軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第284話 タイガとの接触

準備を終え PEACEMAKER(ピース・メーカー) 本部を出発する。

新型飛行船ノアのお陰ですぐに妖人大陸にあるアルジオ領ホードへと辿り着くことができた。

いつもの草原に飛行船を止めると、二つの人影が歩み寄ってくる。

「エル先生! ギギさん!」

オレが声をかけると、ギギさんが手を挙げ応える。

最初に孤児院によって二人に挨拶をしようと思ったら、本人達が出迎えてくれるとは。

スノーも駆け寄り、エル先生へと抱きつき匂いを嗅ぎ出す。

他嫁達も集まり、挨拶を始めた。

オレは一歩引いて、同じように距離を取るギギさんへと声をかける。

「まさか出迎えてもらえるとは思いませんでした。よくオレ達が来るって気づきましたね」

「たまたまエルが外へ出て、飛行船の音と姿に気がついたんだ。折角だから、二人一緒にリュート達を出迎えようという話になってな」

……うん? あれ、今、何かおかしな……気になる点があったよな。

今、ギギさんはエル先生のことを『エル』と呼び捨てにしてなかったか?

前まで『さん』付けだったはず。

夫婦になったから他人行儀は止めようということなのだろうか。

お、落ち着け、落ち着くんだリュート……夫婦なら当然の呼び合いだ。

「ところで、リュート達こそいったいどうしたんだ? ずいぶん早い帰省だな。寂しくなかったから――なんて性格的にも、抱えている仕事量的にもありえんか。何かトラブルでもおきたか?」

「はい、実はちょっと問題が起きまして。タイガに協力を要請しに来たんですが、彼女まだ町にいますか?」

「 獣王武神(じゅうおうぶしん) の力を借りたいとは、穏やかではないな。彼女ならまだ町にいる。孤児院でゆっくりと近状を聞きたいところだが、急いだ方がよさそうだな。俺が案内しよう」

「ありがとうございます、ギギさん」

嫁達の挨拶も区切りがついたところで、孤児院へ向かい歩き出す。

その先にタイガが住む家があるからだ。

全員で行っても邪魔になるだけなので、事情を説明にオレだけが行くことになる。

「エル先生もお久しぶり――というほど時間は経ってませんが、お元気そうでなによりです。ギギさんとの生活はもう慣れましたか?」

「リュート君も元気そうで先生、嬉しいです。ギギさんにはよくしてもらっていますよ。最近は子供達も怖がらず、なついていますしね」

それはよかった。

ギギさんは見た目強面で、無口だから近寄りがたい雰囲気を持っている。

なれると面倒見がいい大人で、逆に親しみやすくなるのだが……。

「最近は私の代わりに魔術師基礎授業を担当してもらっているんですよ。ギギさんは教え方が上手くて生徒達からの評判もいいんです」

「確かにギギさんって、人に教えるの上手いですよね」

「昔、リュートに教えていた頃があっただろう。あの経験があったから、今の生徒達に合った訓練を教えることができるんだ。指導が上手いというのなら、それは全てリュートのお陰だ」

ギギさんは謙遜ではなく、本気でオレのお陰だと断言してきた。

別にオレは何もしていないのだが……。

でも懐かしいな。

ブラッド家で執事見習いをしていた頃、毎日ギギさんに魔術&体術の稽古をつけてもらっていた。

ギギさんと組み手をしたり、剣術稽古をしたり、魔術知識についての座学など。

後は旦那様との模擬試合もギギさんにやらされたな。

……今思い返しても胃の底が冷たくなる。

今更ながらよくあの訓練をオレは乗り越えることができたな。

だいたい、最初は『クリスに擬似的な達成感を味わわせ、トラウマを克服させる』のが目的だったはずだ。

なのに、途中からクリスと仲良くするオレに対して、ギギさんがイヤガラセ的に旦那様との対戦難度を上げていた気がする。

アレ? おかしいな……本来、懐かしい思い出のはずがなぜか殺意の波動しか出てこないぞ?

「そういえばついこの前、受付嬢さんと会ったぞ」

「!?」

しかし、彼の一言でそんな思い出は一瞬で吹き飛んでしまう。

「なんでも 冒険者斡旋組合(ギルド) を辞めて冒険者になったらしくてな。ちょうど妖人大陸による用事があったから、わざわざ結婚祝いを言いに来てくれたんだ。リュートは彼女が 冒険者斡旋組合(ギルド) を辞めたのを知っていたか?」

「は、はい! 直接、本人から聞きましたって! 結婚呪いに来たって!? な、何か変なことされませんでしたか!?」

「? なんだ変なこととは? 普通に祝いの言葉をもらっただけだぞ。後、結婚呪いではなく祝いだ」

珍しいギギさんのツッコミ。

「リュート君達がお世話になった方ですから、色々お話をしたかったんですが、なにぶんお忙しいらしくすぐに町を去ってしまったんです」

エル先生が残念そうに溜息を漏らす。

……洗脳されている様子も、精神汚染されている感じも、脳手術を受けている気配もない。

つまり、本当に祝いの言葉だけを告げてただ立ち去ったというのか!?

エル先生は受付嬢さんのことを思い出し、微笑みを浮かべる。

「とても美人さんで凛とした女性でした。わたしはどうも昔から抜けているところがあるので、ああいう仕事ができる女性像には憧れます。格好いいです」

受付嬢さんからすれば、エル先生こそ憧れる存在じゃないだろうか。

隣の芝生は青い――というやつだな。

とりあえず受付嬢さんの襲来で誰も傷つかなかったのは本当によかった。

孤児院へと辿り着く。

エル先生は子供達だけを残し続けるのは心配なため、ここからはギギさん一人で案内してもらう。

町中に入ると、ギギさんが顔なじみらしい住人達と挨拶を交わしていく。

流石に現在住んでいるだけあり、地元のはずのオレより知り合いが多い。

町の子供達にも指導するため、その繋がりで知り合ったのだろう。

タイガの自宅は、前回エル先生争奪騒動で使用していた空き家だ。

すでに彼女が買い取っているらしい。

あいつ、このままホードに骨を埋めるつもりなのだろうか?

ギギさんが扉をノックすると、中から誰何を問う声が聞こえてくる。

ギギさんは扉越しに聞こえるように、やや大きな声で告げた。

「ギギだ。実は――」

『ちょ、ちょっと待て一〇分! ううん、五分だけ待ってて!』

タイガはギギさんの話を聞かず、奥に引っ込むのが音で分かった。

さらにばたばたと派手な音が続く。

宣言通り五分後――扉が開いた。

オレは扉とギギさんの影に隠れてしまう。

位置的にタイガからは見え辛くなる。

だが、彼女は元々空気を読み、気配を察するのが得意のはずなのだが……なぜかオレの存在に気がついていない。

「と、突然、押しかけてくるなんて非常識じゃないか。これでも僕は忙しいんだぞ」

オレも彼女の顔は確認できないが前に聞いた彼女の声より高い気がする。

さらに艶があり、まるで『憧れのお姉さんと結婚した義理兄が、最近なぜか気になっちゃって。そしたら突然、義理兄が一人暮らしの私の家に訪ねて来ちゃってどうしよう!』という感じの声音だ。

ギギさんはいつもの真面目な表情とトーンで会話を続ける。

「すまない、突然押しかけてしまって。だが、重大な用件があって訪ねさせてもらったんだ」

「じゅ、じゅじゅじゅ重大な用件!? そんなギギさんには、エルお姉ちゃんがいるのに!?」

「安心しろ。エルも了承済みだ」

「え、エエエ、エルお姉ちゃんも了承じゅみ!? そ、そんな新婚なのに!? だいたい僕はエルお姉ちゃんと違って背は低いし、美人じゃないし、スタイルだって悪い。その上、ずっと性別を誤魔化すために男装してたから、全然女の子っぽくないし……」

「新婚なんて関係ない。タイガが必要だから来たんだ。後、あまり自分を卑下するのは関心しないぞ。タイガは十分美人だし、女性らしいと俺は思うぞ」

「それって本気? 僕のことからかってない?」

「当然、本気だ。嘘や冗談を言いにわざわざここまで来るはずがないだろう」

「ぎ、ギギさん……ッ」

なぜだろう。

位置的に顔が見えないのに、タイガが乙女モード全快で顔を赤く染め、瞳を潤ませていると想像できるのは……。

いい加減、噛み合っているようでいない話に区切りをつけた方がいい気がする。このままだと誰も幸せになれなさそうだし。

ギギさんのためにも、タイガのためにも。

「ギギさん、そろそろいいですか?」

「ああ、済まない。実はリュートがさっき訪ねて来てな。タイガに話があるからと、家まで連れてきたんだ」

「え? り、リュート?」

ここでようやくタイガはオレの存在に気がつく。

しばし、ギギさんとオレとを見比べる。

「え? エルお姉ちゃんも了承しているって?」

「ああ、リュートと一緒にタイガを訪ねる許可は取ってある。孤児院も時間的にそこまで忙しくないから大丈夫だろう――タイガ、どうして俺を睨む」

「べ、つ、に! どうせそんなことだろうと思ったし!」

「? そうか」

ギギさんはタイガが突然、不機嫌になった理由が分からず首を捻る。

だが、答えは出ず『若い女性の考えは分からない』と思考を放棄した表情をしていた。

本当にギギさんは、女心に聡いですねー(棒)。

そんなこんなでオレとギギさんは、タイガ自宅へと入る。

通されたリビングで、彼女がお茶を入れてくれるのを待つ。

彼女が住んでいる家は一軒家だ。

四人家族が問題なく住める質素な部類だ。

魔術師S級、 獣王武神(じゅうおうぶしん) が住んでいるには随分ギャップのある家である。

「はい、どうぞ」

「ありがとう、いただこう」

タイガは香茶を入れると、席に座る。

オレとギギさんは椅子に腰掛け、間にテーブルを挟んでタイガが座る形だ。

「それでリュート、僕に話ってなに?」

「タイガはメルティア王国の次期国王、人種族魔術師Aプラス級、ランス・メルティアを知っているか?」

「まぁ名前ぐらいは。確か『 万軍(ばんぐん) 』と仲がいい人じゃなかったっけ?」

ギギさんに水を向けるとタイガと同じような認識だった。

オレはそんな二人に、ランスの計画について話をする。

――一通り話を聞き終えると、タイガとギギさんは同じように眉間へ皺を寄せた。

「数万人の犠牲者を出す儀式とは……リュート達が揃ってタイガを探しにくるわけだ」

「僕に頼ったのは正解だよ。転移だかなんだか知らないけど、そんな外道な奴、僕の『 10秒間の封印(テンカウント・シール) 』で魔力を封じてぼこぼこにしてやる」

タイガは肉食獣のような笑みを浮かべて、指をぽきぽきと鳴らし始める。

「それじゃ、ランスを倒すのに手を貸してくれるってことで問題ないか?」

「もちろん。その犠牲者の中にエルお姉ちゃんや僕の知り合いが含まれたりしたら――って考えたら我慢できないからね」

「俺も協力しよう。何かして欲しいことがあるなら遠慮なく言ってくれ」

タイガだけではなく、ギギさんも協力を申し出てくれる。

「ありがとうござます。では、ギギさんにはエル先生や子供達、この町を守って欲しいんです。ないとは思いますが、ランスがアルトリウスのように人質を取るとも限りませんから」

「分かった、彼女達のことは任せておけ」

こうしてオレはタイガとギギさんの協力をとりつける。

タイガ宅を出た後、彼女も一緒に孤児院へと向かう。

ギギさんはそのまま孤児院へ。

タイガはオレについて飛行船ノアに行き、スノー達と挨拶をしたいらしい。

前回のエル先生争奪騒動でタイガはスノー達と仲良くなっていた。

年頃の女性達はすぐに仲良くなるよな。

孤児院でギギさんと別れると、飛行船までタイガと2人っきりになる。

オレはつい彼女に尋ねてしまう。

「タイガはさ……ギギさんのことが好きなのか?」

「は!? はぁぁ!? な、なんだよ、突然! ギギさんを愛しているだなんて!?」

言ってないよ。

『好きか』とは尋ねたが、『愛している』なんて聞いてないよ。

「さっきギギさんに対する態度がおかしかったからさ、なんとなくそう思ったんだけど……」

「ふ、ふん! 軍団(レギオン) の団長のわりには人を見る目がないね。僕のギギさんに対する態度を見てたら、どうしてそういう結論に達するのか分からないよ」

そうか。

正直、小学生相手でもバレバレの態度だと思うんだけど。

彼女は両手の指を重ねていじいじと動かしながら、話を続ける。

「そりゃ卑怯な手段とはいえ、魔術師S級になって初めて僕を倒す寸前までいった人だから、気にならないっていえば嘘になるけど。後、子供達に真剣に魔術を教える姿とは、ちょっと――ほんのちょっとだけ格好いいし、性格も真面目で、エルお姉ちゃんを真っ直ぐ愛してる姿は……姿は胸が痛くなるほどまぶしいけど。別にギギさんのことなんてなんとも思ってなんかないよ!」

あかん。

いつのまにか完全に攻略してますわ。

ギギさんはどこの鈍感ハーレム主人公だよ。

どうして出てくる女性全員をいちいち攻略するんだ?

少しは自重して欲しい。

「それにあのお姉様だってギギさんとエルお姉ちゃんの仲睦まじい姿を見て諦めたぐらいだし……僕が入り込む隙間なんてないよ」

「うん? お姉様って、タイガにお姉ちゃんがいたのか?」

「違うよ。ついこの間、ギギさんを訪ねて元受付嬢さんが来たんだよ。その時、色々あって『お姉様』って呼ぶようになったんだ。本当に……色々あって……」

タイガは受付嬢さんとのことを思い出したのか、目から光が消えて、自分で自身を抱きしめぶるぶると震え出す。

何したの受付嬢さん!?

だいたい何だよ『色々』って!

怖くて聞けないよ!

「タイガは受付嬢さんが、エル先生達と話をするところを見てたのか!? 彼女がギギさんを諦めるほどの何かあったのか!?」

「そういえばお姉様とリュート達は知り合いだったんだね。挨拶自体は本当に普通だったよ。エルお姉ちゃんが、リュート達が冒険者の駆け出し時代からお世話になっているって知って、何度も頭を下げてお礼を言ってたぐらいだよ」

光景が目に浮かぶようだ。

人は好意を向けられる相手を嫌いになることは難しい。

エル先生の純粋無垢な心で、嘘偽りなく何度もお礼を言われ、好感を持たれて接されたら相手を憎むのは不可能だ。

そりゃ素直に祝いの言葉を告げて引き下がるしかない。

つまりエル先生の女神力が、受付嬢さんの魔王力を凌駕したということだ。

流石、オレ達のエル先生!

「受付嬢さんはその後、どうしたんだ?」

「『自分探しの旅に出る』って言ってすぐに町を出て行ったよ。今頃どこで、何をしてるんだろうお姉様は……」

『自分探しの旅に出る』って、貴方は思春期真っ盛りの若人か!

いや、別にいいんだけどね。

それに個人的にも受付嬢さんには幸せになって欲しいし。

わりとマジで。