作品タイトル不明
第299話 決闘、スノー&クリス編
オレ達はウイリアムに連れられ帝国自慢の兵士訓練所へと向かう。
ドーム型で特殊な建材と魔術により、大抵の攻撃魔術でも破壊することができない仕様になっている。
そのため帝国の魔術研究所の実験場でも、同じ物が建築されていた。
この異世界では娯楽が少ないため、パーティー会場に居た人々の殆どがわざわざ移動して見物に来ていた。
もちろんその中に皇帝ガリアル、娘のユミリア皇女の姿もあった。
「ウイリアム様、どうかお怪我をなさらぬようお気を付けてください」
「ありがとうございます、ユミリア皇女殿下」
魔術騎士団副団長である若きエリート、魔術師Aマイナス級のウイリアムとユミリア皇女は、まるで恋人同士のように見つめ合い挨拶を交わす。
あくまで建前上は臣下に声をかけているだけのため、誰もその点を非難することはできない。
ウイリアムが挨拶を終え、訓練所の中央へと移動する。
中央にはすでにスノーが準備を終えたPKMを1挺足下に置いて待ちかまえていた。
二人とも会場衣装から着替えていた。
いくら座興とはいえ決闘をおこなうのだ。万が一があってはまずい。
スノーはいつもの戦闘服に袖を通していた。
ウイリアムは白銀の甲冑を身にまとっている。どうやら魔術的な何かが付与されているのか、微かに光っていた。あれだと夜間いい的になりそうな気がするのだが……。
ウイリアムが強者の笑みを浮かべスノーへと話しかける。
「まさかあの『氷結の魔女』から二つ名を与えられた、『氷雪の魔女』殿と矛を交える栄誉を頂けるとは感激です。決着の方法は、先程の条件で本当に構いませんか?」
「『どちらか先にその場から動いたら負け』で問題ないよ。だってこの後、クリスちゃんやリースちゃんとも決闘しないといけないでしょ。わたしの時で魔力を使い果たしたら可哀相だし」
ウイリアムの笑みが深まる。
彼は『自分が本気を出したら、オマエなんてマジぼこぼこに再起不能にしちゃうから。後の2人が戦えなくて可哀相』ととったらしい。
だが、スノーに彼を馬鹿にするつもりはない。
素直に思ったことを口にしているだけだ。
裏の意味や嫌味などこれっぽっちもない。
しかしウイリアムはそうとは捕らえなかった。
「お気遣いありがとうございます。では、自分も余力を残すため3人ずつぞれぞれ333枚の刃でお相手しましょう」
宣言と当時に彼の背後で透明な騎士が剣を掲げるように魔力で作られた大剣、333の刃が姿を現す。
ザグソニーア帝国魔術騎士団副団長、魔術師Aマイナス級、ウイリアム・マクナエル。
二つ名を『 千の刃(サウザンド・ブレード) 』。
彼も特異魔術師で二つ名の通り千枚の刃を作り出すことができる。
単純に千枚の刃を作り出すだけではなく、一つ一つに属性を付与することもできる。
つまり炎、氷、風、雷などの属性を状況によって使い分けることができるのだ。
刃で攻撃するだけではなく、相手の剣・弓・魔術を防ぐ盾にもなる。
今まで見てきた特異魔術の中でもっとも汎用性が高い。
だが、いくらなんでも舐めすぎだ。
相手は同じ魔術師Aマイナス級のスノーだそ。
しかも彼女は珍しくAK47ではなくPKMを扱うつもりらしい。
「別に魔力が残るなら千枚使ってもいいんだよ?」
「いえ、大丈夫です。騎士に二言はありません」
スノーが気を遣い声をかけるが、火に油を注ぐだけだった。
ウイリアムからすれば『本気を出さないと、負けちゃうよ』と言われているのに等しい。
もう一度言うがスノーに相手を挑発する意図はないのだ。
「では、2人とも合意したと言うことで決闘を始めさせて頂く」
審判役を務める騎士の1人が語り出す。
双方納得し、互いに距離を取る。
約10mの距離で向き合う形になった。
ウイリアムの背後には333の刃が規則正しく従う。
その姿をユミリア皇女はうっとりと眺めていた。
スノーは肉体強化術で身体を補助。
PKMを軽々と持ち上げる。
すでに 引鉄(トリガー) を絞れば発射可能状態だが、ウイリアム自身刃を従えているのだから文句はあるまい。
審判役が手を挙げる。
「互いに正々堂々戦うように。それでは始め!」
挙げた手が勢いよく振り下ろされる。
同時にウイリアムが背後に控えている333の刃に声を飛ばした。
「踊れ、ソードマン! 汝らは輝きは美しく、斬れぬものは――」
「それじゃいくよ、ファイヤー!」
だが台詞はスノーのかけ声と発砲音で遮られる。
ダダダダダダダダダダダダダダダダンッ!
スナイパーライフルにも使用される7.62mm×54Rがウイリアムへ向けて200発ほど発砲される。
彼は攻撃の指示を途中で止めて、反射的に魔術で作り出した刃を盾にする。
7.62mm×54Rの弾丸は、刃を2枚砕き3枚目でようやくストップする。つまり単純計算で200発を防ぐのに、刃が600枚必要になる。
だがウイリアムはスノーに挑発されたと勘違いして見栄を張り、1000枚作り出せる刃を333枚しか使わないと宣言。
単純計算で残り267枚ほど足りない。
さらにスノーは追撃をおこなう。
「踊れ! 吹雪け! 氷の短槍! 全てを貫き氷らせろ! 嵐氷槍(ストーム・エッジ) !」
氷×風の中級魔術。
スノーの上空で小型の竜巻が疼く巻き、無数の鋭い氷りの刃が舞う。刃は彼女が手にするPKMの如く、ウイリアムを狙い無数に発射される。
「おっ、おおおおおおおぉぉッ!」
上空、正面からの二重攻撃。
すでに刃は破壊し尽くされ、彼は抵抗陣を形成してなんとか防御に徹する。
しかしPKMと攻撃魔術による2重攻撃に耐えきれるはずもなく、どんどん魔力が削り取られていく。
このままでは魔力を全て削られ体中が穴だらけになる。
彼が生き残る道は一つしかない。
「くううぅッ……!」
ウイリアムは抵抗陣を周囲に形成しつつ、肉体強化術で身体を補助。
その場から転がるように抜け出した。
「そ、そこまで! 勝者スノー・ガンスミス!」
審判役の騎士が慌てて勝者を告げる。
これ以上、追撃させないためだ。
取り決めを破り下手に続行させて、あの嵐のような攻撃を継続されたら重大な怪我を負いかねない。
ウイリアムもそれを理解しているため、額といわず顔中から冷や汗を流していた。
「さ、さすが魔術師Aマイナス級の『氷雪の魔女』殿。これほどの強さとは恐れ入りました。自分の負けです」
「ありがとうございます。でも、ウイリアムさんが本気だったら、勝負は分からなかったよ」
「くッ……」
もし仮に彼が二つ名の通り、1000枚の刃を従えていたらPKMの200発を止めてもまだ余裕があった。
スノーを舐めて333枚という制限を自分でかけなければ、彼女の指摘通り十分勝算はあった。
スノーに嫌味を言われたと誤解しているウイリアムは、悔しそうに唇を噛む。
だが正直、もし彼が1000枚の刃を出したなら、スノーはもう一挺PKMをもって両手で撃てば200+200で400発撃てる。
弾丸を止めるのに3枚必要なため単純計算で1200枚必要になる。
結局、結果は変わらないのだ。
さて次の決闘相手は、クリスだ。
彼女は VSS(サイレンサー・スナイパーライフル) を手にしている。
ウイリアムは次の相手が小柄の少女で、魔術師ではないことに勝利を確信した表情を浮かべた。
ウイリアムは訓練所入り口で観戦しているユミリア皇女と目を合わせる。
『次こそはユミリア皇女殿下に勝利を捧げます!』と瞳で訴えていた。
『ウイリアム様、どうかお怪我だけにはお気を付けてください』とユミリア皇女は目で返す。
まるで2人は舞台劇の主人公&ヒロインになったかのように、自分に酔いしれている感じだ。
だが、勝利を切望しているところ悪いが、相手は PEACEMAKER(ピース・メーカー) でもほぼ最強の存在――クリス・ガンスミスだ。
しかも彼女はほぼ無音で、連続発砲できる変態スナイパーライフルのVSSをその手に持っている。
オレならその時点で背中を向けて全力疾走するね。
逃げられる可能性はほぼ0に等しいけど……。
そしてクリスとウイリアムは、次の決闘方法を決める。
クリスが『先に相手へ一太刀(一撃)を入れたら勝ち』を提示。
ウイリアムはすぐに了承した。
こうして2戦目の勝負方法が決定する。
先程のスノーと同じように訓練場中央、約10mの距離で互いに向き合う。
審判役が手を挙げる。
「それでは準備はよろしいか?」
「もちろんです」
『私も問題ありません』
「では互いに正々堂々戦うように。それでは始め!」
挙げた手が勢いよく振り下ろされる。
すぐさまクリスは肉体強化術で足だけを強化。後方へと飛ぶように下がり距離を取る。
一方、ウイリアムは先程スノーによって遮られた詠唱を奏でる。
「踊れ、ソードマン! 汝らの輝きは美しく、斬れぬものは無し! 我が敵を切り裂け!」
背後に控えていた新たに作り出した333枚の刃がクリス目掛けて飛び出す。
彼女目掛けて襲いかかる刃の1本が回避されて訓練所に突き刺さり、炎を巻きあげ地面を赤く熱する。
他の1本は氷属性を付与されているらしく、突き刺さると地面を凍らせた。
1本1本に属性を付与することができるとは聞いていたが、なるほどああいった感じなのか。
確かにあれは汎用性が高そうだし、十全に機能していたらやっかいそうだ。
しかし、今のウイリアムは魔術師ではないクリスを侮り、攻撃の手も333枚中100しか使っていない。
他は自身の防御のため周囲に浮かべている。
相手は小さな少女で、魔術師でもない。武器はよく分からない魔術道具だ。
侮る気持ちは分からなくないが、相手はあのクリスである。悪手以外の何物でもない。
クリスは向けられる100本の刃を回避し続ける。
現在まだ1発も撃っていない。
クリスは目がいいため、魔力で足だけを強化し回避を続ける。
さらに彼女の体が小さいためなかなか当て辛いのだろう。
さすがに苛立ったウイリアムが、さらに100本を追加する。
これで200だ。
クリスはさらに後方へと下がり、ウイリアムを中心に円を描くように動く。
彼との距離は200m。
ほぼ訓練所をいっぱいに使い動き、回避する。
……正直、身内から見ても凄いと思う。まるでクリスは回避ゲームをやっているかのごとく次々襲いかかってくる剣を避けまくる。
最初こそウイリアムの魔剣の動きを賞賛していた観客達も、気づけばクリスの動きに魅了されていた。
そりゃ魔術師でもない小柄の少女が魔術師Aマイナス級の攻撃をあれだけ上手く避け続けるのを前にしたら、魅せられてもしかたない。
「ッ!」
さすがに危機感を覚えたウイリアムが、勝負に出る。
追加で100本を投下。
これでクリスに襲いかかる刃は300本になる。
だが、今度は彼女も動く。
クリスは迫る刃を回避し、出来た僅かな隙間のような時間にVSSを構える。
「すぅー」
遠くにいる筈なのに、
「はぁー」
彼女の呼吸音が聞こえた気がした。
しかし、いまだにウイリアムの周囲は33本の剣が守護している。
馬鹿正直に弾丸を放っても約200mなら防ぐのはそれほど難しくないだろう。
クリスはいったいどうするつもりだ?
心配をよそにクリスがそっと 引鉄(トリガー) を絞る。
ほぼ無音の発射音。
9mm×39の亜音速弾は、ウイリアムではなく側に浮かぶ魔剣へと向けられ放たれた。
一瞬、クリスが狙いをミスしたのかと疑ったが――
「ぐあぁぁッ!?」
ウイリアムは悲鳴を上げ右足を押さえてうずくまる。
「こ、この勝負、クリス・ガンスミス!」
審判役は驚愕しつつも声を上げ勝者を告げる。
どうやらクリスは周囲に浮かぶ魔剣に弾丸が防がれるのを計算し、跳弾を利用してウイリアムの足を貫いたらしい。
300の剣を回避しつつ、それだけの芸当が出来るとは……。
本当にクリスは凄い。
ウイリアムも格下相手に負けたことより、クリスの超絶技巧に舌を巻いていた。
そして最後の一騎打ちは――
「それではよろしくお願いしますね」とリースが穏やかな微笑みを浮かべて挨拶をする。
しかしその可愛らしい笑顔とは正反対に、彼女はオレを馬鹿にされて腑が煮えくりかえっている。
ウイリアムはある意味、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) で一番怖い人物を怒らせてしまった。
彼はこの一騎打ちを生き残ることができるのだろうか……
▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼
――そして、とある場所で。
リュート達が一騎打ちをしているまさにその時、一つの悪が蠢く。
「……さて準備は整った。そろそろ盛大な花火を打ち上げるか」
魔王化したレグロッタリエが、羽根を広げる。
「目指すは、ザグソニーア帝国だ」
彼は暗闇の中、耳まで裂けるような不気味な嗤いを浮かび上がらせた。