軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第302話 ユミリア皇女とのお茶会

魔王復活。

帝国強襲される。

その二つはすぐに妖人大陸各国に広がり、他大陸にも波及した。

運がいいことに訓練場を強襲した魔王レグロッタリエが逃走した先が判明した。

帝国の近くにある山へと戻る姿を、偶然移動中の商人達が見かけたのだ。

元々その山は山賊達の根城で有名な場所らしい。

どうも膨大な魔力で無理矢理山を城へと改造しており、禍々しい空気を漂わせているとか。山周辺に住む魔物の活動も活性化し、凶暴化。

さらにその影響は広がっているらしい。

魔王確認後――メルティア王国や他人種族メインの国家から、帝国に支援の申し出が殺到しているらしい。

どうも今回の魔王レグロッタリエを人種族のみの手で倒そうとしているようだ。

五種族勇者が行っていた行為について、突然権力や武力を以って訂正すると被害が甚大になる。

PEACEMAKER(ピース・メーカー) としては、徐々に五種族勇者の間違いを正し、元女魔王アスーラの名誉を回復していくつもりだった。

そのため現在でも五種族勇者はこの異世界に最高の栄光として輝いている。

メルティア王国、ザグソニーア帝国、他小国は、魔王レグロッタリエを人種族のみの手で倒すことで、五種族勇者の栄光を今度は人種族だけで独占しようというのだ。

もしここで魔王を倒せば、新しい伝説として数百年ずっと語り継がれる。

勇者、英雄として語り継がれることは、どんな美酒でも太刀打ちできない歴史的名誉である。

故に近場のハイエルフ王国エノールや他妖精種族国家、獣人大陸からも支援や人材の申し出がでているが、人材はもちろん物資すら極力頼らないと現在人種族連合国は言っている。

さらに冒険者達もぞくぞくザグソニーア帝国に集まり、一兵士としての参戦を望んでいる。

もちろん彼らも、次代の五種族勇者という栄光を掴むため参戦しているのだ。

現状、人種族は実力さえあれば部隊に組み込まれ、弱くても雑務員として雇われる。

それ以外の種族になると適当な理由をつけ追い返される。

さらに人種族&他種族の 軍団(レギオン) やチームが、協力を申し出ると断られてしまう。まだ断られるだけならいい。

実力のある 軍団(レギオン) やチームの場合、他種族の前で堂々と彼、彼女達を切り捨て人種族だけ兵士として入るように勧誘を始めるとか。

そのせいで一時、他種族とかなり険悪な雰囲気になり、衝突する一歩手前まで行ったらしい。

なんとか 冒険者斡旋組合(ギルド) が立ち回り、仲裁しているとか。

冒険者斡旋組合(ギルド) も今回の魔王討伐で、多々業務がある。その上、このようなもめ事処理まで押しつけられ、阿鼻叫喚らしい。

ちなみにオレ達、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) にも魔王討伐の話が来た。

遠回しにだが、人種族であるオレ&ココノだけで魔王討伐に参加しないかと誘われた。

もちろん、そんな話を受けるはずもなく、早々に帰ってもらった。

まったく失礼にもほどがある!

だが、他種族から反感を買いつつも、魔王討伐という 栄光(蜜) につられて人がどんどん集まってくる。

彼らは自分達が負けるとは想像していないらしい。

気持ちは分からなくはない。

昔々のお話、お伽噺に出てくる魔王が実際に姿を現した。

しかし現在は魔術の研究もすすみ、戦略&戦術的、武器、防具、魔術道具などなど――全てが時間とともに進化している。

地球でいうなら――物語に出てくるドラゴンが、現代に蘇った。

でも科学技術が発達しているから何とでもなるよね?

そんなノリなのだろう。

オレが『種族関係なく魔王と戦うべきだ!』と主張しても帝国は柔らかい物腰で受け流し、メルティア王国は『ランス様の弔い合戦は自分達だけで本来はおこないたい。だが、妥協して人種族のみで我慢している』と主張。

他小国はメルティア王国の意見に賛成の声をあげている。

結果、オレの主張は誰にも届かず却下されてしまった。

正直、敗北フラグを立てている気しかしない。

彼らは勝つ気満々だが、これで負けたら色々面倒だろうな。

面倒といえば、『 銀薔薇(シルバーローズ) 』。

ザグソニーア帝国第一皇女、ユミリア・ザグソニーアから、今日も強引にお茶会へと出席させられていた。

どれぐらい強引かと言うと……一人で歩いていたら、無理矢理引きずり込まれたくらい強引にだ。

ユミリアは瞳にハートマークを浮かべながら、うっとりとした表情で話しかけてくる。

「今日も是非、リュート様の武勇をお聞かせくださいませ!」

「い、いやー武勇も何も、大事に巻き込まれたりしたことは何度もありますが、自分1人ではなく皆の力があったからこそ切り抜けられた訳で。自分自身の力は大したことありませんよ」

「謙虚なんですね。そんなところも素敵です!」

瞳と言わず、全身からハートマークを乱舞させる勢いで、ユミリア皇女が返答してくる。

どんな返答をしようと彼女の中で好感度が鰻登りで上昇してしまうらしい。

オレは思わず苦笑いを浮かべるしかなかった。

どうしてこんなことになったのかというと――あの時ユミリア皇女を魔王レグロッタリエから助けたのをきっかけに、惚れられたらしい。

ユミリア皇女曰く……『魔王に捕らえられ怯えていましたが、リュート様のお姿を見たとき雷鳴のような鋭い音が聞こえました。それ以後、周りから音は消えリュート様の凛々しいお姿しか目に入りませんでしたわ』

特殊音響閃光弾(スタングレネード) のせいですね。

175デシベルの音で耳が一時的に聞こえなくなっただけです。

『リュート様に抱えられ、恐るべき魔王から助けてくださった後も私の意識はくらくらしてしまいました。きっとリュート様の魅力に打ちのめされてしまったのですわ』

はい、それも 特殊音響閃光弾(スタングレネード) のせいですね。

瞬間的とは175デシベルの音を聞いたら、意識もくらくらするに決まっています。

本人に直接そう説明したのだが、『そうなんですか。さすがリュート様、博識なのですね』と瞳をハートマークにしたままで、好感度を上げるだけの結果になった。

どうもユミリア皇女は惚れっぽいらしい。

しかも惚れたら一直線の性格らしく、前回の素っ気ない態度が嘘のようにぐいぐいと攻めてくるのだ。

正直に言ってこの人は苦手だ……。

だからと言って相手は皇女、下手な態度は取れないから扱い辛い。

「と、ところで素敵といえば、訓練所で妻達と決闘したウイリアム殿も素晴らしい方ですね。あれほどの若さで魔術騎士副団長で魔術師Aマイナス級なんて。自分は魔術師としての才能が無いので、魔術が扱える方は羨ましく思いますよ」

「? ウイリアムですか? 確かに帝国の魔術騎士団にそのような人が居ましたわね」

うわ……興味無くなったとたんにこの態度。

だから、この娘は苦手なんだ。

オレがユミリア皇女の態度に背筋を寒くしていると、部屋の扉がノックされる。

皇女付のメイドが応対すると、部屋にシアを連れたメイヤが姿を現す。

「リュート様、こちらにいらしたのですか」

「め、メイヤ! どうしてここに!?」

「竜人大陸から来た商人が滅多に市場に出回らない珍しい茶葉を持ってきたので、是非ユミリア皇女にと思いまして。リュート様もユミリア皇女とお茶会ですか?」

メイヤはまるでどこぞの由緒ある名家のお嬢様のような物腰で返答する。

――いや、考えてみたらメイヤは、竜人大陸の国王とも懇意で、次期国王と目される第一王子と幼馴染みになるほどの貴族の出だった。

日頃の言動のせいですっかり彼女がお嬢様だということを忘れていた。

竜人大陸でも有数の貴族で、『魔石姫』と名高い彼女を追い返すことはユミリア皇女でも難しい。

ユミリア皇女は微笑みを浮かべているが、全身から『ジャマヲスルナ』という刺々しい空気を発している。

メイヤはまったく気づかないふりをして、茶会に参加する。

「シア、早速お茶を入れてちょうだい」

「かしこまりました」

シアは一礼すると、メイヤが持ち込んだお茶の準備を始める。

ユミリア皇女は微笑みを浮かべたまま、当たり障りのない話を振る。

「メイヤ様のお持ちになったお茶、大変楽しみですわ」

「竜人大陸でも珍しいお茶なので、ユミリア皇女のお口に合うか心配ですが」

メイヤも微笑みを浮かべて、ユミリア皇女側が準備したお茶の香りを楽しみ、口にする。

座る動作、カップを口に運ぶ動き、会話の流れ――どこをとっても優雅なお嬢様である。

……もしかしたら今、目の前に居るのは魔王レグロッタリエが準備した偽者じゃないのか?

オレが正体を疑っていると、メイヤがお茶を褒める。

「エルノカーシス産の茶葉ですわね。香りの華やかさが他の香茶とはやはり違いますわね」

ユミリア皇女の表情に亀裂が入る。

どうやら正解らしい。

さらにメイヤはたたみかけた。

「カップやソーサーもカリリング製で、しかも細工から名匠であるキールキキ作ですわね。さすがユミリア皇女。カップ一つとってもセンスがありますわね」

「お、お褒めにあずかり光栄ですわ。メイヤ様」

確か前世日本では、茶の湯の席で出される茶器、掛け軸、茶菓子等を客が賞賛する際、それらの品に対する見識が求められたらしい。

メイヤは香りと一口飲んだだけで、茶葉の生産地、カップの作者すら言い当てた。

ゲストとしてかなり教養が高い部類だろう。

そうこうしているとシアが、お茶の準備を整える。

メイヤが持ち込んだ茶葉は、竜人大陸でよく飲まれる茶々だ。

茶々はウーロン茶のような色合いと風味で、飲み方も前世、地球でのように小さなカップに注がれて出される。

「ユミリア皇女のお口に合えばよろしいのですが。リュート様もどうぞ」

「それでは頂きますね」

ユミリア皇女は出されたカップに手をつけまず香りを確認する。次に香茶より黒い茶々に口を付けた。

だが先程のメイヤのように茶葉の名前をすぐに出すことが出来ない。

十分な間をおいてメイヤが正解を口にする。

「ロウ・コウ 山(さん) で栽培し、取れた茶葉を使った『ロウ・コウ茶々』ですわ。ロウ・コウ 山(さん) には多種多様なドラゴンが住み着き、そのため栽培の際、危険が多く茶葉の収穫量も極わずか。ですが香りは他の茶葉に比べ段違いに強く、風味も爽やかなのが特徴の茶葉なのですわ」

「さ、さすがメイヤ様。これほどの茶々を頂けるなんて光栄ですわ」

ユミリア皇女はお世辞を口にするので精一杯だった。

この時点でメイヤとユミリア皇女の格の違いが決定されてしまう。

後はメイヤの独壇場だった。

畳みかけるように部屋に置かれている美術品を褒め、さらに格の違いを見せつける。

後はメイヤが主導権を握り、気づけば茶会は解散となった。

オレはメイヤに連れられて帝国城の廊下を歩く。背後から音もなくシアが続く。

「リュート様ったら、いくらなんでも油断が過ぎますわ」

「ごめん、まさかあれほど強引にユミリア皇女が行動をおこすとは思っていなくてさ」

珍しくメイヤにしかられ、謝罪を口にする。

確かに少々油断していた。

オレがしょげていると、メイヤはおかしそうに微笑む。

「ですがいくらリュート様がミスをなさっても、この一番弟子であるメイヤ・ドラグーンがフォローしてみせますわ! なのでリュート様はどうぞご安心してお過ごしくださいませ」

「め、メイヤ……ッ」

メイヤの男前な発言に思わず胸が『キュン』と高鳴る。

あれ? メイヤってもっとこうアレな感じじゃなかったっけ?

今の彼女はとても頼もしく見えてしまった。