軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第287話 手がかり

都市ザーゴベル出入り口での騒動。

当事者として警備兵士に捕まり、話を聞かれた。

本来なら一晩は別室にて隔離されるが、オレ達がハイエルフ王国エルノールの名誉貴族で PEACEMAKER(ピース・メーカー) トップ陣ということですぐに解放された。

オレ、スノー、リースは解放されてすぐにクリス達へと合流し、状況を説明する。

元『黒』の下部組織トップのレグロッタリエとオレをはめて奴隷として売ったエイケントと偶然遭遇したこと。

取り押さえようとしたが、逃げられてしまったことを全て聞かせる。

クリス達はすぐさま彼らを追うことを提案するが、却下した。

今回の遭遇は本当に偶然で、オレ達を狙って彼らが接近して来たわけではない。

何よりこの街の住人全てが人質に取られているのだ。

下手にちょっかいを出して全滅――なんてことは避けたい。

何よりランスの問題がある。

レグロッタリエ達の行方も気になるが、まずはランスの方を片づけるのが肝要だろう。

念のため周辺を警戒しつつ、その日はクリス達が取った宿ですぐに休んだ。

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翌朝、スノーの案内で皆一緒にスノーが師匠に初めて出会った場所へと向かう。

スノーを先頭にオレ、クリス、リース、ココノ、メイヤ、シアの順番で街を行く。

もちろん周辺警戒は怠らない。

レグロッタリエ達が襲ってきても対処できるよう準備を整えている。

市場を抜け、 冒険者斡旋組合(ギルド) 前を通り過ぎ、一般住宅街を越える。

途端に場所の雰囲気が悪くなる。

「……なぁスノー、本当にこっちでいいのか?」

「うん、そうだよ。どうかしたの?」

「いや、だって……なんだかこの辺、柄が悪くないか?」

まだ昼前だというのに、今オレ達が居る場所は薄暗く、ジメジメとしている。

建物は汚れ、地面に寝そべる人々、異臭が鼻を突き、近くから悲鳴と喧嘩音が響いてくる。酒精の陶器瓶がそこかしこに転がっている。

スラム、裏街道、マフィア街――大きな街ならどこにでもある裏社会的貧民街だ。

目的地はまだまだ先でまだ足を踏み入れたばかりだというのに、オレ達の場違い感が凄い。

カラスの群れに白い鳩が紛れ込んでいるレベルだ。

一目でこんな場所に来る人物達ではないと100m先でも分かる。

しかもスノーが師匠に出会った場所はこのさらに奥らしい。

入り口の時点で『入ってくるな』『出て行け』『関わるな』と如実に語っている。

しかしさらに奥にあるというなら進まない訳にはいかない。

「……シア、周辺の警戒もだが、ココノとメイヤのことも今以上に気を付けてやってくれ」

「了解いたしました、若様」

オレ、スノー、クリス、リースなら並の相手が襲いかかってきても撃退は容易いが、ココノ&メイヤは非戦闘員である。

もちろんオレ達も2人を守るつもりだが、護衛のプロであるシアに念のため警戒を強めておくよう頼んでおいたのだ。

気を取り直して奥へと進む。

建物の影や干しっぱなしの洗濯物、蓋をするように広げられた布などのせいで奥に進むに連れて本当に薄暗くなっていく。

まるで生い茂った森の中を進んでいる気分だ。

野生動物の代わりに、浮浪者や体育座りで膝を抱えぶつぶつと呟いている人達が居る。

さらに進むと売春宿っぽいのが目につく。

――歩調が遅くなると、前後からなぜかプレッシャーがかけられる。

オレは慌てて歩調を先程より速くして通り過ぎた。

しばらく歩くと目的地へと辿り着く。

「ここが師匠と初めて出会った場所だよ!」

彼女が紹介した場所は裏社会的貧民街では珍しく立派な屋敷だった。

高い塀に、門。

建物も高く、清潔な水の匂いもしてくる。恐らくプール等の施設があるのだろう。

……こういう建物は、前世地球のネットで見たことがある。

ブラジルの貧民街にマフィアのボス邸があり、他建物とは違ってそこだけは別世界のように立派だった。

周囲のボロ建物との落差に強烈な印象を受けた記憶がある。

つまり、オレが何を言いたいかというと……

「スノー、あのさ……ここってもしかしなくても結構ヤバイ建物だったりする?」

「やばいかどうか分からないけど、この辺を管理している事務所だって言ってたよ」

あっ、やっぱり、一番来ちゃ行けない場所じゃん。

「す、スノー! こんな危ない場所に来るなら事前に教えておいてくれ! てか、本当にこんな場所で師匠と会ったのか!?」

「うん、そうだよ。でも、どうしたのリュートくん、急に小声で話したりして? それにクリスちゃんやリースちゃん、ココノちゃんまでどうして身を寄せ合って震えているの?」

そりゃこの裏社会を取り仕切るマフィアのトップ事務所前に居ると分かったら、クリス達が怖がるのも当然だ。

もちろんマフィア以上に強い旦那様やアルトリウス達などと戦ってきたが、裏社会の人物はまた違った怖さがある。

クリスやリースの戦闘能力なら後れを取ることはまず無いだろうが、彼女達は女の子である。

怖がるのは当然だ。

唯一、態度を変えないのはメイヤとシアぐらいだろう。

この2人はある意味で規格外のため当然だが。

「と、とりあえず場所は分かったからここは一旦引くぞ! 相手に気づかれる前にさっさとこの場を離れよう!」

「どうして? まだ師匠について何も聞いてないのに。とにかくまずはお話を聞こうよ。すみませーん!」

「す、スノー!?」

彼女はオレが止めるより早く、奥の建物まで聞こえるように門を強く叩く。

慌てて彼女の手を掴み止めるがもう遅い。

「なんじゃ! こんな朝っぱらから!」

門が開き、強面の男が顔を出す。

いかにも裏側の人物だ。

なのにスノーは気にせず、いつもの調子で話しかける。

「ボスさんに訊きたいことがあって来たんですけど、居ますか?」

「うちのボスがこんな時間に居るはずがないじゃろうが。ガキどもが。痛い目に遭う前にとっとといね!」

「それじゃ番頭さんいますか? あの人とも面識があるから名前を言ってくれれば分かって――」

「いねと言ってるじゃろうが! いい加減にせんと体に分からせるぞ!?」

男が一歩前へ出る。

シアが手にしているコッファーの握りを調整し始めたのが気配で理解する。

ここでこいつを――この組織を潰すのは容易い。

しかし、市街戦なんてしたくないし、無用な恨みなど買いたくない。

ここは素直に撤退するのが正解だろう。

「お、お嬢!? スノーお嬢じゃないですか!?」

オレが謝罪して引き下がろうとすると、門の奥から強面だが計算高そうな人種族男性が姿を現す。

彼は慌てたようすでスノーへと駆け寄った。

「ごめんなさい、番頭さん。急に押しかけちゃって。ちょっとお聞きしたいことがあって」

「いえいえ! お嬢を拒む門はうちにはありませんよ! むしろ仰って頂ければお迎えに上がったのに」

番頭と呼ばれた男性は、上司に会ったかのように丁寧にスノーへと頭を下げる。

今までスノーの相手をしていた男性が、目を丸くして尋ねる。

「あ、兄貴、このガキ――じゃなくてお嬢さんとはお知り合いで?」

「馬鹿野郎! この方はあのスノーお嬢さんだ! オマエだって話ぐらいは聞いているだろうが! どうしてすぐに気がつかない!」

「銀髪の獣人種族……まさかあの伝説の……!?」

最初にスノーの相手をしていた男性が突然、地面へはいつくばる。

「すみませんでした! あのスノーお嬢様とは知らず、失礼な口をきいてしまって! 本当に申し訳ありませんでした!」

「こいつが随分、舐めた態度とったようですね。落とし前に腕の1本でもいっときますか?」

番頭と呼ばれた男性が剣呑な雰囲気を漂わせる。

はいつくばる男が『ヒィイイィイ』と悲鳴を小声で漏らし震え上がった。

スノーは相変わらずのマイペースで答える。

「気にしないでください。新人さんならわたしを知らないのも無理ないですから。許してあげてください」

「スノーお嬢がそう仰るなら。おい、命拾いしたな。お嬢に感謝するんだな!」

はいつくばった男は何度も頭をぺこぺこ下げてスノーにお礼を告げる。

なんだこの世界は……。

オレ達側は誰もついていけず、スノー達のやりとりをただ眺めていた。

「それでね、今日訪ねたのは他でもなくて、訊きたいことが会って来たの」

「でしたら、立ち話もなんですのでどうぞ中へ。さぁ、奥の皆様も是非!」

番頭に促されるとスノーはさっさと奥へと入っていく。

まるで通いなれた友人宅を移動するように進む。

「スノーお嬢さん、お疲れ様です!」

『お疲れ様です!』

途中、廊下の左右に他種多様な種族の強面な男達が並び、スノーへと一斉に挨拶をする。

スノーはなれた様子で軽く手を挙げ答えた。

一方、連れであるオレ達はドン引きだ。

クリス&ココノなど怖がってオレの腕に掴まっている状態だ。

そしてオレ達は応接間へと辿り着く。

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なぜこれほどスノーが、都市ザーゴベルの裏社会マフィアに慕われているかというと――話は数年前に戻る。

当時、まだスノーは魔術師学校へ通っている学生だった。

休日、1人で都市ザーゴベルでショッピングを楽しんでいると、スリに遭ってしまう。

金銭なら諦めもつくが、盗まれたのは『S&W M10 2インチ』リボルバーの 弾薬(カートリッジ) 。

予備弾としてバラでポケットに入れていたのが災いした。

スノーは 弾薬(カートリッジ) についた自身の匂いを辿り、貧民街へ。

都市ザーゴベルの裏社会マフィア事務所へとたどり着く。

そのまま彼女は事務所へ乗り込み、 弾薬(カートリッジ) が回収されるまで男達をちぎっては投げ、ちぎっては投げの大立ち回りをした。

そこに騒ぎをききつけ、偶然通りかかった『氷結の魔女』の目にとまり弟子にならないかと勧誘されたらしい。

そこで話が終われば簡単なのだが――男達は『氷結の魔女』ごとメンツのためスノー達を潰そうとした。

しかし、逆に2人がかりで事務所ごと氷漬けにされてしまった。

氷は事務所だけにはとどまらず、貧民街全体におよびかけたらしい。

男達は彼女達との実力差に気づきすぐにわびを入れた。

裏社会では強い者に逆らっても一銭の得にならない。

以後、彼女達には絶対に手を出さない、家業も金貸しなどまともなものしかやらないと約束し、許しを願った。

スノー師匠はなぜかこの事務所を気に入り滞在。

スノーの修行をつける場所にしたらしい。

だからスノーも通いなれており、案内もなく応接間へと行けたわけか……

応接間ソファーに座り、マフィア組織のナンバー2である番頭とスノーから話を聞き、状況を理解する。

「ちなみにボスは仕事で現在他都市にいらっしゃってて、申し訳ありません」

「気にしないで、わたし達が突然押しかけてきたんだもの」

スノーが手をあげ、番頭の謝罪に応えた後、こちらの本命について尋ねた。

「それで師匠について何か知りませんか?」

「はい、実は約1年前に姐さんがうちを訪ねてきまして」

スノーが『お嬢』で師匠が『姐さん』なんだ……

「近くまで寄ったから顔を出しに来たと仰いまして。数日、こちらに滞在した後、ふらりと出て行ってしまって」

「行き先は聞いてない?」

「すみません。詳しくは――いや、そういえば……『島に行くかも』云々とか言ってましたね」

ここでようやく有力な手がかりを得ることができた。

どうやら都市ザーゴベルから『島』へ移動したようだ。

もちろん一年前の情報で、途中で気が変わって別の場所へと行ったかもしれない。

だが、今までに比べたら前進したと言っても問題はないだろう。

オレ達はお礼を告げた後、事務所を後にする。

あまり長居していたい場所ではないからだ。

その帰り道、スノーと話をする。

「しかし、まさかスノーがああいう人達と知り合いだったとは……」

「別に顔は怖いけど話せばちゃんと分かってくれる人達だから、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ」

スノーの言う話云々とは――話し合い(魔術で叩きつぶす)という意味なんだろうな。

「でも。あんな場所で魔術の修行をしていたなんてな。確かに庭もあるし場所から考えると広いと思うけど、魔術の修行をするほどのスペースがあるとは思えないんだが。いったいあそこでどんな修行をしたんだ?」

「えっとね、あそこでやったのは魔術の修行じゃなくて『恋する乙女の恋が叶う1、2、3レッスン』を習ったんだよ」

「…………は?」

「あっ!? 今の内緒だったんだ! もうリュートくんったら、誘導尋問が上手いんだから!」

スノーは腕を掴み引っ張ってくる。

いや、どっちかというと自爆だった気がするのだが……。

とりあえず詳しい話を聞くと――

師匠は恋する乙女を応援するのが趣味らしい。

スノーと出会い一目で恋する乙女だと見抜いたとか。

そして、師匠の下で恋を叶えるためレッスンを受けたとか。

恋人に刺激を与えるため、プライドを捨て自ら『食べて欲しいワン』といったわんわんプレイも率先してやるべきとなどと教えを受けたらしい。

――考えてみれば昔、子供の頃、犬扱いすると怒っていたな。

どういう心境の変化だと思っていたら……。

魔術訓練に関してはやり方を口答で受けたら出来たらしい。

これだから天才肌というやつは。

本当に頭が痛くなる。

しかし魔術師S級の人達って、どうして皆アレな感じなんだろう。

スノーの師匠も、アルトリウスも、タイガも……

まぁ、とりあえずスノーの師匠に関する有力な情報は掴んだ。

この情報を元に師匠を捜すとしよう。

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ところ変わって、妖人大陸、アルジオ領ホード。

タイガがギギと一緒に、孤児院裏庭で魔術の基礎授業を生徒達に教えていた。

タイガは不意にくしゃみをしてしまう。

「くしゅん!」

「大丈夫か?」

「だ、大丈夫。急に鼻がむずむずしただけだし……キャッ!」

「ふむ、確かに熱はないようだな」

ギギは無造作にタイガの額に手を当て熱を測り出す。

彼女は慌てたようにギギから距離を取った。

「だ、大丈夫だって言ってるでしょ!」

「いや、しかし万が一風邪を引いていたら大変だろう。現に顔も赤いようだし、もし少しでも気配があるなら無理をせず休んだ方がいいのではないか?」

「あ、赤いのは風邪のせいじゃなくて……あー! もー! とにかく大丈夫だから気にしないで!」

タイガが赤い顔のままぷりぷりと怒る。

ギギは声を荒げる彼女に対してそれ以上つっこめず、大人しく引き下がった。

「もし体調が少しでも悪くなったら言うんだぞ」と気遣いつつ、授業を再開したのだった。