軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第300話 リース決闘編、そして――

最後の決闘相手はリース・ガンスミスだ。

正直、怒らせたら一番怖いのが彼女である。

リースが最後の決闘方法の勝負内容を提案する。

「私はスノーさんやクリスさんに比べてあまり戦闘は得意ではありません。なので互いの全力をぶつけ合うというのはどうでしょうか?」

「全力ですか?」

「はい。全力の一撃を出すので、それをウイリアム様が全力で止める。もしその一撃を防ぐことができたらウイリアム様の勝ちということです」

「……分かりました。それで問題ありません。自分としてもご婦人を傷つけるのは本意ではありませんでしたので。また全力を出してもいないので、最後ぐらいは出させて頂ければこちらとしても助かります」

クリスに敗北した後、ウイリアムの目から光が消えていた。

そりゃ魔術師でも無い格下認定していた年下の少女に、衆人環視の前で敗北したのだ。

敗北した後、彼はユミリア皇女殿下へと視線を向けると、彼女の瞳からもキラキラとした恋する乙女オーラが消えていた。

2連続敗北したせいで興味が薄れてしまったらしい。

お陰でウイリアム君の目はさらに光を失う。

だが、リースの勝負方法提案で一息に光を取り戻した。

『自分としては相手が女性だし、傷つけると色々まずいから本気出してなかったから負けただけだし。本気だせるなら絶対負けないし』――などと考えているのだろう。

でも、最初に決闘を申し込んできたのはウイリアムで、女性陣との決闘に納得したのも、ハンデとして333本しか刃を使わないと言い出したのも本人だったはずだ。

しかし、さすがにここまで2連敗。

1人は魔術師Aマイナス級だから言い訳できるが、2戦目のクリスは魔術師でもない少女だ。このままでは彼や帝国軍部のメンツはぼろぼろだろう。

『次こそは絶対に勝つ!』という気合いを現すようにウイリアムの背後に1000本の刃が姿を現す。

「では、私も準備をしますね」とリースは手をかざし、訓練所中央に 8.8cm対空砲(8.8 Flak) を出現させる。

ハイエルフ族は精霊の加護と呼ばれる魔術とは別の力を持つ。

リースの場合は物なら何でもしまえる『無限収納』だ。

そこから第二次世界大戦でもっとも活躍した火砲の一つアハト・アハトを出現させる。

「こ、これは……ッ!?」

突然、目の前に全長約7・7mの金属の固まりが出現したことに、ウイリアムが驚きの声を漏らす。

彼の驚愕に反応するかのごとく背後に控える魔剣達が揺れる。

確かに 8.8cm対空砲(8.8 Flak) の一発も、一撃といえば一撃だが………。

詐欺に等しい行為ではないだろうか。

現にPKM、VSSの洗礼を受けたウイリアムも、それら数十倍大きくした金属の固まりを前に目を白黒させている。

しかしリースは気づかないふりをして、さっさと 8.8cm対空砲(8.8 Flak) の発砲準備に取り掛かる。

本来は1台の 8.8cm対空砲(8.8 Flak) を操作するのに10名は必要だが、今回は別段上空から迫る敵を倒すわけでもないのでリース一人で十分だろう。

本来は 8.8cm対空砲(8.8 Flak) にある4ヵ所のアウトリガーのマウントを地面におろし、アンカーを打ち込み固定させるのだが――リースは土系魔術でマウントを固定してしまう。

砲身を支える支持架のチェーンロックを外せば準備OKだ。

本来はここから迎撃するため射撃管制装置で砲弾の時限信管の計算などをしなければならないのだが、今回はただ正面に居るウイリアムへ向けて発砲すればいい。

そのため砲身を水平にして砲弾をセットすれば終わりだ。

リースが笑顔で告げる。

「こちらの準備は終わりました。そちらはどうでしょうか?」

それは死神による死刑宣告に等しい。

ウイリアムは青い顔をしているが、かといって想い人の皇女や皇帝、他貴族達の前で大見得切ったあげく今更、『やっぱり無理です。ごめんなさい』とは言えない。

さすがにこれは可哀相で、リースに声をかけて止めようとするがそれより早くウイリアムが答える。

「……こちも準備出来ました。いつでも大丈夫です!」

ウイリアム!? マジでやるつもりかよ!?

彼は『男には引けない戦いがある』と言いたげな、格好いい笑みを浮かべながら、背後に控えさせていた魔剣1000本を前方に展開。

自分を守る盾のように配置する。さらにウイリアムは周囲に抵抗陣を形成し、がちがちに固めた。

最初は心配していたが……これなら1発ぐらいならもしかしたら耐えられる可能性もあるかもしれない。

ウイリアムはスノー、クリスに立て続けに負けてしまったが、あれは彼がスノー達を侮りハンデをつけてしまったからだ。

なんだかんだ言って彼はザグソニーア帝国魔術騎士団副団長、魔術師Aマイナス級、『 千の刃(サウザンド・ブレード) 』の二つ名を持つ騎士だ。

将来的には最年少で魔術騎士団団長も確定のエリート中のエリートである。そんな彼が今度は手加減も慢心もせず、全力で防御に徹しているのだ。まさに鉄壁の守り。 8.8cm対空砲(8.8 Flak) の1発ぐらいきっともしかしたら防いでくれるはず!

いや、ウイリアムなら必ず耐えてくれるはずだ!

そんな淡い希望を抱いてしまう。

……て、なんでオレはいつのまにかウイリアムに感情移入しているのだろう。

双方準備が整ったのを確認して早速、最後の決闘をおこなう。

審判役はさすがに近くで合図を出したら、 8.8cm対空砲(8.8 Flak) の衝撃に巻き込まれるのでオレ達の方まで退避してもらった。

さらにオレ達も入り口ギリギリまで下がり、観客を守るためその場に居る魔術師全員に抵抗陣を形成してもらう。

「それでは最後の決闘を始めます」

審判役の人が手を挙げる。

2人から距離があるため声は届かない。

挙げた手を振り下ろしたのを確認して、リースが発砲する手はずになっている。

緊張感が観客全員に伝わる。

「では、始め!」

リースが審判役の手が振り下ろされたのを確認して、主撃発レバーを引く。

爆音。

真っ赤に燃える放火。

魔剣は粉々に砕け散り、ウイリアムは紙屑のように吹き飛び空中を舞い無惨に地面へと激突する。

……うん、やっぱり耐えられるはずないよね。

分かっていたことだが、さすがに 8.8cm対空砲(8.8 Flak) の一撃は受けきれなかった。

砲弾に当たる前、爆風の時点で魔剣は粉々に砕け散り吹き飛ばされる。

そりゃ前世、自衛隊の富士総合火力演習場で戦車が発砲するとその衝撃波で観客の眼球が押され『ぐにゃり』と歪むらしい。

自分も行ってみたかったが、結局抽選に漏れ続けたが……行ってみたかったが! 本当に行ってみたかったのに! 宝くじが当たるより、オレは総火演の抽選に当選したかった!

すまない。思わず心の慟哭を本能のまま叫んでしまった。

話を戻すと、総火演のイベントに行ったことはないが、観客から戦車との距離はもちろん離れている。なのに衝撃波で視界が歪むレベルだ。

なのにウイリアムは 8.8cm対空砲(8.8 Flak) の正面、約15~20mの距離から耐えようとした。

むしろ、その勝負に挑んだ勇気を褒めたいレベルである。

ちなみに砲弾は信管を抜いて発砲していたのか、爆発はせず訓練所の壁を粉々に破壊した程度で済んでいた。

それでも帝国側からしたら 8.8cm対空砲(8.8 Flak) の威力に度肝を抜いていた。

魔術師が数人がかりで、魔力が底をつくレベルで張った抵抗陣の内側でも衝撃派を感じ、中には腰を抜かした人もいた。

驚愕するのも当然といえば当然だ。

呆然としていた帝国側の魔術師達が我に返り、慌てて倒れたウイリアムへと駆け寄る。

彼は上半身を抱き起こされ、気絶し白目をむいているのが分かった。

目から血涙、耳から耳血、口からは血泡を吹いていたがどうやら生きてはいるらしい。

魔術師達が青い顔で治癒魔術をかけ始める。

でも考えてみれば、ウイリアムは気絶はしたが身体に大きな傷はない。ある意味で 8.8cm対空砲(8.8 Flak) の一撃に耐えたともいえるのではないか?

敢闘賞として引き分けにしてもいいぐらいだ。

オレがそんなことを考えていると、 8.8cm対空砲(8.8 Flak) を『無限収納』にしまったリースが戻ってくる。

「おかえり、リース。ちょっとやりすぎたんじゃないか?」

「そんなことありませんよ。ちゃんと 8.8cm対空砲(8.8 Flak) は直撃を避けるようにしてましたし、魔術師Aマイナス級なら爆風を受けても死なないと踏んでいましたから」

なるほど全て計算尽くだったわけか。

しかし、少々やり方が過激すぎやしないか?

胸中でツッコミを入れていると、訓練所全体が揺れる。

地震か!? もしくはさっきの 8.8cm対空砲(8.8 Flak) の一撃で訓練所が崩れる前兆!?

も、もし崩れたらやっぱり建て直し資金はオレ達側が出さないといけないのか!?

そうなると事務を担当するバーニーから冷たい視線を向けられるから勘弁して欲しい。

ただでさえあの子は財布の紐が堅いのに!

変な心配をしていると、訓練所の天井が破壊されガラガラと落下してくる。

瓦礫はほぼ中央に落ちた。

その場にはすでに誰も居なかったため、瓦礫による怪我人はなし。

舞い上がった煙に皆が顔を覆っていると、聞き覚えのある声が訓練所に響いた。

「ははっははははは! ごきげんよう帝国諸君!」

「レグロッタリエ!?」

声は確かに彼のものだったが、姿形が最後に見たものと一変していた。

背中からは翼が生え魔術などを使わずとも空へと浮かんでいる。

額からは角が2本生え、口元からは牙が出ている。体の厚みも二倍になり、手のひらは禍々しくなり、爪はナイフのように伸びている。

まるで物語に出てくる魔王そのものの姿に変わり果てていた。

最も大きな変化は魔力だ。前回は膨大な黒色の魔力をただ垂れ流していた。しかし今の彼はしっかりとコントロールできているらしく、黒い魔力は今のところ一切出していない。

これほどの短時間に 魔法核(まほうかく) の扱いを心得たと言うことか?

レグロッタリエもオレ達に気がつき、『なんでこいつらがここに居るんだ?』という顔つきをする。

だが、すでに人を辞めたからか鷹揚な態度で気にせず、オレ達を見下ろし一方的に用件だけを告げる。

「知った顔も居るようだが、俺様の用件は一つだ。美姫、ザグソニーア帝国、第一皇女、ユミリア・ザグソニーア―― 銀薔薇(シルバーローズ) をもらい受けに来た。大人しく皇女を差し出せ。そして帝国は俺様の下につけ。さすれば世界の半分はオマエ達にくれてやるぞ? どうする、皇帝?」

レグロッタリエは眼下に居る帝国人達が皆一斉に息を呑む。

スノー達も突然の要求に目を白黒させていた。

一方、オレはというと……現場の緊迫した空気からずれているのは重々承知しているが――まさか『娘を差し出し、幕下になれば世界の半分を云々』という一種懐かしい台詞を魔王から聞けるとは思っておらずちょっとした感動を覚えていた。