軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第286話 レグロッタリエと――

スノーの母校である魔術師学校の帰り道。

馬車に揺られて都市ザーゴベルの出入り口が見えだした頃、オレはこちらへ向かって歩いてくる二人組の存在に気がついた。

「――ッ!?」

驚きで思わず息を呑んでしまう。

二人組の一人の首筋から喉にかけて、入れ墨が彫られていることに気がついたからだ。

『黒』にスカウトされ下部組織のトップを任されていた人物。人種族で名前はレグロッタリエ。

姿をくらませた男が、目の前から歩いてきたのだ。

さらに隣を歩く人物は、自身の背丈と同等の長さの剣を背負っている。

入れ墨にロングソード。

彼らを最後目撃した海賊達からの証言と一致する。

流石に人違い――という可能性は低いだろう。

(けど、ここで取り押さえようとするのは止めておいた方がいいな……)

都市ザーゴベルの出入り口が近いため、ここからそう遠くない距離に都市内へ入ろうとする行商人、旅人、馬車や冒険者、親子など――多数の人々で溢れている。

この場で彼らを捕らえようとすれば、騒ぎになるのは避けられないだろう。

事前に聞いている相手の実力から、オレとスノー、リースが居れば生きたまま捕らえるのは難しくない。

しかし相手も捕らえられないように全力で抵抗してくるだろう。

その際、下手をしたら出入り口で待っていたり、出て行こうとする一般人達を巻き込み人死にを出す可能性がある。

流石にそれは避けたい。

またこの場ですぐ取り押さえるのではなく、二人をこのまま泳がせて二人の狙いや他協力者の有無などの情報収集をする選択肢もある。

ランスの方の問題があるため、そちらを選ぶのは難しいかもしれないが、選択肢は多いにこしたことはない。

幸いスノーとリースは、『リュートくんの格好いいところは?』と話に興じている。

先程釘を刺したため、他者に聞こえないよう顔を寄せ合い小声で話し合っているのだ。

オレはスノー達に声をかけるかで迷う。

「…………」

オレは一瞬考えて、『声をかけない』を選ぶ。

スノー、リースはお喋りに夢中である。

わざわざそれを遮り、男達の注意を引くことはない。

彼らとすれ違った後、そっと声をかけて状況を伝えて2人の後を付けるなり、ある程度一般市民達と距離が離れたところで捕縛すればいい。

幸い、リースが居るため武器弾薬等に困ることはない。

オレは不自然にならないよう気を付けつつ、彼らが通り過ぎるのを待つ。

「……あれ?」

「入れ墨の――」

スノー、リースがすれ違おうとしていた男達と目を合わせる。

ちょうど話が途切れ、視線を向けた先に男達がいた。そして同時に男達も、馬車に乗るオレ達を興味深そうに見ていた。

完全なる偶然である。

スノー、リースが入れ墨に気がつき声を漏らす。

彼女達も特徴から彼らが何者なのか悟ってしまい、反射的に声が漏れたのだ。

結果、相手もオレ達が自分達を知る人物だと分かってしまう。

こうなったら取れる選択肢は多くない。

「スノー、リース! こいつは元『黒』の下部組織トップだ! 2人ともこの場で取り押さえるぞ!」

「了解だよ、リュートくん!」

「分かりました!」

悔やんでもしかたない。

オレが声をかけると2人は打ち合わせもなしに行動を開始する。

スノーが肉体強化術で身体を補助。

オレ達の誰よりも早く2人を取り押さえるため飛びかかる。

その間にオレはリースの『無限収納』に収まっている銃器を受け取り、スノーの後へと続く。

まさに阿吽の呼吸だ。

男達もすぐさま行動を開始。

ロングソードを背負う男が、スノー同様肉体強化術で身体を補助。

入れ墨の男――レグロッタリエらしき人物の衣服を掴むと、すぐさま後方へと飛びオレ達から距離を取る。

「我が手で踊れ氷の剣! 氷剣(アイス・ソード) !」

スノーは2人の動きを止めるため、足を狙い攻撃魔術を放つ。

人一人を抱えたまま後方へ下がるより、彼女の攻撃魔術が襲いかかる方が速い。

その状態で選べる選択肢は多くない。

案の定、敵は足を止めて抵抗陣を形成。

ロングソードの男はレグロッタリエを背後へ隠し、自身の身体を楯とする。

その間に装備を調えたオレとリースが扇状に2人を囲んだ。

オレは突然、戦闘を開始したことに驚く角馬や御者、都市ザーゴベル出入り口に集まっている一般人に被害が及ばないよう注意しつつ、2人組に話しかける。

「元『黒』の下部組織トップのレグロッタリエさんですね。ご存じだとは思いますが、自分は PEACEMAKER(ピース・メーカー) 団長、リュート・ガンスミスと申します。多々話をお聞きしたいのでご同行願いますか?」

自分達のやっていることが、紳士的ではないのは百も承知だ。

しかし、折角、彼らの身柄を取り押さえるチャンスを無駄にはしたくない。

「……チッ、めんどくせ。まさかこんな場所で会うなんてマジ笑えねぇんだけど」

レグロッタリエらしき人物は、オレ達を無視して悪態をつきながら八つ当たり気味に地面をがりがりと蹴っていた。

「ッ!?」

一通り気が済むまで地面を蹴った彼は、顔を隠していたフードを取り、初めてオレ達を見据えた。

褐色の肌、血のように赤い瞳も目立つがなにより目を引くのは入れ墨だ。

首だけではなく、喉から頬にかけてまで彫られていた。

心臓が高鳴る。

動機が激しくなり、視野が絞られるように狭く感じた。

姿形、人種、声音――全てが あいつ(・・・) を思い出させる。

なぜか腹部や胸まで痛み出す。

「リュートくん?」

「……リュートさん?」

流石に嫁達はオレの以上に気がつき、銃器を構えながらも心配そうにこちらの様子をちらりとうかがう。

オレが彼女達の心配を払拭しようと声をかけるより早く、レグロッタリエが口を開く。

「悪いがまだオマエ達とやり合うつもりはないんだわ。今、やっても負けは確定だし、筋書き的に早すぎる。ってことで今回は引かせてもらうわ」

レグロッタリエ達が出てきたはずの都市ザーゴベルへと向かい走り出す。

反応は遅れたが慌ててオレ達は彼らを足止めするため、AK47の 引鉄(トリガー) を絞る!

狙いはもちろん足。

太股を撃ち抜いて動きを止めるつもりだ。

しかし――レグロッタリエの相方であるもう一人の男が背中からロングソードを掴むと、自分達へ当たりそうな弾丸全てを弾いて見せた。

「なっ!?」

今まで弾丸を回避したり、抵抗陣などで防いだりする人物達は見てきたが、ロングソード――剣で弾くのは初めて見た。

剣で銃弾を弾く派手なことをしたせいで、被っていたフードが脱げてしまう。

結果、さらにオレは驚かされる。

冒険者新人時代。

初めて受けたクエストの途中で彼らと出会った。

男でイケメンの獣人種族、猫耳族、アルセド。

女で魔人種族、悪魔族、ミーシャ。

無口な男でチームリーダー、人種族、エイケント。

その後、彼らに声をかけられオーク狩りへと行くため、一時的にチームを組んだのだが――罠にはめられて魔人大陸へと売られる結果になった。

復讐を誓うも現在のところアルセドは薬物採取のし過ぎて自爆。

ミーシャは娼婦となり、魔物大陸で何者かによって殺害されている。

そして最後の一人――リーダー格であるエイケント。

彼がオレの目の前にいる。

ロングソードを使うと聞いてまさかとは思っていたが、彼がレグロッタリエとつるんでいるとは……。

しかし、数年ぶりに出会うエイケントは色々変わっていた。

まずスノーに対抗できるレベルで魔術を使っていた。

アルセドの時もそうだが、エイケントもなぜか魔術を使えるようになっていたのだ。

これは『黒』が開発しようとしていた人工魔術師薬によるものだ。

結局、アルセドはその薬物を多用し自滅したわけだが……。

さらに頬や首などに多数の傷と縫った後がある。

まるで人体改造を受けた怪人のような風貌だ。

オレが驚いていると、レグロッタリエが懐からガラス瓶を取り出し投げつけてくる。

地面へ落下しガラス瓶が割れると、中の液体が紫色の煙を上げてオレ達へと迫ってくる。

「2人とも煙に気を付けろ! 絶対に浴びたり、吸い込んだりするなよ!」

「分かったよ!」

「了解しました、気を付けます」

明らかにやばそうな煙を前に2人へ釘を刺す。

スノー、リースはオレの言葉に反論せず、素直に従う。

煙は運悪く風にのり、先程まで乗っていた馬車の角馬まで届いてしまう。

角馬達は泡を吹き倒れ事切れる。

即死かよ……

あの煙がどれだけやばいものか一瞬で分かった。

レグロッタリエには魔術師としての才能はない。

代わりに薬学について光るものがあるとは聞いていたが、これほどとは……

下手な魔術師より厄介だぞ。

煙を突っ切り彼らを追うのが最短距離だが、浴びないように大きく迂回して都市ザーゴベルへ出入り口へと向かう。

「おっと、それ以上近づけば、周囲にさっきのをばらまくぞ?」

彼らの足は速くもうすでに出入り口前まで到達してしまっていた。

一般市民は逃げまどい、兵士達がレグロッタリエを取り押さえようと集まってくるが、先程の煙を見て尻込みしている。

無理もない。

「俺様達は一度街に入ってから姿をくらませた後、適当に出て行く。探そうとは思うな。もし俺様達の後を追うようなら――ありったけの薬をこの街にぶちまける。街一つ潰せる量くらいはあるからな」

レグロッタリエは続ける。

「安心しろ。また近いうちに俺様達は会うことになる。その時は恨みを晴らさせてもらうさ」

「恨みだと?」

オレの問いかけに彼は意味深に笑う。

「ああ。恨み、復讐さ……。まさかあの女の言うとおりオマエまでこの世界に居るとは思わなかったぞ。実際に目にして確かに納得したがな。もうすぐ、後少しであの金髪野郎と一緒にオマエも殺してやるよ。俺様の人生を狂わせた罪を裁き、たっぷりと罰を与えてやる」

レグロッタリエをエイケントが抱きかかえ、一息で城壁頂上へ。

そのまま市街へと入っていた。

街を守る警備兵が慌ただしく動き出す。

彼らはオレ達に対しても警戒して、近づいてくる。

当然だ。

恐らくこの後、何があったかの説明をしなけれならないだろう。

クリス達との合流はかなり遅れそうだ。

しかし――

(最後の台詞、奴がまとう空気感……まさかとは思うが田中がこの異世界に居るぐらいだ。あいつがいたっておかしくはない。できすぎだとは思うが……)

オレ達は銃器をおろし、兵士達に無抵抗をアピールしながら別のことを考えていた。

(奴は……レグロッタリエは、 相馬亮一(そうまりょういち) ではないのか?)

相馬亮一――前世、イジメの主犯格で、オレを殺した男と再び異世界で出会ってしまった。