達が多数いるため、目くらましにはなる。
だからと言ってこのままではユミリア皇女に近づくのは不可能である。
オレ自身、例の黒風によって阻まれてしまう。
だが、すでに対策は立ててある。
ALICE(アリス) クリップにセットされたポーチから、ボールサイズの玉を取り出す。
黒風の攻撃を回避しつつ、ピンを抜きレグロッタリエへと投擲!
「馬鹿が! 今さら手榴弾程度が俺様に通用すると思ったのか!?」
レグロッタリエは馬鹿にした声を上げる。
だが、彼の指摘は間違いだ。
オレが投げたのは手榴弾ではない。
特殊音響閃光弾(スタングレネード) だ。
オレは目を硬く瞑り耳を押さえる。
瞬間的に175デシベルの大音量と240万カンデラの閃光が生み出され、レグロッタリエへと襲いかかる。
光は障害物があるためあまり意味は無いが、音は違う。
さすがの黒風も音まで防げない。
「!?」
レグロッタリエは人の名残か、大音量に耳を押さえてひるんでしまう。
近くに居た数人の魔術騎士とユミリア皇女が、 特殊音響閃光弾(スタングレネード) に対応できずもろに効果を浴び苦痛の声をもらしていた。
一時的なものだから我慢してもらおう。
同時に黒風の動きが鈍くなり、オレはその隙を逃さずユミリア皇女へと駆けつける。
黒風の触手は緩んでいるがまだ彼女を捕らえて離さない。
オレは一本のナイフを取り出し、魔力を注ぐ。
黒風はどうも魔術的攻撃には弱いようなので、リース父から褒美としてもらった 神鉄(オリハルコン) へと魔力を通し攻撃の手段としたのだ。
オレは残り少ない魔力を注ぎつつ、黒風を切断。
ユミリア皇女を抱えて、無事着地して退避。
走りながら、魔術騎士達に指示を飛ばす。
「抵抗陣を形成して全員、その場に伏せろ! でかいのを撃ち込む!」
この言葉でウイリアムの悲劇を目撃した魔術騎士達は全てを理解する。
彼らは抵抗陣を形成してその場に伏せる。
数人の騎士がオレとユミリア皇女を囲い同じように抵抗陣を作り出す。
「今だ! やっちまえ!」
オレの台詞に、 8.8cm対空砲(8.8 Flak) を準備していたスノー達が、耳を押さえて怯んでいたレグロッタリエへ向けて発砲!
轟音を再びたて、砲弾が魔王レグロッタリエへと襲いかかる。
彼は咄嗟に黒風でガードする。
だが黒風は楽々千切れて、本体であるレグロッタリエ本人ごと訓練所建物外へと押し出される。
遅れてさらに爆発音が響いてくる。
しばらくは誰も声を出さず、動かなかった。
「や、やったのか……?」
また帝国側の誰かがフラグを建てる。
マジで止めて欲しいんだけど。
『………クッハハッハハ! さすがにそうそう簡単にユミリア皇女は奪えないか』
どこからともなくレグロッタリエの声が聞こえてくる。
どうも魔術的なもので、声をオレ達がいる訓練所まで届けているらしい。
『今日のところは挨拶がてら顔を出しただけだ。そう簡単に目的を達成しては面白くないからなぁ? PEACEMAKER(ピース・メーカー) や貴様達の哀れな足掻きにも同情して引かせてもらおう。しかし次は準備を整えて、帝国を訪問させてもらうぞ。その時こそ必ずユミリア皇女は俺様が頂く! さらに帝国を滅ぼした後は、王国、他大陸と全てを俺様が支配してくれる!』
レグロッタリエは自身の欲望を一切隠そうとせず、醜悪なまでに晒し吐き出す。
『それではまた会おう、愚か者諸君』
レグロッタリエの声が水に溶けるように消えていく。
まさにベタな魔王的撤退だったな。
オレはユミリア皇女をお姫様抱っこしたままそんなことを考えていた。